婚姻費用は、離婚が成立するまで支払われる生活費ですが、離婚が成立しない場合、長期化することがあります。
また、子供がいる場合、婚姻費用は養育費の金額にも影響を与える可能性があります。
そのため、もらう側(権利者)はもちろん、支払う側(義務者)にとっても、適切な額を算出することが重要となります。
しかし、婚姻費用算定表は、父母双方の収入、子供の年齢・人数だけをもとに簡易的に算出するものであって、特別な事情についてはいっさい考慮されていません。
また、実務上「特別な事情」に該当するケースは多く、婚姻費用算定表だけでは適切に計算できないケースが高い確率で存在します。
特に、次のケースは離婚問題では典型例(よくある相談事例)ですが、算定表だけでは計算することができません。
- 子供が私立学校または大学へ通っている
- 義務者が権利者の住居の住宅ローンを支払っている
- 義務者が権利者の住居の家賃を支払っている
- 子供に高額な医療費がかかっている
そこで、このウェブページには上記のケースに対応した自動計算ツール(プロ版)を掲載しています。
多くの方にご愛用いただいており、複数名の子供が上記に該当する場合や、監護の分属(複数名の子供のうち、義務者が一部の子供を監護している状況)にも対応できるように2024年8月にアップデートしました。
もっとも、これらの事情をどのように婚姻費用に反映するかは、法律や判例上、明確とはいえず、さまざまな見解があります。
そのため、あくまで参考程度にとどめ、詳しくは離婚問題に精通した弁護士へ相談されることを強くお勧めいたします。
なお、上記の特別な事情に該当しないケースについては「通常版の婚姻費用自動計算ツール」をご活用ください。
子供について
権利者と義務者がそれぞれ監護しているお子さんの人数を
14歳以下と15歳以上に分けてご入力ください。
特別な事情
例:夫Aは自分が自宅を出るという形で妻Bと別居した。自宅は夫Aの名義で購入した不動産であり、住宅ローンの債務者も夫Aとなっている。別居後も住宅ローンは夫Aが支払っている。
住宅ローンの金額
年間
万円
※住宅ローンの金額はボーナス払いを含めた年間支払総額を入力
例:夫Aは自分が自宅を出るという形で妻Bと別居した。自宅は夫Aの名義で賃借した不動産である。別居後も賃料は夫Aが支払っている。
賃料の金額
年間 万円
権利者(婚姻費用をもらう側)が監護している子供の医療費
権利者が支払っている子供の医療費の年間合計額を入力してください。
義務者(婚姻費用を支払う側)が監護している子供の医療費
義務者が支払っている子供の医療費があれば、その年間合計額を入力してください。
下記の免責に同意して計算
解説
1 学費について
学費の範囲として、授業料のほかに、入学金、施設利用料、寄付金、教科書代、その他諸費用や仕送りが含まれるのかについては争いがあります。
基本的には、学校に必ず支払わなければならない校納金を入力し、その他の費用は義務者の同意がある場合に加算するとよいでしょう。
2 負担の程度について
義務者の負担の程度については、①当該学費から公立学校授業料相当額(中学校は13万1379円、高校は25万9342円・注1)を控除した金額を義務者と権利者の双方の収入で按分する方法、②按分せずに、当該学費から公立学校授業料を控除した金額を義務者に加算する方法とが考えられます。
この自動計算機では、初期設定として①を採用しています(子供が14歳以下の場合は学費から13万1379円を控除し、15歳以上の場合は25万9342円を控除して双方の収入で按分)。
しかし、義務者が高額な収入を得ているなどの具体的状況に合わせて、②を選択できるようにしています(注2)。
注1:養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究(平成30年度・資料4)
注2:義務者の収入が公立学校の子供がいる世帯の平均収入(中学校は約732万円、高校は約762万円)を上回る場合は義務者の負担の程度を大きくすべきとの有力な見解があります(参考:秋武憲一「離婚調停第4版」日本加除出版308頁)。
解説
婚姻費用算定表は公立学校の授業料を基に設計されています。
そのため、既に子供が私立学校や大学(私立学校等)へ通っている場合、その学費の一部を特別支出として、通常の婚姻費用に加算することが一般的です。
また、現在進学していなくても、義務者である親が進学を了承している場合、加算が認められる可能性が高いと思われます。
そこで、これらに該当する場合、算定表上の金額に学費の一部を加算するように設計しています。
他方で、現在私立学校等へ通っておらず、かつ、将来、進学することを義務者が了承していない場合、加算が認められない可能性が高いと考えられます。
そこで、「現在進学しておらず、かつ、義務者が了承していない」を選択された場合、学費の加算は行っていません。
