婚姻費用とは?婚姻費用の請求について弁護士が詳しく解説!
婚姻費用とは?
婚姻費用とは、夫婦と未成熟子によって構成される婚姻家族がその資産、収入、社会的地位等に応じた通常の社会生活を維持するのに必要な費用をいいます(大阪高決昭33.6.19)。
わかりやすく言うと、生活費のことであり、収入が多い側(通常は夫)が収入が少ない側(通常は妻)に対して支払う必要があります。
婚姻費用は、配偶者各自の生活費だけでなく、未成熟子の養育費も含みます。
具体的には、通常の衣食住の費用のほか、子の教育費、医療費、相応の娯楽費等が該当すると言われています。
なお、未成熟子は、「未成年」とは異なります。未成熟子とは、経済的に独立して自分の生活費を獲得することができず、未だ社会的に独立人として期待されていない段階にある子女をいいます。
したがって、例えば、20歳を超えていても、学生で無職であれば未成熟子に該当する可能性もあります。
養育費との違いは?
離婚事案において、婚姻費用は似た概念である養育費と混同されがちです。
養育費は、離婚後に子供を監護するために必要な費用であるのに対して、婚姻費用は離婚が成立するまでの費用となります。
すなわち、扶養義務は、子供に対してだけではなく、離婚が成立するまでの間は配偶者に対しても負っています。
したがって、夫婦関係が破綻していたとしても、離婚するまでの間は、子供の生活費に加えて配偶者の生活費も負担しなければなりません。
これが婚姻費用です。
離婚すれば子どもの生活費のみを負担すればよく、これが養育費にあたります。
婚姻費用 | 養育費 | |
---|---|---|
対象となる者 | 配偶者
子供 |
子供 |
法的根拠 | 民法760条 | 民法766条1項、877条1項 |
請求できる期間 | 離婚するまで 又は 別居を解消するまで |
離婚後、子供が自立するまで(通常は成人するまで) |
なお、婚姻費用は子供だけではなく配偶者の生活費も負担しなければならないので、通常の場合、養育費よりも負担額が大きくなる傾向です。
婚姻費用はどんなときに請求できる?
婚姻費用は、離婚するまでの間であれば、いつでも請求できますが、実際に問題となるのは別居後となります。
離婚を決意した夫婦が離婚前に別居を先行させることは多いです。
離婚を決意しているのに、相手と同居する意味はありませんし、離れて生活したいと考える方が多いからです。
別居すると、経済情勢が一変します。
典型的な夫婦の場合、妻は夫の収入に頼って生活しています。
別居すると、妻側は世帯収入が大幅に減少するため、夫に対して相応の婚姻費用の支払いを求める必要が生じるのです。
同居中は婚姻費用を請求できない?
婚姻費用が問題となるのは別居後が多いですが、同居中も請求は可能です。
特に、家庭内別居状態にある夫婦の場合、形式上はひとつ屋根の下の生活であっても、財布は別々となっているため、婚姻費用を請求する必要性が高いといえます。
また、家庭内別居状態にまで至っていない場合でも、分担しなければならない生活費の額を確定したい場合、婚姻費用を取り決めることがあります。
事案としては、専業主婦やパートタイマー等で収入が少ない妻がすぐに別居することが難しいような場合、同居中、夫に対して婚姻費用を請求するのが典型的です。
婚姻費用はいくらが適正?
