相続放棄の範囲はどこまで?弁護士がケース別に図解


弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

相続放棄の範囲は、被相続人(亡くなった方のことです。)の配偶者、子どもとその代襲相続人、直系尊属(両親・祖父母等)、兄弟姉妹とその代襲相続人に限られます。

ある相続人が相続放棄をすると、次の相続人に相続権が移動して、次の相続人が新たに相続放棄を検討することになるケースがあります。

この記事では、相続放棄を検討しなければならない相続人の範囲や、どのような場合に相続権が移動するのか等について、相続にくわしい弁護士がわかりやすく解説します。

相続放棄とは?

相続放棄とは、本来相続人になる予定であった人が、被相続人の遺産を一切引き継がないこと(相続しないこと)をいいます。

相続される遺産には、不動産や預貯金、自動車などの価値のある遺産(プラスの遺産)だけでなく、借金やローン、未払金などのマイナスの遺産も含まれます。

相続放棄をすると、はじめから相続人にならなかったものとして扱われるため、プラスの遺産もマイナスの遺産も一切引き継ぎません。

相続放棄をするためには、民法で定められた期間内に家庭裁判所への申述(申立て)をして認められる必要があります。

 

 

相続の順位

民法は、被相続人の遺産を引き継ぐ相続人の範囲と優先順位について定めています。

より低い順位の相続人は、上の順位の相続人が1人もいない場合に限って遺産を相続します。

相続人の範囲と優先順位は次のとおりです。

常に相続人 被相続人の配偶者(妻・夫)
第1順位 被相続人の子ども
第2順位 被相続人の直系尊属(父母・祖父母等)
第3順位 被相続人の兄弟姉妹

 

配偶者(常に相続人)

被相続人の配偶者(妻・夫)は常に相続人になります。

配偶者については「順位」という概念がなく、常に優先的に遺産を相続します。

例えば、被相続人に子ども(第1順位の相続人)がいるときは、子どもと配偶者がともに相続人になります。

子どもがおらず被相続人の母親(第2順位の相続人)が健在のときは、母親と配偶者がともに相続人になります。

被相続人に子どもや直系尊属がおらず、被相続人の兄弟姉妹(第3順位の相続人)がいる場合についても同様です。

 

被相続人の子ども(第1順位)

被相続人の子どもは、被相続人の直系尊属(父母・祖父母等)や兄弟姉妹に優先して遺産を相続します。

子どもには被相続人の養子のほか、被相続人に認知された子どもも含まれます。

 

【代襲相続人】

被相続人の子どもの代襲相続人(被相続人の孫)も、第1順位の相続人にあたります。

本来相続人になる予定だった人(被相続人の子ども)が相続の開始時にいない場合(被相続人より先に死亡した場合など)には、その子ども(被相続人の孫)が代わりに遺産を相続します。

これを「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」といい、親の代わりに遺産を相続する子どもを「代襲相続人」といいます。

 

被相続人の直系尊属(第2順位)

「直系尊属」とは、被相続人の父母、祖父母、曽祖父母など、被相続人と縦のラインでつながる上の世代の親族のことをいいます。

被相続人の直系尊属は、被相続人に子どもがいない場合に限って相続人になります。

直系尊属の中にも優先順位があり、被相続人と一番近い関係にある父母から、祖父母、曽祖父母の順で相続人となります。

例えば、被相続人に子どもがおらず、被相続人の父母と祖父母がどちらも健在の場合には、被相続人の父母のみが遺産を相続します。

仮に、被相続人に子どもと父母がすでに死亡しており、被相続人の祖父のみが健在の場合には、祖父が遺産を相続します。

なお、被相続人が普通養子縁組をしていた場合には、被相続人の養父母と実父母の両方が「直系尊属」として第2順位の相続人になります。

 

被相続人の兄弟姉妹(第3順位)

被相続人の兄弟姉妹は、被相続人の子どもと直系尊属(父母・祖父母等)が1人もいない場合にはじめて相続人になります。

 

【代襲相続人】

被相続人の兄弟姉妹の代襲相続人(被相続人の甥姪)も、第3順位の相続人にあたります。

 

 

相続放棄を検討する範囲はどこまで?

