代償分割とは?わかりやすく解説|遺産分割協議書の記載例

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

代償分割とは?

代償分割とは、遺産を分ける方法の1つで、一人の相続人が遺産の現物をそのままの形で取得し、その代わりに他の相続人に金銭(代償金)などをわたすという方法です。

この記事では、代償分割とは何か、代償分割をする場合のメリット・デメリットは何か、どのような場合に行うのか、といった点について、相続に強い弁護士がわかりやすく解説します。

また、代償分割をする場合の遺産分割協議書の記載例をあわせて掲載しますので、こちらも参考にしてみてください。

代償分割とは?

代償分割は遺産分割の方法の1つです。

そもそも遺産分割とは、亡くなった方(「被相続人」といいます。)の遺産について、相続人の誰がどの遺産をどのように取得するかを決めることをいいます。

遺産分割には、大きく3つのパターンがあります。

具体的にどのように遺産を分けるのかという遺産分割の方法は大きく4つに分けることができます。

具体的には、①現物分割、②換価分割、③代償分割、④共有分割の4つです。

遺産分割の方法

代償分割の意味

代償分割とは、一人の相続人が遺産の現物をそのままの形で取得し、その代わりに、他の相続人に対して金銭(代償金)等をわたすという遺産分割の方法です。

具体例

被相続人の遺産:自宅マンション(5000万円相当)のみ

相続人:被相続人の長男・長女

長男が自宅マンション(5000万円)を取得し、長男から長女に対して代償金として2500万円を現金で支払う。

代償分割の具体例

 

代償分割と他の分割との比較

現物分割

現物分割とは、相続人がそれぞれの遺産をそのままの形で分け合う方法です。

具体例

被相続人の遺産:自宅マンション(5000万円相当)、預貯金(1000万円相当)自動車(500万円相当)

相続人:被相続人の妻・長女

被相続人の妻が自宅マンション(5000万円相当)を取得し、長女が預貯金と自動車(あわせて1500万円相当)を取得する。

現物分割

代償分割との比較

– 代償分割と現物分割はどちらも、遺産の現物を分け合う方法である点で共通しています。

– 代償分割では、相続人間の公平をはかるために代償金等をわたして調整するのに対して、現物分割ではこのような調整が行われることはありません

現物分割では取得する遺産の価値に大きな差がある場合、不公平な結論となる可能性があります(上の事例でも、妻は長女よりも3500万円分多くの遺産を取得しています)。

換価分割

換価分割とは、遺産を売却するなどして金銭に換えて、その金銭を相続人で分け合う方法です。

換価分割

代償分割との比較

– 代償分割と換価分割はどちらも、原則として金銭の支払いが行われる点で共通しています。

– 代償分割では相続人が遺産の現物をそのまま取得するのに対して、換価分割では遺産の現物を売却して金銭に換えた上で、その金銭を分け合うという点で違いがあります。

遺産を公平に分けることを重視する場合で、遺産の現物を特定の相続人に引き継がせる必要性がないケースや、代償金の支払いが難しいケースでは、換価分割の方法が選択されます。

共有分割

遺産の全部または一部を複数の相続人で共有する方法です。

共有分割

代償分割との比較

– 代償分割と共有分割はどちらも、遺産の現物を相続する点で共通しています。

– 代償分割は一人の相続人が遺産の現物を単独で所有するのに対して、共通分割では複数の相続人が遺産の現物を共有する点で違いがあります。

共有分割は、利害関係者が増えて権利関係が複雑になってしまうため、最後の手段とされています。

まとめ
代償分割 現物分割 換価分割 共有分割
現物の取得 ◯あり ◯あり ✕なし ◯あり
金銭の支払い ◯あり ✕なし ◯あり ✕なし
財産の共有 ✕なし ✕なし ✕なし ◯あり

 

 

代償分割の要件

被相続人が遺言書で代償分割の方法を指定する場合(指定分割)や、当事者の話し合いによって代償分割の方法を選ぶ場合(協議分割)には、特に要件はありません。

これに対して、当事者同士での話し合いがまとまらず、家庭裁判所で遺産分割審判を行う場合には要件が定められており、「特別の事情があると認めるとき」に代償分割の方法を選択することができるとされています(家事事件手続法第195条)。

判例は、この「特別の事情」の要件の1つとして「相続人に代償金の支払能力があること」をあげています。

相続人が代償分割を希望している場合でも、遺産の現物を取得する相続人に代償金を支払えるだけの資産がないときには、家庭裁判所は審判において代償分割の方法を選択することはできません

