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相続放棄照会書とは、相続放棄の申述をした後、家庭裁判所から送付されてくる書類のことです。
相続放棄の申述をした方(「申述人」といいます。)が本当に自分の意思で相続放棄の申述をしたのかを確認することを目的としています。
この記事では、相続放棄照会書の内容と目的、照会書に対する回答の書き方や注意点などについて、相続にくわしい弁護士がわかりやすく解説します。
相続放棄照会書とは?
「相続放棄照会書(そうぞくほうきしょうかいしょ)」とは、相続放棄の申述をした後、家庭裁判所から申述人宛に送付される書類のことをいいます。
そもそも「相続放棄」とは、被相続人(亡くなった方のことです。)の遺産を一切引き継がないこと(相続を辞退すること)をいいます。
相続放棄をするためには、家庭裁判所に申述(申立て)をして受理される(認められる)ことが必要です。
「相続放棄照会書」は相続放棄の申述後、家庭裁判所が申述の受理を判断する前に送付されます。
なお、相続放棄照会書は必ず送付されるとは限らず、家庭裁判所の判断によっては送付されないこともあります。
相続放棄照会書の目的
相続放棄照会書の主な目的は、申述人に相続放棄の意思があることを確認することです。
相続放棄をすると、被相続人の遺産を一切引き継がない(相続権を失う・辞退する)という重大な効果が発生します。
また、原則として一度した相続放棄の撤回や取消しは認められません。
そのため、家庭裁判所は相続放棄の申述を受け付けた後、相続放棄の申述人が本当に自分の意思で申述をしたのか、相続放棄をする意思に変わりはないか、を慎重に確認するために照会書を送付します。
「相続放棄の申述の有無についての照会書」との違い
「相続放棄照会書」と名前が似ている書類に「相続放棄の申述の有無についての照会書」があります。
名前は似ているものの、両者のそれぞれの役割(目的)や内容は異なります。
「相続放棄の申述の有無についての照会書」とは、他の相続人や相続債権者などの利害関係人が作成する書類で、家庭裁判所に対してある相続人が相続放棄の申述をしたかどうかを問い合わせる際に提出するものです。
相続放棄の申述がされている場合には、家庭裁判所から利害関係人に対して事件番号(裁判所がそれぞれの相続放棄申述を区別して管理するための番号のことです。)や受理年月日が通知され、相続放棄の申述がされていない場合にはその旨の証明書が交付されます。
両者の違いを表にまとめると次のようになります。
相続放棄照会書 | 相続放棄の申述の有無についての照会書 | |
---|---|---|
書類の作成者 | 家庭裁判所 | 相続人の利害関係人(他の相続人・相続債権者等) |
書類の交付先 | 相続放棄の申述人 | 家庭裁判所 |
目的 | 申述人に相続放棄の意思があることを確認するため | ある相続人が相続放棄の申述をしたかどうかを確認するため |
相続放棄照会書のサンプル
まずはイメージをつかんでいただくために、相続放棄照会書のサンプルをご覧ください。
ここでは、以下のようなケースについての信託契約書のひな形を掲載しています。
相続放棄照会書のフォーマットや内容はそれぞれの裁判所によって異なります。
上のサンプルのように、「照会書」が「回答書」と一体化しているものもあれば、別の用紙にわかれているものもあります。
また、照会(質問)の内容も各裁判所によってさまざまです。
なお、相続放棄照会書は「△△家庭裁判所」といった裁判所の名称ではなく、「甲野 太郎」のように家庭裁判所職員の個人名で送付されるケースもありますので、誤って破棄しないように注意しましょう。
回答書の記入例と書き方
相続放棄照会書が送付されてきたら、指定された期限内に「回答書」を作成して家庭裁判所に返送する必要があります。
回答書の記入例
以下は回答書の記入例です。
このサンプル(記入例)では、被相続人の遺産を処分、隠匿または消費したことがあるかどうかについての質問とそれに対する回答が記載されていますが、裁判所によってはより多くの事項に関する質問に回答しなければならないケースもあります。
回答書の書き方と注意点
一般的に照会書(兼回答書)で質問されることが多い事項として、以下のようなものがあります。
回答書の書き方と注意点(共通)
大前提として、回答書は嘘をつかずに正直に記入する必要があります。
後に嘘が判明すると、相続放棄が無効とされる可能性があることから、正直に回答しましょう。
提出済みの相続放棄申述書の内容と矛盾のない回答をすることが大切です。
矛盾する回答によって混乱を招いたり、相続放棄が申述人の真意にもとづくものではないと判断されたりするおそれがあります。
相続放棄申述書の提出前に、そのコピーを取っておくことをおすすめします。
照会(質問)の趣旨をよく理解した上で回答しましょう。
趣旨を誤解して回答することによって相続放棄が認められなくなる可能性もあることから、注意して回答することが大切です。
