遺産分割を行わずに勝手に手続きを進めたり、遺産を処分したりすると、無効となる可能性があります。
目次
遺産相続を勝手に進められた場合
有効な遺産分割協議となるためには、分割内容について共同相続人全員が合意しなければなりません。
したがって、一部の共同相続人を除外して行った遺産分割協議は無効になると考えられています。
そのため、知らない間に勝手に遺産分割をされた相続人は、以下のいずれかの方法を採ることが考えられます。
対処法 | 内容 |
---|---|
遺産相続の話し合い | 冷静な話し合いが可能であれば、新たに判明した共同相続人を含めて、再度遺産分割協議を行う |
遺産相続の裁判 | 話し合いが難しい場合は、遺産分割協議無効確認訴訟を提起する |
遺産相続の話し合い
まずは、新たに遺産分割協議を行う方法です。
上述のとおり、一部の共同相続人が参加しない遺産分割は無効と考えられることから、新たに判明した共同相続人を含めて、再度遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成することが必要となります。
遺産相続は、親族間の問題です。
したがって、冷静な話し合いが可能であれば、まずは当事者間で話し合うことを検討してもよいでしょう。
しかしながら、勝手に遺産分割をしてしまった共同相続人が、除外された相続人の相続人たる地位を認めず、新たな遺産分割協議を行えない場合や、新たな遺産分割協議が全くまとまらない場合も考えられます。
親族同士特有の問題として、関係者に感情的な対立があるケースが多く見受けられます。
遺産相続発生までに兄弟や親子の間で、何らかのトラブルがあった場合、冷静な話し合いが難しいのが現状です。
また、親族間の対立がなく、冷静な話し合いが可能でも、相続法についての知識がないと、本来取得できるはずの遺産を取得できず、「損をしてしまう」可能性があるので注意が必要です。
遺産相続でもめているケースのポイントは以下のページをごらんください。
遺産相続の裁判
上記のとおり、親族間での話し合いは難しい場合は多々あります。
そのような場合に採るべき方法としては、一部の共同相続人を除外して行った遺産分割協議が無効であることの確認訴訟(遺産分割協議無効確認訴訟)を提起する方法が考えられます。
そして、このような遺産分割協議無効確認訴訟は、共同相続人全員のための合一確定の必要があるため、共同相続人全員の必要的共同訴訟となります。
このような裁判は、裁判所という中立かつ専門的な機関が関与するため、感情的な対立は防止できる可能性があります。
また、最終的には判決という形で、紛争を解決することが可能です。
しかし、裁判は、一般的に長期化するため、当事者の方の負担が重くなってしまう可能性があります。
遺産相続の裁判については、以下のページをごらんください。
遺産(不動産)を勝手に処分した場合
前の遺産分割協議により、不動産、預貯金を取得した者がある場合には、それらの財産を遺産に回復させることができるかも問題となります。
例えば、前の遺産分割により、不動産の所有権移転登記が為されていた場合、遺産分割協議が無効となることにより、当該所有権移転登記も無効となります(ただし、さらに第三者に所有権移転をしていた場合には、当該第三者が保護される可能性もあります。)。
このような無効な登記については、訴訟において抹消登記手続請求をする等の方法をとることになります。
遺産(預貯金)を勝手に引き出した場合
前の遺産分割協議により他の共同相続人が預金を取得していた場合には、その相続人に対する不当利得返還請求をすることが考えられます。
預貯金の使い込みについては、以下のページで詳しく解説しております。ぜひ、御覧ください。
遺産(株式)を勝手に売却された場合
遺産である株式を他の相続人が勝手に売却した場合、対処法としては次の2つが挙げられます。
株式の売却により損害を受けた相続人としては、その分を考慮した遺産分割協議を行うことができれば問題は解決します。
具体例で解説します。
具体例
相続人はAとBで、法定相続分はそれぞれ2分の1
遺産総額:1000万円(内、株式は100万円)
上記の場合、本来Bは、遺産総額1000万円の2分の1である500万円を取得することができます。1000万円 × 1/2 = 500万円
このケースで、Aが勝手に株式を第三者に売却したとします。
すると、残った遺産は900万円となり、これを2分の1にすると450万円となってしまいます。
このような場合、BはAに対し、損害分の50万円を遺産分割において加味してほしいと伝え、Aも応じたとします。
結果として、Bは500万円、Aは400万円を取得することで解決できます。
上記の例で、勝手に株式を売却したAが遺産分割に応じない場合、BはAに対し、不法行為に基づく損害賠償請求、又は、不当利得返還請求という方法を検討することも考えられます。
①②のいずれの方法を行うべきかは相続に詳しい弁護士にご相談の上、進めていかれると良いでしょう。
勝手に相続放棄の手続きをされた場合
共同相続人が勝手に相続放棄の手続を行うケースもあります。
これは、相続放棄を行うことで、自分の相続分を増やすために行うことが典型的です。
具体例で解説します。
具体例
相続人はAとBで、法定相続分はそれぞれ2分の1
遺産総額 1000万円
上記の場合、本来Bは、遺産総額1000万円の2分の1である500万円を取得することができます。1000万円 × 1/2 = 500万円
このケースで、Aが遺産を全て取得するために、勝手にBの相続放棄を家裁に申し立てたとします。
この場合、どうなるのでしょうか。
AがBの同意なく勝手に行った相続放棄は「無効」と考えられます。
したがって、Bは相続人として、Aと遺産分割を行うことが可能です。
すなわち、Bとしては、相続放棄を無かったことにするために、特別の手続きは不要ということです。
相続放棄が受理されているのに、何も手続きはいらないの?と考える方もいらっしゃるでしょう。
相続放棄は家裁が受理しても、その効果が確定するとは考えられていません。
すなわち、家裁が相続放棄の申述を受理するのは、「申述があったことの公証」に過ぎず、法律的に相続放棄を確定させるものではないのです。
したがって、Bは相続放棄を覆すための特別な手続きは不要ということになります。
遺産相続の時効
遺産相続において、遺産分割協議を行う場合、その期限(時効)はありません。
したがって、遺産分割が未了であれば、法律上は、永久に請求することが可能となります。
また、遺産分割協議を行っていない状態で、相続人(例えば子供)が死亡した場合、その子供の遺産分割請求権は相続され、次の世代の者(例えば、孫)が請求することが可能となります。
なお、遺産相続においては、遺産分割協議の他にも、遺留分侵害額請求、相続税の申告、相続放棄の手続きなどは時効があるため注意が必要です。
遺留分侵害額請求について、くわしくは以下のページをごらんください。
相続税について、くわしくは以下のページをごらんください。
相続放棄について、くわしくは以下のページをごらんください。
まとめ
以上のように、遺産相続の場面において、他の相続人を無視して、勝手に手続きを行った場合、様々な問題があります。
実際に、どのような方法を取るべきかは、具体的な状況によって異なります。
そのため、遺産相続に関しては、相続法に精通した弁護士に相談しながら、サポートを受けることをおすすめします。
当事務所の相続対策チームは、最新の相続法令を踏まえ、親身になって解決方法をご提案いたします。
当事務所のご相談の流れについては以下のページを御覧ください。