遺産分割協議書は、相続人が複数名(2名以上)で、遺言書がないケースでは、基本的に必要となります。
このようなケースでは、故人の遺産を誰がどのように取得するかを決める必要があるためです。
ここでは、遺産分割協議書の必要性や不要なケースについても解説します。
また、遺産分割協議書の注意点についても、わかりやすく説明していきます。
遺産分割協議書の必要性について疑問を感じている方はぜひ参考になさってください。
目次
遺産分割協議書とは
遺産分割協議書とは、相続人がどの遺産をどのように相続するのかということを記載した書面のことです。
亡くなった方(「被相続人」といいます。)が遺産を残していた場合、その遺産を相続する権利のある人たち(「相続人」といいます。)が、全員で、誰がどの遺産を相続するのかを話し合います。
これを「遺産分割協議」といいます。
その遺産分割協議の結果を書面としたものが遺産分割協議書です。
遺産分割協議書は必ず作成しなければならないの?
遺産分割協議書は、法律上必ず作成しなければならないものではありません。
ただし、後記で説明するように、相続手続で必要となる場合には、遺産分割協議書を作成する必要があります。
また、後の相続トラブルを防ぐためにも、遺産分割協議書を作成しておくべきです。
相続が発生した場合には、できるだけ早く遺産分割協議書を作成するようにしましょう。
遺産分割協議書が不要なケースは2つ!
遺産分割協議書を作成すべきケースはとても多いです。
そのため、まずは遺産分割協議書が不要なケースをみていきましょう。
次にあげる2つのケースについては、遺産分割協議書を作成しなくても大丈夫です。
①相続人が1人しかいないケース
- 相続人が配偶者1名のみ
- 配偶者が先に亡くなっており、相続人が子供1名のみ
- 結婚しておらず、相続人が父又は母の1名のみ
- 内容結婚しておらず、両親も亡くなっており、相続人が兄弟1名のみ
- 他の相続人が相続放棄をした結果、相続人が1名となった等
上記の具体例のように、相続人が1名しかいない場合、その相続人がすべての遺産を相続することが可能です。
したがって、遺産分割は不要となります。
なお、相続人全員が相続を放棄した場合にも、遺産を相続する人がいなくなるため、遺産分割協議書を作成する必要はありません。
相続人の範囲を確定するのは決して簡単ではありません。
すなわち、誰が相続権があるのかを判定するためには、相続法に関する専門知識が必要です。
また、被相続人に隠し子がいるようなケースもあるため、戸籍謄本を集めて相続人の範囲を調査すべきです。
②遺言書があり、かつ、その内容にしたがって遺産分割するケース
法的に有効な遺言書があり、かつ、その内容にしたがって遺産を分割する場合は、別に遺産分割協議書は不要です。
法的に有効な遺言書であること
ここでポイントとなるのは、遺言書が法律の条件を満たしているか否かです。
特に、自筆証書遺言の場合、有効であるための条件が厳しく、この条件をクリアしていないケースが多いです。
また、公正証書遺言の場合でも、被相続人の認知症が進んでいた場合、遺言能力がなく無効となるケースもあります。
その遺言書にしたがうこと
遺言書があったとしても、相続人全員の同意があれば、異なる内容で遺産分割を行うことが可能です。
また、遺言書の内容が相続人の遺留分を侵害する場合、遺言書に従わずに遺留分侵害額請求を行っていくことも可能です。
このように、遺言書があったとしても、遺産分割協議を行うことは可能ですので注意しましょう。
遺産が預貯金だけの場合でも、トラブル防止のために遺産分割協議を行うことをおすすめします。
なお、過去、裁判所は、被相続人の預貯金は、相続の対象にはなるものの、遺産分割の対象にはならず、相続開始と同時に当然に相続分に応じて各相続人に分割されると判断していました(ちなみに多くの金融機関は、この当時も預貯金を引き出すために相続人全員の同意を必要としていました。)。
しかし、平成28年に判例を変更し、預貯金は「遺産分割の対象となる」と判示しました。
遺産分割の要否については、誤解をしている方が多いため注意してください。
遺産分割協議書が必要となるケース
次に、遺産分割協議書が必要なケースです。
上で解説した不要な2つのケース以外は基本的に必要、ということになりますが、これをわかりやすく図にすると、以下のとおりです。
①相続人が複数名おり、遺言書がないケース
相続人が複数名いる場合で、法的に有効な遺言書がないケースでは、遺産分割を行うべきです。
ケースにおいて、遺産分割協議書が必要となる理由は、主に次の2つです。
各種相続手続きにおける必要性
