遺言書にはいくつかの種類があり、どの遺言書を作成するかによって異なる要件(ルール)が定められています。
この記事では、それぞれの遺言書の種類に応じた遺言書の書き方について、相続にくわしい弁護士がわかりやすく説明します。
また、遺言書の必要書類や具体的なケースに応じた例文や書き方のポイント・注意点などについてもあわせて解説します。
目次
遺言書とは?
遺言とは、遺言者(遺言を作成する人のことです。)が、「誰に・どの遺産を・どのように(どのくらい)」残すのかという最終の意志を示すことをいいます。
「遺言書」とは、この遺言者の最終の意志である遺言を記載した書面のことをいいます。
遺言書には3つの種類がある
遺言書には、大きく①自筆証書遺言、②秘密証書遺言、③公正証書遺言の3種類があります。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者が全文を手書きで作成する遺言のことです。
なお、自筆証書遺言については法務局で遺言書を保管する制度(自筆証書遺言保管制度)を利用することができます。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、遺言者の意志にもとづいて公証人が職務として作成する遺言のことで、公文書としての性質をもちます。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言に封印をしてその内容を秘密にしたうえで、封筒の中に遺言が入っていること(遺言の存在)を公証人と証人に証明してもらう遺言のことです。
それぞれの遺言書の違いやメリットデメリットについてはこちらをご覧ください。
自筆証書遺言の書き方
自筆証書遺言の見本
自筆証書遺言の5つの要件
自筆証書遺言の書き方については、民法968条が定める次の5つの要件を守る必要があります。
① 財産目録以外の全文を遺言者が自筆で書くこと
遺言者は財産目録(遺言者の財産を洗い出して一覧にしたものをいいます。)を除く遺言書の全文を自筆で書く必要があります。
誰かに代筆を依頼したり、パソコンで作成することはできません(遺言が無効になります)。
また、手が震える場合などであっても、誰かに手を添えてもらって書くこともできません。
ただし、財産目録を別紙として添付する場合、その添付する財産目録についてはパソコンで作成したり代筆を依頼したりすることができます。
② 正しい作成日付を自筆で書くこと
自筆証書には特定できる作成日付を自筆で書かなければなりません。
「✕✕年◯月吉日」のように特定できない作成日付を記載した場合、遺言は無効になります。
③ 氏名を自筆で書くこと
自筆証書遺言には、遺言者本人を特定できる氏名を自筆で書く必要があります。
苗字・名前の一方のみやニックネームなどを書いた場合には、苗字や名前、ニックネームが珍しいため遺言者本人を特定できるというような例外的な場合を除いて、無効とされる可能性があります。
そのため、自筆証書遺言には氏名は戸籍に記載されているフルネームを書くことをおすすめします。
④ 自筆証書遺言に印鑑を押すこと
自筆証書遺言には遺言者本人の印鑑を押すことが必要です。
使用する印鑑の種類について法律上のきまりはなく、遺言者本人のものであれば認印でもかまいません。
ただし、トラブルを避けるためには実印を使用するのが望ましいといえます。
⑤ 民法が定める訂正のルールにしたがうこと
自筆証書遺言について加筆・修正・変更などの訂正を行う場合には、以下のルールに従う必要があります。
ア 訂正の場所を指示して、これを訂正(変更)した旨を付記すること
イ 訂正を付記した箇所に署名すること
ウ 訂正した箇所に印鑑を押すこと
ルールに従わない修正は無効です(状況によっては自筆証書遺言全体が無効となる場合もあります)。
自筆証書遺言の保管制度を利用する場合
自筆証書遺言の保管制度(遺言者が作成した自筆証書遺言を法務局に預ける制度)については詳しくはこちらをご覧ください。
公正証書遺言の場合の書き方
公正証書遺言の5つの要件
公正証書遺言は自筆証書遺言と異なり、遺言者本人ではなく公証人が作成し、作成後は公証役場で保管されます。
公正証書遺言の書き方については、民法969条が定める次の5つの要件を守る必要があります。
公正証書遺言はいきなり公証役場へ行って作成できるものではなく、事前に証人の手配や公証人との打ち合わせなどの準備が必要となります。
公正証書遺言の必要書類
公正証書遺言の作成を申請する際には、以下の書類を公証役場に提出する必要があります。
共通で必要
- 遺言者本人の本人確認書類
印鑑登録証明書、運転免許証、マイナンバーカードなど
状況に応じて必要
- 遺言者と相続人の続柄がわかる戸籍謄本※
