親族に立ち退きを請求することはできません。
また、親族に建物を無償で使用させる合意があった場合は、賃料を求めることは困難です。
具体例として、共同相続人の1人であるAが相続財産である建物に居住し、A、B、Cの相続分はそれぞれ3分の1だった場合に、立ち退きや賃料はどうなるか、以下で詳しく解説いたします。
立ち退きをもとめることができる?
上記のケースで、他の相続人らBとCがAに対し、建物の明渡しを求めることがあります。
このような場合、BとCの2人でAに明渡しを求めれば、共有持分権の合計割合が多いBC(3分の2)に対して、Aは応じなければいけないようにも見えます。
しかし、Aは、たとえ共有持分権がBCより少なくても、自己の持分権に基づいて建物を使用収益する権限を有し、占有しています。
したがって、このような場合、BCがAに明渡しを求めるためには、その理由を主張し、立証しなければならないと解されています(最判昭41.5.19)。
判例 【昭和41年 5月19日 最高裁第一小法廷 昭38(オ)1021号】
右の少数持分権者は自己の持分によって、共有物を使用収益する権原を有し、これに基づいて共有物を占有するものと認められるからである。
従って、この場合、多数持分権者に対して共有物の明渡を求めることができるためには、その明渡を求める理由を主張し立証しなければならないのである。
賃料を請求できる?
例えば、共同相続人であるAが相続開始前から被相続人Dの許諾を得て、遺産である建物にDと同居していた場合、他の相続人BがAが自己の相続分を超えていると主張して、賃料を請求するケースがあります。
このような場合、D死亡後、遺産分割で建物の所有権が確定するまでの間は、Aに建物を無償で使用させる合意があったものと推認されるため、賃料を請求することはできません。
裁判例も、このような事案について、「被相続人と同居の相続人との間において、相続開始を始期とし、遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認される」として、他の相続人からの不当利得返還請求を認めていません(最判平8.12.17)。
他方、このような無償で使用させる合意が推認されないケースでは、占有する相続人は、自己の相続分および管理費用を超える使用収益を得ている場合、他の相続人に対し、対価相当分を支払うのが相当と考えられます。
判例 【平成 8年12月17日 最高裁第三小法廷 平5(オ)1946号】
共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである。
居住権トラブルの解決方法
居住権トラブルの典型は、立ち退きと賃料の問題です。
上述した裁判例を踏まえて、具体的な解決方法をご紹介します。
①遺産分割協議の実施
親族との居住権のトラブルが発生するのは、まだ遺産分割が確定していないからです。
そのため、遺産分割を成立させることを第1に考えるべきです。
遺産分割の方法には、家裁の調停を利用する方法もあります。
しかし、家裁の手続は、一般的に解決まで長年月を要します。
また、家裁まで何回も行くのは、相当な労力を要します。
そのため、まずは遺産分割協議を実施されることをお勧めいたします。
②遺産の調査と評価
また、遺産分割協議を成立させる前提として、まず遺産にどのようなものがあるかを調査する必要があります。
また、遺産の範囲を確定したら、次にそれを適切に評価する必要があります。
特に、今回のご質問のような不動産が遺産となる場合、その時価を算出する必要があります。
不動産については路線価や固定資産税評価額が遺産価値と考えている方が多いため、注意が必要です。
これらの評価額は、あくまで相続税や固定資産税という課税の局面の評価であって、遺産分割の際の評価とは同一ではありません。
あくまで参考程度の評価額であって、適切に評価するためには時価を査定する必要があります。
まとめ
以上、相続時の建物明け渡しや賃料請求の問題について、くわしく解説しましたがいかがだったでしょうか?
親族との居住権をめぐるトラブルを根本的に解決するためには、遺産分割を行う必要があります。
そして、遺産分割をできるだけご負担が少なく解決するためには、協議による解決がお勧めです。
しかし、遺産分割は、その前提として、遺産を調査し、かつ、適切に評価する必要があります。
これらは相続の専門家でなければ難しい場合があります。
また、相続人間では感情的な対立があり、遺産分割の協議が難しいというケースがあります。
このようなケースでは、専門家に間に入って交渉してもらうという方法も検討されると良いでしょう。
当事務所の相続対策チームは、相続問題に注力する弁護士・税理士のみで構成される専門チームであり、居住権トラブルや遺産分割に関するノウハウを共有しています。
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