弁護士コラム

横領を防止するための成年後見【弁護士が解説】


弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA



先日、公益社団法人佐賀県社会福祉会が後見人等になっていた事案において、同会の実務を担当していた社会福祉士が、被後見人ら5名の預貯金合計2755万円を業務上横領したという事件が報道されました。

その社会福祉士は、自己の経営する事業の資金繰りが悪化したため補填に流用した旨話しており、事実関係を認めている模様です。

残念なことに、このような横領事例は数多く起きています。

 

成年後見制度の利用及び不正の状況

成年後見制度は、それまでの禁治産・準禁治産制度に代えて、平成11年の民法改正において新たに作られた制度で、翌12年から利用が開始されました。

以後、成年後見制度の利用者数は年々増加する一方で、成年後見人等が成年被後見人等の財産を横領した事例も散見されます。

公表されている情報によれば、成年後見制度の利用者数は平成24年12月末日時点で16万6289人だったのが、年々増加し、平成29年12月末日時点では21万0290人となっています。

制度の利用開始直後は、親族が成年後見人等になっていたのが全体の7割程度でしたので、年々、第三者を成年後見人等に選任する流れとなっております。

そして、成年後見人等による不正の報告件数ですが、平成26年は全体で831件の不正が報告されていましたが、その後年々減少し、平成29年は294件でした。

そのうち11件(約3.7%)が専門職の後見人(弁護士、司法書士等)による不正です。

被害額は全体で約14億4000万円で、そのうち約5000万円(約3.5%)が専門職の後見人によるものでした。

平成29年時点で選任されていたすべての後見人のうち、親族後見人等と第三者後見人等の割合が明らかではないものの、親族後見人等の方が第三者後見人等よりも不正を行う傾向が顕著であるとはいえるでしょう。

引用元:厚生労働省資料

 

 

不正の原因

成年後見人等が不正を行う原因としては、まず、今回の事例のように成年後見人等が金銭的に困窮していたということが考えられます。

これは、親族が後見人になった場合でも、第三者である専門職が後見人になった場合でも異なるところはありません。

しかし、親族が後見人になった場合、自分の親などの財産であることから、自分の財産と同じように費消してしまったということが原因となることも多々あります。

また、親族後見人等の場合、要求される知識を有していなかったため、意図せず不正を行ってしまったという可能性も考えられます。

さらに、横領罪という犯罪は、そもそも誘因性の高い犯罪類型であるといわれており、このことも多数の不正事案が生じている原因の一つではないかと推察されます。

 

 

後見人の選び方

以上を踏まえ、成年後見人等を誰にすべきか考えた際、①横領しない人を選ぶ、②万が一横領があっても返金してくれる可能性が高い人を選ぶという2つの視点が重要になります。

①横領しない人を選ぶ

まず、第一に、横領しない人を選ぶことが重要です。

とはいえ、成年後見等を申し立てる際に候補者を推薦する段階においても、その後家庭裁判所が成年後見人等を選任する段階においても、それぞれの段階で横領をしなさそうな人物が選ばれているはずです。

それにもかかわらず、多数の横領事件が起きている状況に照らすと、単に、「信頼している人物だから横領するはずがない。」というような考えから成年後見人等を選ぶことは適切ではありません。

では、横領しない人を選ぶにはどうすべきかというと、横領しない仕組みが備わっている人を選ぶことが大事です。

横領しない仕組みが備わっている人を選ぶ結果、横領しない人を選ぶことができる可能性が高くなります。

横領しない仕組みとしては、まず、個人ではなく、内部統制の仕組みが構築されている法人や団体であるということが挙げられます。

個人が成年後見人等になっている場合、家庭裁判所が、1年に1回、その後見等事務を監督するのみで、その間に横領を防止することは困難です。

一方、法人や団体であり、かつ、内部統制の仕組みが構築されている場合、その内部で相互監督の体制が設けられているため、横領等の不正行為があったとしてもすぐに発覚することになります。

そのため、内部統制の仕組みが構築されている場合には横領を予防することが可能となります。

もっとも、団体に依頼した場合でも、今回の事例のように、横領が起こった事例がないわけではありませんので、その団体が内部統制の仕組みをきちんと構築しているかどうかという見極めは必要になります。

