モラハラ夫の特徴と対処法【診断チェックリスト付】
モラハラ(モラル・ハラスメント)とは、精神的な暴力のことで、簡単に言うと言葉や態度による「嫌がらせ」です。
結婚や妊娠といった、妻が夫の元を容易に離れられなくなったタイミングで、モラハラをするようになることが多く、モラハラの相談件数も増加傾向にあります。
この記事では、チェックに役立つモラハラ夫の特徴や、モラハラ夫を変えることはできるのかや、対処法、モラハラ夫と離婚する方法などモラハラ夫に苦しんでいる方へ弁護士がわかりやすく解説いたします。
目次 [非表示]
モラハラ夫とは?
モラハラ夫とは、妻に対してモラハラをする夫のことをいいます。
モラハラとは、精神的な暴力のことで、簡単に言うと言葉や態度による「嫌がらせ」です。
モラハラの内容は様々ですが、相手の人格を否定して自尊心を奪ったり、相手を脅して恐怖心を植え付けたりすることによって、相手を支配し精神的に追い詰めるというのが典型です。
モラハラ夫は、妻と出会った頃・交際を始めた頃は、知識が豊富、年収が高い、頼りがいがあるなど、魅力的な人に見えることも多いです。
しかし、多くの場合は、結婚や妊娠といった、妻が夫の元を容易に離れられなくなったタイミングでモラハラをするようになります。
モラハラと夫婦喧嘩の違い
モラハラと夫婦喧嘩の違いは、モラハラは一方的な嫌がらせ行為であるのに対し、夫婦喧嘩は双方向的な問題であるという点です。
一般に、喧嘩とは口喧嘩から殴る・蹴るなどの身体的な暴力まで含みますが、「夫婦喧嘩」の場合、双方の口喧嘩という軽いイメージを持たれる方が多いです。
そのため、モラハラの方が夫婦喧嘩よりも深刻な状況と思われます。
モラハラ夫の特徴
モラハラ夫は、次のような特徴を持っていることが多いです。
モラハラ夫は、「自分は正しく、妻は間違っている」「自分は優れており、妻は劣っている」と思っており、妻を対等な存在として尊重することはありません。
そのため、何を言うにも上から目線で、妻の言動、職業、趣味、人間関係などあらゆることをバカにします。
モラハラ夫は、妻が自分の意のままであるよう、妻の自由を制限し、社会から孤立させようとします。
そのため、妻の就労を禁じたり、趣味をやめさせたり、外出を妨げたりします。
さらに、頻繁にLINEなどでメッセージを送って監視することもあります。
モラハラ夫は、妻に対して「お前には価値がない」などと発言し、妻の人格を否定し、尊厳を失わせていきます。
それにより、妻を従わせ、自らの優越感を満たします。
モラハラ夫は「自分には許されるが、妻は許されない」という不公平な二重の基準(ダブルスタンダード)を課します。
例えば、自分の趣味には惜しみなくお金を使う一方、妻には生活費を抑えるよう強制することがあります。
モラハラ夫は、理由もなく妻を無視したり、会話を断つことがあります。
夫の沈黙に妻は困惑し、自分に落ち度があるのではと不安になります。
この状況を利用して、夫は妻を意のままに操ろうとします。
モラハラにはサイクルがある場合もあるため、モラハラ夫は急に優しくなるときもあります。
しかし、多くの場合、妻を引き留めるため、あるいは「自分はいい人だ」と思いたいがためであり、妻のためにそうしているわけではありません。
夫自身が変わっているわけではないので、優しい時期が長続きすることはありません。
モラハラの可能性がある発言例
- 妻の人格を否定するような発言
- 妻を脅したり、威圧するような発言
- 妻の罪悪感をあおるような発言
- 自分の優位性を強調して妻をおとしめるような発言
このような発言はモラハラに該当する可能性があります。
モラハラ夫にありがちな発言例について詳しくは以下をご覧ください。
モラハラ夫の可能性は?チェックリスト
モラハラ夫の特徴としては、①自己中心的であること、②妻を支配しようとすること、③外面が良いことなどが挙げられます。
具体的には、次のような言動等が見られることが多いです。
ご自身の夫に当てはまるかチェックしてみてください。
モラハラ夫の特徴について、詳しくは以下をご覧ください。
モラハラ夫になる原因
