配偶者短期居住権は、配偶者居住権と異なり、遺産分割が成立するまでなどの間における、配偶者の「短期的な」居住権を保護するものです。
残された配偶者は、遺産分割が成立するまでか、相続開始時から6ヶ月間、もしくは配偶者短期居住権の消滅申入時から6ヶ月間は無償で居住し続けられます。
配偶者短期居住権は、相続法改正によって創設された制度あり、わかりにくいと言われています。
ここでは、配偶者短期居住権の要件やメリット・デメリットについて、弁護士がわかりやすく解説します。
目次
配偶者短期居住権とは
配偶者短期居住権というのは、遺産分割協議や調停が終わるまでの間や、遺言で配偶者以外の者に遺贈された場合でも、すぐに配偶者に出て行くように求めることは酷なので、暫定的に建物の無償使用する権利を認めるものです。
これは、遺産分割協議の成立までの間は、配偶者に「無償で使用させる旨の合意があったものと推認される」として、配偶者に使用貸借契約関係を認めていた判例を少し修正して明文化したものといえます。
配偶者居住権について、なぜ、わざわざ法律で創設する必要があったのか、具体例で解説いたします。
具体例
私は、夫名義の不動産(自宅)に夫と生活していましたが、先日、夫が死亡しました。
相続人は、妻である私(Aさん、60歳)のほか、長男(Bさん、35歳)、長女(Cさん、30歳)の3人です。
夫の遺産は、以下のとおりです。
- 自宅不動産:3000万円(時価)
- 預貯金:7000万円
夫の遺言書には、「自宅不動産を長男に相続させる」と記載されていました。
私としては、自宅に強いこだわりがあるわけでもなく、夫の意思を尊重して長男に自宅を明け渡したいと考えています。
しかし、夫の死後、法要などで忙しく、しばらくの間は引っ越しをする余裕がありません。
いつまで自宅に居住できるのでしょうか?
上記具体例のように、夫婦が共同で生活している自宅が夫の単独名義となっていることはよくあります。
夫が死亡し、自宅を第三者が取得すると、妻は自宅を明け渡さなければなりません。
しかし、直ちに明け渡さなければならないとなると、妻に酷といえます。
そこで、遺産分割が成立するまでなどの間における、妻の短期的な居住権を保護するために、相続法が改正され、2020年4月1日から施行されました。
配偶者短期居住権の要件
配偶者短期居住権の要件は下記のとおりです。
「被相続人の財産に属した建物に相続開始のときに無償で居住していた場合」
すなわち、配偶者が被相続人(亡くなった方)の死亡時に、その持ち家に無償で住んでいれば認められます。
第千三十七条 配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める日までの間、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の所有権を相続又は遺贈により取得した者(以下この節において「居住建物取得者」という。)に対し、居住建物について無償で使用する権利(居住建物の一部のみを無償で使用していた場合にあっては、その部分について無償で使用する権利。以下この節において「配偶者短期居住権」という。)を有する。ただし、配偶者が、相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し若しくは廃除によってその相続権を失ったときは、この限りでない。
一 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合 遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から六箇月を経過する日のいずれか遅い日
二 前号に掲げる場合以外の場合 第三項の申入れの日から六箇月を経過する日
2 前項本文の場合においては、居住建物取得者は、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない。
3 居住建物取得者は、第一項第一号に掲げる場合を除くほか、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができる。
引用:民法|電子政府の窓口
したがって、上記具体例のように、妻が夫とともに、夫名義の自宅で生活していたような場合、配偶者短期居住権が成立することとなります。
なお、相続法改正前は、「遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していると推認する」などとして、配偶者を保護する裁判例もありました(最判平8.12.17)。
引用:最高裁判例
しかし、本判例はあくまで推認であり、夫がこれと明確に異なる意思を表示していた場合(自宅を第三者に遺贈した場合など)、妻を保護できない可能性がありました。
相続法改正によって、このような問題は無くなったといえます。
配偶者短期居住権が認められない場合
次の場合は配偶者短期居住権が認められません。
配偶者が配偶者居住権を取得した場合は、配偶者が長期的に保護されているので当然といえます。
欠格事由等に該当するような配偶者は保護に値しないという場合です。
配偶者短期居住権の効力
配偶者は、次の区分に応じて、無償で自宅に居住できます。
遺産分割が成立した日、又は、相続開始時から6ヶ月が経過した日のいずれか遅い日
なお、遺産分割には、協議分割(改正民法907条1項)、審判・調停による分割(同条2項)、指定分割(遺言による遺産分割方法の指定等・民法908条)があります。
配偶者短期居住権の消滅申入時から6ヶ月が経過した日
②は、配偶者が相続放棄した場合や、相続分の指定により居住建物について、配偶者の相続分がないものとされた場合です。
本件事例においては、長男が遺言により自宅を取得しているので、②の場合に該当します。
したがって、AさんはBさんから配偶者短期居住権の消滅申入れを受けた日から6ヶ月を経過するまでの間、自宅に居住できることとなります。
配偶者短期居住権と配偶者居住権の違い
配偶者居住権とは
配偶者居住権とは、夫婦の一方が亡くなったとき、残された配偶者を保護するための権利です。
