私は福岡市東区に住む者です。
先日、父が亡くなりました。
相続人は、私の母であるA(60歳)のほか、私(長男30歳)B、私の姉(長女35歳)Cの3人です。
父の遺産は、以下のとおりです。
- 預貯金:6000万円
- 自動車:200万円(相続開始時の時価)
- 絵画:500万円
- 宝石:250万円
- 腕時計:50万円
父の遺産には、価値のある動産(絵画、宝石、時計、車)があるためその処理に困っております。
そもそも、このような動産が遺産分割協議の対象となるのでしょうか?
なお、腕時計については、男物の時計ですので、男性である私が取得したいと考えています。
また、宝石と絵画については母(A)が、自動車については姉(C)が取得を考えています。
動産も遺産分割可能です。
目次
動産とは
動産とは、法律上、不動産以外の物をいいます。
第八十六条 土地及びその定着物は、不動産とする。
2 不動産以外の物は、すべて動産とする。
引用元:民法|電子政府の窓口
動産に該当する物は法律上の定義としては無数にあります。
しかし、相続の場面において、典型的に問題となるのは絵画、宝石、時計、車等です。
動産を相続できるか?
相続について、民法は、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。
ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない」と規定しています(896条)。
「一切の権利義務」を承継するので、預貯金や不動産だけではなく、宝石や自動車などの動産も当然、承継することとなります。
また、目に見える遺産だけではなく、目に見えない遺産も承継します。
例えば、貸金債権などの権利や賃貸人の地位なども承継します。
さらに、上記規定に「権利義務を承継する」とありますので、被相続人のプラスの財産だけではなく、借金等の債務(マイナスの財産)も承継することになります。
なお、相続の対象とはならない一身専属権の一例として次のものがあります。
- 身元保証債務や包括的な信用保証債務(なお、通常の保証債務は承継することに注意)
- 委任者・受任者の地位、代理における本人・代理人の地位(民法653条、111条)
- 雇用契約における使用者や被用者の地位
- 生活保護受給権
- 公営住宅の使用権
上記のものは、被相続人「その人」でなければ成立しない又は認められるべきではないような権利や義務に該当するため、相続の対象とはなりません。
動産(絵画、宝石、時計、車等)の遺産分割の特徴
動産と一口に言っても、宝石等の高価なものから、本、洋服などの財産的価値が低いものまで千差万別です。
財産的価値が低い動産については、通常、遺産分割協議書には記載せずに、処分するか、形見分けとして、相続人や親しい友人などで適宜分配します。
これらは、遺産分割協議書こそ作成しないものの、共同相続人間で遺産分割の方法を定める遺産分割協議が成立したものと解されます。
したがって、財産的価値が低くても、後々トラブルとならないように、共同相続人間で話し合い、全員の合意のもと行うべきです。
これに対して、財産的価値のある動産は、口頭ではなく、遺産分割協議書に明記し、後々トラブルが生じないようにすべきです。
動産(絵画、宝石、時計、車等)の遺産分割協議書の記載例
では、具体的に、どのような遺産分割協議書を作成すればよいのか、以下では今回のケースの例を示します。
動産(絵画、宝石、時計、車等)の遺産分割協議書
第◯条 自動車について
Cは、次の遺産を取得する。
車名 ◯◯◯◯
登録番号 福岡◯◯あ◯◯−◯◯
車体番号 ◯◯◯◯
第◯条 その他の動産について
1 Aは、次の遺産を取得する。
①絵画 ◯◯作「ワイキキホリデイ」
②宝石 ◯◯社製ペンダントネックレス「◯◯」(長さ◯センチメートル、ダイヤモンド◯個、合計◯カラット付き)
2 Bは、次の遺産を取得する。
腕時計 ◯◯社製「◯◯」自動巻き、型番◯◯
第◯条 預貯金について
1 次の預貯金はAが取得する。
◯◯銀行 ◯◯支店 普通 口座番号◯◯◯◯ 6000万円(相続開始日の残高)
2 Aは、前項記載の預貯金を取得する代償として、各相続人に次の価額の債務を負担することとし、それぞれの指定する口座に◯年◯月◯日限り、振り込む方法により支払うものとする。振込手数料はAの負担とする。
Bに対し、金1700万円
Cに対し、金1550万円
上記の他に、当事務所では様々な事案の遺産分割協議書のサンプルをホームページ上に掲載しており、これらは無料で閲覧、ダウンロードが可能です。
動産の遺産分割のポイント
動産の遺産分割においては、いくつか注意しなければならない点があります。
ここでは、遺産分割のポイントをご紹介します。
POINT①法定相続分を算出する
