相続放棄の手続きを自分でする場合にかかる費用の相場は、数千円〜5千円前後です。
専門家に依頼する場合には、これに加えて3万円〜15万円前後の費用がかかる傾向です。
この記事では、相続放棄にかかる費用の内訳や、手続きを依頼する専門家ごとの費用相場などについて、相続にくわしい弁護士がわかりやすく解説します。
目次
相続放棄にかかる費用の内訳
相続放棄の手続きにかかる費用は大きく、①実費と②専門家の費用の2つに分けることができます。
②専門家の費用とは、相続放棄を弁護士や司法書士等の専門家に依頼する場合に支払う費用(報酬)のことです。
相続放棄の手続きを自分でする場合、②の費用はかかりません。
相続放棄にかかる実費
相続放棄の手続きを自分で行う場合の費用(実費)の相場は、申述人(相続放棄をされる方のことです。)1人あたり数千円〜5千円前後です。
実費の主な内訳は、家庭裁判所に提出する必要書類の取得費用と家庭裁判所に支払う手数料です。
相続放棄の手続きは、家庭裁判所に対する申立て(申述)をすることによって行います。
その際には、所定の必要書類を提出するとともに、裁判所に対してあらかじめ手数料等を納める必要があります。
必要書類の取得費用
家庭裁判所に提出する必要書類は、相続放棄申述書と添付書類(戸籍藤本等)です。
相続放棄申述書は申述人が自分で作成する書類であり、取得費用はかかりません。
添付書類の内容は各相続人と被相続人との続柄によって異なり、その取得費用も各相続人によって異なりますが、申述人1人につき1000円〜3000円前後が相場です。
例えば、被相続人の配偶者(夫・妻)が相続放棄を申述する場合の必要書類は、
(a)被相続人の住民票除票または戸籍の附票
(b)申述人の戸籍謄本
(c)被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
で、取得費用の合計額は1500円前後です。
戸籍謄本等の取得費用は、次のように書類によって異なります。
必要書類 | 費用 |
---|---|
住民票除票・戸籍の附票 | 300円 / 通 |
戸籍謄本 | 450円 / 通 |
除籍謄本 | 750円 / 通 |
改製原戸籍謄本 | 750円 / 通 |
※費用の金額は各市区町村ごとに異なり、また、取得方法(窓口・郵送・オンラインなど)によっても金額が異なることがあります。
相続放棄の必要書類についてくわしくは以下をご覧ください。
家庭裁判所に支払う手数料等
相続放棄の申述をする際には、収入印紙(家庭裁判所の手数料)と郵便切手(家庭裁判所との書類のやり取りに必要)を事前に購入して納める必要があります。
これらの合計金額は申述人1人につき1200円〜1300円程度で、その内訳は次のとおりです。
・手数料(収入印紙):申述人1人につき800円
・連絡用の郵便切手:申述人1人につき400円〜500円程度(※)
※納付する郵便切手の金額は各家庭裁判所によって異なりますので、詳細は各裁判所にお問い合わせください。
相続放棄の専門家の費用の相場
相続放棄を弁護士等の専門家に依頼する場合には、専門家に支払う費用(報酬)が必要となります。
費用の相場は専門家ごとに異なり、また、相続放棄の手続きをどの範囲で依頼するのか(何を依頼するのか)によっても異なります。
以下では、それぞれの専門家に依頼できる手続きの内容と、それぞれの費用相場について説明します。
相続放棄の弁護士の費用の相場
申述人は弁護士に対して、相続放棄の必要書類の取得・作成から申述までの一連の手続きを依頼することができます。
この一連の手続きを弁護士に依頼する場合の費用(報酬)の相場は、申述人1人あたり10〜15万円前後です。
以下は、実際の弁護士報酬の具体例です。
合計金額 (実費込み) |
内訳 | ||
---|---|---|---|
基本報酬 | その他実費・手数料等 | ||
A事務所 | 12万円弱 | 11万円 (税込) |
実費 (数千円〜 5000円程度) |
B事務所 | 14万円3000円前後 | 11万円 (税込) |
諸経費 3万円3000円 (税込) |
C事務所 | 17万6000円 | 12万1000円 (税込) |
