妻に全財産を相続させる遺言書の書き方とは?リスクと対処法も解説


弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

妻に全財産を相続させる遺言書を書く場合には、状況に応じて、「妻に全財産を相続させる」という内容に加えて、妻に全財産を相続させる具体的な理由とともに遺留分の請求をしないでほしいというお願いを書くことをおすすめします。

この記事では、相続問題に強い弁護士が、妻に全財産を相続させる遺言書の書き方のポイントや文例をわかりやすく解説します。

また、遺言書の要件や遺言書を自分で作成する場合のリスク・対処法についてもあわせて解説します。

遺言書とは?

遺言書とは、遺言者(遺言書を作成する方のことです。)が、誰に・どの遺産を・どのように相続させるのか(遺贈するのか)という意志を記載した書面のことです。

有効な遺言書がある場合、原則として遺産は遺言書の内容にしたがって相続されることとなります。

ただし、有効な遺言書として認められるためには、遺言書の種類に応じて法律(民法)の定める要件を満たす方法で遺言書を作る必要があります(遺言書の要件については後ほど説明します)。

 

遺言書には3つの種類がある

遺言書には、①自筆証書遺言、②秘密証書遺言、③公正証書遺言の3つの種類があります。

自筆証書遺言

遺言者が全文を自筆(手書き)で作成する遺言書のことです。

秘密証書遺言

遺言書の内容は秘密にしたうえで、遺言書の存在を公証人と証人に証明してもらう遺言書のことです。

公正証書遺言

遺言者(遺言を残す人のことです。)の意志にもとづいて、公証人が作成する遺言のことで、作成後は公証役場で保管されます。

 

 

遺言書の書き方

遺言書の見本

遺言書の書き方についてイメージをつかんでいただくために、まずは、遺言書(自筆証書遺言)の見本をご覧ください。

 

妻に全財産を遺す場合の遺言書のポイントと文例

「子どもがいないため妻に全財産を遺したい」、「子どもはすでに独立して生計を立てているため、妻の生活のために全財産を残したい」など、妻に全財産を遺したいと考える理由には様々なものがあることでしょう。

ここでは、妻に全財産を遺す場合の遺言書の書き方のポイントと文例をご紹介します(文例は遺言書の種類にかかわらず共通のものです)。

妻に全財産を遺す場合の遺言書のポイント

ポイント1 遺留分に配慮する

遺言者の妻のほかに遺言者の子どもや孫、両親や祖父母が相続人となる場合、これらの者には「遺留分(いりゅうぶん)」という遺産の最低限の取り分が法律上保障されており(兄弟姉妹には遺留分の保障がありません。)、遺言によってもこれを奪うことはできません。

妻に全財産を遺す遺言書は、遺留分をもつ相続人の遺留分を侵害することとなります。

遺留分を侵害する内容の遺言書も有効ですが、遺留分を侵害された相続人は全財産を相続した妻に対して、侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを求めることができます(この権利を「遺留分侵害額請求権」といいます)。

ただし、遺留分侵害額請求権は放棄すること(金銭の請求をしないこと)ができます。

そこで、妻に全財産を相続させる内容の遺言書を作成する場合には、妻に全財産を遺す具体的な理由とともに、他の相続人に対して遺留分侵害額の請求をしないでほしいというお願いを遺言書に記載することをおすすめします。

