50代の離婚パーフェクトマニュアル【新しい明日へ】

  
弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士  


50代は、子どもの独立や、自分や相手の退職が近づいてくる年代ですので、自分の残りの人生を意識して離婚を考える方もいらっしゃるでしょう。

しかし、長く結婚生活を続けてきた50代は、若い世代に比べ、「スムーズに離婚できるのか」「離婚後の生活は成り立つのか」という不安が大きくなりがちです。

50代の離婚の特徴やポイントを押さえることにより不安が和らぎ、離婚について前向きに検討したり、再考したりするきっかけになると思います。

そこで、ここでは50代の離婚の特徴や実態を解説し、注意すべきポイントについてもご紹介していきます。

なぜ50代で離婚を考えるのか?

なぜ50代で離婚を考えるのか

離婚を考える理由は人により様々ですが、50代では特に次のようなことが重なり合うことから、離婚を考えるようになるといえるでしょう。

 

子どもの独立

50代は子どもが成人・独立するなどして、子育てが一段落する年代です。

以前から不倫・DVなどの離婚原因があったものの、これまでは子どもへの経済的・心情的な影響を憂慮して離婚できなかったという方は、子どもが独立したタイミングで本格的に離婚に向けて動き出すことになります。

また、これまで特に離婚は考えていなかった方も、子どもが独立して夫婦だけの生活になり、夫婦である意味が分からなくなったり、相手のためだけに家事をこなすことが苦痛になったりして、離婚を考えるケースもあるでしょう。

 

人生の折り返し地点

50代になると人生の折り返し地点を通過したと意識する方も多いのではないでしょうか。

現時点で相手との生活に苦痛や虚無感を感じている場合、残りの人生このままの生活が続くかと思うと希望が見えず、離婚を考えるケースもあるでしょう。

 

相手が定年退職する・定年退職間近となる

50代はリタイアが見えてくる世代であり、相手(多くの場合夫)が既に定年退職している、または定年退職間近だという方も多いと思われます。

特に夫が会社員・公務員などで外に働きに出ていて、妻が専業主婦であった家庭では、夫の定年退職は大きな転換点となるでしょう

夫は生活スタイルが変わり、稼ぎ頭という役割も喪失することになりますが、従来どおり妻に家事全般や身の回りの世話を任せたりするケースも珍しくないでしょう。

そのような夫との生活で妻が自由がない・夫に縛られていると感じる(または将来そうなることを憂慮する)場合もあり、夫婦関係から解放され自由に生きたいと思うようになるケースもあるでしょう。

 

相手の親族と縁を切りたい

50代になると、相手の親の介護や、親戚付き合い(法要など)が大きな負担になることもあります

そのような負担や煩わしさから解放されたいと思ったり、相手や相手の親族と同じ墓に入りたくないと思ったりし、離婚を考えるケースもあるでしょう。

 

 

50代の離婚の特徴

50代の離婚の特徴

 

お金が問題になる

50代の離婚ではお金が問題になることが多いです。

リタイアが見えてくる世代でもあり、お互いにリタイア後の生活資金(退職金や年金など)については重大な関心事となります

特に専業主婦(夫)だった方は、離婚後に就業したとしても老後の資金まで自分の稼ぎで確保するのは困難になるため、離婚の際にどの程度お金を確保できるかが重要な課題となります。

具体的には、離婚の際の財産分与と年金分割を適切に行うことが重要になります。

 

財産分与

財産分与とは、結婚生活で築いた財産(共有財産)を離婚の際に分け合って清算するものです。

収入の多少や名義に関わりなく、結婚生活において取得した財産であればお互いに同程度の貢献度により築いたものとして基本的に2分の1ずつの割合で分け合うことになります。

50代は結婚生活が長いため共有財産の金額も多額になっている傾向にあります。

したがって、財産分与を適切に行うことができるかどうかは、50代の離婚の最重要ポイントともいえます。

財産分与を適切に行うためのポイントは、後に詳しく解説いたします。

財産分与について、詳しくは以下をご覧ください。

 