婚姻費用の分担義務は、生活保持義務、すなわち、義務者(収入が多い側)と権利者(収入が少ない側)とが同一の生活レベルを保持すべき義務と考えられています。
したがって、例えば、夫が高所得者で、妻が専業主婦の場合であっても、妻は高所得者である夫と同程度の生活レベルを保持できるだけの高額な婚姻費用を請求できます。
また、反対に、夫が低所得者で、妻が夫よりも収入が高い場合、夫から婚姻費用の請求がなされれば、基本的には妻に婚姻費用の支払い義務が発生するといえるでしょう。
婚姻費用の具体的な算定方法
では、婚姻費用の額はどのように算定すべきか。
婚姻費用の分担について、民法は夫婦の「資産、収入その他一切の事情を考慮」すると規定するのみで、明確な算定方法は規定していません(民法760条)。
家庭の調停実務において、婚姻費用の額は、「算定表」という早見表を用いて算定されることが定着しています。
婚姻費用算定表はこちらからどうぞ。
この算定表は、標準算定方式という計算方法に基づいて算定される婚姻費用の額を概ね2万円(低所得の場合は1万円)の幅をもたせて整理したものです。
あくまで標準的な額を簡易迅速に把握するためのものなので、各事案の個別要素を考慮すると、適正額は異なる可能性があります。
例えば、子供が私立学校に通っている、住宅ローンを負担している、婚姻費用の請求者が浮気・不倫をしていた、などの事情があると、算定結果が大きく異なると思われます。
したがって、算定表は参考程度にとどめ、適正額については婚姻費用に精通した弁護士に相談された方がよいでしょう。
算定表の見方をわかりやすく解説
算定表は専門家にとっては早見表で便利ですが、素人の方はわかりにくいと思われます。
そこで、以下、具体例をもとに、算定表の見方を解説します。
具体例 妻が夫に婚姻費用を求める場合
妻:パートタイマー(年収103万3455円)
夫:会社員(年収530万2800円)
子ども:長男15歳(公立中学校)、二男11歳(公立小学校)
なお、実務上、収入が少なく、配偶者に婚姻費用を請求できる権利を持つ者(上記の例だと妻)を権利者といい、逆に支払い義務を負う者(夫)を義務者といいます。
①子どもが二人で、長男は15歳、二男は11歳ですので、算定表の「表14婚姻費用・子2人表(第1子15〜19歳、第2子0〜14歳)」を選択します。
②権利者である妻の年収を確認します。表の横軸上の「給与」の欄には「100」(単位は「万円」です)と「125」がありますが、103万3455円というのは「100(万円)」に近いので、「100」を基準にします。
なお、年収は、税込の収入ですので、手取り金額(所得)と誤解しないよう注意されてください。年収は、源泉徴収票の「支払金額」欄で確認できます。
③義務者の夫の年収を確認します。表の縦軸上の「給与」の欄には「525」と「550」がありますが、530万2800円というのは「525(万円)」に近いので、「525」を基準にします。
④横軸の「100」の欄を上に伸ばした線と、縦軸の「525」の欄を右に伸ばした線が交差するのは「10ないし12万円」の枠内となります。
⑤標準的な婚姻費用は、この額の枠内ですが、交差させた位置が幅の下方ですので、10万円に近い額で調整することになるでしょう。
給与と自営とは?
算定表の軸は、「給与」と「自営」の2つが記載されています。
給与の軸は給与所得者、自営の軸は個人事業主に用います。
サラリーマン、パートタイマーなどの大部分の方は給与所得者に該当します。
よく誤解されているのは会社役員(社長など)です。
社長のことを「自営」と誤解されている方が多いのですが、社長も会社から支払われる役員報酬は給与所得となります。
相手の収入をどうやって確認する?
