公正証書遺言を開示請求できる?弁護士が解説


弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

公正証書遺言については、公証役場に対して開示請求をすることができます

この記事では、公正証書遺言の開示請求をするための手続きや必要書類、開示請求をした後の手続きなどについて、相続問題にくわしい弁護士がわかりやすく解説します。

公正証書遺言とは

公正証書遺言とは、遺言者(遺言を作成する人のことです。)が、公証人(文書の存在や内容を公的に証明する職務を行う人のことです。)に対して遺言の内容を伝え、公証人がその内容を文書の形にまとめて作成する遺言のことです。

公正証書遺言は公証人によって作成されるため無効リスクが小さく、また、公証役場で保管されるため偽造・改ざんや紛失のリスクが小さい遺言です。

公正証書遺言について詳しくは以下をご覧ください。

 

 

公正証書遺言を開示請求できる?

相続人等の利害関係人は、公証役場に対して公正証書遺言の開示請求をすることができます

相続人等の利害関係人は、公証役場に対して、公正証書遺言の原本の閲覧(えつらん:見て確認することをいいます。コピーを取ることはできません。)を求め、あるいは公正証書遺言の正本・謄本の交付(発行)を求めることによって、遺言の内容を知ることができます。

公正証書遺言には「原本」・「正本」・「謄本」の3種類があり、遺言者が公正証書遺言を作成する際には、それぞれを1通ずつ(合計3通)作成するのが一般的です。

原本は公証役場で保管され、正本と謄本は遺言者に渡されます。

次の表は、原本・正本・謄本についてまとめたものです。

種類 内容
原本 遺言者と証人2名、公証人が署名押印して作成したオリジナルの公正証書遺言で、この世に1つしか存在しません。公証役場で長期間(法律上は20年間)厳重に保管され、原則として公証役場の外に持ち出されることはありません。
正本 公正証書遺言の原本の写し(コピー)のことです。原本と同じ効力をもち、相続手続きの際に金融機関や公的機関に提出することができます。
謄本 公正証書遺言の原本の写し(コピー)のことです。正本と異なり原本と同じ効力はないため、相続手続きの際に金融機関や公的機関に提出することはできません。

公正証書遺言の正本/謄本については、何度でも再発行を受けることができます

したがって、一部の相続人だけが公正証書遺言の正本や謄本を持っており(遺言者から受け取っていた場合など)、他の相続人がこれを開示してくれるように求めても応じてくれないときには、他の相続人は公証役場に対して開示請求することができます。

 

公正証書遺言を開示請求できる者とは

遺言に記載される内容はプライベートなことがらであり、その秘密を守る必要性が高いことから、公正証書遺言を開示請求できる者は限定されています。

利害関係者の範囲は、遺言者が生きている間と亡くなった後とで異なります。

 

遺言者の生存中

遺言者が生きている間は、遺言者自身もしくはその代理人のみが公正証書遺言の開示を請求することができます。

遺言者の配偶者(妻や夫)などの将来相続人となる可能性が高い者であっても、遺言者の生存中は開示請求をすることができません。

 

遺言者の死亡後

遺言者が亡くなった後は、法律上の利害関係」を有する者(利害関係人)またはその代理人のみが、公正証書遺言の開示を請求することができます。

法律上の利害関係が認められるのは、次の者です。

  1. ① 相続人
  2. ② 受遺者(じゅいしゃ:遺言者から遺言によって遺産を受け取る相続人以外の者をいいます。)
  3. ③ 遺言執行者(ゆいごんしっこうしゃ:遺言の内容を実現するために各種の手続きを行う人のことをいい、遺言者が指定することができます。)

これら以外の者が利害関係人として認められるかどうかは公証人によって判断されることとなりますので、公証役場にお問い合わせください(上記の①〜③以外で利害関係人と認められる場合はかなり少ないと思われます)。

 

公正証書遺言の開示請求の流れ

公正証書遺言の開示請求は、遺言者が公正証書遺言を作成した公証役場(公正証書遺言が保管されている公証役場)で行う必要があります。

 

公証役場に行って請求する場合

公証役場に行って請求する場合の流れ

 

公正証書遺言の検索

公正証書遺言の開示請求は、公正証書遺言が保管されている公証役場(遺言者が公正証書遺言を作成した公証役場)に対してする必要があります。

公正証書遺言がどこの公証役場に保管されているかわからない場合には、まずは公正証書遺言を検索することとなります。

昭和64年1月1日以降に作成された公正証書遺言であれば、公証役場の「遺言検索システム」を利用して、公正証書遺言がどこの公証役場に保管されているかを調べることができます。