年金分割

結婚期間中に夫婦が厚生年金に加入していた場合、離婚時に標準報酬額を夫婦で分割できる制度を年金分割といいます。

厚生年金では給料が多い方が保険料の納付額も多くなるため、将来にもらえる年金が多くなりますが、年金分割をすることにより結婚期間中の納付額を公平に調整することができます。

したがって、専業主婦の方や、相手より収入が少ない方は、年金分割をすることにより将来にもらえる年金の金額が多くなることがあります。

年金分割のポイントについても後に解説いたします。

年金分割について、詳しくは以下をご覧ください。

 

時間と労力がかかる

離婚の合意自体が難しい場合がある

一方が離婚を望んでも、他方は簡単には離婚に応じてくれないという場合があります。

50代は夫婦としての生活が長いため、その長く続いた生活や関係をリセットすることに抵抗を感じる方も多いと思われます。

また、長い結婚生活の中でお互いの認識のズレが大きくなり、理解し合うことが難しくなるということも考えられます。

離婚の合意ができない場合は、最終的には裁判で離婚するしかありません

しかし、裁判で離婚が認められるには、法律で定められている「離婚原因」というものがなければなりません

相手が不倫している場合、生活費を全く入れない場合、暴力などを振るう場合、別居期間が長期に及んでいる場合などは、「離婚原因」があると認められる可能性がありますが、そうでなければ離婚を認めてもらうことは難しいでしょう。

したがって、別居を開始して別居期間を長くする必要がありますが、それでは3~5年程度は離婚できないことが想定されます。

離婚自体には合意ができたとしても、次に述べるように財産分与などでもめることも多く、裁判で決着をつけざるを得ず、離婚成立まで数年単位で時間がかかることもあります。

 

財産分与でもめる

離婚についての合意はできたとしても、財産分与でもめることも多いです。

50代で結婚生活が長い場合、共有財産がたくさんあり、その洗い出し・評価額の算定などが複雑で時間がかかることが多いです。

それに加え、お互いに離婚後の生活への不安を抱えていることから、譲り合うことが難しくなり、共有財産の範囲・評価額・分け方などに関して争いとなり、裁判で解決せざるを得ず多大な時間と費用を要するケースもあります。

 

50代で離婚したときの生活費

離婚後の生活費

離婚後にかかる生活費については、住む家や場所などにより人それぞれに異なりますので、離婚後の生活をイメージして具体的に予測家計表を作成して見当をつけるようにしましょう

あわせて読みたい
家計表等のダウンロード
参考

2021年の総務省統計局の家計調査によると単身世帯(平均年齢58.1歳)の消費支出は、1世帯当たり1か月平均15万5046円とのことです。

参考:総務省統計局 家計調査報告[家計収支編]2021年平均結果の概要

なお、経済的に独立していない子どもがおり、離婚後にその子どもの面倒を自分が見る場合は、相手に養育費を請求することができます。

養育費について、詳しくは以下をご覧ください。

 

離婚成立前に別居した場合の生活費

上記に説明したように、50代の離婚は成立までに時間がかかることも多いので、離婚成立前に別居をすることも考えられます。

離婚前に別居した場合は、「婚姻費用」を請求できる場合があります

「婚姻費用」とは、夫婦の生活を維持するのに必要な費用であり、夫婦にはこれを分担する義務があります。

離婚を前提に別居した場合でも、法律上夫婦である以上は分担義務はなくなりませんので、収入が多い方(多くの場合夫)は、収入が少ない方(多くの場合妻)に婚姻費用を支払わなくてはなりません

そして、収入が少ない方は、収入が多い方に婚姻費用の請求をすることができます

婚姻費用の金額は夫婦の間で自由に決めることができますが、家庭裁判所で決める際に参照される「婚姻費用算定表」を目安にするのが一般的です。

【 婚姻費用算定表はこちら ⇒ 婚姻費用算定表(PDFファイル)

