遺言書とは、人が亡くなる前に、遺産の分け方や希望などを書き記した書面のことを言います。
遺言書には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があり、それぞれメリットとデメリットがあります。
ここでは、相続問題に注力する弁護士が遺言書の意味や種類ごとの特徴についてわかりやすく解説しています。
ぜひ参考になさってください。
遺言書とは
人が自分の死後、その効力を発生させる目的で、あらかじめ書き残しておく意思表示のことを遺言といい、遺言書はその遺言が記された書面のことをいいます。
「遺言」と聞くと、老後になってからというイメージが強いと思います。
しかし、遺言書は満15歳に達した人であれば、原則として誰でも作成することが可能です。
なお、認知症などの場合、遺言能力が問題となることがあります。
遺言書の読み方
遺言書は、一般的には「ゆいごんしょ」と読まれることが多いです。
弁護士などの専門家は「いごんしょ」と読むことが多いのですが、どちらでもかまいません。
遺言の対象とすることができるもの
遺言の対象としては、一般的には遺産をどう分けるか、という内容をイメージされるかと思います。
しかし、遺言の対象とすることができる内容は以外に多いです。
下表は遺言の対象事項をまとめたものです。
遺言の対象 | 具体的な内容 |
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相続に関すること |
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財産の処分に関すること |
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身分に関すること |
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注1:相続分の指定・指定の委託 とは、共同相続人の全部または一部の者について、法定相続分の割合とは異なった割合で相続分を定め、またはこれを定めることを第三者に委託することをいいます(民法902条)。
注2:遺産分割方法の指定・指定の委託とは、例えば「Aには預貯金を、Bには自宅不動産を取得させる」などのように分割方法を指定することをいいます(民法908条)。
注3:遺産分割の禁止とは、5年以内の期間で遺産の全部または一部の分割を禁止することをいいます(民法908条)。
注4:遺留分侵害額請求の方法の指定とは、遺留分侵害額請求について、例えば「まずは長男A、次は二男B」などと請求の順番を指定することをいいます(民法1047条1項2号ただし書き)。
引用元:民法|電子政府の窓口
遺言に何を書くかは遺言者の自由ですが、法的な効果が発生する行為は上記に限定されています。
例えば、「兄弟の仲を良くする」というような道義的な遺言は、遺言に記載されていたとしても、法律上の強制力はありません。
遺言書には3つの種類がある
遺言では、一定の要件を満たした書き方を行わなければ「無効」となってしまいます。
遺言書の種類は一般的なもので3種類あり、3種類それぞれにおいて成立させるための要件が異なっていますので、注意が必要です。
①自筆証書遺言
最も手軽に書くことができる遺言書で、遺言者自身が自筆し、押印をするだけで作成することができます。
自筆証書遺言は、内容や日付、署名が遺言者の自筆である必要があります。
ただし、自筆証書遺言に遺産目録を付ける場合、その目録は自書ではなく、パソコン等で作成したものでもかまいません。
もっとも、その目録には署名押印が必要となります。※
※署名押印はページが複数の場合すべてのページに必要です。両面の場合は両面に必要です。
なお、自筆証書遺言の作成に当たっては、作成年月日のない自筆証書遺言は無効になりますので、必ず作成年月日を記入するよう注意が必要です。
②公正証書遺言
公正証書遺言は、証人2名以上の立会いの下に、遺言者が公証人に遺言の趣旨を口頭で伝え、公証人が遺言者の口述内容を筆記する方法です。
公正証書遺言の場合、公証人が作成を行ないますので、作成後に遺言者と証人に読む、あるいは閲覧して作成内容を確認します。
確認が完了いたしましたら、遺言者と証人が署名と押印をし、最後に公証人が署名と押印を行ないます。
公正証書遺言は基本的に公証役場で作成することが原則ですが、
寝たきりで介護が必要な方など、公証役場まで出向くことが困難な場合には、公証人が家や病院まで訪問してくれる場合もあります。
③秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言の内容を遺言者自らが記載するため、遺言者以外に知られることが無く作成できる方法です。
作成した証書は封筒に入れ、証書に使ったものと同じ印章で封印します。
その際、封入、封印は遺言者自身で行なうことが必要です。
証書の封印が完了いたしましたら、一度公証役場で遺言の存在を確認することが必要になります。
その際、公証人1名と2名以上の証人も必要になります。
公証人が証書の提出された日付と遺言者の申術内容を封書に記載し、遺言者、公証人、証人がともに署名・押印をすれば秘密証書遺言の完成です。
それぞれの遺言書の違いをまとめたものが次の表です(自筆証書遺言については保管制度を利用する場合の違いについても記載しています)。
自筆証書遺言 | 秘密証書遺言 | 公正証書遺言 | |
---|---|---|---|
筆者 | 遺言者 | 原則遺言者(代筆も可能) | 公証人 |
遺言者による自署の要否 | 全文の自署が必要 | 不要(署名は自署が必要) | 不要(署名は原則自署が必要だが、代替手段あり) |
証人の要否 | 不要 | 必要(2人以上) | 必要(2人以上) |
封印の要否 | 不要 | 必要 | 不要 |
役所等での手続き | 不要(保管制度利用の場合は法務局での手続きが必要) | 公証役場での手続きが必要 | 公証役場での手続きが必要(ただし出張依頼も可能) |
保管場所 | 自分で保管(保管制度利用の場合は法務局で保管) | 自分で保管 | 公証役場で保管 |