婚姻費用の標準額は、上述したとおり、夫婦の収入を算定表に当てはめれば簡易迅速に算出できます。
したがって、婚姻費用の適正額を算出する上で、決定的に重大な影響を及ぼすのは夫婦の「収入」といえます。
しかし、実際には、相手の正確な収入について、知らない夫婦がほとんどです。
そこで、どうやって収入の確認方法について、ご紹介します。
給与所得者の場合、給与を支払う会社等が発行する、源泉徴収票で年収を確認することが可能です。
源泉徴収票を見ると、「支払金額」「給与所得控除後の金額」「所得控除の額の合計額」「源泉徴収税額」の欄がありますが、このうち、「支払金額」欄に記載されている金額が婚姻費用の算定基礎の収入となります。
国税庁
個人事業主の場合、確定申告書の控えを確認することで収入を確認することが可能です。
確定申告書を見ると、右上の欄に「課税される所得金額」があります。
ここに記載されている金額が婚姻費用算定の総収入に当たります。
もっとも、「課税される所得金額」は、税法上、様々な観点から控除がされているため、その金額をそのまま婚姻費用の算定基礎にするのは妥当ではありません・
そのため、以下を踏まえて、控除すべきではないと判断される項目については、「課税される所得金額」に加算すべきです。
・青色申告特別控除 ・雑損控除 ・寡婦寡夫控除 ・勤労学生障害者控除 ・配偶者控除 ・配偶者(特別)控除 ・扶養控除 ・基礎控除
現実に控除額が支出されていない場合は控除すべきではない
自営業者は特別経費としてすでに考慮されているので原則として控除すべきではないが、標準額を超える特別に高額な場合は控除を検討する。
婚姻費用の支払いの方が優先されるべきであることから控除すべきではない。
国税庁
この場合、源泉徴収票だけではすべての収入を確認することができません。
確定申告書を見れば、給与収入も自営業の収入も記載されているので正確な収入を確認することができます。
また、役場が発行する配偶者の課税証明書(所得証明書ともいいます。)にも給与、自営のすべての所得が記載されているので確認が可能です。
婚姻費用の請求方法とは?
まだ離婚が成立していないのに、相手が生活費を支払ってくれなくなった場合、生活していくために婚姻費用を請求する必要があります。
ここでは婚姻費用の請求方法として具体的にどのようにすればよいのかを解説します。
任意の支払を求める
相手配偶者に対して、婚姻費用の任意の支払いを求める方法があります。
婚姻費用の分担をどのようにするかということは、本来、夫婦間のことですから、夫婦が協議して決めることができるのであればそれが望ましいでしょう。
また、相手が任意に支払ってくれれば、いちいち裁判所を通すこともなく婚姻費用をすぐに受領できるため、スピード解決が可能となります。
さらに、示談交渉の場合、裁判所までの交通費や印紙代が不要となります。
会社勤めの場合、会社を休んで裁判所に行く必要もありません。
ただし、裁判所が関与しないため、婚姻費用の適正額について自分自身で判断しなければなりません。
また、相手が婚姻費用の支払いに応じてくれた場合、婚姻費用の合意書などを作成した方が望ましいですが、作成が難しいと考えられます。
したがって、この方法の場合、専門家に相談しながら進めていく必要が高いといえるでしょう。
協議離婚の方法等についてはこちらのページで詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。
婚姻費用の調停を申立てる
相手が婚姻費用の支払いに応じてくれない場合、婚姻費用分担調停の申立てを検討しなければなりません。
調停とは、家裁において、調停委員会の仲介のもと実施されるもので、話し合いによる解決を目指す手続です。
婚姻費用については、後述する審判の申立てという方法もあり、そのように解説している書籍やWEBページも見受けられます。
また、家事手続法も、家裁は、「調停を行うほか、この編の定めるところにより審判をする」と規定しており(244条)、いずれの方法も選択できるかのような印象を受けます。
しかし、家裁実務は基本的には調停手続を優先させます。
これは、家事事件は、家族に関する事案なので、基本的には話し合いによる解決が望ましいと考えられているからです。
