「相続放棄申述受理証明書」とは、家庭裁判所が相続放棄の申述が受理されたことを公的に証明してくれる書類のことです。
相続放棄申述受理証明書は、家庭裁判所に申請することによって取得することができます。
この記事では、相続放棄申述受理証明書が必要になるのはどのようなケースか、どのようにして取得するのか等について、相続にくわしい弁護士がわかりやすく解説します。
目次
相続放棄申述受理証明書とは?
「相続放棄申述受理証明書」とは、相続放棄の申述が受理されたこと(認められたこと)を家庭裁判所が公的に証明する書類のことです。
そもそも「相続放棄」とは、相続になる可能性のある人が、被相続人(亡くなった方のことです。)の遺産を一切引き継がないことをいいます。
相続放棄をすると「初めから相続人とならなかった」ものとして扱われる(民法第839条)こととなり、プラスの遺産(不動産、預貯金、自動車、美術品など)もマイナスの遺産(借金・ローン・未払金など)も一切引き継ぐことはありません。
相続放棄をするためには、家庭裁判所に対する申述(申立て)をして認められる(受理される)ことが必要です。
相続放棄の申述は一人で行うことができ、また、相続放棄の申述が受理された事実が世間に公表されることはありません。
そのため、相続放棄の手続きをされた方(「申述人」といいます。)以外の第三者は、本当に相続放棄が認められたかどうかを確認するために、「相続放棄申述受理証明書」の提出を求めることがあります。
このように、相続放棄申述受理証明書は、特定の人について相続放棄の申述が受理されたことを第三者に証明するために利用されます。
相続放棄申述受理証明書が必要となるケースについては、後ほどくわしく解説します。
相続放棄申述受理証明書と相続放棄申述受理通知書との違い
相続放棄申述受理証明書とよく似たものとして、「相続放棄申述受理通知書」があります。
「相続放棄申述受理通知書」とは、家庭裁判所が相続放棄の申述人に対して、相続放棄が受理されたことを通知する(知らせる)ための書類です。
相続放棄申述受理証明書と相続放棄申述受理通知書は、「相続放棄の申述が受理された」という内容が記載されている点で共通していますが、以下のような違いがあります。
相続放棄申述受理証明書 | 相続放棄申述受理通知書 | |
---|---|---|
書類の目的 | 相続放棄の申述が受理されたことを公的に証明する | 相続放棄の申述が受理されたことを申述人に知らせる |
取得方法 | 家庭裁判所への申請が必要 | 家庭裁判所から自動的に郵送される(申請不要) |
交付対象者 | 相続放棄の申述人本人と利害関係人(他の相続人、債権者、受遺者等) | 相続放棄の申述人本人のみ |
取得費用 | 1通につき150円 | 無料(相続放棄申述の費用に含まれます。) |
再発行の可否 | 再発行可 | 再発行不可 |
相続登記への利用 | 利用可 | 利用可 |
取得方法
「相続放棄申述受理証明書」の発行を希望する場合には、家庭裁判所に対して交付申請をする必要があります。
これに対して、「相続放棄申述受理通知書」は、相続放棄の申述の受理後に家庭裁判所から相続放棄の申述人に自動で郵送されるため、交付申請は不要です。
交付対象者
「相続放棄申述受理証明書」は、相続放棄の申述人本人のほか、申述人以外の相続人(共同相続人)、債権者、受遺者等、被相続人に関係のある人(利害関係人)が交付を受けることができます。
これに対して、「相続放棄申述受理通知書」の交付を受けることができるのは、相続放棄の申述人本人のみです。
取得費用
「相続放棄申述受理証明書」の取得費用は、申述人 1 人の証明書1通につき150円で、家庭裁判所に同額の収入印紙を購入して納付する必要があります。
これに対して、「相続放棄申述受理通知書」を取得する際に追加の費用はかかりません(相続放棄申述の費用に含まれるため)。
再発行の可否
「相続放棄申述受理証明書」は再発行が可能です。
何度でも、何枚でも再発行してもらうことができます。
これに対して、「相続放棄申述受理通知書」は再発行ができません。
「相続放棄申述受理通知書」が送付されるのは一度のみであり、紛失した場合には再発行を受けることができません。
「相続放棄申述受理通知書」を紛失してしまった場合には、「相続放棄申述受理証明書」の発行を受けて対応する必要があります。
相続登記への利用
現在では「相続放棄申述受理証明書」と「相続放棄申述受理通知書」のどちらも相続登記に利用できます。
かつては、相続した不動産の相続登記(不動産の名義を被相続人から相続人に変更する手続きのことです。)の際に利用できるのは「相続放棄申述受理証明書」のみであり、「相続放棄申述受理通知書」を利用することはできませんでした。
しかし、現在では取り扱いが変わり、「相続放棄申述受理通知書」に「相続放棄申述受理証明書」と同等の内容が記載されている場合であれば、「相続放棄申述受理通知書」を相続登記に利用できることになりました(記載に不足がある場合は相続放棄申述受理証明書を取得する必要があります)。
相続放棄申述受理証明書が必要なケースとは?
