失踪して行方不明の夫と離婚できる?【弁護士解説】

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士  

失踪して行方不明の夫と離婚をすることは可能です。

行方不明の夫と離婚をするためには、裁判離婚をする必要があります。

たとえ夫が行方不明であっても、勝手に離婚届を提出してはいけませんので注意が必要です。

行方不明の夫と離婚をするためには、裁判離婚が必要

主な離婚手続として、①協議離婚(離婚届の提出による離婚)、②調停離婚、③裁判離婚の3種類があります。

このうち、①協議離婚と②調停離婚は相手方との話合いによって成立する離婚であるため、本事案のように話合いができない夫との離婚手続には向きません。

稀に、夫が勝手に出て行ったのだからと離婚届を勝手に提出してしまうケースがありますが、本事案のような場合でも勝手に離婚届を提出してはいけません(勝手に離婚届を提出してしまうと有印私文書偽造罪等の罪に問われる可能性があります。)。

そのため、行方不明の夫と離婚をするためには、③裁判離婚による必要があります。

 

 

裁判所に離婚を認めてもらうために必要な離婚原因とは?

裁判離婚において裁判所に離婚を認めてもらうためには離婚原因の存在が必要になります。

参考:民法民法770条|e-Gov法令検索

法律で定められた離婚原因はいくつかありますが、夫が行方不明であることを理由に離婚をする場合には以下の3つの離婚原因が問題となり得ます。

 

「配偶者から悪意で遺棄されたとき」(「悪意の遺棄」、民法770条1項2号)

「悪意の遺棄」とは、夫婦間の同居・協力・扶助義務(民法752条)や婚姻費用分担義務(民法760条)に違反して、夫婦の一方が他方を放置するような行為をいいます。

本事案では、夫は突然家出をして妻に何の連絡もせず、当然婚姻費用の支払もしていないだろうと思われますので、「悪意の遺棄」にあたると考えられます。

 

「配偶者の生死が三年以上明らかでないとき」(「3年以上の生死不明」、民法770条1項3号)

「3年以上の生死不明」とは、言葉の通り3年以上生死が不明の状況であればよく、生死不明配偶者の故意過失・有責無責を問題にしません。

本事案をみると、夫と音信不通であり生死不明の状況ではありますが、夫が行方不明になって未だ1年しか経過していないので、「3年以上の生死不明」にはあたりません。

 

「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(民法770条1項5号)

同条号には、「悪意の遺棄」や「3年以上の生死不明」等の具体的な離婚原因以外の離婚原因全てが含まれます。

本事案においては、「悪意の遺棄」による離婚が認められる可能性が高いですが、離婚裁判においては、その他の具体的事情も踏まえ同条号の主張もすることが考えられます。

 

 

離婚裁判におけるポイント

公示送達

配偶者の行方不明を理由とする離婚裁判において、送達方法は基本的に公示送達によることになります。

ここで、送達とは、裁判所が当事者その他の訴訟関係人に対し、法定の方式に従い、訴訟上の書類の内容を了知させ、又はこれを交付する機会を与えるための通知行為をいいます。

公示送達とは、裁判所書記官が、出頭すれば送達すべき書類をいつでも交付する旨を裁判所の掲示場に掲示することによって行う送達方法です。

本事案に則して簡単に説明すると、本来、妻が提出した訴状等を夫に送付する必要がありますが、夫の所在がわからないことから、「裁判所に訴状等を取りに来たらいつでも交付しますよ」という内容の書面を裁判所の掲示場に掲示するという方法をとることになります。

もっとも、裁判所の掲示場を見る人はなかなかいないでしょうから、公示送達という手段をとるためには、どんなに調査しても夫の所在がわからないという場合に限ります。

具体的には、戸籍や住民票を取り寄せて関連住所地の調査(表札や郵便受け、電気メーターの稼働の有無等)をしたり、夫の実家や勤務先に連絡を取ったりして夫の居場所を調査した上で、その調査内容と調査の結果夫の居場所がわからなかった旨の調査報告書を裁判所に提出する必要があります。

 

第1回口頭弁論期日

公示送達による事件の場合、第1回口頭弁論期日において証拠調べができるよう事前に陳述書等の証拠の提出を求められます。

また、公示送達事件であっても、事案に応じて原告の本人尋問が実施されることがあります。

つまり、妻は、最初に裁判所に出廷する日までに全ての証拠を提出し、出廷した日に尋問を受けることを前提とした準備を求められることになります。

 

 

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