この検索は電話やメール、郵便等で依頼することはできず、必ず公証役場へ行って依頼する必要がありますが、全国各地の公証役場で行うことができ(最寄りの公証役場など、ご自身の行きやすい公証役場を選ぶことができます)、また、無料で行うことができます。

あらかじめ連絡したうえで公証役場へ行って遺言の検索を行い、公正証書遺言が保管されている公証役場を調べます。

参考:公証役場の一覧

 

事前連絡

公証役場に電話等で連絡して公正証書遺言の閲覧または正本/謄本の交付を請求したい旨を伝えるとともに、公証役場を訪問する日時を決めます。

 

必要書類の準備

公正証書遺言の開示請求を行う際には必要書類を提出する必要があることから、必要書類を取り寄せるなどして準備をします(必要書類の詳細については後ほど説明します)。

 

交付請求・必要書類の提出

公証役場へ行って公正証書遺言の正本/謄本の交付請求を行い、必要書類を提出します。

 

手数料の納付

公正証書遺言の閲覧や正本/謄本の交付には、それぞれ以下の手数料がかかります。

  • 公正証書遺言の閲覧:1回につき200円
  • 正本/謄本の交付:枚数に応じた手数料(1枚あたり250円

請求者は、公証役場から伝えられた手数料を支払います。

 

公正証書遺言の開示

手数料の納付が完了したら、公正証書遺言の閲覧を行い、または正本/謄本の交付を受けます。

正本/謄本の交付にはおよそ20分〜30分程度の時間を要するのが通常です。

 

郵送の場合

遺言公正証書の正本/謄本の交付請求は、郵送で行うこともできます(なお、開示請求は郵送で行うことができません)。

郵送の場合の正本/謄本の交付請求の流れは、次のとおりです。

※手続きの詳細は各公証役場によって異なる場合があります。

郵送の場合の流れ

 

公正証書遺言の検索

公正証書遺言がどこの公証役場に保管されているかわからない場合には、遺言検索システムにより公正証書遺言を検索します。

 

必要書類の準備

申請に必要な書類を準備します。

郵送による交付請求の場合には、下で別途説明する必要書類のほか、次の①②を同封して郵送する必要があります

  1. ① 正本・謄本の請求書(郵便申立て用)
  2. ② 返送用の封筒等(返送用のレターパック・プラスまたは書留郵便で返送するために必要な郵便切手を貼った返送用封筒)

 

手数料の納付

公証役場は到着した必要書類を確認した後、請求者に対し手数料や振込口座を連絡します(手数料の金額は公証役場に行く場合と同様です)。

請求者は指定された口座に手数料を振り込みます

 

テレビ電話による本人確認

請求の際に提出しなければならない必要書類の中には、請求者の身分確認書類が含まれています。

身分確認書類として顔写真入りの身分証明書を提出した場合には、テレビ電話による本人確認を行う必要があります。

※身分確認書類として印鑑登録証明書を提出した場合、この手続きは不要です。

 

正本/謄本の交付(郵送)

公証役場は、手数料の入金を確認後、返送用の封筒等で公正証書遺言の正本/謄本を郵送します。

 

正証書遺言の開示請求のために必要な書類

公正証書遺言の開示請求をするために必要な書類とその取得場所・取得費用をチェックリストにまとめましたので、準備の際にご活用ください。

なお、必要書類(特に身分証明書類)は各公証役場によって異なる場合があるため、詳細は開示請求をする公証役場にお問い合わせください。

 

本人が開示請求する場合

遺言者が自分で請求する場合
必要書類 取得場所 取得費用
本人の身分証明書類 以下のいずれか

  • 遺言者の印鑑登録証明書(発行後3ヶ月以内のもの)と実印
  • 公的機関発行の請求者の顔写真入り身分証明書(運転免許証・マイナンバーカード・パスポート等)と認印
遺言者の住所地の市区町村役場 300円/通


 

遺言者が代理人を通じて請求する場合
必要書類 取得場所 取得費用
委任状 遺言者の実印が押された委任状 遺言者が作成
印鑑登録証明書
遺言者の印鑑登録証明書(発行後3ヶ月以内のもの) 遺言者の住所地の市区町村役場 300円/通
代理人の身分証明書類 以下のいずれか

