遺骨は相続の対象とならず、慣習に従い祭祀を主宰する者が承継すると考えられます。
遺骨は所有権の対象となる?
動産や不動産であれば、所有権というものがあり、誰のものであるかが明確になります。
遺骨も、限定的ではありますが、所有権の対象となると考えられています。
そうすると、亡くなった人の土地建物や預貯金のように、遺骨も遺産の一部を構成し、遺産分割の対象になるのではないかと思われるかもしれません。
しかし、遺骨を単純に遺産の一部と考えることはできません。
なぜなら、遺骨は亡くなった人の持ち物とは性質を異にするからです。
遺骨は相続の対象?
民法には遺骨について定めた条文はありません。
そこで、相続の性質から、遺骨を考えてみる必要があります。
そもそも、相続とは、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継することをいいます(民法第896条)。
参考条文
(相続の一般的効力)
民法第896条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
遺骨が被相続人の財産と考えると、相続の対象となるようにも思えます。
しかし、民法は、お墓や位牌などの祭祀財産については、別の規定を設けており、相続の対象から除いています(民法第897条)。
(祭祀に関する権利の承継)
第897条 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
このように、祭祀財産について、法律が相続の対象から外しているのは、お墓や位牌などの祭祀財産まで相続人に分配されてしまうと、のちのち亡くなった人の祭祀を行うことが困難になってしまうからです。
そこで、これらの祭祀財産は、慣習に従い祭祀を主宰する者が承継するとされています。
では、遺骨はどのように考えるべきでしょうか。
遺骨も、たくさんの人に分けられてしまうと、のちのち祭祀を執り行うことが難しくなるという意味では、祭祀財産と同様に考えることができます。
そこで、遺骨に関しても、慣習に従い祭祀を主宰する者が承継すると考えるのが妥当といえます。
なお、裁判例でも同様の判断が示されています。
判例 最高裁平成1年7月18日判決
「原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件遺骨は慣習に従って祭祀を主宰すべき者である被上告人に帰属したものとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。」
したがって、遺骨が誰のものであるかは、その時々の事情に応じ、慣習に従って判断することになります。
遺骨の取り合い
遺骨をめぐっては、亡くなった人の両親と、亡くなった人の配偶者(夫や妻)がいずれも引き取りを希望して争うことがままあります。
いずれの思いもわかるところではありますが、この場合は、日本の慣習に従うと、その配偶者が遺骨を弔い、さらに子孫に受け継がれていくと考えるのが一般的でしょうから、配偶者が遺骨を引き取ることができると考えられます。
遺骨を遺産分割できる?
上記のとおり、遺骨は、相続の対象とはならないので、遺産分割の対象となりません。
しかし、遺骨についても、今後のトラブルを防止するために、あえて遺産分割協議書の中に明記したいという方がいます。
他のお墓や位牌などの祭祀財産もそうですが、このような場合、遺産分割協議書の中に記載すること自体は問題ないと考えます。
祭祀・仏壇・お墓についての遺産分割協議書の記載例については、こちらのページを御覧ください。
まとめ
以上、遺骨を誰が取得するかについて、くわしく解説しましたがいかがだったでしょうか?
遺骨は、一般的な遺産とはその性質を大きく異にするため、だれが遺骨を引き取る権利を有するかを判断するのは非常に難しい問題です。
遺骨について、親族間の対立がある場合、他の遺産についても争いに発展する可能性があります。
遺産の問題のトラブルは、親族間だと感情的になってしまい、当事者だけで解決することが難航する場合があります。
遺骨をめぐる争いに巻き込まれ、お困りの方は、ぜひ一度、相続専門の弁護士にご相談されることをおすすめします。
当事務所の相続対策チームは、相続問題に注力する弁護士・税理士のみで構成される専門チームであり、遺骨などの祭祀財産について、強力にサポートしています。
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