したがって、話し合いの余地が無いような事案であればともかく、そうでない通常の事案の場合は審判ではなく調停を選択することとなります。
婚姻費用の調停は、審判と異なり、管轄の家裁が相手方の住所地に限定されています。
これに対して、審判の場合、管轄を自分の住所地の家裁にすることができます。
そのため、相手が遠方に居住しているような場合、交通費などの負担が少ない自分の住所地を管轄する家裁に対して審判を申立てる場合があります。
しかし、執筆者の個人的な経験としては、話し合いになじまないような例外的な事情がないと、調停に付される可能性が高いと思われます。
調停手続は、平日の昼間に行われます。家裁によって時間帯は異なりますが、多くは午前中(例えば9時30分から正午頃)か午後(例えば14時〜16時ころ)となります。
そのため、会社員の方は、調停に参加する場合、仕事を休んで行かなければなりません。
調停の頻度としては、概ね1ヶ月に1回程度ですが、盆正月や裁判官の異動時期の3月下旬ころから4月上旬ころにかけては期日が入らないことも多々あります。
また、手続きの期間としては、ケース・バイ・ケースですが、執筆者の個人的な経験としては、半年間から長いと1年を超える場合もあります。
そのため相当な負担がかかると思われます。
調停においては、調停委員会が関与するので、ある程度の法律知識は補完してくれます。
しかし、調停は話し合いによる解決を重視するため、当事者が合意すれば、それが適正額ではなかったとしても、口を挟むことは少ないと思われます。
また、調停委員会は裁判官(家事審判官)、男性の調停委員、女性の調停委員の3名で構成されていますが、通常、裁判官は立ち会ってくれません。
裁判官は多忙なので、調停が成立するときだけ立ち会うのがほとんどです。
そのため、調停はプロの法律家の関与なく、法曹資格がない調停委員のみで進められていくといってよいでしょう。
調停は、このような問題があるため、可能であれば、婚姻費用に詳しい専門家の助言を受けながら進めたほうが望ましいと考えられます。
婚姻費用の審判
婚姻費用の審判とは、夫婦双方の言い分をもとに、裁判官(家事審判官)が適正と考える婚姻費用の額を決定する手続です。
上述したとおり、家裁で婚姻費用を決める際、通常は調停手続を先行させています。
調停手続において、話し合いの結果、夫婦双方が合意に達しない場合、通常はこの審判手続に移行します。
すなわち、婚姻費用は生活費の分担義務を確定するための手続であり、話し合いでまとまらないと、権利者(通常は妻)は生活に困窮することとなります。
そのため、調停が不成立となったとしても、家裁の関与のもと、適正額を決定する必要があります。
婚姻費用の審判に移行する前に、通常の場合、調停手続が重ねられており、当事者の主張やそれを裏付ける資料は十分揃っています。
そのため、調停手続ほど長期間は要しないと思われます。
調停から審判に移行した場合、通常は、1回程度審問(裁判官との面談の手続)を実施し、それを踏まえて1〜2ヶ月後に審判が言い渡されることが多いようです。
また、審判は、裁判官が当事者の言い分や疎明資料を十分に精査し、適切妥当な額を判断する手続です。
そのため、適正額である可能性が高いと思われます。
仮に、審判結果に不満がある場合は、高等裁判所へ不服を申し立てることも可能です(即時抗告といいます。)
上述した各種請求の方法について、表にまとめると次のとおりです。
あくまでイメージであり、個々の案件によって異なりますが、参考にされてください。
任意の支払い | 婚姻費用の調停 | 婚姻費用の審判 | |
---|---|---|---|
特徴 | 裁判所を通さない | 裁判所での話し合い | 裁判所が決定する |
労力 | ◯ | × | △ |
スピード | ◯ | × | △ |
専門家の助言の重要性 | 大 | 中 | 小 |
管轄 | - | 相手方の住所地 | 夫又は妻の住所地 |
婚姻費用を請求する場合の問題点
問題点①収入資料を取得できない
婚姻費用は、上述したとおり、夫婦双方の「収入」で適正額(標準額)を算定できます。
しかし、その前提となる、「収入資料が手元にない」という場合が多くあります。
収入資料には、上述の「源泉徴収票」「確定申告書」「所得証明書」などがあります。
