父Aが亡くなり、Aの預貯金を確かめたところ、死亡前に預貯金のほとんどがAの子Bやその配偶者Cによって引き出されていました。
私は、BとCに対して、引き出したお金を返せと言うと、Aから管理を任せられていた預貯金を引出して使っていたことは認め、残っているお金は返すが、使ってしまった分もあるのでそれは返せないと言ってきました。
お金も返してほしいのはもちろんですが、全く反省していない態度のBやCを見て、このようなBの行為を許すことはできないので刑事告訴したいと思っています。
Bの行為は、横領罪など犯罪にならないのでしょうか。
Bの行為は、原則として親族相盗例の適用があり、刑が免除されることになりますので、現実には刑事事件化することはありません。
一方、Cについては、Aと同居していたかどうかによって結論が異なります。
AとCが同居していた場合には、Bと同じく親族相盗例によって刑が免除されますので、刑事事件化することはないでしょう。
しかし、CがAと同居していない場合には、上記親族相盗例の適用はありますが、刑の免除ではなく親告罪ということになり、告訴があれば刑事事件化する可能性はあります。
ただし、BやCが、亡くなったAの後見人になっている場合には、そもそも親族相盗例の適用はなく、業務上横領罪になりますので、刑事事件化する可能性は高いでしょう。
横領罪に当たるのか
まず、BやCの行為がそもそも横領といえるのかが問題ですが、Aから管理を任せられていた預貯金を勝手に引き出して自分たちのために使っていたということであれば横領罪が成立します。
もちろん、BやCが適宜Aから許可を得て自分たちのために使っていた場合には、Aの同意がありますから、横領にはなりません。
また、そもそもAから管理を任せられたわけではなく、勝手にAの預貯金から引出を行っていた場合には、横領罪ではなく窃盗罪が成立することになりますが、今回の事例では管理を任せられていた前提なので横領と言えるでしょう。
親族相盗例について
刑法では、親族相盗例というものがあり、「配偶者・直系血族・同居の親族」は、窃盗罪や横領罪が成立する場合でも刑が免除されるという規定になっています。
また、「配偶者・直系血族・同居の親族以外の親族」については、刑が免除されるのではなく、親告罪とされると規定されています。
つまり、「配偶者・直系血族・同居の親族」の場合には、犯罪にはなるけれども刑罰は免除されることになり、それ以外の親族の場合は被害者が告訴した場合にのみ刑事事件化できるということが規定されているのです。
なお、直系血族というのは基本的には血のつながりがある人ということになりますが、養子縁組をした子などもこの直系血族に該当します。
また、「親族」というのは、姻族といって配偶者の側の血族も含むことになります。
親族相盗例が適用されない場合
上記のとおり、親族間では親族相盗例が適用されるのですが、親族であっても法定後見人又は任意後見人として裁判所から後見人の選任をされている場合には、親族相盗例の適用はないというのが判例です。
また、横領罪についても、後見人の業務として管理をしていることになりますので、より重い罪である業務上横領罪が成立することになるのです。
本件ではどうなるか
まず、Bですが、BはAの子どもですので、直系血族にあたります。
そのため、親族相盗例によって、横領行為をしても刑罰が免除されます。
しかし、BがAの後見人である場合には親族相盗例が適用されず、業務上横領罪として処罰される可能性はあります。
次に、Cですが、CはBの子どもの配偶者ですので、親族に該当します。
そのため、同居をしている場合には横領行為が親族相盗例の適用により免除されますが、同居していな場合には親告罪となるため、告訴があれば刑事事件になり得ます。
また、Cの場合もAの後見人となっている場合があり得ますが、その場合は親族相盗例の適用はなく、業務上横領罪が成立するのです。
まとめ
相続の相談では、相続人や関係者が被相続人の遺産を勝手に引き出したり処分していることがあり、その際に刑事事件化したいという相談をよく受けます。
しかし、現実には横領であったことを証明することは難しく、多くの人は被相続人の同意があったと主張してきますし、今回解説したように、親族相盗例の適用があると、そもそも警察などは刑事事件化してくれません。
そもそも警察や検察は、家族内の問題を取り扱いたがらない傾向にあり、家族の問題は家族内で処理してくださいといわれ、告訴を受けてもらえないということもあるようです。
どのような証拠が必要か、そのような手続きが必要かなどとても難しい問題がありますので、相続人の横領について刑事事件化したいと思う場合や民事でお金を返してほしいという場合には、まずは相続や刑事事件に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。