親が遺言で私(X)に土地を渡す旨を書いてくれたようなのですが、私のほうが病気がちで親より先に死ぬのではないかと心配です。
もし私が先に死んだ場合には、もらえるはずだった土地を私の子ども(Y)がもらうことはできますか?
遺言の文言によりますが、そのままでは基本的には孫のYさんは土地をもらえないと言ってよいでしょう。
相続問題専門の弁護士が解説いたします。
遺贈と「相続させる」遺言で結果が異なる可能性がある
遺言で財産を残す場合、大きく分けて「遺贈する」と記載する場合と、「相続させる」と記載する場合があります。
同じような言葉なので、違いはないようにも思えますが、実は効果が違います。
以下、「遺贈する」と「相続させる」との場合に分けて、解説いたします。
遺贈の場合
遺贈とは、遺言で、遺産の全部又は一部を、相続人又は相続人以外の方に無償で贈与することをいいます。
遺贈は、遺産を贈与する方(遺贈者)と遺産をもらう人(受遺者)との間に、特別な関係があるからこそなされるものであり、受遺者が先になくなった場合は、遺贈は無効となります。
遺贈の場合、民法で明確に定めがあり、受遺者の相続人は、その地位は承継しないと規定されています。
第九百九十四条 遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。
2 停止条件付きの遺贈については、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも、前項と同様とする。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
引用元:民法|電子政府の窓口
したがって、受遺者である息子Xさんが先に死亡した場合、遺贈の効力が生じないのは明らかと言えます。
相続させる旨の遺言の場合
相続させる旨の遺言については、民法上に規定がないため、本事例のような場合は問題となります。
しかし、判例上は原則として、代襲相続されないことになっています。
参考判例
事案の概要
B及びXは、いずれもAの子であり、Yらは、いずれもBの子である。
Aは、平成5年2月17日、Aの所有に係る財産全部をBに「相続させる」旨を記載した遺言書を作成した。
Bは、平成18年6月21日に死亡し、その後、Aが同年9月23日に死亡した。
被相続人Aの子であるXは、遺産の全部をAのもう一人の子であるBに相続させる旨のAの遺言は、BがAより先に死亡したことにより効力を生じないこととなり、XがAの遺産につき法定相続分に相当する持分を取得したと主張して、Bの子であるYら、すなわちAの代襲相続人らに対し、Aがその死亡時に持分を有していた不動産につきXが上記法定相続分に相当する持分等を有することの確認を求めた。
裁判所の判断
遺産を特定の推定相続人に単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定する「相続させる」旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはない。
【最高裁平成23年2月22日】
引用元:最高裁平成23年2月22日 事件番号 平21(受)1260号
この判例によれば、特段の事情があれば孫のYさんが土地を得られることにはなりますが、特段の事情が認められるかは不明確であり、基本的には難しいと考えられます。
遺言書での対応策
上記のとおり、遺言による代襲相続は、遺贈の場合でも「相続させる」遺言の場合でも、難しいという状況です。
しかし、遺言書の記載を工夫することで、トラブルの回避は可能と考えます。
遺贈の遺言書の記載例
遺言に息子Xさんが先に死亡した場合に備えて孫のYさんを次の受遺者に指定しておく方法があります。
その場合の遺言の文言は以下のようになります。
第〇条 遺言者は、その所有する下記の土地を遺言者の子X(昭和〇年〇月〇日生)に遺贈する。
(土地の表示)
所 在
地 番
地 目
地 積
2 Xが遺言者の死亡以前に死亡した場合、又は遺贈を放棄した場合には、前項の土地については、遺言者の孫Y(平成〇年〇月〇日)に遺贈する。
「相続させる」遺言の記載例
相続させる旨の遺言の場合も、遺贈と同じように次順位の者を定めておくことができます。
以下のような遺言条項が考えられます。
第1条 遺言者は、その所有する下記の土地を遺言者の子X(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
(土地の表示)
所 在
地 番
地 目
地 積
2 万が一、遺言者より前に又は遺言者と同時にXが死亡していた場合、遺言者は前項記載の土地を遺言者の孫Y(平成〇年〇月〇日)に相続させる。
遺言は、その文言によって発生する効果が異なりますし、将来のことなので将来起こることを予測して作成しなければ遺言者の意思の反映されない結果となってしまうこともあります。
遺言を書くということは将来の相続時の争いを避けるという重要な意味も持っています。
なるべく紛争が起きない、遺言者の意思を反映させた遺言にするために、弁護士に相談して適切な条項の遺言を作成しましょう。
登記手続におけるメリット
遺贈による場合には、すべての相続人に登記手続に協力してもらう必要があります。
これに対して、「相続させる」旨の遺言は、この遺言により相続した者が単独で登記の申請を行うことができます。
遺贈による場合には、登記権利者として受遺者と登記義務者として遺言執行者が共同申請をすることになります。
これに対して、「相続させる」遺言の場合には、遺言執行者が指定されていたとしても、「遺言書に当該不動産の管理及び相続人への引渡しを遺言執行者の職務とする旨の記載があるなどの特段の事情のない限り」は、遺言執行者に不動産を管理する義務や引き渡しの義務もないので、遺言により相続した者が単独で登記申請をすることができます(最判平成10年2月27日)。
遺言執行者とはこちらをご覧ください。
その他のメリット
ほかにも、残された財産が賃借権や借地権の場合、遺贈による場合は、賃貸人の承諾が必要ですが、「相続させる」旨の遺言による場合、賃貸人の承諾が不要になるというメリットがあります。
今では違いが解消されていますが、かつては、遺贈よりも「相続させる」旨の遺言の方が、登記の際、登録免許税が少額で済むというメリットもありました。
まとめ
以上、遺言による代襲相続の可否について、詳しく解説しましたがいかがだったでしょうか。
遺言による代襲相続は、遺贈の場合でも、「相続させる」遺言の場合でも、基本的には難しいのが現状です。
しかし、遺言書の記載内容を工夫することで、円滑な遺産の継承を行うことが可能です。
遺言書の記載内容は、専門知識に加えて、豊富な経験、ノウハウが必要とされます。
そのため、遺言書の作成については、専門の弁護士にご相談されることが望ましいでしょう。
当事務所には、相続問題に注力する弁護士、税理士で構成される相続対策チームがあり、このようなお悩みを強力にサポートしています。
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