・相続させる場合に必要 - 受遺者の住所の記載のあるもの(住民票、手紙、ハガキなど)
・遺贈する場合に必要
・受遺者に依頼して入手する - 受遺者となる法人の登記事項証明書(現在事項証明書や代表者事項証明書など)
・法人に遺贈する場合に必要
※相続人の続柄によっては、追加の戸籍謄本が必要となる場合があります。
上記の書類に加えて印鑑を用意する必要があります。
必要書類は公証役場により異なる場合がありますので、詳細は各公証役場にお問い合わせください。
公正証書遺言の作成費用
公正証書遺言の作成には、必要書類の取得費用、作成手数料、証人の日当、公証人の出張費用などがかかります。
一般的な作成費用の相場(総額)は、10〜15万円前後です。
相続人や受遺者の人数、相続対象となる遺産の内容によって異なりますが、一般的には5000円前後が相場です。
公正証書遺言の作成には公証役場に支払う作成手数料がかかります。
作成手数料は遺言によって与える遺産の金額によって異なりますが、遺産の総額が1000万円〜1億円程度の場合は5万円〜10万円前後です。
誰に証人を依頼するかによって異なり、証人2名で0円〜10万円程度と幅があります。
- 友人や知人に依頼する場合、特に費用はかかりません(気持ち程度の謝礼(5000円前後)を払うこともあるようです)。
- 司法書士や弁護士に依頼する場合、1名につき1万円〜5万円程度です(事務所によって異なります)。
- 証人を公証役場で紹介してもらうこともでき、この場合は1名につき7000円〜1万5000円程度です(公証役場によって異なります)。
秘密証書遺言の場合の書き方
秘密証書遺言の7つの要件
秘密証書遺言は自筆証書遺言と異なり、全文を自筆で書く必要はありません(代筆を依頼したりパソコンで作成したりすることができます)。
また、公証役場へ行き、公証人や証人の面前で手続きをする必要があるなどの違いがあります。
秘密証書遺言の書き方については、民法970条が定める次の7つの要件を守る必要があります。
秘密証書遺言の必要書類
秘密証書遺言の作成に必要な書類は次のとおりです。
- 秘密証書遺言
封印した状態で提出すること - 遺言者本人の本人確認書類
印鑑登録証明書、運転免許証、マイナンバーカードなど
上記の書類のほか、遺言書に使用したのと同じ印鑑を持参する必要があります。
必要書類は公証役場により異なる場合がありますので、詳細は各公証役場にお問い合わせください。
秘密証書遺言の作成費用
秘密証書遺言の作成には、公証役場に支払う手数料のほか証人の日当がかかります。
費用の総額は証人を誰に依頼するかによって大きく異なり、1万1000円〜10万円前後です。
公証役場に支払う手数料として、1万1000円がかかります。
公正証書遺言の場合と同様です。
誰に証人を依頼するかによって異なり、証人2名で0円〜10万円程度と幅があります。
遺言書を簡単に作成!ダウンロード可能!
どの種類の遺言書を作成する場合であっても、まずは遺言書の下書きを作成してみることをおすすめします。
一般の方が遺言書の書き方を調べて自力で作成するのはなかなか難しいと思われることから、当事務所では、必要事項を入力するだけで簡単に遺言書のサンプル(下書き)を作成できる自動作成ツールをご用意しました。
作成したサンプル(下書き)をダウンロードすることもできますので、ぜひご活用ください。
遺言書で何が決められる?
遺言書にはどんなことを記載すべきでしょうか。
遺言書には法的な効力が認められるものと認められないものがあり、これは遺言の種類を問わず共通です。
「法的な効力が認められる」とは、遺言書に書くことによって誰かに権利や義務を与えることができ、裁判等を通じてその権利や義務を実現できる状態をいいます。
遺言書に書くことで法的効力が認められるものを「法定遺言事項(ほうていゆいごんじこう)」、法的な効力が認められないものを「付言事項(ふげんじこう)」といいます。
法定遺言事項
法定遺言事項には次のようなものがあります。
- 相続人の廃除、廃除の取消し(民法893条、894条)
- 非嫡出子の認知(民法781条2項)
- 未成年後見人、未成年後見監督人の指定(民法839条、848条)
- 相続分の指定(民法902条)
- 遺産分割方法の指定、遺産分割の禁止(民法908条)
- 遺贈(民法964条)
- 特別受益の持ち戻し免除(民法903条3項)
- 相続人の担保責任の指定(民法914条)
- 遺留分侵害額の負担割合の指定(民法1047条1項2号ただし書)
- 祭祀主宰者の指定(民法897条1項ただし書)
- 生命保険受取人の指定、変更(保険法44条)
- 遺言執行者の指定または指定の委託(民法1006条1項)
付言事項