これらについて、自分の分であれば取得可能ですが、離婚協議中の夫婦が相手の分を取得するのは困難な場合があります。
問題点②適正額の算定は難しい
仮に、相手の収入の証明資料を取得できたとしても、適正額の算定は容易ではありません。
適正額の算定のためには、まず、婚姻費用算定の基礎となる収入をどう捉えるかが問題となります。
この点、サラリーマンなどで給与所得しかない場合は、基本的には税込年収で判断できるため難しくはありません。
しかし、自営業者の場合、上述したように、確定申告書の「課税される所得金額」をベースに、控除すべきでない項目の有無を検討しなければならず、ご自身で判断することは容易ではないと思われます。
また、給与所得以外に副収入がある場合も確定申告書を基に、実質所得を読み解かなければなりません。
さらに、婚姻費用算定の基礎収入を正確に把握できたとして、算定表だけで適正額を算出できればよいのですが、算定表だけでは適正額を算出できない場合があります。
例えば、子供が私立学校に通学している場合、住宅ローンを負担している場合、権利者(通常は妻)側が有責配偶者(浮気・不倫をした側)の場合、算定表だけでは適正額を算出できません。
これらのケースにおいて場合、検討が必要な点をまとめると下表のとおりとなります。
算定表だけでは不十分な事例 | 検討すべき点 |
---|---|
子供が私立学校に通学している | 算定表は公立学校の授業料を基に計算されている。他方、私立学校の学費は、公立学校の授業料を上回る。そのため相当程度、算定表上の婚姻費用の額に加算すべきであるが、その具体的な額をいくらとすべきかを検討。 |
子供が大学に進学している | 大学進学について、義務者(通常は夫)が同意していたか否か。 同意していた場合、相当程度、算定表上の婚姻費用の額に加算すべきであるが、その具体的な額をいくらとすべきかを検討。 |
権利者(通常は妻)が居住する自宅の住宅ローンを義務者(通常は夫)が負担している場合 | 算定表の金額は、衣食住等の通常の生活費を含めた額である。そのため、義務者が住宅ローンを負担している場合、権利者の住居費を支払っていることになる。他方で、自宅のローンの支払は資産形成に資する側面もある。そのため、住宅ローンを全額算定表上の金額から控除すべきではないく、どの程度の控除が妥当か検討しなければならない。 |
権利者(通常は妻)が居住する自宅の家賃、光熱費、電話代、保険料等を義務者(通常は夫)が負担している場合 | 算定表上の金額から義務者が負担している費用の控除を検討すべきである。 |
権利者(通常は妻)が浮気・不倫をしたため、夫婦関係が破綻したような事情がある | 浮気・不倫をした配偶者が自らの生活費を義務者に請求するのは信義則に反する。他方で、浮気・不倫をした配偶者が子供を監護している場合、子供には責任がないため子供の生活費にかかる婚姻費用は支払うべきである。 |
上記は婚姻費用において、問題となる典型的なケースです。
この他にも、算定表だけでは適正額を判断できないケースがあるため、算定表は、あくまで参考程度にとどめるべきといえます。
問題点③過去の婚姻費用は請求できない?
婚姻費用請求という権利があることについてご存知の方は決して多くありません。
別居してから何ヶ月も経った後に、弁護士から婚姻費用を教えてもらい、請求する方が多くいます。
また、婚姻費用について知ってはいたものの、後から請求しようと考え、何年も経ってから請求する方もいます。
このような過去の婚姻費用を求める場合、相手が任意に支払ってくれればよいのですが、通常相手は拒否します。
相手としても、突然、過去の婚姻費用を請求され、その全部を一度に支払わなければならないとすると、通常、多額になっているのでいささか酷であるといえます。
そのため、婚姻費用の審判において、婚姻費用の支払いの始期は、通常は婚姻費用の調停申立てや審判申立てがあったときなど、義務者に請求意思が到達したときであると考えられています。
請求の意思が明確になっていれば、相手にとって酷とはいえないからです。
過去の婚姻費用については、こちらのページに詳しく解説していますで、ぜひご覧ください。
問題点④合意しても相手が支払ってくれない?
