「査定額100万円を超える」「普通自動車」の名義変更には、「遺産分割協議書」が必要です。
他方で、査定額100万円以下の普通自動車は「遺産分割協議成立申立書」で足りますし、軽自動車の場合は、遺産分割協議書、遺産分割協議成立申立書いずれも不要とするのが実務の扱いになっています。
この記事では、遺産分割において盲点となりやすい、被相続人(亡くなった方です)の自動車の遺産分割について、その名義変更時に必要な書類の種類や書類の書き方について、記入例を元に解説します。
これから被相続人の遺産分割協議を行おうとされている方、または、遺産分割協議成立後に、遺産に自動車があったことに気付いたもののどうすればわからず悩まれている方などは、ぜひ参考になさってください。
目次
車の遺産分割協議書が必要なケースとは?
相続を原因として、自動車の名義変更をする場合、実務上、運輸局または運輸支局へ遺産分割協議書を必要書類の一つとして提出する必要があります(参考:国土交通省「自動車登録業務等実施要領」15頁〜)。
ただし、査定額100万円以下の自動車は、「遺産分割協議成立申立書」だけで良いとするのが実務の扱いです(同)。
さらに、軽自動車の場合は、遺産分割協議書・遺産分割協議成立申立書ともに不要です。
なお、自動車を利用したい相続人がいない場合などは、売却または廃車手続きを行うことになりますが、その場合でも、被相続人名義のままでは手続きできないため、一旦相続人名義に変更する必要があります。
以下では、それぞれのケースごとに、詳しく見ていきます。
100万円超えの普通自動車の場合
すでに触れた通り、被相続人名義の普通自動車で、査定額が100万円を超えるものについて、相続を原因に名義変更する場合には、遺産分割協議書が必要です。
名義変更は、運輸局・運輸支局で行いますが、その手続きにおいて、遺産分割協議書を求められる運用となっているためです。
名義変更しなくても自動車の利用はできますし、罰則もありませんが、複数の相続人がいる場合に名義変更しないで放置しておくと、その自動車は共同相続人の共有財産であると見て、他の相続人の債権者が差し押さえしてくる、といったことも考えられますので、できるだけ早く相続人名義に変更しておきましょう。
100万円以下の普通自動車の場合
普通自動車の査定額が100万円以下であれば、査定価格を確認できる資料などを提出すれば「遺産分割協議書」の代わりに「遺産分割協議成立申立書」を提出すれば良い扱いとなっています。
「遺産分割協議書」には相続人全員の署名押印が必要ですが、「遺産分割協議成立申立書」の場合は、その自動車を相続する人の署名押印のみでよいため、手続きを簡略化できます。
なお、「遺産分割協議成立申立書」はあくまで、遺産分割協議が成立した事実を、自動車を相続する人単独で申し立てられるようにしただけの書類ですので、遺産分割協議自体が不要になるわけではない点には注意が必要です。
軽自動車の場合
軽自動車の場合は、登録や名義変更を行う機関が、そもそも普通自動車の場合と異なり、軽自動車検査協会になります。
そして、軽自動車検査協会における相続による名義変更には、実務上、「遺産分割協議書」、「遺産分割協議成立申立書」のいずれも不要で、相続する人が単独で名義変更できます。
その他、車検証や相続人の住民票などが必要になりますが、名義変更に必要な書類は、全国にある軽自動車検査協会の支所等に確認しておくと良いでしょう。
廃車や売却するとき
自動車に価値がない場合や自動車を必要とする人がいないため相続する人がいないときは、廃車または売却することになりますが、いずれも被相続人の名義のままでは手続きができないため、一旦相続人名義に変えておかなければなりません。
この場合、遺産分割前の遺産は基本的には相続人全員の共有になりますので、遺産分割せず自動車を売却するのであれば、相続人全員の共有名義とする手続きをとるのが原則です。
しかし、共有名義にして売却等すると、共有者全員で売買契約書に署名する必要が出てきたり必要書類も増えるなど、手続きが煩雑になるので、実務的には、自動車の名義人を相続人のうちの誰か一人に決めた上で売却等の手続きを取ることが多いです。
その名義変更の際に、遺産分割協議書が必要か、遺産分割協議成立申立書で足りるか、いずれも不要か、については、その自動車の種別・査定額に応じて変わってくることは上記と変わりません。
まとめ
以上の内容をまとめると以下のような表に整理することができます。
相続する自動車 | 手続き機関 | 遺産分割協議書の要否 | 注意点 |
---|---|---|---|
100万円超えの普通自動車 | 運輸局・運輸支局 | 必要 | – |
100万円以下の普通自動車 | 運輸局・運輸支局 | 不要 | 遺産分割協議申立書は必要 |