モラハラ被害を受けている方は、なぜこんなひどいことができるのだろうか、と感じていらっしゃるでしょう。
被害が深刻なケースほど、単なる性格の問題ではなく、原因の究明が必要となります。
例えば、「犯罪者がどうして犯罪を犯すのか」について、議論されることがあります。
原因を究明できれば、犯罪者を減らすことができるためです。
モラハラ夫になる原因の究明についても同様のことが言えるでしょう。
モラハラ夫になる原因も、犯罪と同様に明確な答えはありません。
しかし、大きく分けて、先天的(生まれつき)な原因と、後天的な原因が考えられます。
先天的な原因としては、遺伝的な性格・気質・脳の障害等が考えられます。
後天的な原因としては、家庭環境、教育、対人関係、病気などの様々な要因が考えられます。
家庭・男女間のモラハラへの対処法
モラハラ夫への接し方・対処法は大きく分けて、夫のモラハラが改善できる見込みの有無で異なります。
以下、それぞれの場合について解説いたします。
夫のモラハラが改善できる見込みがある
まずは夫に対して、あなたがモラハラ被害を受けていることを理解してもらえるか試してみましょう。
夫の具体的な発言や行動を指摘して、それによってあなた自身がどのように感じているのかを率直に伝えてみてください。
夫がそれで反省し、モラハラの言動が少なくなれば、改善の見込みがあるといえます。
ワンポイント:モラハラ夫のとコミニュケーション
一般にモラハラ夫と双方向的なコミュニケーションをとることは困難です。
モラハラ夫は、通常、「自分は正しい・優れている、妻は間違っている・劣っている」という考え方を持っています。
そのため、妻と話すときは上から目線で、妻の意見を尊重しない、全否定する、バカにする、あるいは、聞こうともしないことが多いです。
また、自分に都合の悪い状況になると、話をすり替えたり、妻が悪いと言って説教を始めたり、怒鳴って妻を威嚇することなどもあります。
モラハラ夫とのコミュニケーション対策として、「言い返す」「受け流す」ということも考えられますが、これらは得策とは言い難い場合もあるので注意が必要です。
モラハラ夫の場合は、妻が言い返したところで、おとなしくなったり、妻の意見を聞いてくれるようになる可能性は低いです(そうしてくれる場合は、そもそもモラハラ夫ではなかったとも考えられます。)。
むしろ、妻の意見(反論)を徹底的に否定し、妻を言い負かして黙らせることに必死になってくるかもしれません。
また、モラハラ夫は、「妻は自分の支配下にある」と確信していますので、妻が反抗的であると感じると、支配力を強めようとしてモラハラをエスカレートさせる可能性もあります。
モラハラ夫が妻の人格を否定したり、妻の罪悪感をあおったりする発言をしたとしても、妻がそれを真に受けずに、受け流すことができれば、モラハラの被害を軽減できる可能性はあります。
モラハラの被害の怖いところは、モラハラを受けた被害者が「自分には価値がないんだ」「自分が悪いんだ」などと思いこんでしまい、抑うつ的になり、最悪の場合は命にかかわる事態にりかねない点にあると考えられます。
モラハラ夫の発言を受け流し、「自分がダメなわけではない」と思えることができれば、上記のような事態を防止できる可能性もあるので、モラハラ夫対策としては、一定の効果があるといえるかもしれません。
しかし、既にモラハラの被害が深刻な場合は、受け流すこと自体が難しいこともあるでしょう。
また、受け流したとしても、モラハラにさらされ続ける環境が変わるわけではないため、根本的な解決にはなりません。
そのため、仮に、自尊心の低下や罪悪感に駆られることは避けられても、モラハラ夫との生活でストレスが蓄積し、心身の不調につながる可能性は十分にあります。
改善できない場合
夫のモラハラが改善しない場合、次の方法によって毅然と対応する必要があります。
モラハラの証拠を押さえる
モラハラは目に見えない暴力です。
すなわち、身体的な暴力と異なり、体の表面上に傷はできません。
身体的なDVよりも証拠を残すことが難しいという傾向があります。
このようなモラハラの証拠としては、以下のようなものが考えられます。
