離婚後の苗字はどうする?|変えない割合や旧姓に戻れるか解説

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

離婚の際、民法上は、旧姓に戻るのが原則です(民法767条)。

離婚後も苗字を変えないためには、離婚の日から3ヶ月以内に婚姻時の氏を称する届けを出すことによって、婚姻時の苗字を名乗り続けることが可能になります。

離婚後に旧姓に戻りたい場合は、家庭裁判所に対し、「氏の変更許可の申立て」を行う必要があります。

家庭裁判所が「やむを得ない事由がある」と判断した場合に限り、許可がおり、旧姓に戻ることができます。

このページでは、離婚で苗字を変えない割合や、旧姓に戻さない場合のメリット・デメリット、離婚後に旧姓に戻す場合の手続きなどについて詳しく解説します。

離婚後の苗字をどうするか選択に迷われている方は、このページを参考にご覧いただけますと幸いです。

離婚すると姓はどうなる?

旧姓に戻るのが原則

日本では、結婚する際に夫の姓を選択する女性の方が多いです。

離婚の際、民法上は、旧姓に戻るのが原則です(民法767条)。

参考:民法|e-GOV法令検索

したがって、離婚届を提出すると、基本的には苗字が変わることとなります。

 

3ヶ月以内であれば離婚届で苗字を変えない選択もできる

結婚期間が長い場合、夫の苗字の方が社会生活上、馴染んでいる場合が多いです。

例えば、ご近所や職場、友人などから、夫の苗字で認識されているかと思います。

また、子供がいる方で、親権を取る母親としては、苗字を変えたくないと考える方もいます。

そのような場合、離婚の日から3ヶ月以内に「婚姻時の氏を称する届」を提出することによって、婚姻時の姓を名乗り続けることが可能になります。

これを婚氏続称といいます。

なお、「婚姻時の氏を称する届」は、役場に備えてありますので、窓口でもらうことができます。

 

子どもの姓はどうなる?

母親の離婚の手続きと子どもの姓は別物であり、連動していません。

例えば、母親が親権を取得し、旧姓の「田中」に戻ったとします。

この場合、子供にも同じ「田中」姓にしたいと考えるでしょう。

母親が子供を同じ戸籍に入れる場合、後述する「氏の変更許可の申立て」を家庭裁判所に行う必要があります。

 

 

離婚後に苗字を変えない割合はどのくらい?

政府の統計によれば、2024年に離婚を届け出た夫婦は18万8239件でした。

そのうち、8万6041件が婚氏続称を選択しています。

したがって、約46パーセントの方が苗字を変えていないということとなります。

離婚後に苗字を変えない割合

参考:2023年度戸籍統計第2表|e-Stat 統計で見る日本

 

 

離婚後に旧姓に戻ることは可能?

結論からいうと、一度、婚姻時の姓を名乗り続けることを選択した以上は、自分の判断だけでは旧姓に戻すことは不可能です。

戸籍法107条1項は、「やむを得ない事由によつて氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。」と規定しています。

すなわち、婚姻時の姓を名乗り続けることを選択した後に旧姓に戻すには、「やむを得ない事由」を主張して、家庭裁判所の許可を得ることが必要なのです。

 

 

離婚後に旧姓に戻るために必要な手続き

設例のように、離婚時に夫の姓を選択したものの、その後旧姓に戻りたいと考えた場合、家庭裁判所に対し、「氏の変更許可の申立て」を行わなければなりません。

ここでは、氏の変更のために必要な手続きについて解説します。

 

必要書類

氏の変更許可の申立書

氏の変更をするためには家裁に申立書を提出する必要があります。

当事務所では、氏の変更許可の申立書のサンプルを無料でダウンロード可能です。

PDF形式でダウンロード

 

戸籍謄本

申立人(氏を変更したい人)の戸籍謄本(全部事項証明書)が必要となります。

 

氏の変更の理由を証する資料

氏の変更には「やむを得ない事情」が必要となります。

ケース・バイ・ケースですが、設例のような場合、結婚前の戸籍(除籍,改製原戸籍)から現在の戸籍までのすべての謄本や本人の陳述書等の資料が考えられるでしょう。

 

 

同一戸籍内にある15歳以上の者の同意書

例えば、設例の場合で、同一戸籍内に15歳以上の子供がいたとしましょう。

この場合、この子供の同意書が必要となります。

具体的には、母親(戸籍の筆頭者)の氏が旧姓に変更されることにより、自分の氏も旧姓に変更されることに同意する旨が記載されている書面となります。

同意書のサンプルについては、上に掲載している「氏の変更許可の申立書」にて確認できます。

 

氏の変更許可の申立書の提出先

氏の変更許可の申立書を作成したら、申立人(氏を変更したい人)の住所地を管轄する家庭裁判所へ提出します。

管轄裁判所を調べたい方はこちらをどうぞ

参考:裁判所の管轄区域|裁判所ウェブサイト

 

必要な費用

ご自身で手続きをされる場合は、家裁に収める収入印紙800円と連絡用の郵便切手のみで手続きが可能です。

 

 

どのような場合に家庭裁判所の許可がおりる?