婚姻費用算定表は、夫婦双方の収入と、経済的に独立していない子どもの人数・年齢に応じて婚姻費用の額を簡単に算定できるようにしたものです。

(婚姻費用には自分が面倒を見ている子どもの生活費も含まれます。)

算定表の見方について、詳しくは以下をご覧ください

当事務所では、婚姻費用の目安を素早く確認したいという方のために、オンラインで、かつ、無料で自動計算できるサービスをご提供しています。

以下よりご覧ください。

婚姻費用の金額や支払方法は、別居前に決めておくことが望ましいですが、話し合いができる状況ではないことも多いです。

その場合、別居後速やかに内容証明郵便などで請求するようにしましょう。

婚姻費用は請求した時点からしかもらえないのが原則ですので、速やかに請求することがポイントです。

相手が請求を無視する場合や、適切な金額を支払わない場合は、婚姻費用の調停を申し立て、裁判所で金額等について話し合うことになります。

裁判所での話し合いもできない場合や、話し合っても合意できない場合は、「審判」という手続きに進んで裁判官の判断をもらうことになります。

 

 

50代の離婚率

ここでは、50代の離婚率について見ていきましょう。

統計によれば、2020年の50代の離婚率は9.43%(分母は50代の日本人人口)となっています。

引用元:国立社会保障・人口問題研究所 人口統計資料集2022年度版表6-8

若い世代と比べれば離婚率は低くなっていますが、50代で離婚する人は決して珍しくはないといえるでしょう。

2020年年代別離婚率のグラフ

また、1930年から2020年までの50代の離婚率の推移を見てみると、2000年代から倍増していることが分かります。

ドラマの影響や、いわゆる団塊世代が退職を迎える時期であったこと、年金分割制度が開始されたことなどが関係していると考えられます。

1930年から2020年までの50代の離婚率の推移グラフ

 

 

50代で離婚してよかった女性の事例

当事務所の解決事例の中から、50代で離婚してよかった女性の事例をご紹介いたします。

ご相談者Kさん(専業主婦)

財産分与を適切に行い、不倫した夫とその不倫相手の双方から慰謝料(解決金)を有利な条件で獲得することもできました。

【 離婚の理由 】

結婚してから数年後に夫の不倫が発覚したものの、当時は子どもが幼いなどの理由で離婚には至りませんでした。

しかし、それから約15年後、夫の不倫が再び発覚し、さらに夫の方から離婚を求めるようになりました。

Kさんとしては、できる限り多くの金銭を獲得して早期に離婚したい気持ちと、夫の要求にすんなり応じたくない気持ちがありました。

Kさんは弁護士に依頼し、離婚協議をゆっくり進めつつ少しでも多くの利益を獲得する方針で進めて行くことになりました。

【 財産分与 】

夫は当初ざっくりと1000万円を支払うと提案していましたが、弁護士の関与により財産を調査し詳細に計算し適正額の分与を求めたところ、結果的に分与額を1120万円とすることができました。

【 慰謝料 】

夫の不倫について、夫とその不倫相手に対して慰謝料の請求を行い、結果的に解決金名目で夫から200万円、不倫相手から150万円を獲得することができました。

【 年金分割・養育費 】

弁護士のサポートにより、年金分割及び養育費の増額をすることができました。

詳しくは以下をご覧ください。

 

Fさん(パート)

財産分与・年金分割を適切に行い離婚することができました。

【 離婚の理由 】

子ども達が独立してから数年後、夫が不倫して家を出て行ってしまったうえ、夫から離婚を求められました。

Fさんは離婚自体は致し方ないと考えていたものの、当初夫が提示していた離婚条件が下げられたことなどから弁護士に依頼されました。

【 財産分与 】

当初夫は財産分与として1000万円近くを提示していましたが、ご相談時にはそれが数百万円にまで条件を落とされていました。

弁護士の関与により、結果的に1050万円の財産分与を受けることができました。

【 年金分割 】

弁護士のサポートにより、年金分割を請求し行うことができました。

詳しくは以下をご覧ください。

 