事務手数料 5万円5000円 (税込) |
※上記の例は、本記事掲載時において、相続放棄の取り扱い件数が比較的多いと考えられる法律事務所を参考に抽出しており、これよりも低価格を実現している法律事務所も多く存在します。
※上記の合計金額は、相続放棄申述書の作成や添付書類の取得を含む金額です。
※相続放棄の手続きを期限ぎりぎりに急ぎで依頼する場合や、相続放棄の期限を過ぎてから依頼する場合には、追加料金を支払う必要があります。
※相続財産の調査を依頼する場合には、別途費用(10万〜30万円程度)がかかります。
B事務所やC事務所のように、基本報酬(「着手金」と呼ばれることもあります。)のほかに、「諸経費」や「事務手数料」などの費用(実費に手間賃が上乗せされた金額)がかかる場合もあります。
相続放棄の司法書士の費用の相場
申述人は司法書士に対して、相続放棄の必要書類の取得・作成を依頼することができます。
相続放棄の申述の手続きを依頼することはできません。
相続放棄の手続きを司法書士に依頼する場合の費用(報酬)の相場は、申述人1人あたり3万円〜5万円前後です。
以下は、実際の司法書士報酬の具体例です。
合計金額 (実費込み) |
内訳 | ||
---|---|---|---|
基本報酬 | その他実費・手数料等 | ||
a事務所 | 3万5000円前後 | 3万3000円 (税込) |
・手数料1,100円 (税込)/ 件 ・実費 (数千円〜5000円程度) |
b事務所 | 6万円前後 | 5万5000円 (税込) |
実費(数千円〜5000円程度)のみ |
c事務所 | 3万3000円 | 3万3000円 (税込) |
実費込み |
※上記の例は、本記事掲載時において、相続放棄の取り扱い件数が比較的多い司法書士を参考に抽出しています。
※相続財産の調査を依頼する場合には、別途費用(10万〜30万円程度)がかかります。
※相続放棄の手続きを期限ぎりぎりに急ぎで依頼する場合や、相続放棄の期限を過ぎてから依頼する場合には、追加料金を支払う必要があります。
相続放棄の行政書士の費用の相場
申述人は行政書士に対して、相続放棄の添付書類(戸籍謄本等)の取得のみを代行することができます。
相続放棄申述書の作成や相続放棄の申述を依頼することはできません。
戸籍謄本等の取得代行のみを行政書士に依頼する場合の費用相場は、1万円〜数万円前後(実費込み)です。
また、行政書士は相続財産の調査を行うことができ、この場合の費用相場は3万円〜15万円前後です。
法テラスを利用する場合の相続放棄の費用
法テラスの「民事法律扶助(みんじほうりつふじょ)」を利用する場合、弁護士費用の金額は法テラスの基準に基づいて決められます。
一般的な費用相場は4万円〜6万円前後です(うち実費分が1万円〜2万円)。
「法テラス」とは、全国のどこにいても法的トラブルの解決に必要な情報・サービスを得られるようにするために、国が設立した法的トラブル解決のための総合案内所です。
法テラスの「民事法律扶助」とは、経済的な余裕のない方に対して(ア)無料の法律相談と(イ)弁護士・司法書士の費用の立替払いを提供する制度のことです。
立替分の費用については、分割払いで支払うことができます。
相続放棄は弁護士に依頼するのが一番
そのため、相続放棄の手続きは弁護士に依頼するのが一番です。
弁護士は広く相続放棄の手続き全般を代行することができ、相続放棄に関する法的なアドバイスをすることもできます。
これに対して、司法書士や行政書士が代行できる手続きの範囲は法律で限定されており、また、相続放棄に関する法的なアドバイスはできません。
弁護士 | 司法書士 | 行政書士 | |
---|---|---|---|
戸籍の謄本等の取得 | ◯ | ◯ | ◯ |
相続財産の調査 | ◯ | ◯ | ◯ |
相続放棄に関する法的アドバイス | ◯ | × | × |
相続放棄の申述 | ◯ | △ | × |
債権者への対応 | ◯ | × | × |
相続トラブルの対応 | ◯ | ×(△) | × |
行政書士は基本的に相続放棄の手続きを代行できない
行政書士は裁判所へ提出する書類を作成できません。
「相続放棄申述書」は家庭裁判所に提出する書類であることから、行政書士は作成することができません。