ワンポイント:裁判所の実務の扱い

相続人同士での遺産分割協議がまとまらない場合、まずは家庭裁判所で遺産分割調停を行い、調停がまとまらない場合には自動的に遺産分割審判に移行する、という流れが一般的です。

遺産分割調停の中で当事者が代償分割の方法を希望している場合、家庭裁判所はしばしば、相続人に代償金を支払うための資産があるかどうかを判断するための資料の提出を求めることがあります。

例えば、相続人が預貯金から代償金を支払うと主張している場合には、通帳の写しや残高証明書の提出を求めます。

相続人が銀行や親族から融資を受けて(借金をして)代償金を支払うと主張している場合には、「銀行や親族が実際に金銭を貸し付けることを保証する内容の証明書を発行してもらって提出することを求めるなどします。

家庭裁判所は、提出された資料をもとにして、相続人に代償金を支払うことができると判断した場合に限って、代償分割を認めることができます。

相続人に代償金を支払うための資産がないと判断した場合には、代償分割を認めることはできません。

代償分割を認めない場合には、換価分割の方法(遺産を売却して金銭に換えて分配する方法)になる可能性が高いと思われます。

相続人が代償分割を希望するケースでは、現物分割の方法によることが難しい(例えばめぼしい遺産が1つの不動産だけであるなど)場合が多く、また、共有分割の方法は権利関係を複雑にすることから、最後の手段といわれているためです。

 

 

代償分割のメリットとデメリット

代償分割には次のようなメリット・デメリットがあります。

メリット デメリット
  • 遺産の形をそのまま引き継げる
  • 遺産を公平に分配できる
  • 権利関係の複雑化を防げる
  • 相続税の負担が軽減される可能性がある
  • 遺産の現物を取得した相続人に資産がない場合は利用できない
  • 代償金をめぐるトラブルが起きる可能性がある
  • 贈与税・所得税がかかる可能性がある

メリット

遺産の形をそのまま引き継げる

代償分割では、遺産の現物をそのままの形で特定の相続人に取得させることができます。

例えば、被相続人が特定の相続人に先祖代々の土地を引き継いでもらいたいと考えている場合には、代償分割の方法を指定することが考えられます。

特定の相続人に被相続人の事業(事業に使用する店舗や機器を含みます。)を引き継いでもらいたいと考えている場合にも、代償分割の方法をとることで、事業をスムーズに引き継ぐことができます。

また、代償分割を利用する場合には、遺産を売却して換金するための時間と労力がかからないということもメリットとしてあげることができます。

遺産を公平に分配できる

代償分割では、遺産の現物を取得した相続人から他の相続人に対して代償金等をわたすことによって、遺産を公平に分けることができます。

代償金(金銭)を支払うことで、相続人同士の差分を調整することができます。

例えば、現物分割の方法により、相続人Aが5000万円相当の土地Xを、相続人Bが3000万円相当の土地Yを、それぞれ取得する場合、相続人Aと相続人Bが取得する遺産には2000万円分の価値の差があります。

これに対して、代償分割の方法により、相続人Aが5000万円の土地Xと3000万円相当の土地Yの両方を取得し、相続人Aから相続人Bに代償金として4000万円を支払う場合、相続人Aと相続人Bはどちらもトータルで4000万円分の価値を取得することができます。

権利関係の複雑化を防げる

代償分割の方法による場合には、1つの遺産を1人が相続するため、権利関係の複雑化を防ぐことができます。

遺産をそのまま引き継いで公平に分配するための方法としては、代償分割のほかにも共有分割の方法があります。

しかし、共有分割による場合、1つの財産を複数人で共有することになるため、基本的には全員の合意がなければ財産を処分することができません。

また、遺産を共有分割の方法で相続した後に、さらに遺産を共有している相続人が亡くなった場合、相続人の相続人が遺産を共有することとなるため、ますます権利関係は複雑になります。

代償分割の方法によることで、権利関係の複雑化や、これによるトラブルの発生を防ぐことができます。

相続税の負担が軽減される可能性がある

相続する遺産の内容によっては、代償分割を利用することによって相続税の負担が軽減される可能性があります。

例えば、被相続人と自宅で同居していた相続人が、代償分割によってその自宅を相続するケースでは、一定の条件を満たす場合には「小規模宅地等の特例」という、相続税の負担が小さくなる制度の適用を受けることができます。