Xさん(専業主婦)

当初は離婚に消極的だったものの、財産分与・慰謝料・養育費を獲得して早期解決することができました。

【 離婚の理由 】

子どもが10歳の頃に夫の浮気が発覚するも、子どもがまだ小さかったため約10年以上にわたり我慢を続けていました。

夫は単身赴任が長く、その流れで別居が開始されました。

そして、夫から突然に離婚調停を申し立てられました。

Xさんは離婚はやむを得ないとは考えていましたが、子どもの進路の関係ですぐに離婚することには消極的でした。

結果的には、調停の段階での早期解決がXさんにとっても有利だったことから、夫に子どもの進路に影響が出ないよう配慮してもらうことを前提に有利な条件で離婚することができました。

【 財産分与 】

依頼を受けた弁護士が財産整理を行ったところ、Xさんには比較的多額の特有財産があったため、これをわかりやすい形で主張することにより特有財産について争いになることはありませんでした

その上で、財産分与として440万円を獲得することができました。

【 慰謝料 】

夫の浮気について、夫に対しては慰謝料を請求することができ、慰謝料として100万円を獲得することができました。

【 養育費 】

子どもは成人していたものの、経済的に独立していない子どもとして養育費の対象とし、養育費として月額12万円を獲得することができました。

詳しくは以下をご覧ください。

 

 

50代で離婚してよかった男性の事例

当事務所の解決事例の中から、50代で離婚してよかった男性の事例をご紹介いたします。

 

Bさん(会社役員)

離婚後の生活への不安から離婚に消極的な妻に対し、適切な条件を検討して提示することにより早期に協議離婚を成立させることができた事案です。

【 離婚の理由 】

夫婦としての実態が無い状態であったため、Bさんの方から離婚を希望しました。

しかし、妻は自身の持病や将来への生活不安のため離婚をかたくなに拒否し、話が進まないまま1年半が過ぎてしまったため、Bさんは弁護士に依頼しました。

【 財産分与 】

弁護士が妻の意向も踏まえて離婚条件等を検討・提示し代理交渉をすることにより、適切に財産分与をした上で協議離婚を成立させることができました。

詳しくは以下をご覧ください。

 

Iさん(公務員)

当事者同士の話し合いで進展がなかったところ、弁護士が関与して代理交渉をしたことにより早期解決をすることができました。

【 離婚の理由 】

すでに夫婦関係は冷め切っており、いわゆる家庭内別居の状態であったところ、一番下の子どもが社会人になることを契機としてIさんから離婚を希望しました。

しかし、当事者本人同士の話し合いでは進展がなかったため、Iさんは弁護士に依頼しました。

弁護士がIさんの代理人として妻と交渉することにより、妻も離婚の手続きについて前向きに協力してくれるようになり、協議離婚を成立させることができました

【 財産分与 】

預金等の共有財産はそれぞれが自己名義のものを取得することを前提に、共有名義であった自宅建物の持ち分は妻からIさんに譲渡されることになりました。

詳しくは以下をご覧ください。

 

 

50代の離婚で失敗しないための5つのポイント

50代の離婚で避けたい失敗は、大きく次の2つといえるでしょう。

  1. ① 財産分与・年金分割を適切に行わずに損をしてしまうこと
  2. ② 離婚後に経済的・精神的に苦しくなり離婚したことを後悔してしまうこと

これらを避けるために押さえておきたいポイントは以下の5つです。

それぞれについて解説していきます。

 