行政書士が代行できるのは、戸籍謄本等の取得や相続財産の調査などの相続放棄の申述に必要な一部の準備のみです。
司法書士が代行できる相続放棄の手続きは限定的
相続放棄に関して、司法書士は相続放棄に関する書類(相続放棄申述書)の作成のみ代行することができ、相続放棄の申述手続きは代行できません。
したがって、相続放棄申述書を司法書士名義で作成することはできず、書類には相続放棄をする方(申述人)本人が署名・押印する必要があります。
また、相続放棄申述書を提出した後、多くの場合には家庭裁判所から申述に関する問い合わせ(照会)を受けることになりますが、司法書士は照会や回答を直接代行することができません。
家庭裁判所からの照会書・回答書は申述人宛に送付されるため、申述人は受け取った照会書・回答書を司法書士に渡して回答を作成してもらうという手間がかかります。
さらに、司法書士はそもそも相続放棄をすべきかという相談についての法的なアドバイスをすることはできません(アドバイスを行うことは違法です)。
弁護士は相続全般に関する相談・依頼に対応できる
弁護士は相続放棄の一連の手続きすべてを代行することができるだけでなく、相続問題全般に関する法的アドバイスをすることができます。
弁護士は行政書士・司法書士と異なり、そもそも相続放棄をすべきかどうか(相続放棄以外に適切な手段があるのかどうか)について、法的なアドバイスをすることができます。
また、相続放棄に関して他の相続人とトラブルになる可能性がある場合には、その対処法についてアドバイスをすることもできます。
さらに、弁護士は、相続放棄申述書の作成から家庭裁判所からの照会に対する回答書の作成までの一連の手続きを弁護士名義で行うことができるため、申述人の負担は最小限で済みます。
このように、弁護士は法律の専門家であることから、他の士業よりも相続に関して対応できる範囲が広く、相続法に関する知識もより深いといえます。
したがって、相続放棄の手続きをワンストップで相談したい・任せたいという場合や、相続放棄について広く相談したい場合、相続トラブルに巻き込まれる可能性がある場合などには、相続に強い弁護士に依頼されることを強くおすすめします。
相続放棄の費用負担を軽くするには?
法律事務所の弁護士費用を比べる
相続放棄の手続きを弁護士に依頼する場合には、複数の法律事務所から見積もりをもらって費用を比較検討することが大切です。
相続放棄の弁護士費用は一律に決まっているわけではなく、それぞれの法律事務所が自由に決めるこ
とができるためです。
「相続放棄の弁護士の費用の相場」の項目で解説したように、弁護士費用には、基本報酬(「着手金」と表示されていることもあります。)のほかに「事務手数料」などの名目で費用が上乗せされるケースがあります。
したがって、基本報酬だけを見るのではなく、最終的に支払うこととなる合計金額を確認して比較することが大切です。
もっとも、弁護士費用は安ければよいというものではないことにも注意が必要です。
弁護士にはそれぞれの専門分野があり、相続は高度の専門知識・経験を必要とする分野です。
相続問題にくわしくない弁護士に相談・依頼することによって、かえって手間がかかってしまうケースや、相続放棄が認められなくなってしまうケースもあります。
また、信頼できない弁護士や相性の悪い弁護士に依頼してしまい、依頼者がストレスを抱えてしまうケースもあります。
こうしたリスクを避けるためには、ホームページ等で相続問題に関する弁護士の実績を確認する、正式に依頼する前に法律相談を活用して信頼できる弁護士かどうかを確認する、などの対処をすることが大切です。
相続人まとめて依頼する
ほかにも相続放棄を希望する相続人がいる場合には、複数の相続人でまとめて弁護士に依頼することを検討しましょう。
同じ被相続人について他にも相続放棄をする相続人がいる場合には、2人目以降の相続人について費用の割引きをする法律事務所も多く存在します。
相続人がまとめて依頼することで、それぞれの相続人が単独で依頼する場合よりも1人あたりの費用が割安になる可能性があります。
専門家に依頼せず自分で相続放棄をする