これは、ケースバイケースで、統一した判断がないのが現状ですが、平成15年10月21日の福岡高裁の決定が参考になります。

この決定のなかで、福岡高裁は要旨として、次のように判示しています。

判例 平成15年10月21日の福岡高裁の裁判例

氏は、社会生活をするうえで、個人の同一性を識別するために重要な意義を有しているから、やむを得ない事由がなければ変更できない。

しかし、離婚の際は民法上原則復氏であり、婚氏の継続は例外である。

婚氏の続称については、制度の理解が不十分なものが多く、事後的にも簡単に復氏できると考えている者も少なからずいる。

子どものためやその他の諸事情により、自らの意思を抑えて婚氏を続称する者がいることも社会的事実である。

昨今の姓に対する考え方の変化

これらの事情を考慮すると、婚氏を継続使用した者が婚姻前の氏への変更を求める場合は、一般の氏の変更の場合よりも「やむを得ない事由」の有無の判断は緩やかに解釈するのが相当である。

近時のこの問題についての審判例を考察すると、概ね、上記の判断基準で許否が判断されていると思われます。

その他の要素として、氏の変更(復氏)の目的が消費者金融等からの借金を可能にするため等の不当な目的がないこと、(単に実家のお墓に入るだけにとどまらず)祭祀継承者になるなどの事情があること、(子がいる場合)その子の氏についての意思等が考慮されることが多いようです。

今回の場合、下記の事情があったことを考慮すると、たとえ8年という期間、婚氏を用いていたとしても、裁判所の判断で旧姓に戻す許可が得られる可能性は十分あるといえるでしょう。

氏の変更(復氏)の事情の具体例
  • 本心としては、離婚の際に復氏したかったが、自営の仕事を継続するために婚氏を続称する決意をしたこと
  • 自営の仕事を辞めることになり、復氏に支障はなくなり、また、仕事を辞めることになったことから社会的にも影響がないこと
  • 借金もなく、不当な目的とはいえないこと

氏の変更が認められた事例については、以下をご覧ください。

 

 

離婚後も旧姓に戻さない場合のメリット・デメリット

離婚したら旧姓に戻すべきかどうか迷っていらっしゃる方は多いです。

ここでは、旧姓に戻さない場合のメリットとデメリットをご紹介します。

離婚後も旧姓に戻さない場合のメリット・デメリット

 

メリットについて

面倒な手続きをしなくていい

例えば、銀行口座、クレジットカード、運転免許証など、名義変更の手間が省けます。

特に仕事で普段お忙しい方には、メリットがあるでしょう。

 

子供への影響を軽減

子供が同じ苗字を使い続けることで、学校や社会生活での混乱を避けられます。

特に子供が幼い場合や、思春期の場合は、姓の変更による心理的な負担を軽減できます。

 

離婚を周囲に知られない

仕事上で実績がある場合や、特定のコミュニティで活動している場合、苗字が変わることで周囲に離婚が知れ渡ってしまうことがあります。

周囲の人々に離婚したことを知られたくない場合は、苗字を変えないことで、離婚の事実を知られにくくすることができます。

 

デメリットについて

精神的な区切りがつきにくい

夫の苗字を使い続けると、過去の結婚生活を思い出してしまう可能性があります。

新しい生活を始める上で、精神的な区切りをつけるのが難しい場合があります。

 

元夫との関係が続くような印象を与える

苗字を変えないと、周囲から、元夫との関係が続いているように誤解される可能性があります。

特に再婚を考えている場合は、相手に誤解を与える可能性があります。

 

親族との関係性

元夫の親族との関係性が残る、また実家の親族からの反対があるなど、親族との関係性が複雑になる可能性があります。

 

後々旧姓に戻りたい場合に戻れない可能性

離婚時に夫の苗字を選択したものの、後々旧姓に戻りたいと思う方がいます。

この場合、旧姓に戻る場合は家裁の許可が必要となります。

このような手続きに慣れていない方が必要書類を集め、申し立てるのは一苦労でしょう。

また、裁判所が必ず許可してくれるとは限りません。

ワンポイント:通称名の使用について

子どもへの影響や周囲に離婚を知られたくない、という点を気にして旧姓に戻らないという選択をされる方は多いです。

しかし、この場合、上で解説したデメリットもあります。

このような場合、通称名を使うことで、不安を解消できる場合があります。

すなわち、周囲の方々に対して苗字が変わったことを秘匿しておきたい場合は、婚姻時の姓を通称名として使用するのです。

すなわち、戸籍上は旧姓に戻り、社会生活においては夫の苗字を名乗り続けます。

こうすることで、説明する煩わしさから解放されるでしょう。

なお、お子さんがいらっしゃる方については、学校に通称名を使いたいと相談してみてください。

筆者の経験上、学校は協力してくれると思います。

 

 

まとめ

以上、婚姻時の姓を選択した方が旧姓に戻ることができるか、についてくわしく解説しましたが、いかがだったでしょうか。

旧姓に戻る場合、「やむを得ない事情」が必要であり、家庭裁判所の許可が必要となります。

家裁が許可してくれるかは状況によって異なりますが、不当な目的でなければ許可される可能性があります。

旧姓に戻る場合、メリット・デメリットがありますが、この記事が皆さまのお役に立てれば幸いです。

 

 

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