証拠の具体例 | 立証する内容 |
---|---|
録音データ | 相手の暴言や誹謗中傷などの発言内容 |
LINEなどのメッセージ | 相手の暴言や誹謗中傷などの発言内容 |
診断書やカルテ | モラハラによって心の傷を被ったことやその程度 |
上記は一例です。
モラハラの具体的な内容やご状況によって証拠の内容は異なりますので、くわしくは専門家に相談されることをお勧めします。
別居する
モラハラから抜け出すには、別居をして、モラハラ夫と物理的な距離を置くことが重要です。
これは、モラハラ被害を拡大させないためにも、モラハラ夫と離婚するためにも重要なポイントとなります。
離婚の決心がつかないという状態であっても問題はありません。
まずは、モラハラ夫の支配下から抜け出すことが大切です。
また、別居をすることについて、事前に夫に相談等をする必要もありません。
むしろ、夫に知られると、夫に別居を妨害される可能性もあるため、別居の準備や当日の段取りは夫に知られないように慎重に進めるケースが多いです。
婚姻費用を請求する
夫の方が収入が多い場合は、別居後、離婚が成立するまでの間、夫に対し、生活費(「婚姻費用」といいます。)を請求することができます。
しかし、モラハラ夫は、「妻が勝手に出て行ったのだから生活費は渡さない」などと言って、支払いを拒否するケースも多いです。
そのため、専門家である弁護士に請求・交渉してもらうとよいでしょう。
モラハラ夫が任意に支払う姿勢を見せない場合は、裁判所の手続きを利用する必要もありますが、弁護士が対応していれば、裁判所の手続きへの移行もスムーズにすることができます。
モラハラに強い弁護士に相談する
モラハラ夫との距離を置くためには、モラハラ問題に詳しい弁護士に相談されることをおすすめいたします。
別居は重要なポイントとなりますが、ご自身だけで別居に踏み切るのは難しいという場合も多いでしょう。
そこで、別居前に、まずはモラハラ問題に詳しい弁護士に相談されることをおすすめいたします。
具体的にどのように別居を実行するかということや、別居後の見通しなどについてアドバイスを受けることで、不安を解消することができるでしょう。
別居のサポートについて、詳しくは以下をご覧ください
弁護士に依頼した場合、別居と同時に、弁護士からモラハラ夫に対し、①今後の窓口は弁護士とすること、②妻やその親族には直接接触しないことなどを申し入れることができます。
これにより、モラハラ夫が妻を連れ戻そうとして妻に連絡し続けたり、妻の実家に押しかけたりする事態になることをある程度防止することができます。
また、ご自身でモラハラ夫と直接やり取りをせずに済むようになるため、肉体的・精神的な負担を大幅に軽減することができます。
その後も、離婚成立など解決に至るまで、全面的に弁護士のサポートを受けることができます。
夫の方が収入が多い場合は、別居後、離婚が成立するまでの間、夫に対し、生活費(「婚姻費用」といいます。)を請求することができます。
しかし、モラハラ夫は、「妻が勝手に出て行ったのだから生活費は渡さない」などと言って、支払いを拒否するケースも多いです。
そのため、専門家である弁護士に請求・交渉してもらうとよいでしょう。
モラハラ夫が任意に支払う姿勢を見せない場合は、裁判所の手続きを利用する必要もありますが、弁護士が対応していれば、裁判所の手続きへの移行もスムーズにすることができます。
離婚する
モラハラ夫の改善が期待できない場合、離婚を視野に検討することとなります。
モラハラ夫との離婚については、次でくわしく解説していきます。
モラハラ夫と離婚する方法
夫のモラハラを理由に離婚をすることはできます。
しかし、モラハラ夫との離婚は、次のような理由から、労力や時間がかかることが多い傾向にあります。
- モラハラ夫が妻の求めに応じて離婚に合意するケースは少ない
- モラハラ夫を相手に協議を円滑に進めることは難しい
- モラハラの事実を立証することは簡単ではない
以下では、モラハラ夫と離婚する方法と、その際に押さえておくべきポイントについて解説していきます。
離婚の方法