相続放棄申述受理証明書が必要となるのは、次のようなケースです。
相続債権者に提出するケース
相続放棄をした方(申述人)本人が、相続債権者に借金等の支払義務がないことを証明するために、相続放棄申述受理証明書を提出することがあります。
「相続債権者」とは、相続人に対して、被相続人の借金やローン、被相続人の未払金・税金等(債務)の支払いを請求できる人のことです。
被相続人に借金やローン、未払金等の債務がある場合、それらの被相続人の債務は、相続人が相続放棄をしない限り、自動的に分割されてそれぞれの相続人に引き継がれます。
したがって、被相続人の債務を引き継ぎたくない場合には、相続放棄の申述をすることになります。
相続放棄の申述が認められる(受理される)と、相続放棄の申述人はそもそも「相続人」にあたらなくなるため、相続債権者は申述人に被相続人の債務の支払いを請求することができなくなります。
もっとも、相続放棄の事実が相続債権者に通知されたり世間に公表されたりすることはないため、相続債権者は事情を知らずに、申述人に債務の支払いを求めることがあります。
多くのケースでは、申述人が相続債権者に「相続放棄申述受理通知書」の原本を見せたり、その写し(コピー等)を提出したりすることで、支払いの請求がストップします。
もっとも、一部の相続債権者は、「相続放棄申述受理通知書」では足りず「相続放棄申述受理証明書」の提出が必要であるとする場合があります。
そのような場合には、「相続放棄申述受理証明書」を提出することになります。
なお、相続債権者は、「利害関係人」として自分自身で家庭裁判所に「相続放棄申述受理証明書」の交付を請求することもできます。
相続放棄申述受理証明書の取得方法については、後ほどくわしく解説します。
他の相続人や受遺者が法務局に提出するケース
被相続人の不動産を相続(取得)した相続人・受遺者は、他に相続放棄をした方がいる場合、法務局で相続登記の手続きをする際に、「相続放棄申述受理証明書」または「相続放棄申述受理通知書」(の写し)を提出する必要があります。
「相続登記」とは、相続した不動産の名義人(法務局に保管されていてる「登記簿」に記載されている名義人のことです。)を被相続人から相続人に変更する手続きのことです。
相続登記の申請をする際には、法務局に対して所定の必要書類や手数料等を提出・納付する必要があります。
相続放棄をした方がいる場合には、一般的な必要書類に加えて相続放棄申述受理証明書または相続放棄申述受理通知書(の写し)の提出を求められることになります。
不動産を相続(取得)した相続人・受遺者は、相続放棄をした申述人本人に依頼して「相続放棄申述受理通知書」(の写し)をもらうのがもっとも簡便です。
もっとも、申述人がこれに応じてくれないケースや、申述人がすでに通知書を紛失してしまっているケースもあります。
そのような場合には、「利害関係人」として自分自身で家庭裁判所に交付申請することにより、「相続放棄申述受理証明書」を取得することができます。
他の相続人や受遺者が金融機関に提出するケース
被相続人の預貯金や株式等を相続(取得)した相続人・受遺者は、他に相続放棄をした方がいる場合、金融機関で解約・名義変更の手続きをする際に、「相続放棄申述受理証明書」または「相続放棄申述受理通知書」(の写し)を提出する必要があります。
相続放棄をした方がいる場合には、一般的な必要書類に加えて相続放棄申述受理証明書または相続放棄申述受理通知書(の写し)の提出を求められることになります。
金融機関によっては「相続放棄申述受理証明書」の提出を必須とする場合もありますので、事前に各金融機関に問い合わせをして必要書類を確認されることをおすすめします。
相続放棄通知書を紛失してしまったケース
すでに解説したように、「相続放棄申述受理通知書」は1通しか発行されず、また、紛失した場合には再発行を受けることができません。
そのため、「相続放棄申述受理通知書」または「相続放棄申述受理証明書」のいずれかを提出する必要があるケースで、「相続放棄申述受理通知書」を紛失してしまった場合には、「相続放棄申述受理証明書」を取得する必要があります。
また、複数の先(債権者等)に「相続放棄申述受理通知書」または「相続放棄申述受理証明書」の原本を提出する必要がある場合にも、「相続放棄申述受理証明書」を取得する必要があります。
相続放棄申述受理証明書の取得方法とは?