①財産分与を適切に行う

(1)共有財産のリストアップを漏れなくする

50代の離婚では財産分与をきちんと行うことが最大のポイントともいえます。

そのためには財産分与の対象(共有財産)を正確に把握することが重要です。

共有財産には、預貯金、現金、不動産、家財道具、自動車などのほかに、積立型保険、私的年金、証券、債券、退職金なども含まれます。

退職金は実際にはまだ支給されていなくても将来支払われることがわかっている場合は対象になります。

また、プラスの財産だけでなく、住宅ローンなど夫婦が生活していく上で発生した負債(マイナスの財産)も含まれます

他方、独身時代からの預貯金や、贈与・相続により取得した財産、明らかに一方の専用品といえるもの(服飾品・仕事道具など)は各自の特有の財産(「特有財産」といいます。)として財産分与の対象にはなりません

これらを踏まえて共有財産をリストアップしていきましょう。

相手が密かに預金口座を作ってお金をためていたり、株券、債券を取得していたり、へそくりがあったりと、自分が認識していない共有財産が存在している場合もあります。

自宅に届く郵便物などから見当をつけて漏れのないようにしましょう。

なお、離婚の準備をしていることを相手に感づかれると、相手に相手名義の財産を隠匿されてしまう恐れもあります。

共有財産のリストアップは離婚を切り出す前・別居前に行うようにし、相手名義の通帳・保険証券などは写真を撮ったりコピーをとったりしておくとよいでしょう。

早い段階でこのような準備をしておくことにより、スムーズに財産分与を進めることもでき、その結果、早期の離婚成立にもつなげていくことができます。

 

(2)自宅(持ち家)の評価額・分け方は慎重に検討する

共有財産のリストアップをしたら、それぞれの金額(評価額・時価)を調査し、プラスの財産からマイナスの財産を差し引いた金額(=財産分与の対象となる金額)を原則2分の1ずつの割合で分けることになります。

評価額や分け方は、それぞれの財産について慎重に検討する必要がありますが、特に共有財産に自宅(持ち家)がある場合に問題となることが多いので注意しましょう

 

自宅の評価額

離婚に際し自宅を売却する場合は、実際に売却できた金額が財産分与の対象となるので評価額が問題になることはあまりありません。

他方で、売却しない場合(夫婦のいずれかが財産分与で自宅をもらう場合)は評価額がいくらになるかが問題になります。

売却しない場合は、評価額が高いか低いかによる利害対立が生じるためです。

評価額は、一般的には不動産業者に査定をしてもらって出すことになります。

しかし、査定額は考慮する要素により異なるため、不動産業者により大きく変動する場合もあります。

したがって、夫婦それぞれが複数の不動産業者にお願いして査定をとり、それらの中間値を評価額として採用するなど慎重に決める必要があります。

具体例

  • 共有財産は自宅(夫の単独名義、ローンは完済している)と現預金1000万円のみでした。
  • 夫は自宅をもらうことを希望し、妻は金銭のみをもらうことを希望しています。
  • 夫が不動産業者に査定をお願いしたところ、査定額は1000万円とのことでした。
  • 他方、妻が査定をとったところ、査定額は2000万円でした。

このケースで、夫の査定額1000万円だけを前提に、基本的な考え方(共有財産を2分の1ずつ分ける)に従い財産分与を行った場合、お互いの取り分は1000万円となるため、夫は自宅を取得し、妻は現預金を取得するという結論になります。

他方、夫と妻の査定額の中間値1500万円を自宅の評価額として合意し、これを前提に基本的な考え方に従い財産分与を行うとすれば、次のような結論になります。

すなわち、共有財産の総額は2500万円で双方の取り分は1250万円ずつとなります。

夫が1500万円分の自宅をもらう場合は、夫は250万円分もらい過ぎていることになります。

そのため、夫は妻に250万円をお金で渡し、妻は預貯金の全部と夫からの250万円で合計1250万円分をもらうことになります。

上記の事例では、夫にとっては自宅の評価額が低い方が有利であり、妻にとっては評価額が高い方が有利になるという利害関係があります。

したがって、評価額については相手方の言うことを鵜呑みにせず、自分で調査することが重要になります。

なお、評価額について折り合いがつかない場合、最終的には不動産鑑定による評価をしてもらうことになりますが、それには相当の費用がかかるため、平均値などで折り合いを付ける方が得策なケースが多いといえます。