離婚の方法としては、①協議離婚、②調停離婚、③裁判離婚というものがあります。
協議離婚とは、裁判所の手続きを利用せず、当事者同士で話し合って離婚をするものです。
調停離婚とは、家庭裁判所において、調停委員を仲介として話し合い、合意による解決を目指す手続きです。
裁判離婚とは、裁判官に判断(離婚判決)をもらって離婚する手続きです。
離婚判決をもらうためには、法律で定められている条件(「離婚原因」といいます。)が必要です。
モラハラ夫が協議離婚に応じるケースは多くはない
モラハラ夫は、妻が離れていくことを受け入れられなかったり、妻の求めには応じたくないと思っていることが多いです。
そのため、モラハラ夫が協議離婚に応じるケースは多くありません。
協議離婚ができない場合は、調停を申し立て、調停離婚を目指すことになります。
調停になった場合は、モラハラ夫も、調停委員や裁判官の説得に応じたり、世間体を気にして裁判を避けたいと思ったりして、離婚が成立しやすくなることも多いです。
しかし、離婚の意思がないとして、依然として話し合いを拒否する場合もあります。
そのような場合は、裁判で離婚をするしかありません。
そして、裁判で離婚をするためには、モラハラが「離婚原因」として認められることが必要になります。
モラハラは「離婚原因」に当たるか
法律(民法)では、次の5つを「離婚原因」と定めています(民法770条1項)。
引用元:民法|電子政府の窓口
- 相手方に不貞行為があったとき
- 相手方から悪意で遺棄されたとき
- 相手方の生死が3年以上明らかでないとき
- 相手方が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
上記のうち、モラハラは「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当する可能性があります。
「婚姻を継続しがたい重大な事由」とは、夫婦関係が修復不可能な状態になっていることをいいます。
そのため、モラハラが原因で、夫婦関係が修復不可能な状態になったということが認められた場合は、裁判で離婚が認められる可能性があります。
当事務所での統計では、女性側の離婚理由として、「精神的虐待」、すなわち「夫からのモラハラ」が全体の27.8%を占めています。
モラハラの被害を受けて離婚を考える女性は、離婚を考える人のうちの4分の1以上を占めていることになります。
離婚の理由ランキングとしては、「精神的虐待」は「性格の不一致」(35%)に次いで2位となっています。
「性格の不一致」の内実は様々ですが、夫婦のいずれかに原因があるというわけではないケースがほとんどと考えられます。
そのため、夫婦のいずれかに原因があるようなケースでは、離婚理由のトップはモラハラということができます。
ちなみに、離婚理由の3位は「異性関係(相手)」(わかりやすく言うと「不倫」)で、割合は19.9%となっています。
不倫が原因となって離婚をするというケースは、比較的イメージしやすいのではないでしょうか。
しかし、モラハラは不倫を8%程度上回っていますので、このことからも、モラハラが原因で離婚する方は多いと感じられると思います。
離婚を認めさせるためにはモラハラの証拠が必要
裁判所に、モラハラによって夫婦関係が修復不可能な状態になったと認めてもらうためには、それを証拠によって裏付ける(立証する)必要があります。
モラハラの証拠としては、上で解説したように、録音データ、LINEなどのやり取り、診断書やカルテなどがあります。
しかし、モラハラの現場を録音・録画するのが難しい場合もありますし、過去のメール等は不快なので削除してしまったという場合もあるでしょう。
また、モラハラは、前後の状況や夫婦の関係性を含めた全体像を見なければ判断しにくい(一つ一つの言動を切り取っただけでは夫婦喧嘩などとの区別がつかない)という特徴もあります。
そのため、夫の発言内容等の一部分しか証拠として押さえられないと、モラハラを立証することが難しい場合もあります。
また、モラハラには「無視」や「不機嫌な態度」といったものもありますが、これらは客観的な証拠として残すことが困難です。