配偶者は下記の要件のもと、居住権を取得することで亡くなった配偶者が所有していた建物に、亡くなるまで又は一定の期間、住み続けることができます。
【要件】
- 配偶者が亡くなった人が所有していた建物に、亡くなったときに居住していたこと
- ①遺産分割、②遺贈、③死因贈与、④家庭裁判所の審判のいずれかにより配偶者居住権を取得したこと
配偶者居住権について、くわしくはこちら
配偶者居住権との違い
配偶者居住権と配偶者短期居住権は、配偶者の一方が亡くなった場合に残された配偶者の居住を保護するという点で共通しています。
しかし、配偶者居住権は長期的な居住を、配偶者短期居住権は一時的な居住を保護するという点で大きく異なっています。
その他、成立要件、消滅事由なども異なります。
両者の異同をまとめると、下表のようになります。
配偶者居住権 | 配偶者短期居住権 | |
---|---|---|
成立要件 | ①遺産分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき(注) ②配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき |
相続開始のときに無償で居住していること |
居住できる期間 | 配偶者の終身の間 ただし、遺産分割協議、遺言に別段の定めがあるとき、又は家裁が遺産分割審判において別段の定めをしたときはその定める期間 |
①遺産分割すべき場合 遺産分割が成立した日、又は、相続開始時から6ヶ月が経過した日のいずれか遅い日 ②上記以外の場合 配偶者短期居住権の消滅申入時から6ヶ月が経過した日 |
第三者への対抗要件 | 登記を要する | 登記を要しない |
用法遵守義務 | 有り 配偶者は善管注意義務を負う |
|
無断で第三者に使用させることの禁止 | 第三者に使用させる場合は建物取得者の承諾が必要 | |
居住権の譲渡の禁止 | 譲渡禁止 | |
配偶者による必要な修繕の可否 | 可能 | |
建物取得者の修繕の可否 | 配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしない場合は可能 | |
配偶者の通知義務 | 修繕を要するとき、又は居住建物の権利主張をする者があるとき、居住建物取得者へ遅滞なく通知する義務を負う。すでに知っている場合は除く。 | |
必要費等 | 通常の必要費については配偶者が負担 通常の必要費以外の支出については、建物取得者は民法196条による償還 有益費については、裁判所が請求により相当の期限を許与できる。 |
|
居住権の消滅事由 | ・期間を定めたときはその期間が満了したとき ・用法遵守義務違反、無断の第三者使用の場合 ・配偶者の死亡 ・居住建物の全部滅失等 |
・期間を定めたときはその期間が満了したとき ・用法遵守義務違反、無断の第三者使用の場合 ・配偶者の死亡 ・居住建物の全部滅失等 |
原状回復義務 | 原則あり 配偶者に帰責事由がない場合を除く。 |
|
付属物の収去義務 | 原則あり 分離できない物や分離に過分の費用を要する物を除く。 |
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損害賠償請求権、費用の償還請求権の期間 | 居住建物返還時から1年以内 |
配偶者短期居住権のメリットとデメリット
以上から、配偶者短期居住権のメリットとデメリットを簡単にまとめると、下表のとおりとなります。
メリット | デメリット |
---|---|
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配偶者短期居住権についてのよくあるご質問
配偶者短期居住権は配偶者以外には認められないのですか?
配偶者短期居住権の対象は、配偶者のみです。
例えば、内縁の妻・事実婚については保護の必要性があると思えますが、現行法で認められているのはあくまで「法律婚」の配偶者のみとなります。
配偶者以外の者を保護する場合、被相続人としては生前、遺言の作成などを検討しておくことをお勧めします。
賃貸の建物はどうなりますか?
配偶者短期居住権は、上記のとおり、被相続人の持ち家である必要があります。
したがって、賃貸の建物には配偶者短期居住権は認められません。
もっとも、配偶者は相続により、「賃借人の地位」をするので、賃借人として自宅に住み続けることが可能ですので、問題とはならないでしょう。
配偶者短期居住権の消滅の請求ができる場合とは?
配偶者が用法遵守義務や善管注意義務に違反したり、無断で第三者に建物を使用させた場合、他の相続人は配偶者短期居住権の消滅を申し入れができます。
第千三十八条 配偶者(配偶者短期居住権を有する配偶者に限る。以下この節において同じ。)は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用をしなければならない。
2 配偶者は、居住建物取得者の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用をさせることができない。
3 配偶者が前二項の規定に違反したときは、居住建物取得者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者短期居住権を消滅させることができる。
引用:民法|電子政府の窓口
配偶者短期居住権の評価はどうなりますか?
配偶者短期居住権は配偶者居住権と異なり、価値はゼロとして評価します。
相続税の算定においてもゼロでの評価となります。
まとめ
配偶者短期居住権は、新しい制度であり、正しく理解することがポイントとなります。
成立する要件や効果については、上記のとおりですが、具体的な事案により対応が異なるため、相続問題に精通した弁護士に助言を求め、適切な解決となるよう注意すべきです。
そのため、配偶者短期居住権については、相続専門の弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
この記事が相続人の方にとってお役に立てれば幸いです。
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