 

デメリット

遺産の現物を取得した相続人に資産がない場合は利用できない

代償分割の方法によって遺産を分け合うためには、遺産の現物を取得する相続人に代償金を支払うための資産(特に現預金等)があることが必要です。

特に、特定の相続人が取得する遺産の現物が高価な場合には、代償金の支払いにあてる資産を用意するハードルが高くなることから、そもそも代償分割の方法を利用できないというケースがあります。

代償金をめぐるトラブルが起きる可能性がある

代償分割を利用する場合の代償金の金額は、特定の相続人が相続する遺産の現物の価値を基準に決めることとなりますが、この遺産の金額の評価をめぐって争いとなる可能性があります。

例えば、一人の相続人が土地を取得して他の相続人に代償金を支払う場合、土地の取得時の金額を基準にするのか、それともそれとも代償分割をする時点での金額を基準にするのか、といった評価方法をめぐる争いが起きる可能性があります。

特に、不動産や株式などの財産の評価は専門家でも難しいケースが多いため、争いの原因となることが多いといえます。

さらに、代償金の支払方法(一括払いか、分割払いか)や支払時期、支払いの遅延などに関してトラブルとなる可能性もあります。

贈与税や所得税がかかる可能性がある

代償分割の際に支払われる代償金について、基本的には贈与税や所得税がかかることはありません。

しかし、遺産分割協議書の作り方によって贈与税が発生するケースや、現物を受け取る相続人がその代わりにわたす資産の内容によっては所得税が発生するケースもあるため、注意が必要です。

 

 

代償分割はどんなときに行う?

代償分割を行ったほうが良いケース

遺産の現物を公平に分けることが難しいケース

相続人が複数人いるにもかかわらず、めぼしい遺産が1つしかないケースや、被相続人の遺産の価値に大きな差があるケースでは、遺産の現物を公平に分け合うことが難しいことから、代償分割を行うのがおすすめです。

たとえば、被相続人の長男と次男が相続人になる場合で、被相続人の遺産が3000万円相当の土地だけであるというケースでは、そのままの形で遺産を分けることが難しい状況にあります。

このケースで代償分割を行う場合には、例えば、長男が土地を相続し、長男が次男に対して1500万円の代償金を支払うことが考えられます。

唯一無二の遺産をそのまま相続させたいケース

唯一無二の遺産(例えば先祖代々の土地など)をそのまま相続させたいケースでは、代償分割を行った方がよいといえます。

唯一無二の遺産を引き継がせたい場合、これを売却してしまっては意味がなくなるためです。

例えば、被相続人の長男と次男が相続人となり、長男に先祖代々の土地を相続させたいというケースでは、被相続人は、長男に先祖代々の土地を相続させ、長男から次男に対して代償金を支払わせる、という内容の遺言書を作成することが考えられます。

特定の相続人に事業を継がせたいケース

特定の相続人に事業を継がせたいケースでは、事業に使用している事務所や機器などをそのまま引き継ぐために、代償分割を行うのがよいでしょう。

事業を引き継いだ相続人が改めて事業に必要なものを買い直すのではなく、それまで事業に使用していたものをそのまま被相続人から引き継ぐのがスムーズだからです。

また、承継する会社の株式についても、代償分割を活用する方法も考えられます。

この場合にも、遺言書を作成したうえで、代償分割の方法を指定することが考えられます。

 

代償分割を行わないほうが良いケース

現金がないケース

代償分割では、原則として遺産の現物を取得する相続人が代償金(金銭)を支払うこととなるため、その相続人に代償金の支払いにあてるための金銭(現預金等)があることが必要です。

すでに説明したように、家庭裁判所による遺産分割審判では通常、相続人に代償金の支払能力があることが要件とされるため、資産がない場合にはそもそも代償分割の方法を指定することができません。

指定分割(遺言書による指定)や協議分割の場合であっても、相続人に代償金を支払うための十分な資産がない場合には、代償金の支払いをめぐってトラブルとなる可能性があるため、代償分割を行わないほうが良いといえます。

なお、現物を取得した相続人には現金や預貯金はないものの、他の財産(不動産や株式など)があるという場合には、金銭の代わりに不動産等の財産(代償財産)をわたすことも考えられます。

ただし、後で説明するように、金銭以外の財産をわたす場合には所得税が発生する可能性があるため注意が必要です。

相続人が不仲のケース

相続人が不仲のケースでは、特定の相続人だけが遺産の現物を相続することについてトラブルとなったり、遺産の現物を取得した相続人から支払われる代償金の金額をめぐってトラブルとなったりする可能性があります。