  • 代理人の印鑑登録証明書(発行後3ヶ月以内のもの)と実印
  • 公的機関発行の代理人の顔写真入り身分証明書(運転免許証・マイナンバーカード・パスポート等)と認印
印鑑登録証明書:代理人の住所地の市区町村役場 300円/通


 

利害関係人が開示請求する場合

利害関係人が自分で開示請求する場合
必要書類 取得場所 取得費用
遺言者本人の死亡を証明する書類 遺言者本人の除籍謄本 遺言者の本籍地の市区町村役場 750円/通
法律上の利害関係を証明する書類
利害関係人の戸籍謄本等(※) 利害関係人の本籍地の市区町村役場 450円/通
請求者の身分証明書類 以下のいずれか

  • 利害関係人の印鑑登録証明書(発行後3ヶ月以内のもの)と実印
  • 公的機関発行の利害関係人の顔写真入り身分証明書(運転免許証・マイナンバーカード・パスポート等)と認印
印鑑登録証明書:利害関係人の住所地の市区町村役場 300円/通


 

利害関係人が代理人を通じて請求する場合
必要書類 取得場所 取得費用
遺言者本人の死亡を証明する書類 遺言者本人の除籍謄本 遺言者の本籍地の市区町村役場 750円/通
法律上の利害関係を証明する書類 利害関係人の戸籍謄本等(※) 利害関係人の本籍地の市区町村役場 450円/通
委任状 利害関係人の実印が押された委任状 利害関係人が作成
印鑑登録証明書 利害関係人の印鑑登録証明書(発行後3ヶ月以内のもの) 利害関係人の住所地の市区町村役場 300円/通
代理人の身分証明書類 以下のいずれか

  • 代理人の印鑑登録証明書(発行後3ヶ月以内のもの)と実印
  • 公的機関発行の代理人の顔写真入り身分証明書(運転免許証・マイナンバーカード・パスポート等)と認印
印鑑登録証明書:代理人の住所地の市区町村役場 300円/通


※相続人以外の利害関係人については、個別に公証役場にお問い合わせください。

 

 

公正証書遺言を開示した後の手続きについて

公正証書遺言を開示した後の手続きの流れは、下の図のとおりです。

この図からわかるように、公正証書遺言にしたがう場合としたがわない場合とで、開示後の手続きが大きく異なります。

公正証書遺言を開示した後の手続きの流れ

 

公正証書遺言にしたがう場合

公正証書遺言にしたがって遺産を分ける場合には、自筆証書遺言の場合とは異なり、検認(けんにん:裁判所で遺言の内容を確認する手続きのことをいいます。)の手続きは不要です。

遺言者によって遺言執行者が指定されているときは、遺言執行者が遺産の分配や相続に伴うさまざまな手続きを行います。

遺言執行者が指定されていない場合、相続人等の利害関係人は、家庭裁判所に対して遺言執行者の選任を請求することができます。

遺言執行者なしで手続きを進める場合には、相続人全員が協力して相続手続きを行います。

 

公正証書遺言にしたがわない場合

公正証書遺言の有効性を争う場合(無効を主張する場合)には、遺言無効確認の調停や訴訟を行います。

遺言の有効性を争う方法について詳しくは以下をご覧ください。

公正証書遺言の無効が確定した場合や、公正証書遺言が有効であっても相続人全員が公正証書遺言にしたがわないことに合意した場合には、相続人全員で遺産分割協議(遺産の分け方について話し合うことをいいます。)を行って遺産の分け方を決めます。

遺産分割協議がまとまらないときは、裁判所を介した遺産分割調停や遺産分割審判を行います。

 

 

よくあるQ&A

公正証書遺言と自筆証書遺言との違いは?


自筆証書遺言とは、遺言者が全文を手書きで作成する遺言書のことです。

遺言の作成に不慣れな遺言者が自筆証書遺言を作成する場合には形式や内容の不備により無効となるリスクがあります。

自筆証書遺言の保管場所については法律上決まりがなく、遺言者自身が決めることとなります。

自筆証書遺言は遺言者の自宅や金融機関の金庫に保管することもできますが、この場合には、利害関係者による偽造・改ざんや紛失のリスクがあります。

自筆証書遺言の場合はこうした偽造・改ざんのリスクがあることから、開封前に裁判所において検認の手続きを行い、検認の時点での遺言書の内容を確定することが必要とされています。

自筆証書遺言の偽造・改ざん等のリスクに対応するため、令和2年(2020年)から、法務局に自筆証書遺言の保管・管理を申請できる「自筆証書遺言書保管制度」が始まりました。