相続放棄申述受理証明書を取得するためには、家庭裁判所に交付申請をする必要があります。
交付申請の際には、所定の必要書類等を提出する必要がありますが、その内容は誰が交付申請をするかによって異なります。
以下では、相続放棄をした本人が申請する場合とそれ以外の利害関係人が申請する場合に分けて解説します。
相続放棄した本人が申請する場合
相続放棄をした申述人本人が相続放棄申述受理証明書の交付申請をする場合には、次のような方法で行います。
申請先・申請方法
相続放棄申述受理証明書の交付申請は、相続放棄の申述が受理された家庭裁判所、つまり、被相続人の最後の住所があった区域を管轄(担当)する家庭裁判所に必要書類等を提出して行います。
裁判所の管轄(担当)区域はこちらで確認することができます。
参考:裁判所の管轄区域
申請方法は、必要書類等を裁判所の窓口に直接持参して提出する方法と、郵送で提出する方法の2つがあります。
必要な書類等
申述人本人が申請する場合には、申請時に以下のものを提出する必要があります。
必要書類等 | 備考 |
---|---|
相続放棄申述受理証明申請書 |
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申述人本人の身分証明書 |
|
収入印紙 |
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相続放棄申述受理通知書 |
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返信用封筒・返信用切手 |
|
必要な費用
申述人本人が交付申請する場合の費用は、証明書1通あたり300円〜500円程度です。
相続放棄申述受理証明書の発行手数料を収入印紙で納付する必要があります。
証明書1枚につき150円がかかります。
例えば、証明書を3枚申請する場合は450円分の収入印紙が必要です。
相続放棄申述受理証明申請書には通常、収入印紙の貼付欄が設けられています。
相続放棄申述受理証明書を郵送で受領する場合、返信用の郵便切手をあらかじめ納付する必要があります。
切手代は申請する枚数によって異なりますが、10枚までは110円です。
※申請先の家庭裁判所によって取り扱いが異なる場合があります。
利害関係人が申請する場合
申述人本人だけでなく、一定の被相続人とつながりのある人(利害関係人)も相続放棄申述受理証明書の交付申請をすることができます。
「利害関係人」には以下のような人が含まれます。
- 共同相続人:相続放棄をしていない他の相続人のことです。
- 相続債権者:被相続人の借金やローン、未払金等の債務の支払いを相続人に請求できる人のことです。
- 受遺者:被相続人の遺言書によって遺産を受け取る人のことです(法人も含まれます)。
利害関係人が相続放棄申述受理証明書の交付申請をする場合の手続きは次のとおりです。
申請先・申請方法
必要書類等の提出先は、申述人本人が申請する場合と同じで、相続放棄の申述が受理された家庭裁判所(被相続人の最後の住所があった区域を管轄する家庭裁判所)です。
必要な書類等
利害関係人が申請する場合、申請時に以下のものを提出する必要があります。
必要書類等 | 備考 |
---|---|
相続放棄申述受理証明申請書 |
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申請者(利害関係人)の住民票の写し |
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被相続人と申請者の利害関係を証明する資料 |
|
収入印紙 | 発行手数料として、申請する通数分の収入印紙が必要 |
返信用封筒・返信用切手 | 郵送で受け取る場合のみ必要 |
※弁護士に手続きを依頼する場合には、弁護士への委任状が必要です。
※相続放棄申述受理証明書を窓口で受け取る場合には、受取時に利害関係人の身分証明書(運転免許証、マイナンバーカード、パスポート等)と認印(受領印)を持参する必要があります。
※必要書類等の内容は申請先の裁判所によって異なる場合があります。
また、状況によって追加資料の提出を求められることがあります。
必要な費用
利害関係人が申請する場合の申請費用の相場は、証明書1通あたり500円〜1000円程度です。
利害関係人が申請する場合には、住民票の写しや戸籍謄本等の提出が必要になることがあり、これらの書類の取得費用が加算されます。
具体的には、住民票は1通300円程度、戸籍謄本は1通450円程度、除籍謄本は1通750円程度、資格証明書は1通600円程度の取得費用(発行手数料)がかかります。
※各市区町村や書類の取得方法等によって金額は前後します。
相続放棄申述受理証明申請書の書き方とダウンロード
相続放棄申述受理証明申請書の書式は、申請先の裁判所によって異なります。
以下は、東京家庭裁判所の申請書の記載例です。
相続放棄申述受理証明申請書は、申述人に送付される相続放棄申述受理通知書と同封されていることがあります。
また、申請書の書式は提出先(管轄)の各家庭裁判所のホームページからダウンロードして印刷することができます。
東京家庭裁判所の場合は、以下のページからダウンロードすることができます。
参考:各種申請書式|裁判所
申請先の家庭裁判所
相続放棄申述受理証明書の申請先となる家庭裁判所を記入します。
収入印紙
相続放棄申述受理証明申請書には、収入印紙を貼付する欄が設けられているケースがほとんどです。
この欄に申請する通数分の収入印紙を貼付します。
なお、収入印紙には消印をしてはいけません。
事件番号
相続放棄申述受理証明申請書には「事件番号」を記入する欄があります。
「事件番号」とは、裁判所がそれぞれの事件(相続放棄の申述)を区別して管理するために付与する番号のことで、「令和◯年(家△)第 ××××号」のような形で表記されます。
事件番号は「相続放棄申述受理通知書」に記載されています。
必要な通数
必要な相続放棄申述受理証明申請書の通数を記入します。
必要な通数に応じて、貼付する収入印紙の金額が変わります。
申請年月日・氏名等
申請年月日、氏名、連絡先を記入し、印鑑を押します。
印鑑は認印で問題ありません。
相続放棄申述受理証明書を取得する際の注意点
交付申請をするためには事件番号が必要
相続放棄受理証明申請書の交付申請をする際には、「相続放棄受理証明申請書」に事件番号を記載する必要があります。
事件番号がわからないと申請を受け付けてもらえません。
事件番号は「相続放棄申述受理通知書」に記載されていますので、相続放棄の申述人本人は通知書で確認することができます。
事件番号がわからない場合はどうしたらいい?