このような記載には法的な強制力がない(このような記載を「付言事項(ふげんじこう)」といいます。)ため、強制的に遺留分侵害額の請求を止めることはできません。

しかし、付言事項の記載によって遺言者の思いが相続人に伝わり、相続人が請求をあきらめるというケースも少なくないことから、記載してみる価値は十分にあります。

具体的な付言事項の書き方については、後ほどご紹介する文例をご参照ください。

遺留分について詳しくはこちら。

ポイント2 全財産を特定して記載する

妻に全財産を遺す場合の遺言書には、最低限「妻にすべての財産(全財産)を相続させる」という内容を記載すれば有効に成立します。

ただし、その後に遺産を相続した妻が「すべての財産(全財産)」の具体的な内容を把握していない場合には、一から財産の調査をしなければならず大変です。

そこで、遺言書の本文に相続させる財産をすべて記載するか、またはすべての財産を「財産目録」の形で一覧化し、遺言書に別紙として添付することをおすすめします。

財産が少ない場合にはすべての財産を遺言書の本文に列挙してもよいですが、一定以上の財産がある場合には財産目録を作成して添付するのがよいでしょう。

妻に全財産を遺す場合の遺言書の文例
【文例1:遺留分の侵害がない場合】

相続人が妻のみである場合や、妻(甲野花子)のほかに相続人となるのが遺留分をもたない兄弟姉妹である場合には、遺留分に配慮した記載をする必要はありせん。

以下は、遺留分の侵害が問題とならない場合で、めぼしい財産がマンションのみのケース(その他の財産は少額の場合)の記載例です。

※このケースではめぼしい財産が不動産のみのため、財産目録を作成しないことを想定しています。

1.遺言者は、遺言者の有する以下の不動産を、妻 甲野花子(◯◯年◯◯月◯◯日生)に相続させる。

(一棟の建物の表示)

所  在 ◯◯県◯◯市◯◯町 ◯丁目◯番地◯

(専有部分の建物の表示)

家屋番号 ◯◯番◯

建物の名称 ◯◯◯◯

種  類  居宅

構  造  鉄筋コンクリート造5階建

床面積  2階部分 ◯◯.◯◯平方メートル

(敷地権の目的たる土地の表示)

土地の符号 ◯

所在及び地番 ◯◯区◯◯町◯丁目◯番地

地  目 宅地

地  積 ◯◯◯.◯◯平方メートル

(敷地権の表示)

敷地権の種類 所有権

敷地権の割合 ◯◯◯◯分の◯◯

2.遺言者は、遺言者の有する現金その他一切の財産を前記 妻 甲野花子に相続させる。

【文例2:遺留分の侵害がある場合】

以下は、遺言者の妻(甲野花子)のほか、長男(一郎)、次男(二郎)が相続人となる場合において、財産目録を作成し、別紙として添付するケースでの記載例です。

この場合、妻に全財産を相続させることによって長男と次男の遺留分を侵害してしまうため、付言事項の書き方を工夫します。

遺言者は、遺言者の有する別紙目録記載のすべての財産を、妻 甲野花子(◯◯年◯◯月◯◯日生)に相続させる。

(付言事項)

妻の花子にはいままで大変な苦労をかけてすまなかったと思っています。

花子は結婚して以来長年にわたり私の事業を手伝ってくれ、また、昨年まで10年間にわたり私の両親を献身的に介護してくれました。

花子には感謝してもしきれません。

花子の恩に報いるため、これまで私が花子と同居してきた家と土地をはじめとするすべての財産を、花子に相続させたいと思います。

一郎と二郎には、生前に結婚資金や自宅の購入資金を援助していることから、どうか私の意志を汲んで遺留分の請求はしないようにお願いします。

私の亡き後も、家族で仲良く助け合って暮らすことを心から願っています。

別紙として添付する財産目録には、すべての財産をもれなく記載します。

なお、自筆証書遺言に財産目録を別紙として添付する場合については、法律(民法)がルールを定めていることから、これを守る必要があります。

 

 

遺言書には要件がある

妻に全財産を相続させる遺言書を作成する場合には、法律の定める遺言書の要件(ルール)を守って作成する必要があり、この要件を満たさない場合には無効となる可能性があります。

遺言書には自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言という3つの種類がありますが、各遺言書の種類に応じて異なる要件(ルール)が定められています。

 

自筆証書遺言の5つの要件

自筆証書遺言の場合には、次の5つの要件を満たす必要があります。

以下の①〜④の要件を満たさない場合には遺言が無効となり、⑤の要件を満たさない場合には訂正が無効となります(状況によっては遺言自体が無効となることもあります)。

  1. ① 遺言者が全文を自筆で書くこと(ただし財産目録を別紙として添付する場合を除く。)
  2. ② 遺言者が作成日付を自筆で正確に書くこと
  3. ③ 遺言者が氏名を自筆で書くこと
  4. ④ 遺言者が遺言書に印鑑を押すこと
  5. ⑤ 民法が定める訂正のルールにしたがうこと

また、自筆証書遺言に財産目録を別紙として添付する場合には、次の要件を満たす必要があります(この要件を満たす限り、添付する財産目録はパソコンで作成したり他人に代筆を依頼したりすることができます)。

  1. ア 財産目録のすべてのページ(ページの裏表に印刷・記載する場合はページの裏表)に氏名を自筆で書くこと
  2. イ アの氏名の横に印鑑を押すこと

さらに、自筆証書遺言は法務局で保管することができ(自筆証書遺言の保管制度)ます。

この保管制度を利用する場合には、上記の5つの要件に加えて法務省の定めるルール(遺言書の様式などに関するルール)を守って作成する必要があります。

 