以下では、よくある質問の趣旨と回答の注意点について個別に解説します。
被相続人が亡くなったことを知った日
相続放棄は自分のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に行う必要があり(これを「熟慮期間(じゅくりょきかん)」といいます。)、正当な理由なく熟慮期間を過ぎて行われた相続放棄の申述は認められない(受理されない)可能性があります。
自分のために相続の開始があったことを知った時とは、①相続人が亡くなったこと、②自分が相続人になること、の両方の事実を知った時を指します。
「被相続人が亡くなったことを知った日」についての質問は、相続放棄の期間(を過ぎていないか)に関わるものであることから、記憶に基づいて正確に記入する必要があります。
被相続人が実際に亡くなった日からそれを知るまでに時間がかかっている場合(日数の開きがある場合)には、時間がかかった理由について追加で質問を受けることがあります。
自分の意思で相続放棄の申述をしたか・相続放棄の意思に変わりはな
いか
相続放棄が申述人の真意によるものかを確認するための質問です。
被相続人が膨大な遺産を残して亡くなった場合には、相続人同士のトラブルが発生しやすい傾向にあり、他の相続人が勝手に相続放棄の申述の手続きをしてしまうリスクや、利害関係人が申述人を脅して相続放棄の申述を強要するなどのリスクがあります。
こうしたリスクを回避するために、家庭裁判所は相続放棄の申述を受けた後、改めて照会書を申述人本人に送付して相続放棄の意思を確認することがあります。
相続放棄をする理由
上記と同様に、相続放棄が申述人の真意によるものかを確認するための質問です。
申述人の真意による相続放棄であれば、どのような理由であっても相続放棄は認められます(相続放棄の理由に制限はありません)。
もっとも、「他の相続人から指示されたため」などの不自然な理由が記載されている場合には、申述人本人の真意によるものではないリスクがあるため、さらなる調査が行われたり、申述が不受理とされたりする可能性があります。
遺産を処分・隠匿・消費したことはあるか(ある場合は具体的な内容)
相続放棄が認められない、または無効になる事情がないか(単純承認の成立)を確認するための質問です。
それぞれ、遺産の「処分」とは遺産の状態や性質を変える行為を、遺産の「隠匿(いんとく)」とは遺産のありかをわからなくする行為を、遺産の「消費」とは遺産を使い込む行為を、意味します。
これらはいずれも、本当に遺産の相続放棄をする意思のある人であれば通常は行わない行為です。
そこで、民法はこれらの行為をした場合には、単純承認をした(一切の遺産を引き継ぐ)ものとして扱うこととしています。
誤って「処分したことがある」といった回答をすると、相続放棄が認められなくなる可能性があるため、注意が必要です。
なお、遺産の一部を被相続人の葬儀費用や埋葬費用にあてる場合など、遺産の使い方によっては単純承認が成立しないとされることもあり、その場合に相続放棄が認められなくなることはありません。
「処分」や「消費」にあたるかどうかは状況によって異なりますので、少しでも疑問や不安がある場合には、相続にくわしい弁護士に相談されることをおすすめします。
相続放棄申述の流れ
相続放棄申述は、次のような流れで行います。
1 相続の開始
被相続人が亡くなると相続が始まります。
相続放棄の申述は、自分のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に行う必要があります。
2 遺産(相続財産)の調査
相続放棄をすべきかどうかの判断をするためには、まずは被相続人の遺産(相続財産)にどのようなものがあるのかを調査することが必要です。
遺産には不動産や預貯金、自動車などの遺産(プラスの遺産)だけでなく、借金やローン、未払金などのマイナスの遺産も含まれることから、どちらについても漏れなく洗い出すことが大切です。
被相続人のマイナスの遺産がプラスの遺産を大きく上回っている場合(債務超過の場合)には、相続放棄を検討することになります。
後悔のない判断をするためには、遺産の調査をしっかりと行うことが大切です。
3 相続放棄の検討
遺産の調査が完了したら、相続放棄をするかどうかを検討します。
相続放棄のほかには、単純承認(被相続人の一切の遺産を条件なしに引き継ぐことをいいます。)、限定承認(被相続人のプラスの遺産がマイナスの遺産を上回る限度で引き継ぐことをいいます。)という2つの選択肢があります。
単純承認・限定承認・相続放棄にはそれぞれメリット・デメリットがあることから、それらを十分に比較・検討したうえで判断することが大切です。
4 必要書類等の準備
相続放棄を選択をした場合には、相続放棄の申述に必要な書類等の準備をします。
具体的には、「相続放棄申述書」という書類を作成したり、戸籍謄本等の書類を市区町村役場から取り寄せたりします。
5 相続放棄の申述
相続放棄をするためには、被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所に必要書類を提出して申述(申立て)を行います。
