遺留分を払わないとどうなる?お金がない場合の対処法【弁護士解説】


弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

 

 

遺留分侵害請求についての質問です。

私は、配偶者Aと一緒に事業をしていましたが、令和元年10月にAが死亡して、遺言ですべての遺産を相続しました。

しかし、遺言が存在することがAの前妻のお子さんであるBさんに知れ、Bさんから遺留分侵害額請求を受けました。

お金を払わなければならないのはわかるのですが、遺産のほとんどは自宅や事業に使っていた不動産や機械類であったため、お金はほとんどなく、Bさんに払いたくてもお金を払うことができません。

どうしたら良いでしょうか。

また、支払えないので、いっそのことBさんの請求を無視しようと思うのですが、Bさんに遺留分を支払えない場合には、不動産や機械類をとられてしまうのでしょうか。

まず、相談者さんがBさんに遺留分侵害額について金銭を支払うことについてですが、Bさんには遺留分がありますので、Bさんから請求を受けた場合には遺留分の計算をしてその金銭を一括で支払わなければならないのが原則です。

もっとも、相談者さんがお悩みのように支払うべき金銭がない場合も少なくないので、その場合にはBさんに支払期限を延ばしてもらえないか、分割で対応できないかの協議をするのが良いでしょう。

それでもBさんが一括で支払うことを要求してきた場合には、裁判所に支払い期限について許与してもらうことができるとされていますので、裁判所に期限の許与を求める訴えを提起するという方法があります。

また、Bさんの請求を無視してしまうと、最終的には相続した遺産を差し押さえられて競売で現金に換価されてしまう可能性がありますので、無視するのはおすすめしません。

 

遺留分侵害額請求とは

遺留分侵害額請求とは、平成30年の民法改正により、以前の遺留分減殺請求の制度を継承しつつ、変更したものになります。

遺留分というのは、遺言などで誰かに遺産をすべて相続させる旨の遺言があったり、生前に遺産となるはずだった財産を贈与していた場合などに、財産をもらっていない法定相続人が最低限もらう権利です。

▼遺留分について、詳しくはこちらをご覧ください。

この遺留分については、令和元年7月1日以降に相続が開始した場合、金銭で請求できることになりました。

なお、令和元年6月末日までに相続が開始した場合には、遺留分を侵害している贈与又は遺贈の一部の効力を失わせるものであり、遺留分減殺請求と呼ばれていました。

遺留分減殺請求をすると、贈与又は以上の効果が一部執行するので、その失効部分が遺留分権利者に帰属することになり、物自体を返せということが出来ることになります。

そのため、今後、遺留分の請求をする際には、被相続人が死亡した時点が令和元年6月末日前なのか、7月1日以降なのかでその請求できる額や方法が変わってきますので、注意が必要です。

 

 

支払いができないときは

この遺留分侵害額請求ですが、金銭の請求のため、侵害額分の金銭が準備できない場合には、相続人が支払いに窮することになります。

現金ではないとしても、遺産に預貯金や保険などがある場合には、この支払に困ることはあまりないと思いますが、不動産や売却困難な事業用資産などばかりが遺産の場合には、金銭を支払いたくても払えない場合は少なくないと思われます。

その様な場合に備えて、改正民法1047条5項では、期限の許与の請求を裁判所にできることにしています。

この期限の許与というのは、支払期限を延ばすという意味で、裁判所が相当と考えた期間について期限を延ばしてもらうことが可能です。

この期限の許与を裁判所に求めるためには、訴訟を提起することが求められ、仮に遺留分権利者からすでに訴訟を起こされている場合には、その訴訟の中で反訴を起こすことが求められることになります。

なお、この期限の許与を受けた場合には、遡って支払期限が変更されますので、請求を受けたときからの遅延損害金を支払う必要はありません。

 

 

本件について

遺留分の支払い時期

本件では、相談者さんがBさんから遺留について請求を受けていますが、Aさんが亡くなったのが令和元年10月なので、改正後民法の適用になります。

そのため、Bさんから遺留分侵害額請求を受けた相談者さんは、遺言によって得た遺産を基礎に計算した遺留分侵害額をBさんに支払わなければなりません

逆に言えば、不動産や機械類を渡す必要はないのです。

▼遺留分の計算方法について、詳しくはこちらをご覧ください。

しかし、相談者さんとしては請求を受けた時点から遺留分侵害額を支払う義務を負うことになります。

相談者さんは手元にお金がないということなので、まずはBさんと協議をして支払いを待ってもらうか、分割に応じてもらえないかを話し合うべきです。

もしBさんがその協議に応じないか又は協議がまとまらない場合には、裁判所から期限を延ばしてもらうことがありえますので、訴訟を提起することが考えられます。

もっとも、現実的には協議がまとまらない場合には、Bさんが遺留分侵害額請求の訴えを提起してくるものと思いますので、その際に反訴として期限の許与の訴えを起こすことで足りるでしょう(後述のとおり、抗弁として主張するだけで足りるとする見解もあります)。

 

支払えない場合にはどうなるのか

もし遺留分侵害額の支払いができないからといって、遺留分権利者の請求を無視しているとどうなるでしょうか。

遺留分侵害額の請求訴訟を提起されたにもかかわらず、無視してしまえば欠席判決となり、Bさんの請求どおりの判決がでます。

この判決が控訴期間を過ぎて確定してしまうと、Bさんとしてはその判決をもとに相談者さんの財産を差し押さえして競売にかけ、競売によって換価した金銭から回収ができるようになってしまいます。

そのため、Bさんに機械類を渡さなければいけないのではありませんが、相談者さんが相続した不動産や機械類を手放さなければならなくなる可能性はあるのです。

判決が確定してからではどうしようもありませんので、無視することはしないほうが良いでしょう。

 

 

まとめ

弁護士遺留分侵害額請求は、平成30年の民法改正で変更された制度ですので、検討の際には改正点を踏まえての検討が必要です。

今回は法的な手続きについてご説明しましたが、本来は相手と話し合いによって決めるのがお互いにとって良いことだと思われます。

弁護士というと訴訟のイメージが強いかも知れませんが、まずは弁護士が代理で協議を行うことも多いですので、まずは相続を専門とする弁護士に相談されることをおすすめします。

 


補足説明

このQAでは、期限の許与について、Bさんから訴えを起こされた際に反訴を起こすべきだと説明していますが、反訴までは必要ではなく、請求に対する抗弁で足りるとする裁判例や見解もあります(正確には、同様の期限の許与の制度を採用している請求についての裁判例であり、遺留分侵害額請求に対しての裁判例ではありません)。もっとも、反訴を含む独立の訴えが必要だとする裁判例もあり、抗弁だけとするのはリスクですので、反訴を起こすのが無難といえます。

この点は、法律の解釈や実務に関わる専門的なことになりますので、しっかりと弁護士に相談して対応することをおすすめします。


 

 

 


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