相続した不動産や預貯金の名義変更の手続、相続税の申告手続など、相続した財産について各種の相続手続を行うときに、法務局や銀行、税務署等から、遺産分割協議書の提出を求められることがあります。
遺産分割協議書の提出を受けた法務局や銀行、税務署等は、遺産分割協議書の内容を見て、相続人の間で確かに遺産分割協議が行われ、その結果について相続人全員が合意していることを確認したうえで、手続を進めます。
このように、遺産分割協議書は、遺産分割協議の結果を対外的に証明するために必要となります。
相続人間のトラブルを防止するため
遺産分割協議書には、相続人全員が内容を確認したうえで署名し、実印を押すのが一般的です。
そのため、後から「他の相続人が勝手に作った」などと言い出す相続人が出てきてトラブルとなることを防ぐことができます。
このように、遺産分割協議書は、相続人全員で合意した内容を示す証拠として必要となります。
②相続人が複数名おり、遺言書があるもののその内容に従わないケース
遺言書がある場合でも、その遺言の内容に納得がいかない場合、遺産分割協議を検討します。
遺留分の侵害がある場合は、遺留分侵害額請求も可能です。
遺産分割協議書の作成の流れ
遺産分割協議書の作成は、次の手順を踏んで行います。
このように、遺産分割協議書は何の下準備もなしに作成できるものではなく、様々な調査や検討を行ったうえで、作成する必要があるのです。
以下では、それぞれの手順について詳しく説明していきます。
①相続人の調査・確定
遺産分割協議が有効に成立するためには、相続人の全員で合意する必要があり、一人でも合意していない相続人がいる場合には、無効となります。
そのため、まずは誰が相続人であるかを調査して、確定することが必要です。
相続人の調査は、被相続人の生まれてから亡くなるまでの連続した戸籍謄本等を集めて行います。
このような調査をした結果、被相続人の隠し子や、まったく交流のなかった親族の存在が発覚する場合もあります。
なお、調査の結果、相続人が一人であることが確定した場合には、その相続人がすべての遺産を相続することとなるため、遺産分割協議書の作成は不要となります。
②遺言書の調査
被相続人が、遺産すべての分け方について指定した有効な遺言書を残しており、相続人がこの遺言書に従って遺産を分配する場合には、遺産分割協議書を作成する必要はありません。
そこで、被相続人が遺言書を残しているかどうか、遺言書を残している場合には有効かどうか、遺言書の中で遺産のすべてについて分配方法が指定されているか、などを調査します。
遺言書の保管場所は、遺言の種類(3種類あります。)によって異なります。
自筆証書遺言の場合、被相続人の自宅などで保管されている場合のほか、法務局に預けられている場合があります。
公正証書遺言の場合、公証役場で保管されています。
秘密証書遺言の場合、被相続人の自宅などで保管されている場合のほか、金融機関の貸金庫に預けられている場合があります。
遺言書が残されていない場合や、遺言書の全部または一部が無効である場合、相続人全員が、遺言書と異なる方法で分けることを希望する場合には、遺産分割協議書を作成します。
③相続財産の確定
遺産分割の対象となる被相続人の遺産をすべて洗い出し、確定します。
遺産には、建物や土地などの不動産、預貯金や現金、株式・投資信託、絵画、宝石、時計など、様々なものがあるため、まずはそれらを漏れなく洗い出すことが大切です。
後から財産が見つかると、その財産の分け方について再度、相続人全員で協議しなくてはいけなくなる可能性があります。
そのため、不動産の名寄帳や全部事項証明書(登記簿謄本)、預貯金の通帳や残高証明書、ローンの残高証明書などの資料(書類)を集めて、相続財産の有無や内容を確認することが大切です。
また、ローンや借金などのマイナスの財産(負債)も相続の対象となりますので、マイナスの財産の有無やその内容についても調査しておきましょう。
調査の結果、判明した相続財産については、「財産目録」として一覧にまとめます。
④相続放棄の検討
相続対象の財産が確定したら、その分割について協議する前に、まずは、それぞれの相続人が遺産を相続するのかどうかを決めます。
選択肢としては、①すべての財産・負債を相続をする(単純承認)、②すべての財産・負債を放棄する(相続放棄)、③プラスの財産がマイナスの財産を上回る限度で相続する(限定承認)、の3パターンがあります。
相続を放棄した人は、そもそも相続人ではなかったことになります。
そのため、相続人の全員が相続放棄をした場合、遺産分割協議書の作成は不要となります。