検認 | 必要(保管制度利用の場合は不要) | 必要 | 不要 |
費用(※) | かからない(保管制度利用の場合は3900円) | 手数料:1万1000円 証人の費用:1人あたり7000円〜1万5000円程度 |
手数料:遺産の金額に応じた費用 証人の費用:1人あたり7000円〜1万5000円程度 |
遺言の特徴のまとめ
種類 | 作成方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
自筆証書遺言 | 遺言者自身が日付、氏名、 財産の分割内容等の全文(目録を除く。)を 自筆し、押印して作成。 |
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公正証書遺言 | 証人2名以上の立会いの下に、 遺言者が公証人に遺言の趣旨を 口頭で伝え、公証人が遺言者の 口述内容を筆記する方法で作成。 |
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秘密証書遺言 | 作成した証書を封筒に入れ、 証書に使ったものと同じ印章で 封印する。その際、封入、封印は 遺言者自身で行なう。 証書の封印完了後、公証役場で 遺言の存在を確認することが必要。 その際、公証人1名と2名以上の 証人も必要。 |
遺言の内容を遺言者自らが記載 するため、遺言者以外に知られること がなく作成できる。 |
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以上のように、遺言の書き方は複数ありますが、一般的に最も信頼できる方法は「公正証書遺言」です。
公正証書遺言の原本は、公正証書にて保管されますから、偽造、紛失のリスクを回避できる信頼できる手続きであるといえます。
一方で、遺言の内容を他の誰にも知られたくない場合は、自筆証書遺言の利用をお勧めさせていただきます。
秘密証書遺言は、あまりメリットがなく、デメリットが多いので、ほとんど利用されていません。
遺言書のメリット
上記の解説から、「遺言書を自分の力で有効に作成するのは大変」と感じられているかと思います。
遺言書を作成することにそれほどのメリットが有るのでしょうか。
遺言書のメリットを考える上では、遺言書の効力を押さえておく必要があります。
遺言書の法的効力
「遺言の対象とすることができるもの」で解説したとおり、遺言の対象とできることは意外に多く、様々な法的効果が認められています。
下表は代表的なものをまとめたものです。
代表的な遺言書の法的効力 | 説明 |
---|---|
遺産の取得方法を指定できる | 遺言書を作ると、遺産について、誰に、何を残すかを指定できます。ただし、遺留分(※1)には注意が必要です。 |
遺言執行者を指定できる | 遺言書に書かれている内容を実現するために、各種相続手続きを進めていく人(遺言執行者※2)を指定することも可能です。 |
保険金の受取人を変更できる | 生命保険契約を締結している場合、その受取人を変更することも可能です。 |
相続廃除ができる | 推定相続人から虐待等を受けていた場合、遺言で廃除できる可能性があります。(※3) |
子を認知できる | 隠し子がいる場合、遺言書で認知し、相続人として遺産を残すことができます。 |
※1 遺留分について
※2 遺言執行者について
※3 相続廃除について
遺言書の事実上の効力
上記の法律上の効力のほか、遺言書には次のような効力が期待されます。
被相続人の「想い」を伝える
遺言書は、被相続人となる方の「意思」を書面にしたものです。
法的な効果までは認められない事項も書面にすることは可能です。
例えば、「兄弟仲良くやってほしい」「お母さんのことをよろしくお願いします。」などの文言は、法的な強制力はありません。
しかし、そのような遺言者の「想い」を親族に伝えることは可能です。
そして、そのような「想い」は、時として、法律上の効力よりも効果を発揮することがあります。
親族間の紛争を予防する
遺言書の記載内容を工夫することで、相続発生後の紛争を予防できる可能性があります。
例えば、遺留分の問題があります。
遺留分については、遺留分権利者が行使するか否かの自由があり、この権利を奪うことは、基本的にはできません。
しかし、遺留分の行使をしないように遺言書に記載しておくことで、遺留分権利者が権利を行使しないケースもあります。
このような記載は、法律上の効力までは認められませんが、紛争予防の可能性があるためメリットにあげられるでしょう。
遺言がない場合の問題
相続においては、遺言がなければ、法定相続(※)どおり、配偶者や血族が被相続人(お亡くなりになられた方)の遺産を引き継ぐことになります。
※法定相続とは、民法で定められた相続人とその相続分です。
例えば、夫、妻、子ども2人のご家庭で、他に相続人がいない場合、夫が亡くなると、妻が2分の1、子どもがそれぞれ4分の1の割合で夫の遺産を引き継ぐことになります。
もし、夫がこの相続の割合を変更したいのであれば、生前に遺言書を作成しておくべきです。
また、例えば、自宅は妻に残したい、ある貴金属は長女に残したい、株式は長男に取得させたい、などのご希望があれば、その旨遺言書に記載しておくべきです。
したがって、被相続人の想いを適切に引き継ぐために、遺言書は必要なのです。
遺言書の書き方については、こちらをご覧ください。
まとめ
以上、遺言書の種類や特徴について、くわしく解説しましたがいかがだったでしょうか?
遺言書の種類は一般的なもので、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3つになります。
3種類それぞれにおいて成立させるための要件が異なっていますので、注意が必要です。
遺言書を作成することのメリットは、法的効力に加え、被相続人の想いを親族に伝えられること、親族間の紛争を予防できる可能性があることにあります。
被相続人の想いを適切に引き継ぐために、遺言書は必要です。
この記事が遺言書作成を検討されている方にとってお役に立てれば幸いです。