- 相続分を譲渡したら贈与税がかかりますか?
- 相続分をもらったら税金を支払う必要がありますか?
- 相続分の譲渡の際に対価をもらったらどうなりますか?
デイライト法律事務所の相続対策チームには、このような相続分の譲渡に関するご相談が多く寄せられています。
以下、具体的な相談事例をもとに解説しますので、参考にされてください。
相談事例 相続分の譲渡に関する相談
先日、父Yが亡くなり、私A、兄B、弟Cが相続人となりました。
私は、BやCと関わりたくなかったので、私の相続分は亡くなった父と仲の良かった叔母Xに譲渡することにしました。
しかし、相続分を譲渡した後、相続税や贈与税がかかるという話を聞き、不安です。
私に税金が課されるのでしょうか?
相談者Aさんには、贈与税はかかりません。
しかし、叔母Xさんには贈与税が課税され、相談者Aさんには相続税が課される可能性があります。
加えて、相談者Aさんが叔母Xさんから何か対価をもらっているような場合には、譲渡所得が生じる可能性がありますので、注意が必要です。
相続分の譲渡とは
相続分の譲渡とは、相続人が有している相続人としての地位を、他の人に譲渡することです。
もう少し簡単に言えば、「亡くなった人の遺産を相続できる権利を、他の人にあげることができる」ということです。
相続分の譲渡をすると、プラスの財産だけではなく、マイナスの財産、つまり負債も譲渡を受けた人に移転することになります。
しかし、移転するとはいっても、債権者、つまり負債が借金だとすれば、お金を貸している人に対しては、自分は相続分の譲渡をしたので、借金は払いませんとは言えません。
相続分を譲渡して何ももらえないのに借金だけ負うのかと思うかもしれませんが、お金を貸している人に対して支払った金額は、相続分の譲渡を受けた人に対して請求することができます。
相続分の譲渡をした場合に、不動産の登記をしたりするためには、相続分の譲渡をしたことの証明書もしくは遺産分割協議書を作成することが必要となりますので、注意が必要となります。
なお、相続分の譲渡は、他の相続人に対しても、全く関係のない第三者にもすることができますが、税金については全く異なるので、誰に譲渡をするのかをしっかり考える必要がありますし、譲渡した相手にも課税がないかを考える必要があります。
相続分の譲渡で贈与税がかかる?
「第三者」に相続分の譲渡をした場合、贈与税は、「贈与される人(受贈者)」に課されるもので、「贈与をした人」に課されるものではないので、相談者Aに贈与税は課されません。
しかし、相談者Aには贈与税は課されませんが、もらった叔母Xに贈与税が課されます(非課税となる110万円以内の場合を除く)。
もっとも、叔母Xが相続分の譲渡に対して対価を支払っている場合には、贈与税は課されません。
贈与税は、相続税と比べても税率が高く設定されていますので、相続分を譲渡する際には、叔母Xとも話し合ってしっかりと検討してから譲渡すべきです。
なお、叔母Xではなく、兄Bや弟Cに相続分を譲渡する場合には、贈与税は課税されません。
その代わり、譲渡を受けた兄Bや弟Cの相続税が増えることになります。
共同相続人に譲渡する場合には、相続税となり、それ以外の人に譲渡する場合には、贈与税と考えてください。
相続分の譲渡で相続税がかかる?