一部の相続人だけが相続放棄をした場合、残りの相続人は、不動産や預貯金の名義変更等の相続手続を行う際に、遺産分割協議書とともに「相続放棄申述受理証明書」(相続放棄があったことを証明する書面)の提出を求められることがあります。
そのため、相続放棄した人がいる場合には、家庭裁判所で「相続放棄申述受理証明書」を取得しておくのがスムーズです。
⑤遺産分割協議
ここまでの準備が整ったら、相続人の全員(相続放棄した人を除きます。)で、遺産分割協議を行います。
遺産分割協議は、相続人の全員の合意があってはじめて有効に成立します。
相続人がひとりでも合意していない場合、遺産分割協議は成立しません。
遺産分割協議を行う中で、「寄与分」や「特別受益」の主張がなされることがあります。
「寄与分」とは、一部の相続人が被相続人の財産の増加や維持に貢献した場合に、その貢献分を考慮して財産を取得させる制度のことです。
「特別受益」とは、一部の相続人が被相続人から贈与等を受けていた場合、その贈与分を考慮して財産を取得させる制度のことです。
寄与分や特別受益があったことを裏付ける書類等(例えば、特別受益があったとの証拠となる贈与契約書)があれば、それらを集めておきます。
⑥遺産分割協議書の作成
遺産分割協議がまとまったら、相続人全員で合意した内容を遺産分割協議書として書面にまとめます。
遺産分割協議書には、相続人全員が自筆で署名し、実印を押すのが通例です。
相続手続の際には、遺産分割協議書の作成に使用した実印の印鑑登録証明書の提出を求められる場合がほとんどですので、相続人全員分の印鑑登録証明書を取得して、遺産分割協議書に添付しておきましょう。
また、遺産分割協議書は相続人の人数分を作成し、相続人全員が合意した証拠として、それぞれが1通ずつ保管するのがよいでしょう。
相続手続を行う際に、1通の遺産分割協議書を相続人の間で使い回すのは煩雑なため、その意味でも人数分作成しておくのがおすすめです。
遺産分割協議書がない場合のリスク
遺産分割協議書が必要なケースにおいて、作成していない場合、次のリスクが懸念されます。
遺産を取得できない
まず、遺産分割協議を行わなければ、基本的に遺産を取得することができません。
例えば、故人の預貯金は、遺産分割の対象であることから、遺産分割協議が済むまで、相続人であっても、自分の法定相続分に応じた預貯金の払い戻し請求を行うことができません。
その他の遺産も同様に、遺産分割協議をしないと取得することができません。
相続関係が複雑になる
遺産分割協議を行わないと、数次相続(相続発生後にその相続人が亡くなり、相続が立て続けに複数発生すること)の場合に相続人関係がとても複雑となります。
放置しておくと、相続人が膨大な数に上り、遺産分割協議が困難となることが懸念されます。
不動産は罰則がある
法改正により、2024年(令和6年)4月1日以降は、相続による不動産取得を知った日から3年以内に相続登記をすることが義務化されました。
この義務に違反した場合には、過料などの罰則が課される可能性があります。
できるだけ早い段階で遺産分割協議書を作成し、相続登記を済ませておくことがポイントとなります。
トラブルの原因となる
上記のほか、適切な遺産分割協議書を作成しておかないと、相続人同士の間でトラブルになることが懸念されます。
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遺産分割協議書を弁護士に相談するメリット
遺産分割協議書の作成については、相続専門の弁護士に相談するのがおすすめです。
相続専門の弁護士に相談するメリットとしては、次の3つをあげることができます。
- ① 遺産分割協議書をミスなく作成できる
- ② 調査や作成にかかる手間・時間を節約できる
- ③ 円滑かつ公平に協議を進めることができる
以下では、それぞれのメリットについて具体的に説明していきます。
遺産分割協議書をミスなく作成できる
遺産分割協議書にミスがあると、相続登記や預貯金の名義変更などの相続手続を受け付けてもらえない場合があります。
遺産分割協議書の作り直しとなると、再度、相続人全員に修正点を確認してもらい、署名や実印をもらったりするなどの手間が発生し、相続手続を終えるまでに時間がかかってしまいます。
その一方で、遺産分割協議書の作成には専門的な知識や判断が必要となることから、相続人がご自身でミスなく作成するのはなかなか難しいことであるといえます。
相続を専門とする弁護士であれば、遺産分割協議書を作成した経験が豊富にあるため、ミスなく作成できる可能性が高いといえます。