感情的な対立による相続トラブルは長期化する傾向にあるため、相続人同士の関係がよくない場合には、他の遺産分割方法を含めて十分に比較検討することが大切です。

 

 

代償分割を行う遺産分割協議書の記載例

遺産分割協議書とは

遺産分割協議書とは、遺産分割協議で決まった内容を書面にまとめたものをいいます。

遺産分割によって相続した遺産について、名義変更や相続税の申告などの相続手続きを行う際には、各手続きを行う金融機関や役所などから遺産分割協議書の提出を求められます。

遺産分割協議書についてくわしくはこちらをご覧ください。

 

記載例

遺産分割協議の結果、相続人Aが不動産(建物)を相続し、相続人Aから相続人Bに対して3000万円の代償金を支払うこととなった場合(代償分割)の記載例は、次のとおりです。

遺産分割協議書

被相続人 甲野 太郎

生年月日   昭和◯◯年◯◯月◯◯日

死亡年月日  令和◯◯年◯◯月◯◯日

本籍地    ◯◯県◯◯区◯◯町 ◯丁目◯番

最後の住所地 ◯◯県◯◯区◯◯町 ◯丁目◯番◯号

共同相続人A及びBは、被相続⼈甲野太郎の遺産について遺産分割協議を⾏った結果、次のとおり分割することに合意した。

 

1.次の不動産は、相続人Aが取得する。

(建物)

所  在 ◯◯県◯◯市◯◯町 ◯丁目◯番地◯

家屋番号 ◯◯番◯

種  類 居宅

構  造 木造瓦葺2階建

床面積 1階部分 ◯◯.◯◯平方メートル

2階部分 ◯◯.◯◯平方メートル

2.相続人Aは、前項の不動産を取得する代償金として、相続人Bに対し、金3000万円を支払う。

 

遺産分割協議書のポイント

遺産分割協議書には、相続人Aから相続人Bに支払う金銭(上の記載例では3000万円)が「代償金」として支払われることを明記することが大切です。

財産を取得した相続人から他の相続人への金銭の支払いが「贈与」にあたるとみなされると、贈与税を課される可能性があるためです。

また、後になってから代償金の支払いをめぐって相続人同士でトラブルとなった場合には、遺産分割協議書の記載が証拠となります。

代償金の支払いについて争いになりそうなポイントがある場合(特に、代償金の分割払いについて合意した場合など)は、その内容を遺産分割協議書に明記しておきましょう。

遺産分割協議書のひな型はこちらをご覧ください。

 

遺産分割協議書の自動作成ツール

一般の方が遺産分割協議書を自力で作成するのはなかなか難しい面があります。

当事務所では、画面の指示に沿って被相続人や相続人の情報(氏名、本籍地、住所や人数など)、相続の対象となる遺産の情報、遺産の分け方、など入力するだけで、簡単に遺産分割協議書を作成することができるツール(シミュレーター)を提供しています。

ぜひご活用ください。

遺産分割協議書のシミュレーターはこちらをご覧ください。

 

 

代償分割の流れ

遺産分割協議で代償分割の方法を選択する場合の手続きの流れは、次のとおりです。

代償分割の流れ

相続人と遺産の内容を調査する

遺産分割協議は相続人全員が合意した場合に成立し、相続人が1人でも参加していない場合や1人でも反対している場合には成立しません。

被相続人の隠し子など、存在を知られていない相続人がいる可能性もあることから、相続人をもれなく調査・把握し、遺産分割協議に参加してもらうことが大切です。

相続人を正確に把握するためには、被相続人の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本等を取り寄せることが大切です。

また、後になってから遺産分割協議の対象になっていなかった遺産の存在が判明した場合、改めてその遺産の分け方について協議をしなければならない可能性があることから、被相続人の遺産の内容をもれなく調査・把握することも大切です。

なお、相続の対象となる遺産にはプラスの財産だけでなく負債等のマイナスの財産(借金やローン等)も含まれるため、マイナスの財産の有無やその内容についても忘れずに調査しましょう

遺産の調査については、登記簿謄本や固定資産税納税通知書(不動産の場合)、通帳(預貯金)、残高証明書(ローンなど)のように、客観的な書類で確認するのがポイントです。