相続放棄を検討する範囲は上で解説した相続人の範囲に限られます。

相続放棄は「本来相続人になる予定であった人」が一切の遺産を引き継がないという行為だからです。

つまり、被相続人の配偶者、子どもとその代襲相続人、直系尊属(父母・祖父母等)、兄弟姉妹とその代襲相続人、の範囲で相続放棄を検討することになります。

また、上で解説したように相続人については相続の順位が決められています。

同じ順位の相続人全員が相続放棄等によって相続権を失った場合には、次の順位の相続人に相続権が移動し、次の順位の相続人が相続放棄を検討することになります。

以下では、それぞれの相続人が相続放棄をした場合にその相続放棄がどのように他の相続人に影響するかについて、具体例をあげながら解説していきます。

 

配偶者が相続放棄をしたケース

被相続人の配偶者(妻・夫)が相続放棄をした場合、これによって相続放棄を検討する人の範囲は広がりません。

上で解説したように、配偶者については「順位」という概念がなく、他に相続人がいるかどうかにかかわらず常に相続人になります。

したがって、配偶者が相続放棄をしても相続権の移動は発生せず、相続放棄を検討する相続人が新たに増えることはありません。

例えば、被相続人の妻と長男・長女(第1順位の相続人)が相続人になるケースでは、妻と長男・子どもがそれぞれに相続放棄を検討します。

このケースで妻が相続放棄をした場合には、長男・長女がそのまま相続人として残るだけであり、新たに相続放棄を検討する人は発生しません。

 

子どもが相続放棄をしたケース

一部の子どもだけが相続放棄をした場合

被相続人の子どもとその代襲相続人(第1順位の相続人)が2人以上いるケースで、一部の子どもだけが相続放棄をした場合、相続放棄をしなかった子どもはそのまま相続人として残ります。一部の子どもだけが相続放棄をした場合

この場合には相続権の移動が発生しないことから、相続放棄を検討する相続人の範囲は広がりません。

例えば、被相続人の妻と長男・次男・長女の子ども(代襲相続人)である孫が相続人となるケースで、次男と孫が相続放棄した場合には、被相続人の妻と長男のみが遺産の相続人となるだけで、相続権の移動は発生しません。

したがって、妻と長男のほかに相続放棄を検討する相続人が増えることはありません。

 

子ども全員が相続放棄した場合

被相続人の子どもとその代襲相続人の全員が相続放棄をした場合、遺産の相続権が後順位の相続人に移動し、相続放棄を検討する人の範囲が広がることがあります。

被相続人の子どもとその代襲相続人の全員が相続放棄をした場合で、第2順位の相続人である直系尊属(父母・祖父母・曽祖父母)が健在のときは、相続権が直系尊属に移動し、直系尊属が相続放棄を検討することになります(相続放棄を検討する人の範囲が広がります)。子ども全員が相続放棄した場合

直系尊属が1人もいない場合(直系尊属全員が相続放棄をした場合を含みます。)で、第3順位の相続人である兄弟姉妹がいるときは、相続権が兄弟姉妹に移動し、兄弟姉妹が相続放棄を検討することになります(相続放棄を検討する人の範囲が広がります)。直系尊属が1人もいない場合

被相続人の直系尊属と兄弟姉妹(代襲相続人を含みます。)が1人もいない場合には、それ以上相続権が移動することはなく、相続放棄を検討する人の範囲は広がりません。

 

【相続放棄と代襲相続】

被相続人の子どもが相続放棄をしたことによって相続権を失った場合、孫への代襲相続は発生しません。

 

親が相続放棄をしたケース

被相続人の親は、相続人になる被相続人の子どもが1人もいない場合(全員が相続放棄をした場合を含みます。)に、相続放棄を検討することになります。親が相続放棄をしたケース