本事案では、遺産の合計額が7000万円となります。
【内訳】
- 預貯金:6000万円
- 自動車:200万円(相続開始時の時価)
- 絵画:500万円
- 宝石:250万円
- 腕時計:50万円
そうすると、法定相続分は、妻のAさんが3500万円、長男Bさんと長女Cさんは1750万円となります。
A: 7000万円 × 1/2 = 3500万円
B :7000万円 × 1/4 = 1750万円
C :7000万円 × 1/4 = 1750万円
POINT②それぞれが希望する動産を確定して評価する
本件においては、腕時計は、息子のBさんが取得、宝石と絵画については妻のAさんが取得、自動車については長女のCさんが取得を希望しています。
A:宝石+絵画 = 250万円 + 500万円 = 750万円
B:腕時計 50万円
C:自動車 200万円
POINT③流動資産(預貯金等現金に近い遺産)等で調整する
上記②のとおり、動産の取得でAさんは、750万円、Bさんは50万円、Cさんは200万円の遺産を取得します。
これに、それぞれの法定相続分の遺産に不足している額を算出し、預貯金等で加算して調整します。
A:3500万円 − 750万円 = 2750万円
B:1750万円 − 50万円 = 1700万円
C:1750万円 − 200万円 = 1550万円
代償分割について
上記③のとおり、本件事案では、法定相続分どおりに分割する場合、それぞれが受け取るべき預貯金は、Aさん2750万円、Bさん1700万円、Cさん1550万円です。
ところが、例では、まずAさんが預貯金の全額6000万円を取得し、その代りに、Bさんに1700万円、Cさんに1550万円を支払うという内容にしています。
このような記載内容にしているのは、手続の円滑化のためです。
すなわち、相続人間の話合いで、銀行預金を分割すると、遺産分割協議書だけでなく、金融機関の所定の書類にも、AからCさん全員の署名捺印を求められるのが一般的です。
そのため、大変な手間暇を要することとなります。
そこで、Aさんに預貯金を集中して相続させ、そのかわりにBさんとCさんに代償金を支払うという分割協議にしています。
動産(絵画、宝石、時計、車等)の遺産分割協議の問題点
遺産に動産(絵画、宝石、時計、車等)があるケースの遺産分割協議には、以下のような問題点が考えられます。
動産の時価算定は困難!?
本ケースでは、自動車を200万円、絵画を500万円、宝石を250万円、腕時計を50万円と決めつけていましたが、実務では、この価額をめぐって争いとなります。
なぜならば、これらの動産の時価は、預貯金等の流動資産と異なり、経済的価値が確定していないため「評価」が必要となるからです。
また、動産に関しては、これを取得する側にとっては「安い」ほうがメリットがあり、その他の相続人にとっては「高い」ほうが代償金の額が高くなるというメリットがあるため、一般的には利害衝突が起こる可能性があります。
特に、本件のような高額な動産の場合、評価手法によって評価額の上下の差がとても大きいため、損をしないためには、「適切に評価すること」が最重要です。
なお、相続の場面において、時価ではなく、取得価格をもとに遺産分割協議を行う場面を見ますが、おすすめしません。
取得価格は、通常、時価よりも価額が高いことが多いからです。
特に、本件のような動産の場合、仕様に伴い、経済的価値が大幅に減少するため、取得価格よりも時価が大幅に低いことが想定されます。
冷静な話し合いができない
相続人同士の対立があると、冷静な話し合いができません。
協議が整わなければ話し合いで遺産分割を行うことが不可能となってしまいます。
その場合、家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てるという選択肢もありますが、解決まで長年月を要してしまう傾向にあります。
まとめ
以上、動産の遺産分割について、特徴、遺産分割協議書の書き方、協議のポイントや問題点を詳しく解説しましたがいかがだったでしょうか。
動産も相続の対象となり、遺産分割は可能です。
しかし、トラブルを防止するためには遺産分割協議書の作成をお勧めいたします。
また、適切な遺産分割のためには、法定相続分を算出し、時価を的確に評価して、流動資産等で調整するなどが必要となります。
これらをスムーズに行うためには相続問題に対する専門知識と豊富な経験が必要となるため、相続問題の専門家に相談されることをお勧めいたします。
当事務所には、相続問題に注力する弁護士、税理士のみで構成される相続対策チームがあり、相続問題を強力にサポートしています。
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