あわせて読みたい
相続人について詳しくはこちら
新規作成予定のTW「相続人」

 

遺産分割協議をして代償分割について合意する

相続人全員で遺産分割協議を行います。

遺産分割協議の結果、特定の遺産について代償分割をすることにした場合には、代償金の金額やその方法についても合意します。

相続人が1人でも参加していない場合や1人でも反対している場合には遺産分割協議は成立しません。

 

遺産分割協議書を作成する

遺産分割協議で合意した内容をまとめた遺産分割協議書を作成します。

遺産分割協議書の作成は法律上の義務ではありませんが、遺産相続の手続きをする際には遺産分割協議書の提出を求められることが少なくありません。

また、遺産分割協議書は相続人間で後々トラブルになった場合の証拠にもなるため、遺産分割協議をした場合にはできるだけすみやかに作成することをおすすめします。

上にあげた記載例を参考に作成してみてください。

遺産分割協議書の自動作成ツール(シミュレーター)をご利用いただくこともできます。

 

遺産分割協議書に沿って名義変更や代償金の支払いを行う

相続人は、遺産分割協議書に記載された内容(遺産分割協議で合意した内容)に沿って、相続した遺産について名義変更の手続きや代償金の支払い等を行います

相続した不動産や預貯金について名義変更の手続きを行う際には、役所や金融機関に遺産分割協議書を提出することになります。

 

 

代償分割の相続税の計算方法

相続人は、相続した遺産に応じて相続税を支払う必要があります。

さらに、代償分割をした場合には、相続税のほかに贈与税や譲渡所得税がかかる場合があります。

この項目では、代償分割をした場合の税金(相続税や贈与税、譲渡所得税)の計算方法について解説します。

代償分割の相続税

「相続税」とは、実際に相続した財産の金額に応じて支払う税金のことです。

相続税の計算では、まず、相続人ごとの相続税の対象となる遺産の金額(これを「課税価格」といいます。)を計算する必要があります。

代償分割をした場合、代償金を支払う相続人と代償金を受け取る相続人の課税価格は、それぞれ次のように計算されます。

代償金を支払う相続人の課税価格

課税価格 = 相続した遺産の評価額(取得した遺産の現物を含みます。) − 支払った代償金の金額

代償金を受け取る相続人の課税価格

課税価格 = 相続した遺産の評価額(他の遺産を取得した場合)+ 受け取った代償金の金額

具体例で考えてみましょう。

具体例
被相続人の遺産:自宅マンション(5000万円相当)のみ

相続人:被相続人の妻・長女

被相続人の妻が自宅マンション(5000万円相当)を取得し、妻が長女に対して2500万円の代償金を支払う場合

代償分割の相続税の計算の具体例

妻と長女の課税価格は、それぞれ次のように計算されます。

妻の課税価格:5000万円 – 2500万円 = 2500万円

長女の課税価格:0円 + 2500万円 = 2500万円

相続税について詳しくはこちらをご覧ください。

 

小規模宅地等の特例が適用されるケース

代償分割で「小規模宅地等の特例」が適用されるケースでは、相続税の負担が軽減されます。

小規模宅地等の特例が適用される対象としては、次のようなものをあげることができます。

  1. ① 被相続人が事業に使っていた工場、店舗、事務所など(特定事業用宅地等)
  2. ② 被相続人が生前に住んでいた自宅など(特定居住用宅地等)
  3. ③ 被相続人が他人に貸していた駐車場用地、賃貸マンションなど(貸付事業用宅地等)
  4. ④ 被相続人が過半数の株式を有する会社など、一定の要件を満たす法人が事業のために利用していた土地、ビルなど (特定同族会社事業用宅地等)

一部の相続人がこれら①〜④のいずれかにあたる宅地等の現物を取得した場合、その宅地等の課税価格が50%〜80%減額されます(減額の割合は宅地の用途によって異なります)。

相続税は課税価格を元に算出されるため、小規模宅地等の特例が適用されることによって、相続税の負担が軽減されます。

具体例

例えば、被相続人と同居していた自宅(5000万円相当)を妻が相続する場合、自宅の課税価格は80%減額され、次の計算式より1000万円となります。

5000万円 × 20% = 1000万円

 