専門家に依頼せずに自分で相続放棄の手続きをすることで、専門家に支払う費用を節約することができます。
ただし、相続放棄を自分でする場合には次のようなデメリットもあるため、注意が必要です。
- 相続放棄をしない方がよいケースで相続放棄をしてしまうリスクがある
- 裁判所に対して適切な説明をすることができず、相続放棄が認められないリスクがある
- 手続きの時間と労力がかかる
- 被相続人に借金がある場合、債権者対応も自分で行う必要がある
相続放棄をすべきかどうかを適切に判断するためには相続に関する専門知識と経験が必要であることや、相続放棄が認められない場合のデメリットが大きいことなどから、少しでも疑問や不安がある場合には、相続に強い弁護士に相談されることをおすすめします。
法テラスの利用を検討する
経済的に困難な事情がある場合には、法テラスの民事法律扶助の利用を検討しましょう。
上で解説したように、法テラスの民事法律扶助を利用する場合には通常よりも弁護士費用が安くなる傾向にあり、また、費用の分割払いをすることができます。
ただし、法テラスの民事法律扶助を利用するためには、資産や収入などの資力が一定金額以下であることが必要とされています。
また、申述人が弁護士や司法書士を自由に選べないため、相続問題にあまりくわしくない弁護士や司法書士が担当する可能性があること、利用のための審査に時間がかかること、などのデメリットもあります。
相続放棄の費用に関するQ&A
相続放棄の費用は誰が払うのですか?
もっとも、相続放棄の費用を誰が負担するのかについて法律等のルールがあるわけではなく、申述人以外が費用を負担することもできます。
例えば、すべての遺産を特定の相続人に集中させるために、他の相続人が相続放棄をするケースでは、遺産を集中的に相続する相続人が相続放棄の費用を負担することが多いようです。
相続放棄すると現金はどうなりますか?
被相続人の現金を保管・管理している場合には、他の相続人(相続人がいない場合は相続財産清算人)に引き渡す必要があります。
遺産に含まれる現金を使ってしまうと、単純承認(マイナスの遺産を含めてすべての遺産を相続することをいいます。)が成立し、相続放棄をできなくなる可能性があるため、注意が必要です。
なお、被相続人の葬儀費用や埋葬費用などについては、被相続人の現金の中から支出しても単純承認にはあたらないとされています。
被相続人の現金の取扱いについて疑問がある場合には、相続に強い弁護士に相談されることをおすすめします。
相続放棄は自分でできますか?
相続放棄の手続きを専門家に任せなければならないというルールはありません。
もっとも、相続放棄を自分でする場合には、相続放棄をすべきかどうかの判断を自力で行わなければならないこと、裁判所に対して十分な説明をできず相続放棄が認められないリスクがあること、手続きのための時間や労力がかかること、などのデメリットがあります。
後悔のない選択をするためにも、相続放棄をすべきかの判断に迷われている場合には、相続に強い弁護士に相談されることをおすすめします。
まとめ
・相続放棄にかかる費用は、①実費と②専門家に支払う費用(報酬)の2つに分けられます。
・相続放棄の手続きを自分でする場合にかかる費用は①実費のみであり、その相場は数千円〜5千円前後です。
・相続放棄の手続きを弁護士に依頼する場合の相場は10万円〜15万円前後、司法書士に依頼する場合の相場は3万円〜5万円前後です。
行政書士は相続放棄の手続きを代行することができません。
・相続放棄は遺産のすべてを引き継がないという重大な効果をもたらすものであり、また、相続放棄は高度の専門知識と経験を必要とする分野です。
そのため、「相続放棄をしておけばよかった」「相続放棄をしなければよかった」といった後悔をしないためには、相続に強い弁護士に相談・依頼されることを強くおすすめします。
・当事務所では、相続に強い弁護士で構成する「相続対策専門チーム」を設置しており、相続放棄に関するご相談はもちろんのこと、遺言書の作成、遺産分割協議、相続トラブルの解決、相続登記、相続税の申告・節税対策など、相続全般に関する幅広いご相談をうけたまわっています。
遠方の方にはオンラインでのご相談も受け付けておりますので、ぜひお気軽にご活用ください。