先日、配偶者Aが他界しました。
まだAは若かったので、死んだ後のことは全く考えておらず、生活費などの二人のお金のほとんどはC銀行とD銀行のAの預貯金口座に入れてしまっていました。
相続人は、私と子どものBだけなのですが、Bは放蕩者で、Aの死を知らせたところ、すぐにD銀行口座からATMで引き出してしまっていたので、すぐに銀行口座の凍結をしてBが引き出しできないようにしました。
当面の生活費すら手元にないので早くお金を引き出したいのですが、Bの印鑑なくAの口座からC銀行やD銀行からお金を引き出すことはできるでしょうか?教えてください。
令和元年7月1日以降は、Aの口座から一定額の払戻しを受けられる権利がありますので、払い戻しを受けることは可能です。
また、複数の銀行に口座を持っている場合は、それぞれの銀行に請求することができます。
銀行に対して払い戻しを求める権利は、銀行それぞれに対して計算をすることになるので、複数の銀行に預貯金がある場合には、払い戻しを受けられる合計額も多くなります。
ただし、すでにD銀行からBが全ての預貯金を引き出してしまっており、その口座に預貯金がない場合にはD銀行に対して払い戻しの請求をすることできませんので、最終的には遺産分割の中でBが取得したことにするか、Bに対して不法行為に基づく損害賠償請求をするしかありません。
なお、令和元年6月末日まででも、払い戻しに応じてくれる銀行があるようですので、まずは窓口に相談しにいくというのも手でしょう。
故人の口座から相続人が払戻を受ける権利の創設の趣旨
平成30年民法改正により、亡くなった方の相続人は、後述の計算式に基づいて計算された額について故人の預貯金から払戻しを受ける権利を行使できることになりました。
このような制度が定められたのは、預貯金債権について相続が開始した後、法定相続分で相続人間での遺産分割を経ることなく分割されるのか、または遺産分割を経なければ預貯金の払戻しを受けられないのかが争われていた裁判に決着がついたことで、複数の相続人がいる場合には、相続人の一人が単独で個人の預貯金の払戻しを受けることはできなくなったことがきっかけです。
預貯金口座からの払戻しについて、他の相続人の同意や遺産分割が必要となると、それまでに時間がかかる場合に、故人と生活をともにしていた人の生活費が捻出できない、葬儀費用が出せないなどの不都合が生じることが想定されたため、一定額については銀行から払い戻しを受ける権利の行使ができるようにしたのです。
遺産分割前における預貯金債権の行使について、詳しくはこちらからどうぞ。
払戻しを受けられる金額
払い戻しができる額は、相続開始のときの預貯金債権の額の3分の1 × 払い戻しを求める相続人の法定相続分の額と定められており、その上限額は150万円とされています。
そして、この金額は、銀行を一つの単位として計算されることになります。
複数口座がある場合の計算式
上記の払戻しを受けられる金額について、具体例で見てみましょう。
本件で故人の名義の口座が二つあり、C銀行に普通預金 300万円、定期預金 900万円があるとします。
また、D銀行には、普通預金 600万円があるとします。
この場合に受けられる金額は以下のとおり計算できます。
具体例 複数口座がある場合
【配偶者A(他界)の口座】
■C銀行:普通預金 300万円、定期預金 900万円
■D銀行:普通預金 600万円
定期預金からの払戻額 = 900万円 × 3分の1 × 2分の1 = 150万円
合計額 = 50万円 + 150万円 = 200万円
合計額 200万円ですが、一つの銀行から払い戻しを受けられる上限は 150万円なので、C銀行からは 150万円の払戻しを受けられます。
その場合、定期預金から 150万円の払戻しを受けても、定期預金から 100万円、普通預金から 50万円の合計 150万円の払戻しを受けても良いことになります。
D銀行からは、100万円の払戻しを受けられることになります。
以上のようにC銀行とD銀行の合算で 250万円の払戻しを受けられることになります。
払い戻しを受ける際の必要書類について、詳しくはこちらからどうぞ。
相続人の一人が口座からすべての預貯金を引き出していた場合
相続人の一人が故人の口座からATMなどで引出しをしているということはよくあることなのですが、本件で、BがD銀行からすべての預貯金を引き出している場合はどうなるでしょうか。
上記の具体例では、相談者さんはD銀行から 100万円の払戻しを受けられる権利を持っていましたが、実際に請求した際にすでにBがすべての預貯金をD銀行から引き出してしまっているとすると、銀行としてはすでに有効な弁済をしていることになりますから、それ以上に相談者さんがD銀行に払戻しを請求できるわけではありません。
相談者さんにとっては酷な結果に思えますが、Bさんに対して、不法行為に基づく損害賠償請求をしていくか、他にも遺産があるので、遺産分割の手続の中でBが引き出した分をBがすでに取得したものとして扱って解決する方法はあります。
これについては、こちらをご参照ください。
遺された遺族が困らないような対策を
上記のとおり、銀行から一定額の払戻しを受けられることになりましたので、今までの不都合は解消されたかに思えます。
しかし、現実にはこの払い戻しを受けられる金額では当面の生活費や葬儀代には足りないことも多々ありますし、そもそも払い戻しを受けるためには戸籍等の必要書類を集めることも必要になってくるので、払い戻しを迅速に受けることができないという事態も想定されます。
そのため、亡くなる前にしっかりと対策を講じるのが良いでしょう。
特に、相続人の一人が無駄遣いをする可能性が高い場合や相続人間で争いになる可能性が高い場合には、遺言を作成することをおすすめします。
どのような対策をするべきか、その対策の内容をどうするかはしっかりと専門家に相談しながら決めるべきですので、まずは相続を専門とする弁護士にご相談ください。