既婚者の風俗は不倫・不貞行為となるの?【弁護士が事例で解説】

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

 

夫が風俗通い。離婚できますか?

先日、夫のかばんの中を見ていると、風俗店のカードが出てきました。

夫は、不倫ではないと言っていますが、結婚しているにも関わらず、風俗店に通っていることが許せません。

風俗通いは不倫といえるのでしょうか?また、私からの離婚や慰謝料請求はできますか?

弁護士の回答

風俗通いであっても、具体的な状況によっては離婚や慰謝料請求が認められることもあります。

 

不倫とは

不倫とは、通常、結婚関係にある夫婦の一方が、夫もしくは妻以外の人物と交際していることをさす言葉です。

風俗通いの場合、交際とは言えないことが多いので、「不倫」というよりはただの「浮気」ともいえそうです。

しかし、不倫という言葉は、実は法律用語ではなく日常用語にすぎません。

そのため、「不倫」に該当するか否かを議論することにあまり意味はありません。

 

不倫と不貞行為は違う

不倫は道義的に許されない、というのが一般的な感覚だと思いますが、「不貞行為」とは少し異なります。

法律上、不貞の被害者は、他方配偶者の不貞行為を根拠として、他方配偶者及び不貞行為の相手方に対し、不法行為による慰謝料を請求することができると考えられています。

この不貞行為の意味について、実務においては、「配偶者以外の者と性的関係(肉体関係)を結ぶこと」と狭義に解する説が有力です。

不貞行為をこのように狭義に考える見解に立てば、不倫と不貞行為の意味は異なることになります。

風俗通いの場合、性的関係があれば「不貞行為」に該当する可能性があります

 

 

風俗通いを理由に離婚できる?

裁判所が離婚を認める場合については、民法に規定があります。

これを離婚原因といい、民法は次の5つの場合を規定しています。

このうち、①には、「相手方に不貞行為があったとき」と規定されています。

「不貞行為」とは、配偶者以外の者との性的関係を結ぶことをいいます。

そのために、風俗でも他の異性と性的関係をもてば「不貞な行為」にあたりますが、性的関係のない風俗通いのみでは、「不貞な行為」にあたらないでしょう。

また、性的関係のある風俗店であっても、一度限りであれば、「不貞な行為」とならない可能性があります。

⑤には、「その他婚姻を継続し難い重大な理由があるとき。」と規定されており、他の離婚事由と匹敵する程度の重大な事由がある場合がこれにあたります。

虐待、暴行、重大な侮辱、不就労、浪費、犯罪行為などによって婚姻関係が破綻している場合です。

風俗通いの事実も、風俗通いの期間、程度、態様等によっては、別居期間等の他の要素と相まって「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。」にあたる可能性があります。

しかし、たとえば、風俗に1、2回行っていることが判明したという程度であれば、離婚請求は認められない可能性が高いと考えられます。

以上より、風俗通いという事実のみであれば、離婚請求は認められにくいといえます。

判例 東京地裁令和3年11月29日

この裁判では、ピンクサロンのポイントカードを所持していた夫(被告)に対して、下記のように判示し、離婚請求を認めませんでした。

「被告が利用した上記ピンクサロンが性的なサービスを提供する風俗店であることは被告本人も認めるところであるが(被告本人尋問),被告が実際に同ピンクサロンで性的サービスを受けたかどうか,受けたとしてそのサービスの内容がどのようなものであったかについては,これを認めるに足りる的確な証拠がない。したがって,被告が風俗店を利用した事実は,上記の限度で認められるものの,これをもって被告に不貞行為があったとは認められず,婚姻を継続し難い重大な事由に当たるとも直ちには認めることができない。」

離婚原因について、詳しい解説はこちらのページをご覧ください。

 

 

不倫と同じように慰謝料を請求できる?