代償分割で譲渡所得(税)が発生するケース

代償分割で遺産の現物を取得した相続人が金銭で代償金を支払う場合、譲渡所得税はかかりません

これに対して、代償分割で遺産の現物を取得した相続人が金銭以外の資産(不動産等)を渡す場合には、譲渡所得税が発生する可能性があります。

「譲渡所得」とは、土地や建物などの不動産、株式、ゴルフ会員権などの金銭以外の資産を譲渡(売却など)して得られた利益のことをいい、この譲渡所得の金額に応じて譲渡人に税金(譲渡所得税)がかかります。

遺産の現物を取得した相続人が他の相続人に金銭以外の資産をわたす場合には、「代償金」の支払いにあてるために、その資産を他の相続人に「譲渡」したものと扱われるのです。

代償金の代わりに金銭以外の資産を渡した場合の「譲渡所得」の金額は、基本的に、資産を渡した時点でのその資産の時価(譲渡価格)から取得時の時価を差し引いて計算されます。

これを計算式で表すと次のようになります。

代償金の代わりに金銭以外の資産を渡した場合の「譲渡所得」

譲渡所得 = 譲渡価格(代償金の代わりにわたす時点での評価額)− 取得費(資産の取得時点での評価額)

譲渡所得税は、上の式によって計算された「譲渡所得」の金額に、税率(%)をかけて計算されます。

譲渡所得税を計算する際の税率は、土地等の資産を所有していた期間(年月)に応じて異なります。

税率については、こちらのページをご確認ください。

あわせて読みたい
譲渡所得税の税率

具体例

被相続人の遺産:土地(地価1億円)

相続人:長男と二男

長男が土地を相続し、二男に対し、8年前から保有しているマンション(時価5000万円、取得費4000万円)を代償することとなった。

この場合、長男が二男に渡すマンションの時価が取得費を上回っていることから、長男に譲渡所得税がかかります。

譲渡所得税がかかるケース

  • 譲渡所得の金額
    マンションの時価(5000万円)- 取得費(4000万円)= 1000万円
  • 所得税の額
    譲渡所得1000万円 × 税率20.315%※(長期譲渡所得の税率、住民税5%を含む)= 2,031,500円

※所有期間が5年以下の場合は短期譲渡所得が適用され税率が39.63%になります。

 

代償分割で贈与税が発生するケース

原則として、代償分割で支払われる代償金(金銭)について贈与税が発生することはありません。

ただし、遺産分割協議書に代償金であることを明記しなかった場合、単なる金銭の「贈与」であるとみなされてしまい、贈与税を課される可能性があります。

遺産分割協議で代償分割を選択し、現物の代わりに金銭を支払うことにした場合には、遺産分割協議書にその金銭が代償金であることを明記しましょう。

また、代償分割は遺産を公平に分けるための分割方法であるため、遺産の現物を取得した相続人が、現物の価値以上の代償金(金銭)を他の相続人に支払った場合には、その金銭の支払いが「贈与」にあたると判断され、贈与税がかかる可能性があります。

そのため、代償金の金額にも注意が必要です。

 

 

代償分割の4つのポイント

代償分割の4つのポイント

税金の負担について確認する

この記事で説明してきたように、代償分割をする場合には、状況によって税金の負担を減らせる可能性がある反面、反対に税金の負担が大きくなってしまう可能性もあります。

代償分割を選択する場合には、税金に関するルールをよく理解した上で、支払わなければならない税金の額をあらかじめ確認しておくことが大切です。

税金の仕組みは非常に複雑であり、一般の方が正確に理解することはかなり難しいことから、代償分割をする場合の税金の負担については、相続にくわしい税理士や弁護士に相談されることを強くおすすめします。

 

遺言書や遺産分割協議(書)の無効に注意する

遺産分割調停や遺産分割審判で代償分割をする場合には、家庭裁判所が調停調書や審判書を作るため、無効になることはほとんどありません。

これに対して、遺言書で代償分割を指定する場合や遺産分割協議で代償分割を選択する場合には、遺言書や遺産分割協議(書)が無効となるリスクがあるため、注意が必要です。

遺言書が無効となる場合には、相続人全員で遺産分割協議をして遺産の分け方を決めることとなります。

遺産分割協議自体が無効の場合には遺産分割協議のやり直しを、遺産分割協議書が無効の場合には協議書の作り直しをする必要があります。

特に、遺言書については法律(民法)で要件やルールが定められており、それらを守らなかったために無効とされてしまうケースが少なくありません。

遺言書や遺産分割協議(書)についてはあらかじめ法律(民法)の要件やルールをよく確認し、ルールを守って作成することが大切です。

 

