先日、親が亡くなり、兄弟と一緒に遺産分割の話し合いをしました。
相続財産は、親が住んでいた居住用財産くらいしかありません。
田舎の不動産のため、誰も取得するつもりはなく、売却してその利益を兄弟みんなで分けることになったのですが、不動産を売却する場合には、譲渡所得というものが発生することがあると聞きました。
しかし、この不動産は父がずっと前に買ったもので、いくらで買ったものなのか全く分からないため、譲渡所得が発生するのかどうかも分かりません。
どうしたら良いでしょうか?
譲渡所得は、「総収入金額 – ( 取得費 + 譲渡費用 ) – 特別控除」で計算できます。
総収入金額は、売却した不動産すべての売却代金を足したもので、取得費はその不動産を取得した時の額です。
譲渡費用は、土地の上の建物を取り壊して更地として売却した場合に、その建物の取り壊し費用などがこれに当たります。
特別控除とは、例えば、居住用の3000万円特別控除の特例等があります。
相続の場合などに、取得費が分からないということはよくあることです。
取得費は、売却額の5%を計上してよいというのが実務の運用ですが、そのほかにも取得費を推計する方法はありますし、当時の取得費を調査してみる必要もあります。
譲渡所得の計算方法
不動産の譲渡により、利益が出た場合には、譲渡所得として所得税が課されることになります。
ここでいう利益とは、簡単に言えば、買った値段よりも高く売れた場合にその高く売れた差額のことです。
もっとも、相続で得た不動産というのは、不動産を買った人が亡くなっているため、相続した人はその不動産をいくらで取得したのか分からないということがほとんどです。
この場合、実務では、売却額の5%の取得費を計上してよいというのが実務上の運用です。
引用元:国税庁ウェブサイト
しかし、この扱いは実務の扱いであり、法律上のものではありませんし、正確な取得費を知る方法があれば、その方法によるべきです。
また、この方法を取ると、税務上、大幅に損をしてしまうことが懸念されます。
具体例 遺産の自宅を5000万円で売却した場合
例えば、遺産の自宅を5000万円で売却した場合、取得費が不明のときは、250万円を取得費とすることができます。
5000万円 × 5% = 250万円
しかし、実際の取得費がわずか5%とは思えません。
日本の不動産、特に自宅等の多くは購入すると、時価が減少しています。
運良く減少せずに時価が変動しなかったとしても、取得費は5000万円であり、譲渡所得税は発生しません。
したがって、諦めずに取得費を調査することが大きな節税のポイントとなります。
取得費を調査する方法
まず、登記事項証明書を確認しましょう。
抵当権が設定されており、借入金額が書いてある場合があります。その借入金額が取得費に近い額であることは多いのです。
他には前所有者が分かりますので、その前所有者と連絡が取れるのであれば、契約書などを持っている場合もあるでしょう。
また、その不動産の売買にかかわった不動産業者が分かっていれば、その業者に確認するのも手です。
不動産業者が資料を保管していたという事例もあります。
他には、借入金融機関に問い合わせるという方法もあります。
支払いが終わっていなければ資料が残っているでしょうし、支払いが終わっていても、何らかの資料が残っている場合はあります。
取得費の推計
取得費を調査しても分からないということはもちろんあります。
この場合には、実務で認められた売却額の5%での取得費計上しか方法がないのかと言えば、そうではありません。
例えば、不動産の価額の変動率を用いて、売却価額を変動率で割り戻して取得費相当額を推計するという方法があります。
ただし、この方法は、購入した時点が分かっていないと使えないのでご注意ください。
このためには、変動率を知る必要がありますが、変動率として用いることができるものとして、下記のようなものがあり、それぞれに特徴があります。
市街地価格指数
日本不動産研究所という機関が出しているもので、全国の主要都市内で選定された宅地の調査地点について、不動産鑑定士等がその価格を調査して出しているものです。
もっとも、これは個々の土地について変動率が出せるわけではないので、使える場面は限られるといえます。
公示価格
国土交通省や地方自治体が出しているもので、土地取引の指標として用いられています。
また、全国の地域を網羅的に評価しているので、個々の土地に対する変動率として用いやすいといえます。
相続税路線価
税務当局の公表している数値であり、信頼性は極めて高いものです。
もっとも、相続税路線価は、平成3年までは公示価格の70%程度で評価され、平成4年以降は公示価格の80%程度で評価されているので、変動率を出す際は注意が必要でしょう。
固定資産税評価額
個別の土地建物について評価額が出ているため、場所的同一性は高いといえますが、一方で3年ごとにしか評価替えをしないため、変動率の計算は難しいかもしれません。
また、相続税路線価と同様に、平成6年までは公示価格の20%程度で評価されていましたが、平成9年以降は公示価格の70%程度で評価されているので、変動率算出の際に気を付けなければなりません。
相続は、法律上の問題点がたくさんありますが、税金関係について問題となることも少なくありません。
そして、税金の計算は簡単ではなく、弁護士はもとより、相続税に精通している税理士も多くはありません。
当事務所では相続を専門とし、税理士登録もしている弁護士が相談に応じますので、まずは一度ご相談ください。