申述人本人が「相続放棄申述受理通知書」を紛失してしまった場合や、利害関係人が申請するにあたり申述人本人の協力が得られない場合など、事件番号がわからない場合には、「相続放棄・限定承認の申述の有無の照会」をして事件番号を調べることができます。
「相続放棄・限定承認の申述の有無の照会」とは、特定の相続人が相続放棄や限定承認の申述をしたかどうかを家庭裁判所に問い合わせる手続きのことです。
家庭裁判所に必要書類を提出して照会を行います(費用は無料です)。
相続放棄または限定承認の申述があった場合には、家庭裁判所から事件番号や受理年月日等が書面で回答されます。
相続放棄申述受理証明書の即日発行はできない
家庭裁判所の窓口で交付申請をする場合でも、申請した当日に相続放棄受理証明申請書を交付してもらうこと(即日発行)はできません。
相続放棄申述受理証明書の発行には裁判官の許可が必要とされるためです。
相続放棄申述受理証明書を申請できるのは30年以内
相続放棄申述受理証明書についての申請期限は特に定められていませんが、相続放棄に関する書類の保存期間は30年と定められています。
したがって、相続放棄の申述から30年を経過すると、申述に関する資料(事件番号や受理年月日等が記載された記録等)が処分されてしまう可能性があり、「相続放棄申述受理証明書」の発行を受けることができなくなってしまいます。
相続放棄申述受理証明書についてのQ&A
相続放棄申述受理証明書はどこでもらえる?
なお、この記事で説明してきたように、相続放棄申述受理証明書は無料でもらえるものではありません。
証明書1通あたり150円の発行手数料を収入印紙で納める必要があり、また、必要書類を提出して申請する必要があります。
相続放棄申述受理証明書は取得まで何日かかる?
郵送で申請する場合には、さらに申請書を発送してから裁判所に到着するまでの日数(1日〜3日程度)がかかります。
混雑状況によってはさらに時間がかかる場合もありますので、心配な場合は申請先の家庭裁判所にお問い合わせください。
まとめ
- 「相続放棄申述受理証明書」とは、特定の人について相続放棄の申述が受理されたことを家庭裁判所が公的に証明する書類のことです。
- 「相続放棄申述受理証明書」は、相続放棄の申述人本人が、相続債権者に対して債務等の支払義務がないことを証明するために提出されることがあります。
また、相続放棄をせずに遺産を相続する相続人が、不動産の相続登記や預貯金・株式等の解約・名義変更といった相続手続きをする際に、法務局や金融機関から「相続放棄申述受理証明書」の提出を求められることがあります。 - 相続放棄申述受理証明書は、家庭裁判所に交付申請することによって何度でも何枚でも、取得することができます(ただし、手数料がかかります)。
- 交付申請の際には、それぞれの相続放棄の申述について割り振られた「事件番号」を記載する必要があります。
事件番号がわからない場合には、申請前に家庭裁判所に「相続放棄・限定承認の申述の有無の照会」をする必要があります。 - 相続放棄は相続に関する高度の専門知識と経験が必要とされる分野です。
相続放棄について少しでもわからないことや不安なことがある場合には、トラブルに巻き込まれることを避けるためにも、相続問題に強い弁護士に相談されることを強くおすすめします。
当事務所では、相続に強い弁護士で構成する「相続対策専門チーム」が相続に関する幅広いご相談に対応させていただきます。
相続放棄に関するご相談はもちろん、遺産や相続人の調査、遺言書の作成、遺産分割協議、相続トラブル、相続登記、相続税の申告・節税対策など、相続全般のご相談に対応することができます。
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