このようなことから、モラハラの事実を立証することは簡単ではありません。
モラハラの事実を立証することができなければ、裁判所に離婚原因を認めてもらうことが難しくなるため、モラハラを理由に裁判で離婚をすることも難しくなります。
したがって、立証の点からすれば、モラハラを理由に離婚することは難しい傾向にあるといえます。
別居が続けば離婚は認められやすくなる
仮にモラハラの事実を立証することができなくても、別居期間が長くなれば、裁判でも離婚が認められやすくなります。
別居期間が長いこと(事案によりますが3~5年程度のことが多いです)は、「婚姻を継続し難い重大な事由」の一事情として考慮されることになります。
したがって、モラハラ夫が離婚を拒否し続けても、モラハラの証拠を揃えることができなくても、別居期間が長くなれば、最終的には離婚をすることはできるといえます。
専門の弁護士に依頼する
上記のとおり、別居し、時間をかければ、モラハラ夫とはいずれは離婚することはできます。
しかし、早期解決をして、ご自身の新しい生活を安心して始められる状態にすることも非常に重要なことです。
また、モラハラ夫が離婚に応じる場合であっても、離婚条件については慎重に吟味する必要があります。
モラハラ夫は、妻には絶対に負けたくないと思っていることも多く、妻にとって不当に不利な条件を提示し、譲歩させようとしてくる場合もあります。
不適切な条件で離婚を成立させてしまうと、離婚後、ご自身の生活が成り立たなくなったり、後悔したりすることになりかねないので、注意する必要があります。
そのため、モラハラ夫との離婚については、専門の弁護士のサポートを受けることをおすすめいたします。
弁護士が代理人として、裁判になった場合の見通しを踏まえて交渉をすることで、当事者本人同士で協議をする場合よりも話を進めやすくなることがあります。
そして、裁判に至ることなく、早期に、適切な条件で離婚を成立させることができる可能性も高くなります。
離婚後の生活や、子どものことを考えると離婚に踏み切れないという方も、まずはモラハラの問題に強い弁護士に相談されることをおすすめいたします。
離婚に至るまでの道筋や、離婚条件の見通しなどを説明してもらうことで、一歩を踏み出しやすくなるでしょう。
また、離婚が唯一の解決方法とは限らず、状況によっては、婚姻費用をもらいながら別居をして当面様子をみる方法などもあります。
専門の弁護士であれば、これらの点も踏まえ、具体的なアドバイスをしてくれるでしょう。
モラハラ夫に対する慰謝料の相場
モラハラ被害を受けてきた方は、夫に対して慰謝料を請求したいと感じている方もいるでしょう。
ここではモラハラ夫に対する慰謝料について、相場や請求する方法を解説します。
慰謝料の相場
モラハラを理由とする慰謝料の相場は基本的には0円、すなわち請求できないことが多いという印象です。
モラハラ被害者である方からすれば、納得できないことかと思います。
しかし、モラハラ慰謝料が認められにくいのは、次の理由によります。
モラハラの立証が難しい
まず、立証が難しいという問題です。
モラハラは精神的な嫌がらせであり、身体的な暴力と異なって被害者の体の表面にはケガ等が残りません。
そのため、身体的暴力のケースと比べて損害の立証が難しい傾向です。
裁判所の理解が得られにくい
モラハラは比較的最近になって注目されている言葉です。
離婚専門の弁護士の場合、モラハラ被害の深刻さを理解していますが、裁判所を含め、世間一般的には軽く見られがちです。
モラハラ夫の言動を裁判の場で主張しても、その深刻さに対して十分な理解を得られにくい可能性があります。
相場よりも高額になりうる3つのケース
モラハラ夫への慰謝料は基本的には難しい傾向ですが、可能性はゼロではありません。
次のようなケースでは、慰謝料が認められ、高額になる可能性もあります。
- 妻が心療内科に入通院しているケース
モラハラが原因で入通院している場合、妻の損害(精神的苦痛の程度)が立証しやすくなります。 - 夫のモラハラが悪質なケース