遺産分割協議書を執行力のある公正証書で作成する

遺産分割協議で代償分割をすることとなった場合には、遺産分割協議書を公正証書で作成することを検討しましょう。

「公正証書」とは、公証役場で公証人(公証人は法律の専門家がつとめます。)が作成する公文書のことをいいます。

遺産分割協議書を公正証書で作成し、さらに、遺産分割協議書の中に「代償金の支払いをしない場合は強制執行に服する」という文言(これを「強制執行受諾文言」といいます。)を記載しておくことによって、遺産分割協議書をもとに強制執行の申立をすることができます。

強制執行」とは、遺産分割協議や調停が成立した場合や審判が確定した場合にもかかわらず、相手がその内容に従わないときに、裁判所が強制的に内容を実現する手続きのことです。

例えば、代償金を支払わない場合に強制執行が認められると、相手の預金を差し押さえて代償金の支払いにあてたり、不動産を差し押さえて競売にかけ、その売却代金を代償金の支払いにあてたりすることができます。

ただし、公正証書を作成するためには、必要書類を準備して公証役場へ行かなければならないという負担や、公証役場へ支払う作成費用の負担などもあります。

遺産分割協議書を公正証書で作成するかどうかは、メリット・デメリットを比較して判断しましょう。

なお、遺産分割協議書を公正証書で作成し強制執行受諾文言を入れない場合、いきなり遺産分割協議書をもとに強制執行の申立てをすることはできません。

遺産分割協議書を制執行受諾文言つきの公正証書で作成しない場合には、まずは家庭裁判所での調停(遺産に関する紛争調整調停)や地方裁判所(金額によっては簡易裁判所)での訴訟をする必要があります。

 

相続に強い弁護士に相談する

代償分割を検討している場合には、相続に強い弁護士に相談するのがおすすめです。

代償分割をスムーズに行うためには相続法に関する専門知識が必要となりますが、一般の方が自力で相続法について調べて理解するのはハードルが高いといえます。

遺産分割の方法には代償分割以外にも現物分割や換価分割、共有分割などの方法があることから、まずはそもそも代償分割をすることが適切な状況なのか、という点を的確に判断することが大切です。

また、代償分割の方法を選択することとなった場合には、代償金等の支払い方法や税金の負担について確認したり、有効な遺言書や遺産分割協議書を作成することも重要です。

相続に強い弁護士に相談することで、代償分割を行うべきかどうかや、代償分割をスムーズに行うためのポイントについて、それぞれの状況に応じた的確なアドバイスをもらえることが期待できます。

なお、弁護士にはそれぞれ専門分野があり、相続にあまりくわしくない弁護士に相談した場合には、かえって多くの時間と労力がかかってしまう可能性もあることから、相続に強い弁護士に相談するようにしましょう。

相続問題を弁護士に依頼すべき理由はこちらをご覧ください。

 

 

代償分割についてのQ&A

代償分割で支払ってもらえない場合、どうすればいいですか?


遺産分割協議で代償分割をした場合

遺産分割協議が成立したにもかかわらず、相手が代償金を支払ってくれない場合であっても、支払いがないことを理由に遺産分割協議が無効になることはありません。

まずは、相手に内容証明郵便を送るなどして支払いを催促してみることが大切です。

当事者同士の話し合いではらちが明かない場合には、弁護士に交渉の代理を依頼することをおすすめします。

話し合いで解決できない場合には、家庭裁判所に調停(遺産に関する紛争調整調停)の申立てをしたり、地方裁判所(金額によっては簡易裁判所)に訴訟を提起したりすることになります。

なお、遺産分割協議書を公正証書で作成した場合には、調停や訴訟をすることなく、遺産分割協議書をもとに強制執行の申立てをすることができます。

遺産分割調停・遺産分割審判で代償分割をした場合

遺産分割調停や遺産分割審判で代償分割をすることが決まったにもかかわらず、相手が代償金を払ってくれない場合、代償金を払ってもらえない相続人は、調停調書や審判書をもとに強制執行の申立てをすることができます。

強制執行の申立ては裁判所を介して行う必要があるため、時間と労力がかかります。

そのため、まずは当事者同士の話し合いで支払いを説得してみることをおすすめします。

 

代償分割で払えない場合どうすればいいですか?