婚姻費用について、相手が任意に支払うと約束しても、後日、支払ってもらなくなく可能性もあります。
特に、離婚協議が長期化してくると、相手も負担に感じて支払いをストップするケースも見受けられます。
婚姻費用を請求されたら?
婚姻費用の権利者(通常は妻)から婚姻費用を請求された場合の注意点としては、次の2点があります。
適正額を押さえる
婚姻費用は離婚が成立するまでの一時的なものです。
したがって、相手から請求された額を精査せずに安易に支払ってしまう場合があります。
しかし、婚姻費用は今後の離婚条件に大きな影響を及ぼす可能性があり、適正額を押さえる必要があります。
例えば、本来の婚姻費用の適正額が月額10万円である事案において、月額15万円を支払うと合意した場合、基本的には、離婚が成立するまで、毎月15万円を支払い続けなければなりません。
離婚協議が想定よりも長期化した場合、婚姻費用を減額したいと考える方がいますが、婚姻費用の減額は「事情の変更」という要件を満たさないと認められません。
また、この要件を満たすことは決して容易ではありません。
婚姻費用の減額については、こちらのページに詳しく解説していますで、ぜひご覧ください。
すなわち、一度、相場を上回る高額な婚姻費用の支払いを約束してしまうと、基本的には離婚が成立するまでその額を支払い続けなければなりません。
そうなると、交渉上、相手が有利となってしまいます。
例えば、上記のケースで養育費は月額8万円が相場だったとします。
そのようなケースでも、相手が、例えば「養育費は月額13万円でなければ離婚しない」と相場を上回る条件を提示されても、この条件を飲まざるを得ないような状況となります。
義務者側としては、月額13万円でも婚姻費用の月額15万円と比べると、まだ安く、相手の要求に応じた方が負担が減るからです。
このように、婚姻費用は後々の離婚交渉に大きな影響を及ぼす可能性があるので注意が必要です。
相手の請求を無視しない
相手から婚姻費用を請求され、これを無視すると、通常は家裁の審判手続に移行します。
そうなると、相手の主張のとおりに婚姻費用の額が認められる可能性が高くなります。
また、審判が言い渡された後、婚姻費用を支払わないと、強制執行される可能性があります。
強制執行の内容として、通常多いのは、会社からもらう給与に対する差押えです。
会社に差押えの通知が送達されるので、会社の人間に強制執行の事実を知られてしまい事になりますし、迷惑をかける事になります。
したがって、相手の婚姻費用の請求は、無視はせず、対応すべきでしょう。
婚姻費用を確実にするためのポイント
上記の問題点を踏まえて、婚姻費用を確実に受領するためのポイントについて解説します。
POINT①請求意思を明確にする
上述したように、過去の婚姻費用の支払いは認められない可能性が高いです。
このような問題を回避するためのポイントは、内容証明郵便で、相手に婚姻費用を具体的に請求する書面を送付することです。
内容証明郵便(配達証明付)は、当該書面がいつ相手に届いたかを証明できます。
そのため、婚姻費用を請求する場合、実務上、よく活用されています。
なお、内容証明郵便のサンプルについては、当事務所のホームページから無料でダウンロードが可能です。
ダウンロードはこちらをご覧ください。
POINT②合意書を締結する
婚姻費用の具体的な金額について、当事者間で合意ができたら、できるだけ書面に残しておくべきです。
婚姻費用の合意書を作成しておくことで、権利者側も義務者側も後々のトラブルを防止できる効果があります。
なお、婚姻費用の合意書のサンプルについては、当事務所のホームページから無料でダウンロードが可能です。
ダウンロードはこちらをご覧ください。
POINT③専門家の助言
婚姻費用には、上述したような問題点があります。
そのため、近くに婚姻費用に詳しい弁護士がいれば、相談し、助言をもらうとよいでしょう。
なお、当事務所の婚姻費用のサポートはこちらをご覧ください。
なぜ離婚問題は弁護士に相談すべき?弁護士選びが重要な理由とは?