夫のモラハラの程度が酷い場合、例えば長期間にわたって、執拗な嫌がらせが日常的に繰り返されているような状況であれば、慰謝料が認められ、高額になる可能性もあります。 - 妻側に落ち度がないケース
夫の上記のモラハラについて、妻側に非がなかったようなケースでは、慰謝料が高額になる可能性もあります。
慰謝料請求の手順
モラハラ夫に慰謝料を請求する場合、直接交渉、離婚調停、訴訟などいくつか方法が考えられます。
当事務所では、慰謝料の請求可能性を最も高め、かつ、妻側の負担を少なくするために以下の手順を推奨しています。
①妻が弁護士に慰謝料請求の可否を相談
離婚専門の弁護士に相談することで、慰謝料請求の可否だけでなく、離婚の可否やその他の条件(財産分与、年金分割、親権、養育費、婚姻費用等)の解決方法についても助言をもらえます。
②弁護士に慰謝料請求や離婚の解決を依頼
相手がモラハラ夫の事案では、妻による直接の交渉は難しいと思われます。
弁護士に依頼すれば、慰謝料やその他の問題についても夫と交渉してくれるので、精神的にもストレスが軽減できるでしょう。
③弁護士名で夫に対して慰謝料等を請求
当事務所では、いきなり調停や訴訟ではなく、通常は弁護士による交渉を推奨しています。
調停や訴訟は解決まで長期間になることが多く、かつ、妻側の負担が大きくなるためです。
交渉の場合、ケース・バイ・ケースですが、他の手続きと比べて早く解決できる可能性があります。
④慰謝料等の合意書締結
慰謝料などの離婚条件がまとまったら、弁護士が合意書(離婚協議書など)を作成し、夫と締結します。
分割払いの場合、公正証書を作成すると良いでしょう。
モラハラ夫は変わるのか?
モラハラ夫の原因が特定できれば、治療や投薬を行うことで変わることができるかもしれません。
しかし、モラハラ夫の原因を究明することはできないでしょう。
では、モラハラ夫を変えることはできないのでしょうか。
モラハラは、通常、「妻は夫に従うべき」といった理不尽な考え方によって引き起こされています。
モラハラをやめるには、夫自身がこのような考え方に問題があることに気づき、改善に取り組む必要があります。
しかし、モラハラ夫は、自分は正しいと思っている傾向にあるため、自分の考え方に問題があると認めることは、滅多にありません。
また、仮に問題に気づくことができても、自分の考え方を変えるように努力するというのは非常に難しいことです。
その上、モラハラ夫は、妻を支配することに快感を覚え、それに依存しているため、その状態から抜け出すことが困難となってしまっています。
このようなことから、モラハラ夫が変わる可能性は低いといえます。
モラハラ夫に苦しみ離婚を考えたことがある方へ
モラハラ夫と生活されている方は、離婚をすべきかどうか、迷っていらっしゃるのではないでしょうか。
難しいご判断となりますが、以下の点が少しでもご参考になれば幸いです。
モラハラ夫は変えることは難しい
上で解説したとおり、モラハラ夫が変わる可能性は低いです。
つまり、これまでと同じような生活が今後も続く可能性が高いということを前提とするべきでしょう。
夫への愛情の有無
離婚すべきかどうかは「夫への愛情が残っているか」が重要だと考えます。
夫とこの先の生活をイメージしてみてください。
その生活をあなたが望むのであれば、離婚はしない方が良いでしょう。
反対に、その生活を受け入れたくないのであれば、離婚に向けて専門の弁護士に相談なさることをお勧めいたします。
子どもへの影響
お子さんが小さい場合、子供への影響が気になられることでしょう。
しかし、あなたがモラハラの深刻な被害を受けているのであれば、夫と離婚するほうが子供にとっても幸せではないでしょうか。
夫と別れて元気な母親の姿を見せる方が子どもの健やかな成長にとって大切だからです。
離婚すると、経済的に余裕がなくなり子供に十分な教育を受けさせることができなくなるのでは、と心配されている方もいらっしゃるでしょう。
しかし、夫は離婚後、親権を持たなかったとしても子供に対して養育費を支払う義務があります。
また、離婚すると、児童扶養手当、就学援助などの公的扶助も受けることができるでしょう。