秘密証書遺言の7つの要件

秘密証書遺言の場合には、次の7つの要件を満たす必要があります。

秘密証書遺言の要件を満たさないものの、自筆証書遺言の要件を満たすという場合には、自筆証書遺言として有効になります(自筆証書遺言の要件も満たさない場合は完全に無効です)。

  1. ① 遺言者が遺言書に氏名を自筆で書くこと
  2. ② 遺言者が遺言書に印鑑を押すこと
  3. ③ 遺言者が遺言書を封じ(封筒に入れてのり付けするなど)、印鑑で封印をすること
  4. ④ 遺言者が公証人1人・証人2人以上の前に③の封書を提出し、(ア)中に入っているのが自分の遺言書であること、(イ)遺言書を作成した筆者の氏名と住所、を申述すること
  5. ⑤ 公証人が封書に遺言書の提出日付のほか、遺言者による上記④(ア)(イ)の申述内容を記載すること
  6. ⑥ 公証人、遺言者、証人がそれぞれ封書に署名・押印すること
  7. ⑦ 民法が定める訂正のルールにしたがうこと

 

公正証書遺言の5つの要件

公正証書遺言の場合には、次の5つの要件を満たす必要があります。

公正証書遺言は法律の専門家である公証人が作成するため、形式的な不備によって無効となるリスクがきわめて小さい遺言書です。

  1. ① 遺言書が証人2人以上の立会いのもとで作成されること
  2. ② 遺言者が遺言の内容を公証人に伝えること
  3. ③ 公証人が②の内容を筆記し、遺言者と証人に確認を求めること
  4. ④ 遺言者と証人が公証人による筆記の内容が正確であることを確認したうえで、それぞれが署名・押印すること
  5. ⑤ 公証人が、遺言書が上記①〜④の手続きにしたがって作成されたものであることを付記して、署名・押印すること

 

すべての遺言書に共通する要件

さらに、すべての種類の遺言書に共通する要件として、次のようなものがあります。

  1. ① 遺言者に遺言能力があること
    遺言者が15歳未満の場合には遺言能力がなく、遺言を作成することはできません(作成しても無効です)。
    また、遺言者に意思能力(作成する遺言の内容を理解し、その遺言によってどのような結果がもたらされるのかを理解できる能力)がない状態で作成された遺言書は無効です。
    遺言者が認知症の場合には遺言能力(意思能力)の有無が問題とされることが多いため、注意が必要です。
  2. ② 2人以上の者が1つの書面に書いた遺言書ではないこと
    1つの遺言書は1人によって作成される必要があります。
    例えば、夫婦が1つの書面にそれぞれ全文を自筆して遺言書を作成した場合、その遺言書は無効です。
  3. ③ 民法上の無効・取消原因(公序良俗違反・錯誤など)がないこと
    例えば、妻子がいるのに全財産を愛人に遺贈する内容の遺言書(公序良俗に反する遺言書)や勘違いによって作成した遺言書(錯誤による遺言書)は、無効になる可能性があります。

 

 

遺言書(下書き)を簡単に作成!自動作成ツール

どの種類の遺言書を作る場合でも、下書きを作成したうえで清書することを強くおすすめします。

一般の方がゼロから遺言書(下書き)を作成するのはなかなか難しいと思われるため、当事務所では、簡単に遺言書の下書きを作成できる自動作成ツールをご用意しました。

必要事項を入力するだけで簡単に下書きを作成できますので、ぜひご活用ください。

 

 

遺言書を自分で作るリスクや注意点

遺言書を自分で作る場合には、遺言書が要件を満たさず無効になるリスクや、遺言書の内容がトラブルを引き起こすリスクなどがあります。

遺言書が無効になるリスク

上で説明したように、遺言書にはその種類に応じた要件が定められており、要件を満たさない場合には遺言書が無効となるリスクがあります。

また、遺言書の記載が不明確な場合や、遺言者が認知症で遺言能力が疑われる場合などには、要件を満たしていても遺言書が無効となるリスクがあります。

せっかく苦労して遺言書を作成しても、無効となった場合には遺言書がないものと扱われてしまう(相続人全員で遺産分割協議を行うこととなります。)ことから、遺言書が法律の要件を満たしているかどうかを注意深く確認することが大切です。

