私は、親のAが亡くなって、遺言で自宅の所有権を取得しました。
しかし、自宅には後妻であるBがAの死亡前よりずっと住んでおり、遺言で配偶者居住権をBが取得して、引き続き自宅に住んでいます。
そのBから、「この前の地震で自宅の一部に壊れた部分がある。所有者はあなたなのだから、あなたが修繕してくれ。」と言われました。
私がBの使用する自宅を修繕する義務があるのでしょうか。
また、もしBが修繕しない場合には自分で修繕したいのですが、その場合の修繕費用はどうしたらよいのでしょうか。
他にも、Bから、「固定資産税も所有者のあなた負担だ。当然のことだ。」と言われました。
使用もしていないのに固定資産税を支払うことには納得がいかないのですが、支払う義務があるのでしょうか。
相談者さんは、修繕をする義務はありませんし、修繕費用を負担する必要もありません。
もしBさんが修繕をしてくれない場合には、相談者さんが所有者として修繕することができますが、修繕前に費用を請求することはできず、修繕後に修繕費用をBさんに求償することになります。
相談者さんは、自宅の所有者のため、法律上は自宅の固定資産税の納税義務者となっていますので、納税をするのは相談者さんということになります。
しかし、最終的な負担をすべきなのは自宅を使用しているBさんなので、一旦固定資産税を支払った上で、Bさんに求償をすることになります。
もし請求をしてもBが支払わない場合は、訴訟を提起することが必要にはなってきます。
また、必要費を負担しないことを理由に配偶者居住権の消滅請求はできないとされています。
※なお、この記事は改正後民法の適用を前提にしており、配偶者居住権については2020年4月1日以降に相続が開始しており、かつ施行日以後に作成された遺言に適用されるものですので、その点はご注意ください。
目次
配偶者居住権が設定されている自宅の修繕義務者は誰か
配偶者居住権が設定されている自宅については、通常の必要費は所有者ではなく、配偶者が負担すると定められています(改正民法1034条1項)。
この通常の必要費には、通常の使用に伴って生じる修繕費用などのほか、建物の固定資産税も含まれるとされていますので、それらの費用については配偶者が負担することになります。
配偶者が修繕をしない場合はどうしたらよいか
仮に、修繕が必要にもかかわらず配偶者が自宅の修繕をしてくれない場合には、所有者はどうしたら良いでしょうか。
この点についても条文があり、配偶者が相当の期間内に修繕をしない場合には、所有者が修繕をすることができると規定されています(改正民法1033条2項)。
もし所有者が修繕をした場合には、その修繕費用は本来は配偶者が負担すべきものであったのですから、所有者から配偶者に対して、修繕費用を請求していくことになります。
もっとも、修繕をする前に配偶者に対して修繕費用を請求できるわけではありません。
なお、そもそも修繕が必要かを所有者が知らないという場合もありえますので、改正民法では、配偶者は所有者に遅滞なく修繕が必要であることを通知しなければならないとしています(改正民法1033条3項)。
固定資産税については誰が負担するのか
固定資産税については、前述の通り、配偶者が通常の必要費として負担すべきものです。
もっとも、税法上の納税者は所有者になっているため、納税者である所有者に請求がきますし、納税義務があります。
そのため、最終的に求償をするとしても、まずは所有者が固定資産税を支払う義務があるということになるのです。
配偶者が必要費を支払わない場合
配偶者が修繕をせず、修繕費用や固定資産税の負担を拒むような場合にはどうしたら良いでしょうか。
手続きとしては、求償請求訴訟を起こして、判決をもらった後に配偶者の財産を差押えするなどをして回収をすることになります。
一方で、必要費を支払わないことで、配偶者居住権の消滅請求をすることはできないとされています。
そのため、現実には訴訟を起こす費用などを考慮して、泣き寝入りのような形になってしまう場合も少なくないと思われます。
本件について
本件では、Bさんが相談者さんに修繕費用や固定資産税の負担をするように要請していますが、法的にはそのような主張は認められません。
しかし、前述のとおり、Bさんが修繕しない場合には相談者さんが自ら修繕をして、その後にBさんにその費用を請求するしかありません。
また、固定資産税は相談者さんが所有者である以上、ひとまず税務署に支払った後にBさんに請求するしかありません。
もしこれらの費用をBさんが支払わない場合でも、配偶者居住権を消滅させることはできないので、できる限り事前にBさんと話し合って費用負担を決めるといいでしょう。
まとめ
配偶者居住権は、その要件を満たせば建物全体を使用収益することのできる強い権利です。
その一方で、所有者は配偶者居住権が設定されている間はその自宅を使用できないことになり、配偶者居住権が消滅するまで実質的にはその自宅を持っていても何もできない地位に置かれます。
配偶者としても所有者としても双方が納得できる形で配偶者居住権を設定するのが一番ですので、遺言を遺すにしても、しっかりと相続人らに説明をした上で遺言を遺すべきでしょう。
遺言の作成の際には法的問題以外にも、相続人への説明をするなどして感情的な問題などの解消をすることも重要になってきます。
遺言を作成するにあたっては、一人で悩まずに、弁護士に相談されることをおすすめします。