一度、離婚問題に詳しい弁護士に相談し、具体的な養育費の金額などをシミュレーションしてもらうとよいでしょう。
不安を感じている方は離婚に強い弁護士に相談
なぜ不安に感じるのか、それは離婚後の生活が具体的にイメージできないためです。
人は「わからないこと」に対して漠然とした不安を感じるからです。
離婚に強い弁護士に相談すると、離婚後の養育費、財産分与、親権、面会交流などの条件面の見通しを伝えてもらうことができるでしょう。
また、離婚前に別居する場合のサポートや公的扶助の内容などについても助言をもらえるでしょう。
離婚に迷っている方ほど、専門家へのご相談を強くおすすめいたします。
モラハラの相談窓口
モラハラの悩みは、親族や友人に相談しにくい、わかってもらいにくいといった側面もあるため、一人で抱え込んでいる方も多いと思います。
そこでここでは、モラハラについて相談できる主な窓口をご紹介いたします。
公的機関
配偶者暴力相談支援センター
公的な相談窓口で、相談や相談機関の紹介、カウンセリング、一時保護、自立のための情報提供などを行っています。
都道府県が設置する婦人相談所が支援センターの機能を担う施設の一つとして位置づけられており、その他、各市区町村が設置しているセンターもあります。
女性センター、福祉事務所などの公的施設が支援センターの機能を果たしている自治体もあります。
各自治体における詳しい支援内容などは、ホームページ等でご確認ください。
DV相談ナビダイヤル、DV相談+(プラス)
全国共通の電話番号・#8008に電話をかけると、最寄りの配偶者相談支援センターに自動転送され、電話相談、面談等をすることができます。
DV相談+(プラス)では、電話相談(24時間受付)の他、メールやチャットでも相談をすることができます。
利用方法等については、ホームページでご確認ください。
参考:内閣府|DV相談+
公的機関のメリット・デメリット
配偶者暴力支援センターは都道府県に1カ所以上あり、無料で利用することができます。
どこに相談してよいかわからない場合は、まずはDV相談ナビダイヤル、DV相談+を利用することで、相談を聞いてもらえたり、窓口を案内してもらうことができます。
配偶者暴力相談支援センターでは、「配偶者からの暴力の被害者に係る証明書」という証明書を発行しています(ただし、発行してもらえるかはセンターの判断となります。)。
これがあると、住民票の閲覧制限や、新しい健康保険の加入手続きなどの自立支援も受けることができます。
デメリットとしては、自治体によって支援内容や方針に差があることなどが挙げられます。
相談員の質にもばらつきがあり、モラハラへの理解が深くない人もいるため、暴力ではないと言われて相談を受け付けてもらえない場合などもあるようです。
また、モラハラの場合、身体的な暴力よりも対応が後回しにされがちです。
特に一時保護(シェルター入所)は、被害が深刻な場合であっても、緊急性がない等の理由で断られてしまうこともあります。
警察署(生活安全課)
「殺してやる」と脅された場合など、危害が及ぶ恐れがある場合、保護などを受けることができます。
身体的な暴力がなくても、夫の言動からその恐れがあるような場合は、迷わず相談するようにしましょう。
「配偶者からの暴力の被害者に係る証明書」は、警察署でも発行しています。
ただし、モラハラ事案への対応内容は、警察署によってばらつきがあります。
民間の相談機関
支援内容は団体により異なりますが、相談・一時保護・自立に向けた支援などを受けることができます。
公的機関のように決まったルールに縛られず、柔軟できめ細かい対応をしてくれることが多いです。
しかし、財政難や人材不足などの事情を抱えている団体もあり、団体によって対応にばらつきはあります。
弁護士
弁護士には、法律相談や、離婚成立までの全面的なサポートを依頼することができます。
法律相談では、モラハラ夫から離れるための方法や、今後の見通しについて具体的な助言をもらうことができます。
離婚に向けて進めていく場合は、本人同士の話し合いではスムーズにいかないことが予想されますので、弁護士に依頼するメリットは大きいといえます。
