同居義務違反に基づく同居命令、損害賠償請求は認められる?
妻が突然別居を始めたのですが、私は夫婦関係に問題があったとは思っていません。
もちろん、直すべきところは直そうと思っているので、妻には帰って来てほしいと考えています。
そもそも、妻の行為は夫婦の同居義務に違反していると思うのですが、法的に同居を求めることはできないものでしょうか。
民法752条に基づき、妻に対して同居を求め裁判所に申立すること自体は可能です。
しかし、妻が同居を再開する意思が全くなければ、裁判所が同居命令を出すことはないでしょうし、仮に同居命令が出たとしても、必ず守られる保証はありません。
まずは夫婦間で話し合い、相手の言い分を聞くべきといえます。
判例をもとに以下詳しく解説します。
夫婦間の同居義務(民法752条)
民法752条は、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」と定めています。
引用元:民法|e-Gov法令検索
夫婦における同居の義務は、協力及び扶助の義務とともに夫婦関係の本質的義務であると解されています。
また、同居義務は婚姻の成立とともに発生し、婚姻の解消まで存続すると解され、以下のように判断されています。
婚姻関係に破綻を生じ、離婚進行中の別居の場合でも、配偶者に対する建物明渡請求は認められませんし、夫の所有する財産の使用を妻に対して拒むことはできない。
判例 東京地判昭和62年2月24日
夫婦の一方の所有する家屋に別居中の配偶者が居住する権限もある。
もっとも、同居義務は夫婦相互の協議に基づいて定めたところの居所・居宅において同居することを前提としています。
そのため、一方的に決定し又は変更したところに他方が従う義務はないとされています。
また、同居の請求が正当な理由を欠く場合は、同居請求は請求権の濫用であるため、同居義務違反にはならないとされています。
たとえば、同居にたえない虐待をしたり、病弱者を不健康地もしくは看護不能の状態におくことを知りつつ同居を求めたりする場合は権利の濫用となります。
裁判所は同居請求を認める可能性がどの程度あるか
理論上は、同居義務違反があれば、同居請求を認め、妻に対し同居義務の履行を認める判断をすることになります。
すなわち、一方配偶者は他方配偶者に対して、同居の請求を求める(審判請求)を求めることができるため、裁判所はこれについて同居義務違反があった場合は、同居義務の履行を命ずる審判を下すことができます。
しかし、夫婦の同居は相互の協力関係によって成り立つものですので、直接強制も間接強制も許されないと考えられています。
言い換えると、同居命令が出たからといって、それに従わない他方配偶者を無理やり家に引きずり込んだり、同居しなかったら一定額の支払いを強制認めたりするといった判断はなされません。
そのため同居命令に背いたとしても実質的にペナルティはありません。
もちろん、平成に入った裁判例にも、同居命令を出したものはあります。しかし、どの程度守られたのかは不透明です。
同居義務違反を認めなかった裁判例
以下、同居義務違反を認めなかった裁判例を見てみます。
舅と乳児の世話によるストレスと夫婦の会話不足から家を出た妻に対し、夫から同居請求がなされた事案において、同居の審判は帰責性が夫婦のいずれかにあるのかを確定するためにあるのではなく、相手方に翻意する可能性が全くないとして申立てを却下した。
判例 東京高決平成13年4月6日、同旨の例(大阪高決平成21年8月13日)
女性と交際中の夫に対し妻から同居請求をした事案で、同居によりむしろ一層互いの人格を傷つけ個人の尊厳を損なうような結果を招来する可能性が極めて高いとして棄却された。
このように、近年では、同居をしないことに対する正当な理由の有無を判断するというよりも、同居拒否の意思が強固で翻意の可能性がないこと、同居の強制がかえって人格を傷つけることにならないかを判断するものが見受けられます。
同居義務違反の効果
このように見てくると、同居請求が全く意味のないものに見えそうですが、必ずしもそうとはいいきれません。
例えば、テクニカルな話ですが、裁判所が同居義務の審判を下したにも関わらず、一方配偶者が同居に応じなかった場合。
その事実が1つの事情として、「悪意の遺棄」の考慮要素になると考えます。
「悪意の遺棄」とは、民法に規定されている離婚原因の1つです。
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
引用元:民法|e-Gov法令検索
なお、法律上の離婚原因については、こちらをご覧ください。
そのため、悪意の遺棄の一事情として、同居義務違反を主張することも考えられます。
同居義務違反に基づく損害賠償請求は認められるのか
理論的には、同居義務違反によって生じた損害については、損害を与えた者に対する賠償責任が生じるとされています。
しかし、生じた損害が別居したことによって生じたといえるのか、因果関係の問題があります。また、そもそも損害といえるだけの経済的損失があるのかも問題です。
結論からいえば、同居義務違反に基づく損害賠償が認められる可能性はほとんどないものといえるでしょう。
相談者のケース
別居を開始した妻に対し、同居をするよう裁判所に申立すること自体は可能です。
しかし、夫婦間の何がきっかけで別居を開始したのかは妻に聞いてみなければわかりません。
もし、妻の言い分に正当な理由がなかったとしても、同居を再開する意思が全くなければ、裁判所が同居命令を出すことはないでしょうし、仮に同居命令が出たとしても、それが必ず守られる保証はありません。
そうすると、裁判手続きをいきなり開始するのではなく、まずは任意の話し合いをしたうえで相手の言い分を聞くべきといえます。
もちろん、相手が話にも応じない場合、円満調停手続きもありますので、きちんと話し合いのテーブルに並んでもらうことはできますが、基本的には修復は難しいことを覚悟しなければなりません。
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