代償分割をすることが決まったにもかかわらず、代償金を支払うことが難しい場合には、どうすればよいでしょうか。

前の項目で説明したように、代償金の支払いをせずにいると、最終的には裁判所で調停や訴訟をしなければいけなくなったり、財産について強制執行を受けてしまったりする可能性があります。

そのため、絶対に相手からの請求を無視してはいけません。

この項目では、代償分割で払えない場合の方法について解説します。

支払期限の猶予を交渉する

遺産分割協議の成立後に支払いが難しい状況になった場合には、相続人全員で改めて話し合いを行い、支払期限の延長(猶予)について交渉することが考えられます。

支払期限の猶予について相続人全員が合意できた場合には、あらためて遺産分割協議書を作り直したり、もしくは覚書を作成するなどして、後々の争いを防ぎましょう。

分割払いの交渉をする

不払いのリスクを避けるためには、代償金を一括で支払うのが望ましいといえます。

しかし、どうしてもまとまった金額の代償金を支払うことが難しい場合には、分割払いの交渉をすることが考えられます。

ただし、分割払いには滞納や不払いのリスクがあるため、他の相続人が合意してくれない可能性もあります(遺産分割協議では相続人全員の合意が必要です)。

代償金の分割払いについて合意できそうな場合には、後の争いを防ぐために、支払い回数や支払い期日、支払い方法などについても明確に決めておくことが大切です。

遺産分割協議で代償分割の分割払いについて合意した内容は、遺産分割協議書に明記しておくことが大切です。

当初は一括払いをする予定で遺産分割協議が成立したものの、その後に一括払いが難しい状況になったという場合には、あらためて相続人全員で協議をして、全員で合意する必要があります。

借り入れをする

代償金にあてる金銭をすぐに用意することが難しい場合には、銀行や親族などから借り入れ(借金)をすることが考えられます。

特に、1人の相続人が不動産の現物を相続し、その代わりに代償金を支払う場合には、不動産を担保に金融機関から借り入れをすること(不動産担保ローン)も検討してみましょう。

担保がない場合よりもローンの審査が通りやすく、また、金利も比較的低くなる傾向にあります。

ただし、ローンを返済できない場合には、最終的に担保にした不動産を手放さなければならなくなる可能性があるため、注意が必要です。

代わりの財産をわたす

代償分割で代償金(金銭)を準備することが難しい場合には、金銭の代わりに他の資産(土地や建物などの不動産や絵画、宝石、自動車などの動産)をわたすこともできます。

ただし、上で説明したとおり、この場合には譲渡所得税がかかる可能性があります。

金銭以外の資産をわたす場合には、事前に税金の負担についてよく確認することが大切です。

また、金銭の代わりにわたす資産(不動産や株式等)の金銭的な評価をめぐって争いとなる可能性もあります。

税金の負担や資産の評価について疑問や不安がある場合には、相続にくわしい税理士や弁護士、司法書士などの専門家に相談されることをおすすめします。

 

株式の相続で代償分割とは?


株式の相続について代償分割をする場合、1人の相続人がすべての株式を取得し、他の相続人に代償金を支払います。

株式を取得した場合の相続税は、原則として被相続人が亡くなった日の株式の終値をベースに計算されます。

代償分割で株式を取得した相続人が、その後に株式を売却して金銭に換える場合には、上の相続税とは別に、売却にかかる譲渡所得税や売却の手数料を支払わなければなりません。

そのため、状況によっては、株式を取得する相続人の所得税や手数料の負担を考慮したうえで、代償金の金額を決めることもあります。

 

 

まとめ

  • 遺産分割の方法には、現物分割、換価分割、代償分割、共有分割の4つの方法があります。
  • 代償分割とは、一人の相続人が遺産の現物をそのままの形で取得し、その代わりに他の相続人に金銭(代償金)などをわたす方法のことをいいます。
  • 代償分割は、遺産を売却して金銭に換えることなく、遺産の現物をそのまま一人の相続人に引き継がせたい場合(先祖代々の土地を引き継がせたい場合や事業を継がせたい場合など)に利用されます。
  • 代償分割の進め方によっては、税金の負担が多くなってしまうケースや、後々トラブルとなってしまうケースもあるため、代償分割をすることが適切かどうかを事前によく確認することが大切です。
  • 代償分割をスムーズに行うためには相続や税金に関する専門知識が必要となることから、代償分割を検討する場合には、相続にくわしい弁護士に相談されることをおすすめします。

当事務所では、遺産分割や遺産分割協議、遺言書の作成、相続トラブルの対応、相続税の申告や節税対策、相続登記など、相続全般に関する幅広いご相談をうけたまわっております。

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