 

自宅の分け方

一般的に、自宅の分け方には、

  1. ① 夫婦どちらか一方が取得し、他方にお金を支払う方法
  2. ② 売却して得られた代金を分け合う方法

があります。

いずれの方法をとるかは、夫婦の希望の他に、他の共有財産や特有財産の状況、敷地の名義人が誰か(敷地も共有財産なのか、一方の特有財産なのか等)などにより検討することになります。

財産分与で自宅をもらうことができれば、離婚後は家賃もかからず住み慣れた環境で過ごすことができますが、自宅をもらうために手元のお金がマイナスになる場合もあるので、慎重に検討するようにしましょう。

また、自宅購入の際に、一方の独身時代の貯金や親からの援助金を頭金に充てた場合は、自宅の一部は特有財産と扱うべきですので、単純に評価額や売却価格を半分に分けるのは適切ではありません。

特有財産と扱う部分以外を半分に分けるべきですが、どの程度が特有財産と扱えるのかを確認するには、自宅を購入した際の契約書や通帳などが必要になりますので、これらも予め準備しておくとよいでしょう。

なお、財産分与においては、評価額や分け方以外にも共有財産と特有財産の区別・基準時・分与割合など問題となるポイントが多岐にわたり、専門知識がないと損をしてしまうケースもありますので、弁護士のサポートを受けながら慎重に進めることをおすすめします。

財産分与について、詳しくは以下をご覧ください。

 

②年金分割のシミュレーションと手続きをする

(1)シミュレーション

50代の離婚においては年金分割も重要な関心事となりますが、年金分割により将来受け取る年金がどのくらい増えるかは、納めた保険料などにより人それぞれに異なります。

そのため、具体的に把握するには、年金事務所に行って年金分割のシミュレーションをしてもらうのがおすすめです。

なお、年金分割には合意分割と3号分割があります。

合意分割 3号分割
対象となる期間 婚姻期間中に厚生年金に加入していた期間 2008年4月1日以降の婚姻期間のうち第3号被保険者(※)であった期間
分割の割合 2分の1が上限
(ただし、2分の1以外になる場合は稀)
2分の1
合意の要否 合意又は裁判所の決定が必要 不要(請求すれば自動的に分割される)
手続き 夫婦(裁判所の決定をもらった場合は請求する人)が年金事務所で手続きをする 第3号被保険者だった人が年金事務所で手続きをする
請求期間 原則として、離婚日の翌日から2年

※第3号被保険者・・・第2号被保険者(サラリーマン、公務員など厚生年金保険の加入者)に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者のこと

合意分割と3号分割のいずれが有利であるかは状況により異なるので、それに関しても年金事務所で確認しておくとよいでしょう。

 

(2)手続き

年金分割により将来受け取る年金が増える場合は忘れずに請求し手続きをすることが大切です。

離婚後2年以内に請求しなければ、請求できなくなってしまうので注意しましょう。

合意分割の場合、分割割合を合意で決めることができますが、特段の事情がない限りは分割割合は2分の1となります。

しかし、分割する側(収入が高く保険料を多く納付している側)から、分割しないと言われたり、2分の1よりも少ない分割割合を主張され、合意ができないケースもあります。

その場合は、「審判」という手続きで家庭裁判所に分割割合を決定してもらうことができますので、お困りの場合は弁護士に相談されるとよいでしょう。

年金分割について、詳しくは以下をご覧ください

 