なお、被相続人が普通養子縁組をしている場合には、被相続人の実父母と養父母の全員が相続人となり、それぞれが相続放棄を検討することになります。

 

いずれかの親が相続放棄をしない場合

被相続人の親の中に1人でも相続放棄をしない人がいる場合、相続放棄をしなかった親がそのまま相続人として残り、相続権の移動は発生しません。

したがって、相続放棄を検討する人の範囲は広がりません。

例えば、被相続人の妻と父・母が相続人となるケースで、父のみが相続放棄した場合、被相続人の妻と母のみが遺産の相続人になるだけで、相続権の移動は発生しません。いずれかの親が相続放棄をしない場合

したがって、妻と母以外に相続放棄を検討する相続人が新たに増えることはありません。

 

父母が全員相続放棄をした場合

【祖父母または曽祖父母が健在のとき】

被相続人の父母が全員相続放棄をした場合で、祖父母が健在のときは祖父母に相続権が移動し、祖父母が相続放棄を検討することになります(相続放棄を検討する人の範囲が広がります)。父母が全員相続放棄をした場合

さらに、祖父母がいない場合(祖父母全員が相続放棄をした場合を含みます。)で、曽祖父母が健在のときは、同様に曽祖父母が相続放棄を検討することになります(相続放棄を検討する人の範囲が広がります)。

 

【祖父母・曽祖父母が1人もいないとき】

被相続人の祖父母や曽祖父母が1人もいないとき(祖父母または曽祖父母が全員相続放棄をした場合を含みます。)で、第3順位の相続人である兄弟姉妹がいるときは、兄弟姉妹(第3順位の相続人)に相続権が移動します。

したがって、兄弟姉妹が相続放棄を検討することになります(相続放棄を検討する人の範囲が広がります)。

被相続人の兄弟姉妹(代襲相続人を含みます。)が1人もいない場合には、それ以上相続権が移動することはなく、相続放棄を検討する人の範囲は広がりません。

 

兄弟姉妹が相続放棄をしたケース

被相続人の兄弟姉妹は、相続人になる被相続人の子ども(第1順位の相続人)や両親・祖父母・曽祖父母(第2順位の相続人)が1人もいない場合(全員が相続放棄をした場合を含みます。)に、相続放棄を検討することになります。

兄弟姉妹が相続放棄をしても、新たに相続放棄を検討する人の範囲は広がりせん。

 

いずれかの兄弟姉妹が相続放棄をしない場合

被相続人の兄弟姉妹(代襲相続人を含みます。)が2人以上いるケースで、兄弟姉妹の中に相続放棄をしない人がいる場合、相続放棄をしなかった兄弟姉妹がそのまま相続人として残ります。

この場合には相続権の移動が発生しないことから、相続放棄を検討する相続人の範囲は広がりません。

例えば、被相続人の兄・弟・妹が相続人となるケースで、兄だけが相続放棄をした場合、被相続人の弟と妹のみが遺産の相続人になるだけで、相続権の移動は発生しません。

したがって、相続放棄を検討する相続人の範囲が広がることはありません。

 

兄弟姉妹全員が相続放棄した場合

被相続人の兄弟姉妹(代襲相続人を含みます。)全員が相続放棄をした場合、それ以上他の親族に相続権が移動することはないため、相続放棄を検討する人の範囲は広がりません。

 

 

相続放棄はどこまで必要?

相続放棄を希望する相続人は、それぞれが相続放棄の手続きをしなければならず、1人の相続人が他の相続人の申述手続きをまとめて行うことはできません。

例えば、被相続人に妻、長男、長女、母、兄、先に亡くなった妹の子(甥)がおり、多額の借金を残して亡くなったケースで考えてみましょう。相続放棄はどこまで必要?