遺言書の内容がトラブルを招くリスク

遺言書自体は有効でも、遺言書に書かれた内容がトラブルを招くリスクもあります。

例えば、この記事でご紹介したように遺言書の内容が相続人の遺留分を侵害する場合には、遺留分侵害額の請求をめぐってトラブルとなる可能性があります。

そのほかにも、遺言書に一部の相続人への不満などマイナスな内容を書くことによって相続人同士のトラブルを招くケースもあります。

そのため、遺言書に何を書くべきか・書くべきでないかをよく考えることが大切です。

 

 

遺言書の書き方のポイント

遺言書の書き方には4つのポイントがあります。

 

誰に何(どの遺産)を相続させるのかを明確に書く

遺言書には、誰に何(どの遺産)を相続させる(遺贈する)のかを明確に書くことが大切です。

相続させる(遺贈する)相手や財産がわからない場合、その記載は無効となるリスクがあります。

相続させる(遺贈する)相手については住民票や戸籍謄本等に記載されているフルネームを書くのが安全です。

また、相続させる(遺贈する)財産について登記事項証明書(不動産の場合)や通帳などの客観的な資料がある場合には、それらの資料をもとに正確な情報を記載し、対象となる財産を特定しましょう。

 

下書きを作成する

どの種類の遺言書を作成する場合でも、まずは下書きを作成して、要件を満たしているかどうか、書き間違いや書き漏れがないか、などを確認したうえで清書することを強くおすすめします。

特に、自筆証書遺言の場合には全文を手書きで作成しなければならないことから、訂正箇所が多い場合には、遺言書が読みにくくなったり、訂正の方法を誤って訂正が無効となったりする場合があります。

また、公正証書遺言は公証人が作成しますが、遺言書に記載してもらいたい内容を公証人に正確に伝えるためは、前もって下書き(メモ)を作成しておくことが大切です。

上でご紹介した自動作成ツールなどをご活用いただき、下書きを作成してみてください。

 

付言事項を活用する

付言事項にはその内容を強制的に実現するという法的な効力はありませんが、付言事項をうまく活用することで、相続人に遺言者の思いや願いを伝えたり、これによって相続人同士のトラブルを防いだりする効果を期待することができます。

この記事の文例でご紹介したように、一人の相続人に全財産を与える場合の具体的な理由や遺留分侵害額の請求をしないでほしいというお願いのほか、相続人やお世話になった人への感謝の気持ちや、葬儀や埋葬に関する希望などを伝えることもできます。

 

相続にくわしい弁護士に相談する

上で解説したように、遺言書を自分で作成する場合には、遺言書が無効になるリスクやトラブルを招いてしまうリスクなどがあります。

特に、自筆証書遺言や秘密証書遺言は形式的な不備を理由に無効となるケースが少なくないことから、相続にくわしい弁護士に相談されることを強くおすすめします。

また、相続人同士の仲が悪い場合や、一人の相続人に全財産を相続させる場合(遺留分を侵害する可能性がある場合)など、遺言書の作成について少しでも不安がある場合には、弁護士に相談されるのがおすすめです。

相続にくわしい弁護士に相談することで、リスクを避けるためにどうしたらよいかという的確なアドバイスをもらえることが期待できます。

なお、遺言書の内容をどうすべきかという具体的なアドバイスは「法律相談」にあたり、弁護士以外の者が法律相談をすることは法律によって禁止されています(「非弁行為」という違法行為にあたります)。

そのため、遺言書の内容について具体的なアドバイスをもらいたい場合には、他の士業やコンサルタントなどではなく、必ず弁護士に相談するようにしましょう。

 

 

まとめ

妻に全財産を相続させる遺言書を書く場合、他の相続人の遺留分を侵害するときには遺留分の侵害をめぐりトラブルが発生する可能性があります。

このような場合には、やむをえず遺留分を侵害することとなる具体的な理由や遺留分の侵害をしないでほしいというお願いを記載することをおすすめします。

遺言書にはそれぞれの種類に応じた要件が定められており、要件を満たさない場合には無効になるリスクがあります。

また、遺言書に記載する内容によっては、相続人のトラブルを防ぐリスクもあります。

遺言書を通じて遺言者の意志をよりよく実現するためには、遺言書の作成について相続にくわしい弁護士に相談されることをおすすめします。

当事務所では、相続問題にくわしい弁護士で構成する相続対策専門チームを設置しており、遺言書の作成はもちろんのこと、遺産の調査や遺産分割協議、相続人トラブルの解決、想像登記、相続税の申告など幅広い問題に対応させていただきます。

遠方の方にはオンラインでのご相談も受け付けておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。

 

 


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