軽自動車 | 軽自動車検査協会 | 不要 | 遺産分割協議申立書も不要 |
*被相続人の自動車を相続せず、廃車または売却するときも、一旦相続人への名義変更を行うが、その際の遺産分割協議書の要否や注意点も、対象となる自動車の区分に応じて上記に準じる。
車の遺産分割協議書の書き方・ひな形
遺産分割協議書を作成する場合、一般的には、被相続人の遺産全てについて、遺産分割の内容を記載します。
この、遺産全てについての分割内容を記載した遺産分割協議書を用いて名義書換することももちろんできますが、運輸支局のホームページからダウンロードできる自動車専用の遺産分割協議書の様式を用いることもできます。
運輸支局の様式は、簡素な様式でわかりやすいため、自動車の名義書換だけ手早く進めたい場合などには運輸支局の様式を使うとよいでしょう。
車の遺産分割協議書の記載例
運輸支局が提供している遺産分割協議書の様式を使うときは、以下の記入例を参考にしてください。
運輸支局によって記載項目が若干異なる場合もありますので、不明な点は、事前に各運輸支局に問い合わせると円滑な手続きができるでしょう。
遺産分割協議書
令和○年○月○日 (*注1)
令和○年○月○日(*注2)、所有者_______________(*注3)の死亡により相続を開始し、相続人全員で遺産分割協議を行った結果、次の自動車を_______________(*注4)が相続することに協議が成立しました。
自動車登録番号*注5 | 車台番号*注5 |
練馬222て1214 | YT430T-1234567 |
相続人 *注6
住所 東京都練馬区XX2丁目9-938
氏名 ________________ 実印
住所 大阪府大阪市北区3丁目7-21
氏名 ________________ 実印
*注1:遺産分割協議の成立日を記載します
*注2:同上
*注3:被相続人の氏名を記載します
*注4:新所有者の氏名を記載します
*注5:自動車の登録番号及び車台番号は、車検証に記載されている通りに記載します。
*注6:相続人欄には、全ての相続人の住所とともに各人が署名の上、実印を押印します。
上記は、自動車のみを対象とした遺産分割協議書の例です。
一般的な、全ての遺産を対象とする遺産分割協議書のひな形は、当事務所のホームページから無料でダウンロードできますので、合わせてご参考になさってください。
遺産分割協議書のダウンロードはこちらをご覧ください。
車の遺産分割協議成立申立書の書き方・ひな形
上で触れた通り、100万円以下の普通自動車について分割する時には、遺産分割協議書は不要で、遺産分割成立申立書の提出で足りるものとされています。
車の遺産分割協議成立申立書の記載例
遺産分割協議成立申立書の様式は以下のようになっています。
注意が必要な点について、注記をしていますので合わせてご参考になさってください。
遺産分割協議成立申立書
自動車の表示
登録番号*注1 | 車台番号*注1 |
練馬222て1214 | YT430T-1234567 |
被相続人
氏名 | 死亡年月日 |
○○ ○○ | 令和○年○月○日 |
遺産分割協議成立年月日 | 申立書による申請の同意年月日 *注2 |
令和○年○月○日 | 令和○年○月○日 |
被相続人の死亡により、被相続人所有の上記自動車について民法の規定に基づき遺産分割協議を行なったところ、私が上記自動車を相続することで協議が成立したので申し立てます。
また、当該移転登録について、本申立書により申請する旨同意を得られたので今回の申請に及びました。
なお、本申立について問題が発生した場合は、私が責任をもって処理し、貴職には一切ご迷惑をかけないことを誓約いたします。
令和○年○月○日 *注3
○○運輸局 △△運輸支局長 殿 *注4
住所 東京都練馬区XX2丁目9-938
氏名 ________________ 実印 *注5
*注1:自動車の登録番号及び車台番号は、車検証に記載されている通りに記載します。
*注2:相続人全員が名義変更に同意した日を記載します。
*注3:申請日を記入します。
*注4:申請書を提出する運輸支局を記載します。
*注5:自動車の新所有者が署名・押印します。
遺産分割協議成立申立書のダウンロードはこちら
上記は、関東運輸局が提供している「遺産分割協議成立申立書」を元に説明しています。
この関東運輸局の様式は以下からダウンロードできます。
なお、様式は運輸局ごとに少し異なる場合があるので、実際に相続に基づく名義変更を行う際は、お住まいを管轄する運輸局のホームページをご確認ください。
全国の運輸局・運輸支局は以下のページから確認することができます。
スマホで簡単、遺産分割協議書の自動作成!