このケースで、全員が借金を相続したくないと考えている場合には、妻、長男、長女、母、兄、甥のそれぞれが相続放棄の手続きをする必要があります。

まず、妻と長男・長女(第1順位の相続人)は、それぞれ別に相続放棄の手続きを行う必要があります。

妻と長男・長女の相続放棄が認めらると、次は第2順位の相続人である母が相続放棄の手続きをすることになります。

母の相続放棄が認められると、さらに第3順位の相続人である兄と甥(妹の代襲相続人)が相続放棄の手続きをすることになります。

後順位の相続人がいる場合には、相続放棄をする意思があることを事前に後順位の相続人に伝えておくことが大切です。

何の連絡もなしに相続放棄をすると、後順位の相続人がある日突然、債権者から借金の取り立てを受けることになるなど、迷惑をかけてしまう可能性があるためです。

ここまで解説してきたように、どのような場合に相続権の移動が発生するのか(新たに相続放棄を検討する相続人の範囲が広がるのか)はそれぞれの状況によって異なります。

相続放棄によってトラブルが発生することを避けるためには、相続問題にくわしい弁護士に相談されることを強くおすすめします。

 

 

相続放棄の範囲についてのQ&A

親族全員で相続放棄をするメリットは?


親族(相続人)の全員が相続放棄をすると、被相続人の借金やローンを親族が引き継がなくてよくなるというメリットがあります。

また、相続人全員が相続放棄をすると、どの遺産を誰が引き継ぐかについて相続人同士で話し合いをする必要がなくなるため、どの遺産を誰がどのくらいもらうのか、といった遺産の相続方法をめぐるトラブルを回避することができます。

さらに、相続人全員で同時に相続放棄の手続きをする場合には、共通する必要書類を1つで済ませることができるため、登記簿謄本等の取得費用を節約することができます。

相続放棄の手続きを弁護士に依頼する場合には、複数人で依頼すると弁護士費用の割引を受けられるケースも少なくありません。

なお、「親族」には相続人よりも広い範囲の人が含まれまるため、正確には、親族のうち「相続人」にあたる人だけが相続放棄をすることになります。

 

親族「みんなが相続放棄」をすると、何が起きる?


親族(相続人)の全員が相続放棄をすると、相続人が誰もいない状態になります。

相続人が誰もいなくなった場合でプラスの遺産が残っているときには、利害関係者や検察官の申し立てによって、遺産の管理や清算を行う「相続財産清算人」が選任されることがあります。

相続財産清算人は、遺産を債権者(被相続人の借金・ローンの貸主など)への支払いにあてたり、被相続人に縁のある人に分配するなどし、最後に残った遺産を国に引き渡す(国庫に帰属させる)ための手続きをします。

 

相続放棄の第一順位は誰ですか?


相続放棄の第一順位は被相続人の子どもとその代襲相続人(被相続人の孫、ひ孫等)です。

「子ども」には被相続人の養子のほか、被相続人に認知された子どもが含まれます。

 

 

まとめ

相続放棄とは、「相続人」になる予定の人が家庭裁判所に申述をすることによって、被相続人の遺産を一切引き継がないことをいいます。

相続放棄をする人の範囲は「相続人」に限られます。

具体的には、被相続人の配偶者、子どもとその代襲相続人、直系尊属(両親・祖父母・曽祖父母)、兄弟姉妹とその代襲相続人が相続放棄を検討することになります。

同じ順位の相続人全員が相続放棄をすると、次の順位の相続人に相続権が移動して、次の相続人が新たに相続放棄を検討することになります。

この場合には、後順位の相続人に迷惑がかからないよう、事前に連絡するなどの配慮をすることが大切です。

相続放棄は、一切の遺産を引き継がないという大きな効果をもたらす手続きであり、判断を間違えるとトラブルに巻き込まれたり、不利益を受けてしまったりすることがあります。

相続放棄について少しでも疑問や不安があるときは、相続問題に強い弁護士に相談されることを強くおすすめします。

当事務所では、相続問題に強い弁護士で構成する「相続対策チーム」を設置しています。

相続放棄に関するご相談はもちろんのこと、相続人や遺産の調査、遺産分割協議、遺言書の作成、相続登記、相続税の申告・節税対策など、幅広いご相談をうけたまわっていますので、ぜひお気軽にご相談ください。

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