認知症の場合、年齢、病状、主治医の判断が遺言能力の有無に影響するため注意が必要です。
遺言能力とは?
遺言者が有効な遺言をするには、遺言の際に、遺言内容及びその法律効果を理解判断するのに必要な能力を備えることが必要とされています。これを遺言能力といいます。
遺言能力の有無の判断については、遺言者の理解判断が必要とされる個々の遺言内容が様々でありうることから、一義的に明確な基準を導き出せるものではありません。
したがって様々な判断要素による個別の事案ごとの検討が求められます。
認知症をはじめとして、脳梗塞や統合失調症の場合にも、それらについて医師の診断があるというだけでは直ちに遺言書が無効と判断されることはなく、その程度や遺言書の内容との関係で、遺言者がその内容及び法律効果を理解できるかどうかが慎重に検討されなければなりません。
これまでの裁判例からすると、以下のような要素が考慮されているようです。
年齢だけでは遺言能力を決することはできませんが、加齢に伴い人間の認知能力・判断能力は一般的に徐々に低下してくるものですから、遺言作成当時の年齢は判断要素の一つとなっています。
判断能力の低下をもたらしうる認知症や脳梗塞、統合失調症というような病気の発症から病状の推移などを詳細に認定した上で、判断要素とします。
病気を発症してから遺言を作成するまでの期間についても、この要素の中に含まれます。
肝心なのは、遺言能力の有無を判断する基準時は、遺言作成時ですので、病気にかかっているからといって、直ちに遺言能力が否定されるわけではなく、遺言作成時の遺言者の状態がどうであったかが問題にされなければなりません。
その上で、遺言前後の生活状況や遺言作成に至る経緯、遺言の内容など他の判断要素と併せて、遺言能力が判断されます。
主治医の所見や診断は、重要視される要素です。
すなわち、主治医が、遺言作成当時遺言者が判断能力を有していたとの所見をおっていたことを根拠として遺言を有効とする裁判例は多くあります。
他方、遺言書作成の約1年4ヶ月前に医師が「老人性痴呆」という判断を下していたり、遺言書作成の約5ヶ月前に医師が高度の「痴呆」が認められると判断した事案では、いずれも遺言能力が否定されています。
また、遺言書の主治医が、公証人から遺言ができる状況にある旨の診断書の作成を依頼されたことに対し、遺言者が遺言をできる状況にないと考え、この依頼を断ったという事情を認定して遺言能力を否定している事案もあります。
遺言書作成のポイント
以上から、認知症がある場合の遺言書作成は、主治医との連携がとても重要になってきます。
例えば、当事務所の場合、主治医の先生に遺言者がどの程度の判断能力を有しているか、事前に確認することがあります。
そして、遺言能力が微妙で、後々トラブルになる可能性がある場合、主治医の先生に診断書を書いてもらったり、カルテを取得するなどして、遺言能力を慎重に判定します。
また、遺言作成時の様子について、撮影や録音の要否について検討します。
まとめ
以上のように、認知症の方の遺言書作成について、注意点を解説しましたがいかがだったでしょうか。
認知症の場合、遺言能力をめぐって裁判になる可能性があるため、注意が必要です。
また、遺言については、遺言能力に問題がなかったとしても、遺言者の想いを次代に適切に小計するためには、記載内容も重要です。
さらに、形式の不備があった場合、無効と判断される可能性があるため、法的な有効要件を満たすかどうかの確認が必要です。
これらを適切なサポートは、遺言書に精通した専門家でなければ難しいと考えられます。
そのため、遺言について疑問がある場合、まずは相続専門の弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
当事務所の相続対策チームは、相続問題に注力する弁護士が所属しており、親身になって解決方法をご提案いたします。
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