③離婚後の生活について具体的な計画を立てる

離婚後に離婚したことを後悔しないためには、離婚後の生活について具体的な計画を立てて準備をすることが必要です。

計画を立てる際には、住む場所・当面の生活費・老後の資金を確保できるかということと、心身共に健康に暮らして行くことができるかということを意識するとよいでしょう。

 

(1)住む場所

離婚後に住む場所をどうするかは、離婚後の生活に大きく関わる重要なものといえます。

賃貸物件に引っ越す・自宅(持ち家)に住み続ける・実家に帰るといった選択肢が考えられますが、いずれもメリット・デメリットがあります。

メリット デメリット
①賃貸物件に引っ越す
  • 月々にかかる費用が明確で生活設計が立てやすい
  • 利便性を考えて場所を選ぶことができる
  • 退去が簡単
  • 公的な家賃補助が受けられる高齢者向け優良賃貸住宅もある
  • 初期費用や家賃がかかる
  • 高齢の場合入居が難しい場合もある
  • バリアフリー化など自由にできない
②自宅(持ち家)に住み続ける
  • 家賃がかからない
  • 資産になる
  • バリアフリー化など自由にできる
  • 財産分与の問題
  • 固定資産税や維持費がかかる
  • 処分が大変な場合もある
③実家に戻る
  • 家賃がかからない
  • 固定資産税や維持費がかからない
  • 単身の場合よりも生活費が抑えられる
  • 場所が選べないため生活が不便になることもある
  • 親との同居が負担になる場合もある
  • 相続の際に揉める可能性がある

収入や離婚に際して確保できる財産の見通しや、離婚後の生活スタイル、老後の生活などを考慮し、長期的な視点で検討するようにしましょう。

 

(2)当面の生活費と老後の資金

当面の生活費と老後の資金は、収入・財産分与・年金分割などにより賄えるかを計算しておくとよいでしょう。

先にご紹介した共有財産のリストアップや年金分割のシミュレーションをすることにより、離婚に際して確保できるお金については大体の見当を付けることができます。

50代は年金が受給できるようになるのがまだ先ですので、現在専業主婦(夫)の方も離婚後の生活設計に合った仕事を見つけておくとよいでしょう。

離婚後の当面の生活における収支と、高齢になり働くことが難しくなったり介護費用がかかったりするようになった場合の生活費を考えておくことが大切です。

収入・財産分与・年金分割などを考慮しても生活が成り立たない可能性がある場合、生活保護を検討する必要もあります。

生活保護の受給には要件があるので、専門家に相談されるとよいでしょう。

 

(3)心身の健康

離婚後は、一人暮らしによる孤独や、体調を崩してもサポートしてくれる人がいない不安、生活環境・生活スタイルの変化などから、精神面も崩れがちになります。

また、これまで家事全般を相手に任せていた方などは、離婚後に家事をすることがストレスになったり、家事をこなせずに生活習慣・食生活が乱れて体調を崩したりするかもしれません。

応援してくれる子どもや友人などの人間関係を大事にする、再婚を検討する、離婚後にやりたいことを見つけておく、家事代行サービスなどを探しておくなど、離婚後に健康的に暮らしていけるよう予め対策しておくとよいでしょう。

 

④離婚前に別居した場合は婚姻費用を請求する

先に説明したように、離婚前に別居を開始した場合、相手の収入の方が自分の収入よりも多いときは、相手に婚姻費用を請求することができます

50代の離婚は、相手が簡単に離婚に応じてくれなかったり、財産分与などに時間がかかったりして離婚を切り出してから離婚成立まで時間がかかることがあるので、別居した場合は速やかに請求をするようにしましょう