遺産全体の遺産分割協議書とは別に、自動車の名義書換のためだけに遺産分割協議書を作成するのは面倒だけど、遺産全体を対象とした遺産分割協議書には記載すべきことがたくさんあり複雑で、何を書いたらわからない、という方もいらっしゃると思います。
当事務所では、遺産分割協議書のサンプル(下書き)を手っ取り早く確認したいという方のために、オンラインで、かつ、無料で自動作成できるサービスをご提供しています。
以下のページのガイドに従い必要事項をご入力いただくことで、遺産分割協議書のサンプルをご確認いただけますので、ご参考にされてください。
車の相続手続きに必要な書類
普通自動車の場合
普通自動車の相続手続き(相続移転登録)には、以下の書類が必要です。
以下のA及びBに共通して必要になる書類
- ① 申請相続人の印鑑証明書(3ヶ月以内のもの)
- ② 申請相続人の実印を押印した委任状
- ③ 有効期間のある自動車検査証(車検証)
- ④ (自動車の利用場所を変更する場合)車庫証明書
A 遺産分割協議書で申請する場合
- ⑤ 被相続人の除籍謄本(被相続人の死亡の事実及び相続権利者全員の確認)
- ⑥ 遺産分割協議書(相続人全員の実印押印が必要)
B 遺産分割協議成立申立書で申請する場合(相続する自動車の価格が100万円以下の場合)
- ⑤ 被相続人の除籍謄本(被相続人の死亡の事実及び申請相続人の相続権利の確認)
- ⑥ 遺産分割協議成立申立書(実印押印が必要)
- ⑦ 査定証(自動車の価格が100万円以下であることを確認できるもの)
軽自動車の場合
普通自動車の相続手続きは、普通自動車の場合と比べて簡易に行うことができます。
必要な書類は、以下の通りであり、軽自動車の通常の名義変更と変わりません。
- ① 自動車検査証(車検証)
- ② 使用者の住所を証する書面
個人の場合は、住民票の写し(マイナンバーが記載されていないもの)又は印鑑証明書のいずれか1通、法人の場合は、商業登記簿謄(抄)本、登記事項証明書又は印鑑証明書のいずれか1通です。
詳しくは、軽自動車検査協会のホームページをご確認ください。
車の遺産分割協議で注意すべきこと
遺産分割の対象は車だけではない
遺産分割の対象となる遺産は、原則として、「相続開始時に存在」し、かつ、「遺産分割時にも存在」する「未分割」の遺産です。
具体的には、不動産、自動車、不動産賃借権、現預金、株式などが対象になります。
従って、被相続人がどのような財産を有していたかをしっかりと調査した上で、遺産分割の対象として協議しないと、後々相続人間で揉めることにもつながりかねませんので注意が必要です。
遺産分割協議書には、相続人全員で署名押印する必要がある
遺産分割協議書とは、相続人がどの遺産をどのように相続するのかということを記載した書面ですので、相続人全員で署名押印する必要があります。
これは、運輸局の様式を使って自動車の遺産分割協議書を作成する場合でも同様であり、一部の相続人を除いて作成された遺産分割協議書は無効であり、運輸局も受け付けてくれませんので注意が必要です。
不明な点があれば専門家に相談する
自動車の遺産分割だけを、運輸局の様式に従って行うことは比較的容易にできると思います。
しかし、すぐ上でも触れた通り、本来の遺産分割の対象は自動車だけではありません。
自動車の遺産分割を行うに際しては、他の遺産の分割をも踏まえた上で行わないと、後々相続人間でトラブルに発展することにもなりかねません。
少しでも不明な点がある場合は、悩む前に相続専門の弁護士に相談されることをお勧めします。
まとめ
被相続人の自動車を相続を機に名義変更する場合に、遺産分割協議書が必要になるかどうかや、必要になる書類は、自動車の種類によって変わります。
まずは普通自動車と軽自動車とでは手続きがそもそも異なるということと、普通自動車の場合、査定額100万円を超えるかどうかがポイントになる、という点を押さえておくと良いでしょう。
査定額100万円超えの普通自動車の相続手続きには遺産分割協議書が必要ですが、運輸支局が提供している遺産分割協議書の様式を使うと、比較的容易に手続きを行うことができます。
但し、遺産分割協議書を作成する際にはこの記事でも説明した様々な注意点がありますので、分からないことがあれば、遺産分割に強い専門家へ相談しておきましょう。
なお、当事務所には相続問題に注力する弁護士・税理士で構成される相続対策チームがあり、遺産分割協議を強力にサポートしています。
遺産分割協議についてお困りのことがあれば、当事務所にお気軽にご相談ください。