前記のとおり、相談者Aには贈与税は課されませんが、他に課税がないかといえば、そうではありません。
まず、相談者Aには相続税が課されます(遺産総額が相続税がかからない基礎控除額以下の場合を除く。)。
共同相続人ではない「第三者への相続分の譲渡」は、一旦、譲渡者(本件では相談者A)が相続をして、それを受贈者(本件では叔母X)に譲渡したと考えているのです。
次に、相続分の譲渡をした相談者Aに相続税だけではなく、譲渡所得が発生する場合があります。
どういう場合かというと、相談者Aが相続分の譲渡をするのに対して、叔母Xから対価を受け取っていた場合で、かつ、遺産の中に不動産などの譲渡所得を生じる財産がある場合です。
なお、この場合でも不動産の価値が取得した時の費用を下回っている場合には、譲渡所得は発生しません。
例えば、父Yの財産が不動産のみで、相談者Aが相続分の譲渡をし、叔母Xから100万円を受け取っていたという場合には、自分の不動産の共有持分を100万円で売却したのと同様に扱われるのです。
なお、譲渡所得とは、所得税の一種です。
譲渡所得が生じた場合には、相続税の申告とは別に所得税の確定申告もしなければなりませんので、注意してください。
しばしば「譲渡税」という言葉を用いている人がいますが、厳密には譲渡税なるものは存在しません。
No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)
相続分の譲渡をした場合の課税関係
譲受人が相続人の場合
上記は、譲受人が相続人以外の第三者であることを前提としていました。
仮に、譲受人が相続人の場合は、上記の課税関係は次のように変化します。
無償 | 対価あり(有償) | |
---|---|---|
相談者Aの課税 | 遺産を受け取っていないため課税なし | 受け取った対価に対して相続税を納める(場合によっては、譲渡所得) |
叔母Xの課税 | 自分の相続分と譲渡を受けた分の相続税を納める | 受け取った全ての遺産から支払った対価を控除した額の相続税を納める(対価が著しく低い場合は贈与税も発生) |
参考判例
判例 引用:平成30年10月19日最高裁 平29(受)1735号
事案の概要
X及びYは、いずれも亡Bとその妻亡Aの子であった。
Xは、先に亡くなった亡Bの相続(一次相続)において亡Aから相続分の譲渡を受けたYに対し、相続分の譲渡によって遺留分を侵害されたとして、Yが一次相続で取得した不動産の一部についての遺留分減殺を原因とする持分移転登記手続等を求めた。
裁判所の判断
共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡は、譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き、上記譲渡をした者の相続において、民法903条1項に規定する「贈与」に当たる。
相続分の譲渡の手続
相続分の譲渡の時期
相続分の譲渡は遺産分割までに行わなければなりません。
相続分の譲渡の方法
相続分の譲渡について、法律上、書面による必要はありません。
しかし、トラブル防止のために、書面(相続分譲渡証書)を作成しておいたほうがよいと考えます。
当事務所では、相続分譲渡証明書のサンプルをホームページから無料で閲覧、ダウンロード可能としています。
相続分譲渡証明書のサンプルはこちらのページをご覧ください。
相続分の譲渡の問題点
相続税の算定は複雑であること
上述したとおり、相続分の譲渡は、譲り渡した側に相続税が課させることがあります。
したがって、ここで押さえておかなければならないのは、どの程度の相続税を支払わなければならないか、ということです。
ところが、相続税の算定は複雑なので、素人の方が自分の力で計算するのは難しいと考えられます。
また、相続税の算定のためには、その前提として、遺産を正確に調査しなければなりません。
さらに、遺産の調査だけでなく、その遺産を適切に評価しなければなりません。
相続税のおよその算定方法についてはこちらをご覧ください。
親族との話し合いが困難な場合がある
上記の例では、相続人が亡くなった父の叔母に相続分を譲渡しました。
この相続分の譲渡に、他の相続人(兄Bや弟C)が納得すれば、その後の遺産分割協議もスムーズに行くと思います。
しかし、相談者Aさんは、兄Bや弟Cと関わりたくないという理由で相続分を譲渡しています。
このように、相続分の譲渡の事案は、親族間の関係が良好ではないケースが多く、このような場合、遺産分割協議も難航することが予想されます。
遺産分割協議がまとまらないと、家裁の手続きなどを利用することとなり、解決まで長期間を要する傾向にあります。
遺産分割協議でもめている場合の対応策については、こちらのページで詳しく解説しています。
以上、相続分の譲渡について、課税される場合や問題点について解説しましたがいかがだったでしょうか。
相続に関しては、良かれと思って行ったことが税金上で大きな問題を生じる場合があります。
弁護士でも税金についてはあまり知らない人も多く、税金のことを考慮せずに、相続分の譲渡をしたり、遺産分割をすると、後々高額の課税決定が来る可能性もありますので、その点も踏まえた協議をする必要があります。
相続は、上記でも述べた通り、法的問題以外にも租税の問題や、その他の周辺分野の問題が生じることがしばしばあり、複雑な分野です。
当事務所の相続対策チームは、相続に注力する弁護士や税理士のみで構成される専門チームです。
相続問題でお困りの方は当事務所までお気軽にご相談ください。
まとめ
当事務所のご相談の流れについてはこちらのページをご覧ください。