なお、婚姻費用の請求は、離婚成立までの期間の生活費の確保のために重要ですが、別居後すぐにもらえるものとして当てにしすぎないことも大切です。

別居後速やかに婚姻費用の請求をしても、相手が請求に応じてすぐに支払ってくれない場合は調停や審判で決めることになります。

調停や審判といった裁判所の手続きでは結論が出るまで半年以上かかる場合もあるため、必ずしもすぐに適正額をもらえるとは限りません。

離婚を切り出す前に今後の収入の見通しを立てておいたり、当面の生活費を手元に準備しておくようにしましょう。

婚姻費用について、くわしくは以下をご覧ください。

 

⑤離婚問題に強い弁護士へ相談する

(1)財産分与・年金分割について適切な解決を図ることができる

50代の離婚でポイントとなる財産分与は問題となる点が多岐に渡るため、共有財産が多く複雑な状況になればなるほど、適切な解決のために専門家のサポートが必要になるといえます

専門知識がないと、不利な条件であることに気づかないまま不利な条件で財産分与を行ってしまうこともあるので、離婚問題に詳しい弁護士のサポートを受けながら慎重に進めることをおすすめします。

早い段階から弁護士に相談することにより、共有財産のリストアップから助言を受けることができ、有利に進められやすくなります。

財産分与の前に相手が勝手に相手名義の財産を処分してしまう恐れがある場合は、それを防止する措置(「保全処分」といいます。)について弁護士のサポートを得ることも可能です。

さらに、離婚問題に精通した弁護士であれば、離婚後の生活設計に合った最適な解決策を提案してくれるでしょう。

 

(2)代理交渉により早期解決を目指すことができる

離婚する手段としては、「協議離婚」「調停離婚」「裁判離婚」があります。

まずは当事者同士で話し合い合意して離婚する「協議離婚」を試みます。

それができない場合は裁判所に話し合いの仲介をしてもらい、裁判所で合意することによって成立する「調停離婚」の手続きに進みます。

それでも合意ができなければ、「裁判離婚」に進み、裁判官に判断してもらうという流れになります。

50代の離婚は財産分与が複雑になるなどの理由から協議離婚の場合でも時間がかかる傾向にありますが、調停や裁判など裁判所での手続きに進む場合は、離婚成立まで数年単位で時間がかかってしまうこともあります。

そのため、できる限り「協議離婚」を目指すべきといえます。

しかし、当事者同士では冷静かつ公平に話し合いができない場合も多いため、結局調停や裁判に至らざるを得ないこともあるでしょう。

そこで、弁護士に代理人として相手と交渉してもらい(代理交渉)協議離婚を目指すことをおすすめします。

裁判所を通さないため時間や費用を節約できる上、専門家のサポートを得ることで適切な解決を図ることができます。

 

(3)精神的負担を軽減できる

50代の場合は結婚生活が長いためお互いに不平不満が積もっていることもあり、離婚を切り出したことをきっかけに過去のことを蒸し返して罵り合うなど泥沼化することもあります。

その上、先に説明したように離婚成立まで時間がかかることも多く、離婚成立までの期間で憔悴してしまう可能性もあります。

弁護士に依頼していれば相手と直接やり取りせずに済み、相手の言い分についても法律的にどういうことなのかを説明してくれますので、精神的な負担を軽減することができます。

また、離婚前に別居を開始した場合は婚姻費用のサポートを得ることも可能であり、婚姻費用について争いが生じた場合も早期解決を図ることができます。

 

 

まとめ

以上、50代の離婚の特徴や実態、50代の離婚で失敗しないためのポイントなどについて解説しましたが、いかがだったでしょうか。

50代の離婚は、50代特有の難しさがありますが、周到な準備をした上で慎重に進めて行くことにより、早期に適切な条件での離婚につなげていくこともできます。

特に財産分与は問題となりやすく、専門知識がないと適切な解決が難しい面がありますので、離婚をお考えの場合はお早めに専門の弁護士に相談されることをおすすめします。

この記事が、離婚問題でお困りの50代の方にとってお役に立てれば幸いです。

 

 

なぜ離婚問題は弁護士に相談すべき?弁護士選びが重要な理由とは?   

続きを読む