借金を相続しない方法としては、相続放棄等の法的手続きが考えられます。
また、状況しだいでは消滅時効を主張できる場合もあります。
目次
ご家族がお亡くなりになると、ご遺族の方は深い悲しみに覆われていらっしゃるかと存じます。
そのような中、借金まで見つかると、今後どのように対応すればいいのか、不安に感じているのではないでしょうか。
相続した借金には時効が成立しているケースもあります。
亡くなった方が最後に返済してから5年以上が経過していれば、消滅時効が成立している可能性があるのです。
ここでは、ご遺族の方のご負担できるだけ軽くするために、借金が見つかった場合の対処法について、弁護士と税理士の資格を持つ執筆者がわかりやすく解説いたします。
借金の相続はどこまで?
相続が発生すると、相続人は被相続人(亡くなった方)の一切の権利義務を引き継ぎます(民法896条)。
参考:民法|電子政府の窓口
相続で注意しなければならないのは、必ずしもプラスの財産を引き継ぐことばかりではないということです。
お亡くなりになられた方が借金などでマイナスの財産しか持っていない場合、相続人は被相続人のマイナス財産を引き継ぐことになります。
では、相続人の範囲はどこまでとなるのでしょうか。
相続人の範囲は、民法で次のとおり定められています。
配偶者は常に相続人となり、配偶者以外の人は、次の順序で配偶者と一緒に相続人になります。
第1順位子供(亡くなっていれば孫などの直系卑属)+配偶者
第2順位父母(亡くなっていれば祖父母など直系尊属)+配偶者
第3順位兄弟姉妹(亡くなっていればその子供)+配偶者
第2順位は第1順位の人がいない場合に、第3順位は第1順位の人も第2順位の人もいない場合に相続します。
借金についての3つの対処法
対処法1 相続放棄をする
被相続人(亡くなった方)が借金をしていた場合、自分の親が負った借金だから自分が返さなければいけないと考えている方がいらっしゃいます。
しかし、民法は、相続をするか否かにつき相続人に選択の自由を認めています。
単純承認 | 負債を含めて全面的に承認する |
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相続放棄 | 財産の承継を全面的に拒否する |
限定承認 | 相続資産の範囲内で債務などの責任を負う |
すなわち、相続財産について負債を含めて全面的に承認するのか(単純承認)、逆に財産の承継を全面的に拒否するのか(相続放棄)、相続した資産の範囲内で債務などの責任を負うのか(限定承認)について、被相続人の財産状況等を踏まえて選択をすることが可能です。
そして、相続放棄をした場合には、親の借金は返さなくてもよいことになります。
相続放棄の注意点
相続人が被相続人の財産を一部でも処分すると、単純承認をしたことになります。
また、熟慮期間内(相続をしたことを知った時から3ヶ月以内)に限定承認や相続放棄をしなかった場合も相続人が単純承認をしたとみなされることになるため注意が必要です(民法921条)。
対処法2 限定承認をする
限定承認とは、被相続人(亡くなった方)の権利義務を承継するが、相続によって得た積極財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済することを条件とする相続の承認です。
すなわち、相続によって得た積極財産(プラスの財産)の限度で、被相続人の消極財産(負債等のマイナスの財産)を弁済すれば足りるということです。
ただし、この限定承認は、相続人全員が行わなければなりません。
そのため、一人でも反対者がいれば利用できません。
対処法3 消滅時効を援用する
被相続人の借金については、時効が成立しているケースもあります。
時効とは、簡単に言うと、一定期間が経過した場合に、権利の取得や喪失ということを認める制度です。
権利を取得する場合を取得時効といい、権利を喪失することを消滅時効といいます。
時効を主張する場合は、これを行使する意思表示(「援用(えんよう)」といいます。)が必要です。
つまり、消滅時効を主張するのであれば、「時効を主張する」と相手に伝える必要があります。
サラ金や銀行などからの借金の場合、消滅時効は5年間が通常です(10年間となる場合もあります。)。
この期間の起算点は、通常、最後に返済をしたときです。
すなわち、被相続人(亡くなった方)が最後に返済してから、5年以上が経過していれば、消滅時効が成立している可能性があるのです。
ただし、時効によって借金を消滅させるためには、援用が必要です。
つまり、「消滅時効を主張します。」などの意思表示が必要となります。
それを知らずに、債権者からの督促状などを見て、驚いて返済してしまう方がいます。
その場合、債務を承認したことになるため、時効の主張ができなくなりますので注意してください。
借金の相続放棄ができないケースとは
相続放棄は、上記のとおり、相続の開始を知ったときから3か月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をし、受理される必要があります。
また、熟慮期間中であっても、相続人が相続財産の全部又は一部を処分したときは、相続を単純承認したものとして、相続放棄をすることができなくなります。
兄弟の借金を相続しなければならない?
兄弟姉妹は、上記のとおり、相続の順位が第3順位となります。
したがって、第1順位の子供(及びその直系卑属)や第2順位の父母(及びその直系尊属)が死亡している場合に、相続権が発生するので、その場合は借金を相続することになります。
また、子供や親が生存していても、相続放棄をされると、当該子供や親は「相続人ではなかったことになる」ため、兄弟が借金を相続することになります。
したがって、このような場合、相続放棄等の上記の3つの対処法を検討することとなります。
借金を知らなかったときはどうなる?
相続放棄については、上記のとおり、3ヶ月間の熟慮期間という制限があります。
この期間を過ぎ、借金が後から発覚することがあります。
このような場合、相続放棄は簡単ではありません。
しかし、形式上熟慮期間を経過した事案でも、裁判所に対して、借金を知らなかった諸事情について、説得的に主張することで、相続放棄が認められるケースもあります。
したがって、このような事案でも諦めずに専門家に相談されることをお勧めいたします。
借金を相続したときの税金の計算
借金を相続した場合、相続税の計算ではその分を考慮してもらえます。
すなわち、プラスの財産から借金などのマイナスの財産を控除したものが課税対象となります。
したがって、相続税の申告では、借金の控除を忘れないようにしましょう。
借金の相続の場合の弁護士費用
①相続放棄等の場合
各法律事務所によって、金額が異なりますが、数万円程度が多いようです。
熟慮期間(3ヶ月経過)や単純承認の可能性がある事案では、難易度が高くなるためやや高くなる可能性があります。
②消滅時効の援用の場合
弁護士に内容証明郵便を送付してもらう場合は5万円から10万円程度が一般的だと思われます。
消滅時効の援用だけであれば、書き方を弁護士にアドバイスしてもらい、ご自身で送付するなどすれば費用はほとんどかからないと思われます。
明朗会計の法律事務所であれば、法律相談時にお見積りを出しくれると思いますので、まずはご相談されてはいかがでしょうか。
法律相談については、無料で対応してくれる法律事務所もあります。
まとめ
以上、借金の相続について、詳しく解説しましたがいかがだったでしょうか。
借金の相続については、①相続放棄、②限定承認、③消滅時効の援用の3つの対象法があります。
時効が成立していない場合は、相続放棄か限定承認かを選択することとなります。
多くの関係者に大きな影響をもたらす法律手続である以上、どの手段を選択するか、あらゆる側面を理解したうえで慎重に行う必要があります。
そのため、借金の相続については、専門家である弁護士にご相談されてみることをお勧めしています。
この記事が相続問題に直面している方にお役に立てれば幸いです。