申述先となる家庭裁判所の管轄(担当区域)はこちらで調べることができます。
6 家庭裁判所からの照会
多くのケースでは、相続放棄の申述をしてから1〜2週間後に家庭裁判所から「相続放棄照会書」が送付されます。
2週間以上経過しても照会書が届かない場合には、念のため家庭裁判所に問い合わせをされることをおすすめします。
照会に対する回答
通常は「相続放棄照会書」とともに「回答書」が同封されています(サンプルのように照会書と回答書が一体化しているケースが多いです。)。
必ず定められた期限までに回答を作成して返送しましょう。
回答書の書き方や注意点については、上で解説したとおりです。
7 相続放申述受理書の受領( 手続き完了)
相続放棄が認められた場合には、回答書を返送してから1〜2週間程度で「相続放棄申述受理通知書」が届き、相続放棄の手続きは完了となります。
なお、相続放棄の申述は必ず受理されるものではなく、受理されないこともあります。
受理されなかった場合には、「相続放棄申述不受理通知書」が届きます。
不受理の結果について不服がある場合には、すぐに「即時抗告」という不服申立ての手続きをします。
相続放棄で失敗しないために
相続放棄について少しでも迷われる場合、わからないことがある場合には、相続問題に強い弁護士に相談されることを強くおすすめします。
相続放棄にはメリット・デメリットがあり、相続放棄をすべき場合かどうかは個々の具体的なケースによって異なります。
また、相続放棄は高度の専門知識が必要となる分野であり、一般の方が正しい知識にもとづいて正しい判断をすることはなかなかハードルが高いといえます。
相続放棄照会書の書き方1つをとっても、ここまで解説してきたように様々な注意点があります。
相続放棄は一度受理されると撤回や取消しが認められないことから、後悔のない判断をするために、相続法の専門家である弁護士に相談するのがおすすめです。
相続放棄照会書についてQ&A
相続放棄の照会書が来ない場合どうすればいいですか?
2週間以上たっても照会書が届かない場合には、手続きした家庭裁判所の窓口に問い合わせをしてみましょう。
なお、相続放棄の照会書は家庭裁判所から必ず送付されるものではありません。
家庭裁判所が「相続放棄申述書」の内容だけで相続放棄の意思を確認できると判断した場合には、照会書は送付されないことがあります。
郵便事故により届かない可能性もゼロではないことから、念のため問い合わせをすることをおすすめします。
相続放棄申立後に照会書が届くのはなぜですか?
他の相続人が本人に無断で相続放棄の申立て(申述)をしているリスクや、申述人が他の相続人から脅されて無理やり相続放棄の申立て(申述)をしているリスクがあるためです。
相続放棄は一切の遺産を引き継がない(相続権を失う)という重大な効果をもたらすことから、家庭裁判所は慎重に確認することとしています。
相続放棄の照会書は省略できますか?
先に提出している「相続放棄申述書」の内容から、申述人の真意で相続放棄の申述が行われていることを十分に確認できる場合には、相続放棄の照会書を送付することなく申述を受理することがあります。
なお、相続放棄の照会書を申述人側の判断で省略する(返送しない)ことはできません。
返送しない場合には相続放棄の申述が受理されないリスクがあるため、必ず指定された期間内に返送するようにしましょう。
まとめ
- 相続放棄照会書とは、家庭裁判所に相続放棄の申述をした後、家庭裁判所から申述人宛に送付される書類です。
相続放棄照会書は、相続放棄の申述が申述人の真意にもとづくものであることを確認するために送付されます。 - 相続放棄照会書に記載されている質問は、それぞれの家庭裁判所によって異なります。
一般的には、被相続人が亡くなったことを知った日、自分の意思で相続放棄の申述をしたか、相続放棄の意思に変わりはないか、相続放棄をする理由、遺産を処分等したことがあるか、等の質問が行われることが多いようです。 - 照会書に対する回答方法を誤ると、別途調査が必要となって手続き完了までにかかる時間が長くなるリスクや、相続放棄の申述が受理されないなどのリスクがあります。
- 相続放棄は被相続人の遺産を一切引き継がないという重大な効果をもたらすことから、相続放棄について疑問や不安がある場合には、相続に強い弁護士に相談されることを強くおすすめします。
「相続放棄をしなければよかった」と後悔するケースや、相続放棄をきっかけに相続人同士のトラブルに巻き込まれるケースも少なくないためです。 - 当事務所では、相続に強い弁護士で構成する「相続対策専門チーム」を設置しています。
相続放棄照会書の書き方や相続放棄の手続きはもちろんのこと、遺言書の書き方、遺産分割協議、相続トラブルの解決、相続登記、相続税の申告・節税対策など、相続全般にかかわる幅広いご相談に対応しておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。