配偶者が不倫をした場合、精神的苦痛を受けた他方配偶者は、不倫をした配偶者に対して、慰謝料請求をすることができます。

詳しくはこちらをご覧ください。

それでは、風俗通いが不貞行為にあたるのでしょうか。

結論としては、前述と同様に、性的関係がない場合には、不貞行為にあたりません。

しかし、夫婦は、お互いに貞操を守る義務(貞操義務)を負っていると考えられています。

したがって、風俗通いの頻度や期間、態様等によっては、貞操義務に反していると考えることができます。

すなわち、風俗通いの態様等によっては、これによって離婚に至った場合に、離婚慰謝料を請求することができます。

もっとも、金額としては、不貞行為による慰謝料請求よりも、平均的に低くなる傾向があります。

注意点

この場合に注意しなければならないことは、風俗通いが原因で婚姻関係が破綻した場合でなければならないということです。

たとえば、風俗に1、2回行っていることが判明したことで、夫と離婚したいと思ったとしても、破綻の原因が風俗に行ったことにあると認められない可能性があります。

この場合には、慰謝料を請求することができません。

相談者の場合、配偶者の風俗通いが発覚した後も、別居に至っていないのであれば、現時点においては、離婚請求が認められる可能性は低いと考えられます。

しかし、風俗通いの程度、期間等によっては、別居期間が長期間になるに従い、離婚請求は認められやすくなります。

また、風俗通いが原因で離婚が成立した場合には、離婚慰謝料を請求することができる可能性があります。

しかし、慰謝料の額は、明確な不貞行為がある場合の相場よりも低くなる可能性が高いです。

 

 

風俗通いの証拠を押さえる

上記のとおり、風俗通いが高頻度、長期間に渡ったり、性的関係がある場合、離婚請求や慰謝料が認められる可能性があります。

しかし、相手が事実関係を否定した場合、裁判ではそれを主張する側に立証責任があります。

では、どのような証拠が必要でしょうか。

事例のケースでは、かばんの中に風俗店のカードがありました。

この程度の証拠では、不十分となる可能性が高いです。

まず、相手が「知らない。」と主張する可能性があります。

また、仮に自分のものと認めた場合でも、「1回だけしか行っていない。」などと反論されるかもしれません。

その結果、裁判所が不貞行為を認めてくれない可能性があります。

このようなことが想定されるため、風俗通いの場合は適切な証拠の有無がポイントとなります。

風俗通いを立証する証拠集め

例えば、調査会社の素行調査の報告書は、証拠価値が高い場合があります。

ただし、その報告書の中身が大事です。

相手が複数回、風俗店に出入りする様子を撮影した写真があれば、風俗通いの立証は可能となるでしょう。

不倫の証拠の集め方については、こちらのページでくわしく解説しています。

 

 

風俗嬢への慰謝料請求は認められる?

風俗通いの夫の妻側から風俗嬢への慰謝料請求が認められるかというご質問があります。

具体的な状況にもよりますが、基本的には慰謝料請求は難しいと考えられます。

風俗嬢は、来店者である客に対し、職務として性的サービスを提供しているのであって、自由な意思にしたがって「不貞行為」を行っているとは評価し難いからです。

しかし、ただの客としてではなく、既婚者であることを知りながら店外で性的関係を繰り返しているようなケースであれば、不貞行為に該当する可能性もあります。

ただし、ケース・バイ・ケースの判断が必要なので、離婚・男女問題に詳しい弁護士への相談をお勧めします。

判例 東京地裁令和3年1月18日

この裁判では、原告である妻が風俗店の女性に対し、夫との不貞行為を理由として慰謝料を請求した事案です。裁判所は下記のように判示し、慰謝料を認めませんでした。

「風俗店の従業員と利用客との間で性交渉が行われることが,直ちに利用客とその配偶者との婚姻共同生活の平和を害するものとは解し難く,仮に,婚姻共同生活の平和を害することがあるとしても,その程度は客観的にみて軽微であるということができる。そうすると,仮に,被告とAとの間でなされた本件性的サービスの際の性交渉が,原告の婚姻共同生活の平和の維持を侵害し,不貞行為に当たり得る面があるとしても,それにより,原告に,金銭の支払によらなければ慰藉されないほどの精神的苦痛が生じたものと認めるに足りない。」

 

 

まとめ

弁護士以上、風俗と離婚・慰謝料の問題について、詳しく解説しましたがいかがだったでしょうか。

風俗通いについては、それだけを理由に離婚が認められない場合があります。

また、不倫の場合のように慰謝料が認められない可能性もあります。

さらに、証拠を押さえておくことも重要です。

このように、風俗については、離婚や慰謝料請求の可否についての判断が難しいという問題があります。

また、どのような証拠があれば十分かについては、専門家に相談された方がよいでしょう。

当事務所には、離婚問題に注力する弁護士のみで構成される離婚事件チームがあり、このようなケースのノウハウを共有しています。また、慰謝料請求についても強力にサポートしています。

離婚問題でお困りの方は、お気軽にご相談ください。

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