離婚を前提としていなくても、別居している場合、婚姻費用や面会交流に関する取り決めが必要になりますので、弁護士を入れるメリットは大きいです。
ただし、弁護士に依頼すると弁護士費用がかかります。
弁護士費用は、依頼する弁護士や、依頼する内容、得られた結果により異なりますので、詳しくは依頼を検討している法律事務所のホームページで確認したり、法律相談の際に詳しい見積もりを出してもらうようにするとよいでしょう。
また、弁護士であれば、誰に相談・依頼しても同じというわけではないので注意が必要です。
モラハラの問題を適切に解決するためには、モラハラ問題への理解と高度な専門性が不可欠です。
そのため、離婚問題に専門特化し、かつ、モラハラに理解のある弁護士を選ぶことが重要になります。
DVに強い弁護士の選び方について、詳しくは以下をご覧ください。
各弁護士会の法律相談センターや法テラスでは、地域や条件によっては無料での法律相談を実施しています。
ただし、担当の弁護士を自分で選ぶことはできません。
参考
日弁連|全国の弁護士会の法律相談センター
法テラス|DV等被害者法律相談援助制度
モラハラ夫についてのQ&A
モラハラ夫の弱点とは?
モラハラ夫には、次のような弱点があります。
- ① 思い通りに動かせない人には弱い
- ② 物理的な距離を置かれることには弱い
- ③ 自分よりも立場が上の人には弱い
- ④ 世間体や人目を気にする
- ⑤ コンプレックスを抱えていることが多い
モラハラ夫の目つきとは?
モラハラ夫の目つきには、次のような特徴が見られる場合があります。
- ① 目に表情がない
- ② 監視・威圧するような目つき
- ③ 人を見下すような目つき
- ④ 家の内外で目つきが違う
- ⑤ スイッチが入ると攻撃的な目つきになる
モラハラ夫の母親に特徴はある?
必ずしも共通の特徴があるとは限りません。
ただし、次のような場合は、モラハラ夫が母親の影響を強く受けている可能性もあると考えられます。
- ① 母親自身にモラハラ気質がある場合
- ② 母親が配偶者(モラハラ夫の父親)からモラハラを受けていた場合
- ③ 母親が息子(モラハラ夫)を甘やかして育てた場合
モラハラ夫は変わるのか?
モラハラ夫の離婚後の気持ちとは?
離婚したことを後悔する可能性もありますが、自分がモラハラをしたことについて反省するケースは少ないと考えられます。
元妻に執着して接触を図ったり、元妻のせいで離婚することになったと思い込んで元妻に仕返しをしようとすることもあります。
モラハラ夫をおとなしくするには?
モラハラ夫をおとなしくさせる方法としては、次のようなものが考えられます。
- ① 別居する
- ② 夫にモラハラをやめるように相談する
- ③ 共通の知人に相談する
- ④ 夫の家族に相談する
- ⑤ 離婚する
モラハラ夫の末路とは?
モラハラ夫は、離婚後も元妻に執着して破滅的な行動をとったり、誰からも見放されてしまい孤独な晩年を過ごすといった末路をたどる可能性もあります。
まとめ
以上、モラハラ夫の特徴、モラハラ被害の実情、モラハラ夫への対処法、モラハラの相談窓口について解説しましたが、いかがだったでしょうか。
夫からモラハラの被害を受けている場合は、早めに対処する必要があります。
特に、別居をして物理的な距離を置くことが重要です。
もっとも、モラハラ夫から解放されるため、具体的にどのように対応していくべきかは、被害者の方の置かれた環境などによって異なります。
そのため、まずはモラハラの問題に詳しい弁護士に相談し、状況を踏まえた具体的なアドバイスをもらうことをおすすめいたします。
当事務所には、男女問題に注力する弁護士のみで構成された離婚事件チームがあり、モラハラ問題を強力にサポートしています。
モラハラにお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
この記事が、モラハラ問題にお悩みの方にとって、お役に立てれば幸いです。
なぜ離婚問題は弁護士に相談すべき?弁護士選びが重要な理由とは?