ただし、相続の実務経験があまりない弁護士の場合には、こうしたメリットを十分に得られない可能性がありますので、相続専門の弁護士に相談することを強くおすすめします。
調査や作成にかかる手間・時間を節約できる
上で説明したように、遺産分割協議書の作成には、様々な資料の収集や調査などの下準備が必要となります。
さらに、遺産分割協議書の作成には専門的な知識と経験が必要となることから、相続人がご自身で相続の知識を身につけ、作成まで行うとなると、膨大な労力と時間がかかってしまいます。
相続専門の弁護士に依頼する場合、戸籍謄本などの資料の収集から、遺産分割協議書の作成まで、ほとんどの作業を弁護士自身で行うことができるため、多くの手間と時間を節約することができます。
また、税理士と連携している弁護士であれば、合わせて相続税の申告や節税等に関する相談やアドバイスを受けられる可能性が高く、個別に弁護士と税理士に相談するよりも手続をスムーズに進めることができます。
円滑かつ公平に協議を進めることができる
相続人の間に感情的な対立がある場合には、相続人全員が遺産の分割について合意することが難しく、なかなか遺産分割協議書の作成にたどり着けない、といった事態に陥ることがあります。
このような場合、中立的な立場にある第三者(弁護士)が立ち会うことで、身内だけで話し合うよりも冷静な議論を行うことが期待できます。
また、専門家である弁護士が遺産分割協議に立ち会う場合には、ある相続人から一方的で誤った主張がなされたり、法律や制度の誤解に基づく対立が起きたりすることを防ぐことができます。
弁護士は特定の相続人の立場に偏ることなく、遺産を公平に分けるためのアドバイスを行うことができますので、相続人としても、協議結果についての納得感を得やすくなるのではないでしょうか。
このように、相続専門の弁護士に依頼した場合、円滑かつ公平に協議を進められるというメリットがあります。
遺産分割協議書の必要性についてのQ&A
ゆうちょ銀行で遺産分割協議書は必要か?
また、ゆうちょ銀行では遺産分割協議書の提出が求められます。
相続登記で遺産分割協議書は必要か?
また、法務局ではその証明書である遺産分割協議書の添付が求められます。
遺産分割協議証明書との違いはありますか?
「遺産分割協議証明書」とは、それぞれの相続人が、それぞれに認識している遺産分割協議の内容(結果)について、その内容で間違いないと確認して証明した書面のことで、それぞれの相続人が単独で作成(それぞれの相続人が書面に署名捺印)します。
これに対して、「遺産分割協議書」は、相続人全員が、遺産分割協議の結果について合意しており、その内容で間違いないことを確認した書面のことで、相続人全員で1つの書面を作成(相続人全員で書面に署名捺印)します。
このように、2つの書面は、遺産分割協議の結果が間違いないことを確認した書面である点で共通しており、使用する場面もほぼ同じです。
他方で、両者の最も大きな違いは、書面を作成する人の数です。
すなわち、両者は、書面を一人で作成するのか(遺産分割協議証明書の場合)、それとも相続人全員で作成するのか(遺産分割協議書の場合)、という点で異なります。
なお、相続手続で遺産分割協議証明書を提出するときは、すべての相続人からそれぞれ1通を集めて提出することが必要です。
まとめ
- 遺産分割協議書とは、亡くなった方の遺産について、相続人全員で、誰がどの遺産を相続するのかを話し合った結果をまとめた書面をいいます。
- 遺産分割協議書は、①相続した財産の相続手続を行うために必要となるほか、②相続人間で後々トラブルとなることを防ぐために必要となる書面です。
- 遺産分割協議書の作成は、①相続人の調査・確定→②遺言書の調査→③相続財産の確定→④相続放棄の検討→⑤遺産分割協議、といったプロセスで行います。
- 遺産分割協議書は、相続した財産の種類や状況に応じて、銀行や証券会社などの金融機関、法務局や税務署などの公的機関に提出します。
- 遺産分割協議書を作成するためには、相続人や財産についての調査や、様々な書類の収集などが必要となることから、膨大な時間と労力がかかるだけでなく、専門的な知識やノウハウが必要となるため、相続専門の弁護士に作成を依頼するのがおすすめです。
- 遺産分割協議書の作成を弁護士に依頼する場合のメリットとしては、①遺産分割協議書をミスなく作成できること、②調査や作成にかかる手間・時間を節約できること、③円滑かつ公平に協議を進めることができること、をあげることができます。
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