解説
義務者が権利者が居住する自宅の賃料を支払っている場合、基本的には算定表上の通常の婚姻費用の金額から、当該賃料全額を控除が可能と考えられます。
そこで、ここでは賃料全額を控除して算出するように設計しています。
解説
住宅ローンが残っているケースでは、妻側の支払い能力が乏しいなどの理由により、住宅ローンの契約者である夫が別居後もそのまま支払い続ける場合が多いです。
このような場合、公平の観点から、夫の住宅ローンの負担を一定程度考慮して、婚姻費用を減額するのが一般的です。
問題は、どのように考慮すべきかですが、大きく分けて①ローンの支払額を考慮して夫側の収入を認定する、②収入をそのまま認定し、算定表により算出した婚姻費用から一定程度を控除する、という方法があります。
また、いずれの方法を採用する場合でも、具体的にどの程度考慮するかは裁判官の裁量が大きいため、明確に予測することは困難です。
ここでは、①を採用し、ローンの支払額全額を夫の収入から控除し、婚姻費用を算出するように設計しています。
実務上は全額を控除できないケースもあるため注意してください。
解説
算定表では、通常要する程度の治療費については考慮されていますが、特別な治療にかかる高額なものについては考慮されていません。
そのため、高額な治療費については、特別支出として、通常の婚姻費用に加算することが認められています。
問題となるのはその加算の程度ですが、実務上、当該治療費を権利者と義務者の収入で按分して、義務者分を加算するという手法が取られることが多いかと思われます。
そのため、自動計算ツールでは、この手法によって算出しています。
なぜ離婚問題は弁護士に相談すべき?弁護士選びが重要な理由とは?
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用語について
監護
子供を育てていることをいいます。
子供が大学生などで親元を離れて生活している場合は仕送りをしている方を監護者と考えます。
収入
給与所得者は保険料等が引かれる前の総支給額を入力します。自営業者は所得金額を入力します。
自営業者
個人事業主のことです。会社経営者が受け取る役員報酬は給与所得ですので他に事業所得等を受け取っていなければ自営業者ではなく給与所得者と考えます。
必ずお読みください(免責事項)
専門的知識がない場合の婚姻費用の算出には、以下のような問題点があります。
そのため、自動計算についてはあくまで参考程度にとどめて、できるだけ離婚専門の弁護士にご相談されるようにしてください。
収入を適切に判断していない可能性がある
例えば、自営業者の場合は確定申告をもとに個別具体的な諸事情を考慮して実質収入を判断しなければなりません。
また、副収入があるケース、潜在的稼働能力を考慮すべきケース、その他特殊な事情を踏まえた実質収入を適切に判断するのは専門知識や経験が必要となります。
特別な事情を適切に反映していない可能性がある
この自動計算ツール(プロ版)は、算定表では計算できない特別な事情があるケースについて、簡易迅速に自動計算することを試みていますが、「特別な事情」のすべてをカバーしているわけではなく、一部の典型例にとどまります。
また、これらの典型例についても、裁判官の考えによって異なる結果となる可能性があります。
その他、特殊事情を考慮していない可能性がある
有責配偶者からの婚姻費用請求については婚姻費用が大幅に減少される可能性があります。
また、婚姻費用の合意があるケースなど特殊な事情がある場合、自動計算の結果とは異なる可能性があります。
自動計算を利用されたことにより生じた不利益な結果や損害などについては、一切責任を負いかねますので予めご了承ください。
【前提事項】
- 義務者側の負担額よりも権利者側の負担額が大きくなる場合「加算部分」は0円となるように設計しています。
- 私学加算及び医療費加算の対象となる子供の人数は権利者側・義務者側ともそれぞれ最大10名ずつとしています。
当事務所には、離婚事件に注力する弁護士のみで構成される離婚事件チームがあり、婚姻費用の問題について、専門知識とノウハウを共有しております。
近くに専門家がいない遠方の方については、当事務所ではLINEなどを利用したオンライン相談が可能です。
離婚でお困りの方は、当事務所までお気軽にご相談ください。
ご相談の流れはこちらをご覧ください。
婚姻費用についてよりくわしくはこちらのページを御覧ください。
専門家(弁護士)向け相談窓口
当事務所には、離婚事件に注力する弁護士が多く、専門的な助言を求めて多くの弁護士の方からお問い合わせをいただいております。
婚姻費用について、当事務所の離婚弁護士にご相談を希望される方は下記の注意事項をご確認の上お問い合わせください。
なお、このサービスは、専門家への婚姻費用についての専門知識やノウハウの普及を目的としたもので、無償となっています。