私は自己破産の手続きを弁護士にお願いしていますが、先日、親が亡くなりました。
遺産はめぼしい財産がないため、相続放棄を考えています。
相続放棄は可能でしょうか?
また、どのような手続をとればいいでしょうか?
自己破産をしても相続放棄の申述を行うことは可能です。
ただし、破産手続開始前の相続の場合、破産法上、限定承認としての効力のみをもつこととなります。
自己破産とは
自己破産とは、借金の支払い義務を免除してもらう手続きのことです。
自己破産の手続は、裁判所が中心となり、多額の借金を抱えた人の自宅をはじめとする全財産を、債権者に公平に分配し、自己破産者の借金を0にすることで、人生のやり直しの機会を与えるという、国が法律で認めた救済方法です。
破産する方にめぼしい財産がある場合、破産管財人がその財産を換価し(お金に変えて)、それを債権者に対し、債権額に応じて公平に分配します。
相続放棄とは
相続放棄とは、相続財産の一切を放棄することができる制度です。
民法上、人が死亡したときには、相続人が相続開始のときから被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するものと定めています(民法896条)。
しかし、相続人の中には、遺産相続を希望しない人もいますので、そのような場合のために相続放棄という制度が用意されています。
例えば、資産に比べ明らかに大きな負債があるときや、相続に伴うトラブルに巻き込まれたくないときなど、相続人は相続放棄をすることにより借金を負わなくてもよいことになります。
また、借金だけでなく、損害賠償責任などの責任も免れることになります。
破産と相続放棄の関係
自己破産は破産法の基づき、相続放棄は民法に基づき行う制度であり、別個の制度です。
しかし、自己破産は、債権者という重大な利害関係を有する方々がいます。
勝手に相続放棄をされると、困る場合があります。
例えば、亡くなった親に莫大な遺産がある場合です。
債務者が相続を受けてくれていれば、その財産からの返済を期待できるのに、相続放棄が認められると返済を受けることができません。
そこで、破産法は、自己破産前(破産手続開始決定前)の相続については、以下のような扱いを行っています。
① 自己破産前(破産手続開始決定前)の相続
この場合も相続放棄の申立てを行うこと自体は可能です。
したがって、相続放棄を希望する場合、親の死亡日から3か月以内に、家庭裁判所に相続放棄の申述の申立てをします。
しかし、上述したとおり、破産者である相続人による相続放棄がそのまま効力を有することになると、破産債権者の利益が損なわれることがあります。
そこで、破産法は、破産者である相続人が相続放棄の申述の申立てをして家庭裁判所でこれが受理されても、直ちに相続放棄の効力を認めません。
この場合、限定承認(被相続人の権利義務を承継するが、相続によって得た積極財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済することを条件とする相続の承認)としての効力のみを有することとなります。
限定承認とは
限定承認とは、相続人が被相続人の財産の範囲内で被相続人の債務を支払うという制度です。
もっとも、相続財産に多額の債務がある場合、破産者である相続人が相続を放棄する申述をしたものを、わざわざ限定承認の手続きによって処理することは繁雑でメリットがありません。
その場合、破産者のした相続放棄の申述の申立てが家庭裁判所で受理された後、破産管財人は、そのことを知って3か月以内に、その効力を認める旨を家庭裁判所に申述することで、相続放棄としての効力を持たせることができます(破産法238②)。
第二百三十八条 破産手続開始の決定前に破産者のために相続の開始があった場合において、破産者が破産手続開始の決定後にした単純承認は、破産財団に対しては、限定承認の効力を有する。破産者が破産手続開始の決定後にした相続の放棄も、同様とする。
2 破産管財人は、前項後段の規定にかかわらず、相続の放棄の効力を認めることができる。この場合においては、相続の放棄があったことを知った時から三月以内に、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
引用元:破産法|電子政府の窓口
なお、破産者のした相続を放棄する申述の効力が限定承認の効力を有するにとどまるのは、破産手続き上のことであり、破産手続外では、相続放棄をした破産者は、初めから相続人とならなかったものとみなされ、また、単純承認した破産者は、無限に被相続人の権利義務を承継することになります(民法939・920)。
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
(単純承認の効力)
第九百二十条 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。
引用元:民法|電子政府の窓口
② 自己破産後(破産手続開始決定後)の相続
これに対して、自己破産後(破産手続開始決定後)に相続が発生しているケースであれば、何ら問題なく相続放棄が可能です。
自己破産を行ったからといって、破産者が制限されることはありません。
自己破産後の遺産は、「新得財産」と呼ばれ、破産手続きとは関係がないからです。
まとめ
以上、自己破産と相続放棄の関連性について、詳しく解説しましたがいかがだったでしょうか。
相続放棄は、基本的には相続人の自由意思で行うことが可能です。
しかし、自己破産開始決定前に相続が発生しているケースでは、債権者の権利を保護するために、破産法上、限定承認の効力のみをもつこととなります。
そのため、3か月以内に、家庭裁判所に相続放棄の申述の申立てをし、さらに破産管財人に家庭裁判所に対してその効力を認める旨の申述をしてもらう必要があります。
他方で、自己破産開始決定後に相続が発生しているケースでは、このような制限はありません。
自己破産や相続で迷われている方は、素人判断ではなく、専門の弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
当事務所には、相続対策チームと破産再生チームがあり、相続放棄と自己破産が問題となる事案では、複数の弁護士が連携して問題を解決します。