また、横領しない仕組みとして、横領した場合のペナルティが刑罰以外にも存在する人を選ぶということも重要です。

横領で刑事罰を受けることになった場合、多くの方々は職を失うことになりますが、それでも、その後、何らかの職業に就くと思われます。

とはいえ、以前と同種の職業には就くことができない人も存在します。

例えば、弁護士が成年後見人等になっている場合、弁護士が横領を行うと、業務上横領罪で処罰されるのみではなく、業務停止等の処分が下されることになるため、ほとんどの場合、事実上廃業することになります。

そして、再び弁護士として活動することは極めて困難であることから、横領した弁護士は、弁護士の仕事を失うことになるといえます。

このように、弁護士が横領に手を出すということは弁護士をやめることを意味しているため、その点で、弁護士には横領しない仕組みが存在するといえます。

②万が一横領があっても返金できる人を選ぶ

次に重要となるのが、万が一横領があっても返金できる人を選ぶということです。

上記①の観点から横領しない人を選び、横領の可能性をできる限り小さくした上、万が一横領があったとしても返金できる人を選ぶことで、成年被後見人等の財産が成年後見人等によって使い込まれ、返ってこないという可能性を限りなく小さくすることができるでしょう。

ただし、横領に手を出す人は、基本的に経済的に困窮しているため、横領があった場合に返金を期待できる人というのは極めてまれな存在です。

実際、成年後見人等に個人がなっていた場合でも、法人がなっていた場合でも、横領が起こるとほとんどの場合では、返金を期待することはできません。

しかし、成年後見人等に弁護士法人がなっており、その法人の規模が大きくかつ社員が複数いるときには、返金が期待できます。

なぜなら、通常、法人が破産すると、当該法人に対して金銭的な請求をすることが困難になりますが、弁護士法人の場合、法人が破産したとしてもその社員は無限責任を負うため、その社員に対して金銭的な請求をすることができるからです。

そして、弁護士法人の社員は、弁護士に限定されますが、弁護士の欠格事由として「破産者であって復権を得ない者」(弁護士法第7条第5号)と規定されている以上、破産すると弁護士資格を失うことになるため、少なくともその社員たる弁護士からの返金が期待できます。

とはいえ、弁護士法人の社員が一人しかいないような場合には、当該弁護士も法人と一緒に破産する可能性が高いため、法人の社員からの返金は期待できませんので、弁護士法人を成年後見等にする場合でもその規模や社員数の調査は不可欠です。

以上の①及び②に照らすと、現状では、内部統制の仕組みが構築されており、かつ規模が大きく社員が複数いるような弁護士法人を成年後見人等に選ぶのが最善の選択だと考えられます。

 

 

後見制度の利用方法

成年後見制度には、大きく分けて①法定後見と②任意後見が存在しますが、上記「後見人の選び方」を踏まえ、成年後見制度をどう利用すべきか考えた場合、②の任意後見を利用することを基本的にはお勧めします。

 

①法定後見

法定後見を利用した場合、後見人等を選任するのは家庭裁判所です。

後見等の審判を申し立てる段階で、申立人が後見人等を推薦しますが、その推薦人等を裁判所が選任しない可能性がないわけではありません。

また、現状、法人が後見人等になるには煩雑な手続きが必要なため、法人として後見人等にならない弁護士法人は少なくありません。

そのため、法定後見の場合には、後見人等に選びたいと考えた弁護士法人が後見人等にならないケースが多いのです。

 

②任意後見

一方、任意後見を利用した場合、本人が任意後見人を選ぶことが可能です。

また、法定後見の場合に比して手続が簡易であるため、法人として任意後見人になる弁護士法人も見られるところです。

以上のように、成年後見人等としてふさわしい法人を選ぶという観点からは、法定後見ではなく任意後見を利用することをお勧めします。

 

最後に、当事務所は、弁護士法人として任意後見契約を締結しており、法人が任意後見人になることが可能です。

成年後見制度の利用を検討されている方は、お気軽にご相談ください。

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