先日、父が亡くなり、私だけが相続人でしたが、父は生前に事業を営んでおり、多額の借金があったので相続放棄をしました。
父の遺品は処分してもいいものなのでしょうか。
相続放棄後に処分すると相続放棄が無効になると聞いたので、心配です。
遺品については、相続放棄をした者であっても一定の管理義務を負います。
そのため、相続放棄後も遺産を管理する限度で用いることはできます。
また、形見分けの程度であれば財産を自分のものとして用いても問題はありません。
しかし、財産的価値のあるものをすべて持って行ったり、自分のために使用すると、相続放棄をした後でも、単純承認したものとして扱われてしまうので注意が必要です。
相続放棄とは
相続放棄とは、相続財産を放棄することをいいます。
法律上、被相続人が亡くなったとき、相続人は亡くなった方の一切の権利義務を承継すると定められています(民法896条)。
しかし、相続人の中には、遺産相続を希望しない人もいます。
また、プラスの財産よりもマイナスの財産(借金)が明らかに大きな場合には、相続を受けない方が経済的には得策です。
そのような場合のために相続放棄という制度が用意されています。
相続人は相続放棄をすることにより、借金を負わなくてもよいことになります。
また、借金だけでなく、損害賠償責任などの責任も免れることになります。
相続放棄後に遺品はどうしたら良いのか
相続放棄後の遺品の管理義務
相続放棄をした後、誰も相続人がいなくなった場合には、その遺品をどうしたら良いのか迷うことも多いと思います。
相続放棄をした人も、他の相続人がいるか、特別縁故者が引き取るなどしない限り、その遺品については「自己の財産におけるのと同一の注意」で管理をする義務を負います。
そのため、遺品を適切に管理することが求められるのです。
第九百十八条 相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない。
(略)
引用:民法|電子政府の窓口
遺品を処分したりすることの可否
相続放棄後に、遺品を隠匿・消費などした場合には、相続放棄はなかったことになり、遺産を承継したことになってしまいます(これを「法定単純承認」といいます)。
(法定単純承認)
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
引用:民法|電子政府の窓口
そのため、管理をするにあたっても、注意が必要です。
①形見分けは隠匿か
亡くなった方の遺品を一部もらいたいということは、故人を偲ぶ気持ちとして当然あると思います。
裁判所も、ほとんど経済的価値のないものや、多少は価値があっても形見分けの程度であれば、上記の隠匿には当たらないとしています(東京地判平成12年3月21日)。
しかし、その一方、遺品の大部分を持ち帰ったり処分したりした場合には、隠匿や私に費消したことになり、法定単純承認となることがありますので、注意が必要です。
要は、社会通念に照らして、形見分けの程度かどうかが基準となるといえます。
②遺品を処分しても良いか
遺品の中には、生鮮食品などの日持ちのしない物や、ほとんど財産的価値がないものも多くあるかと思います。
生鮮食品は腐ったら処分するのは当然ですし、仮に食べたとしても私に費消したことにはならないでしょう。
また、財産的価値のない又は僅少な物で、保管に場所を取ってしまう場合や費用が多額にかかる場合などはその物を処分するのも認められるといえます。
相続放棄後の遺品の整理の判断は難しいところですが、社会通念に照らして考えることが大事です。
遺品の管理に迷った場合には、処分などをされる前に一度弁護士に相談することをおすすめします。
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