相続放棄をした場合でも、生命保険金や死亡退職金がある場合には、遺贈を受けたものとして相続税の課税があります。
ただし、配偶者の場合には、「配偶者に対する相続税額の軽減」を用いることができますので、1億6000万円までは相続税がかかりません。
しかし、相続税額の軽減を受けるためには必ず相続税の申告が必要となりますので、注意が必要です。
相続放棄とは
相続放棄とは、相続人が自らの意思で、亡くなった方の財産を承継することをしない(相続人ではなくなる)という意思表示です。
これは、原則としては被相続人が亡くなってから 3か月以内に家庭裁判所に申述という申し立てをしないと認められません。
根拠条文
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。
引用元:民法|電子政府の窓口
しばしば、「私は、他の相続人に相続はしないとはっきり言ってある」、という方がいますが、家庭裁判所への申述をしないと、単純承認、つまりプラスの財産だけではなく、マイナスの財産も負担することとなりますので、注意が必要です。
以下でお話しする税金については、家庭裁判所での相続放棄の申述をした場合のことですので、その点には留意ください。
相続放棄した場合は税金の申告は必要ない?
相談事例
先日、夫Yが亡くなり、配偶者である私Aが相続人となりました。
Yがかけていた生命保険金を 1億円ほど受け取れたのですが、一方で借金が多額にあったので、相続放棄をしました。
相続放棄をした場合には、税金は申告しなくて良いと聞きました。
私の場合も申告しなくて大丈夫でしょうか?
相続税について
相続を放棄したという場合、放棄したのだから課税はないと思っている方が少なくないと思います。
相続放棄をして、他に亡くなった方から何も受け取っていない場合には、確かに相続税は課されません。
しかし、相続税の対象には、生命保険金や死亡退職金なども含まれますので、これらを受け取った人は、相続放棄をしたとしても相続税が課されることになるのです。
これを「みなし相続財産」と呼んでいます。
また、相続放棄をした場合は、相続人ではなくなるため、相続人しか受けることのできない生命保険金や死亡退職金の「非課税の特例」が受けられませんので、この点も注意が必要です。
なお、相続税の基礎控除は、「3000万円+600万円×法定相続人の数」ですが、この相続人の数には、相続放棄をした人も含まれます。
そのため、本件で言えば、Aさんが相続放棄をしたとしても、600万円の追加分の基礎控除は失われず、3600万円の基礎控除額があることになります。
Aさんはどうすればよいか
Aさんは、このままだと 1億円の遺贈を受けたものとして、相続税が課されます。
この場合の相続税額は、1億円から 3000万円 + 600万円 × 1を控除した 6400万円が相続税の対象となります。
これに相続税率 30%をかけて、700万円を控除したものが相続税となります。
計算
1億円(相続財産)- 3600万円(基礎控除)= 6400万円
6400万円 × 30%(税率)- 700万円(控除額)= 1220万円
計算すると、上記のとおり 1220万円となりますから、かなり高額な税金を支払うことになってしまいます。
しかし、Aさんは被相続人の配偶者ですから、「配偶者に対する相続税額の軽減」という特例を用いることができますので、1億6000万円までは相続税がかからず、1億円の生命保険金であれば、相続税は課されないことになります。
もっとも、この特例は相続税の申告をしないと適用を受けられませんので、必ず相続税の申告をしましょう。
相続では、法的問題以外にも租税の問題や、その他の周辺分野の問題が生じることがしばしばあり、複雑な分野です。
当事務所では、税理士登録もした弁護士が、法的問題以外にも適切にアドバイスをしますので、まずは気軽にお問い合わせください。