この保管制度を利用する場合、検認の手続きは不要です。

次の表は、公正証書遺言と自筆証書遺言との主な違いをまとめたものです。

公正証書遺言 自筆証書遺言
作成者 公証人 遺言者(必ず自筆)
証人の要否 必要(2名以上) 不要
保管場所 公証役場 遺言者が決める
自宅または法務局
作成・保管の手数料 必要 不要(保管制度を利用する場合は必要)
無効リスク 小さい 大きい
偽造・改ざん・紛失等のリスク 小さい 大きい※(保管制度を利用する場合は小さい)
検認の要否 不要 必要(保管制度を利用する場合は不要)

 

自筆証書遺言は開示請求できる?


自筆証書遺言保管制度を利用した場合には、開示請求をすることができます

自筆証書遺言保管制度を利用しない場合、自筆証書遺言は法務局や公証役場等の公的機関で保管されるわけではないことから、どこで保管されているかを調べたり、公的機関に対して開示請求をすることはできません

 

自筆証書遺言保管制度を利用した場合

自筆証書遺言保管制度を利用した場合には、開示請求をすることができます。

具体的には、全国各地の法務局でデータによる自筆証書遺言の閲覧や遺言書情報証明書(遺言者の氏名等の情報や遺言書の画像情報等を含む、遺言書の内容を証明する書面です。)の交付を受けることにより、開示を請求します。

なお、自筆証書遺言の原本については、原本を保管している法務局でしか閲覧することができません。

 

自筆証書遺言保管制度を利用しない場合

自筆証書遺言保管制度を利用しない場合、自筆証書遺言は法務局や公証役場等の公的機関で保管されるわけではないことから、どこで保管されているかを調べたり、公的機関に対して開示請求をすることはできません。

また、自筆証書遺言を持っている人がわかっているものの、その人が遺言を開示してくれない場合に、自筆証書遺言の開示請求をするための手続きは存在しません

もっとも、次のような方法によって自筆証書遺言の内容を知ることができる可能性があります。

  • 自筆証書遺言については検認の手続きを行う必要があり、検認手続を行う場合には家庭裁判所から相続人全員に対して検認の日時や場所が通知されます。
    検認の手続きに参加することで自筆証書遺言の内容を確認することができます。
  • 検認の手続に参加できなかった場合には、家庭裁判所に「検認調書」(家庭裁判所が作成する検認の手続きを記録した書類のことです。)の写しを請求することで、遺言の内容を確認することができます。
  • 自筆証書遺言を持っている人が検認手続を行わない場合には、5万円以下の過料に処せられる可能性があることなどを伝えて、検認の手続きを行うように説得することが考えられます。
  • 説得に応じてもらえない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停の申立てを行い、調停の中で自筆証書遺言の開示を求めることが考えられます。

自筆証書遺言保管制度を利用していない場合の対応方法については、相続問題に詳しい弁護士に相談されることをおすすめします。

相続問題を弁護士に相談すべき理由について、詳しくは以下をご覧ください。

 

 

まとめ

公正証書遺言については、遺言が保管されている公証役場に対して開示請求(閲覧の請求や正本/謄本の交付請求)をすることができます。

遺言者が生きている間は、原則として遺言者のみが公正証書遺言の開示請求を行うことができます。

遺言者が亡くなった後は、相続人などの法律上の利害関係のある者が開示請求を行うことができます。

公正証書遺言の開示請求は、遺言の保管されている公証役場に行って原本の閲覧や正本/謄本の交付を請求する方法のほか、郵送によって正本/謄本の交付を請求する方法があります。

公正証書遺言の開示を受けた後の手続きは、遺言の内容にしたがって遺産を分けるかどうかによって大きく異なります。

遺言の内容にしたがう場合には、自筆証書遺言など他の種類の遺言とは異なり、家庭裁判所による検認を行うことなく遺産相続の手続きを進めることができます。

公正証書遺言や他の種類の遺言の開示請求についてわからないことがある場合や、公正証書遺言の効力を争う場合、公正証書遺言にしたがいたくない場合などには、相続にくわしい弁護士に相談されるのがおすすめです。

当事務所では、遺言の作成や開示請求のほか、遺産分割協議書の作成や相続人同士のトラブル、相続税の申告や節税対策など、相続全般に関する幅広いご相談をうけたまわっております。

相続問題にくわしい弁護士で構成する「相続対策専門チーム」が対応させていただきますので、ぜひ安心してご相談ください。

 

 


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