付言事項の例としては、一部の相続人に遺産を多く与える理由の記載、相続人以外に遺産を遺贈する理由の記載、遺留分(いりゅうぶん)の請求に関するお願い、遺言書に相続人やお世話になった人の感謝、葬儀や埋葬の方法に関するお願い、などがあげられます。
法的効力のない付言事項であっても、その書き方を工夫することで遺言者の思いや考えを相続人に伝えることができます。
その結果、相続人に納得感を与えることができ、遺産相続をめぐるトラブルを防止するのに役立つ場合があります。
遺言書のケース別の例文
具体的な状況によって、遺言書の書き方は異なります。
ここでは、よくあるケース別の例文をご紹介します。
全財産を妻に遺す遺言書の書き方
ほかにも相続人がいるにもかかわらず全財産を妻に相続させる場合には、他の相続人が遺言書の内容に不満をもち、妻との間でトラブルとなる可能性があります。
また、遺言者の子どもや両親・祖父母等が相続人となる場合には、遺留分(法律で保障された遺産の最低限の取り分のことをいいます。)を侵害されることとなるため、妻に対して遺留分の請求を行う可能性があります(なお、兄弟姉妹には遺留分がありません)。
遺留分をめぐる争いを避けるためには、以下の例文のように、妻に全財産を遺すことについて他の相続人が納得できるような理由や遺留分の請求をしないでほしいというお願いをあわせて記載することをおすすめします(ただし、これらは法的効力のない付言事項です)。
妻(甲野花子)のほかに父母が相続人となるケースで、妻に全財産を相続させる場合の記載例です。
遺言者は、遺言者が有するすべての財産を、妻 甲野花子(◯◯年◯◯月◯◯日生)に相続させる。
(付言事項)
結婚してから今までの長い間、人生を共にしてくれた花子には本当に感謝しています。
私亡き後も花子が安心して暮らせることを願って、私のすべての財産を花子に相続させたいと思います。
お父さんとお母さんはどうか私の遺志を尊重し、遺留分の請求をしないようにお願いします。
妻に全財産を渡す遺言の書き方について詳しくはこちらをご覧ください。
全財産を一人に相続させる遺言書の書き方
この場合も全財産を妻に遺す場合と同様に、一人に相続させることについての具体的な理由を示したうえで、必要に応じて遺留分を請求しないでほしいというお願いを記載します。
長男(一郎)と次男(二郎)が相続人となるケースで、次男(二郎)に全財産を相続させる場合の記載例です。
遺言者は、遺言者が有するすべての財産を、次男 甲野二郎(◯◯年◯◯月◯◯日生)に相続させる。
(付言事項)
二郎は高校を卒業してからすぐに私の事業を手伝い、事業の拡大に大きく貢献してくれました。
二郎には、事業に関する財産をはじめとする、私のすべての財産を相続させることで報いたいと思います。
一郎には生前に大学の進学や留学にかかる費用を援助したことや、自宅の購入にかかる費用を援助したことを考慮して、どうか異議を述べることなく、私の遺志を尊重してもらいたいです。
一人に遺産を相続させる遺言について詳しくはこちらをご覧ください。
遺言執行者を指定する遺言書の書き方
遺言執行者とは、遺言者の意志に沿って遺言の内容を実現する人のことをいい、遺言執行者を指定することで、遺言者が亡くなった後の相続手続きをスムーズに進めることができます。
未成年者・破産者以外であれば誰でも遺言執行者に指定することができますが、遺言を執行する際には相続に関する知識が必要となることから、一般の方が遺言執行者に指定された場合には、何をすべきかわからず戸惑ってしまうケースもあります。
相続手続きをスムーズに進めたい場合には、相続にくわしい弁護士を遺言執行者に指定するのがおすすめです。
長男を遺言執行者に指定する場合の記載例です。
本遺言の遺言執行者として、長男 甲野一郎(◯◯年◯◯月◯◯日生)を指定する。
相続させないときの遺言書の書き方
特定の者に遺産を相続させたくない場合には、①相続人から廃除(はいじょ)する方法、②特定の者の相続分をゼロにする、という2つの方法が考えられます。
遺言書に「◯◯には遺産を相続させない」という記載をすると、①または②のいずれの意図であるのかわからなくなってしまうため、下の記載例を参考に、いずれの意図であるのかが明確にわかるように書くことが大切です。
①相続人から廃除する場合の書き方
特定の者から遺言者に対する侮辱や虐待などの重大な非行行為があった場合には、遺言でその者を相続人から除外することができます(これを「廃除」といいます)。
ただし、相続人から廃除することができるのは兄弟姉妹以外の相続人だけです。
兄弟姉妹については遺留分がなく、後述するように相続分をゼロにすることができるため、廃除する必要がないからです。
また、相続廃除を行うためには家庭裁判所での手続きが必要となりますが、遺言書で相続人廃除をする場合には、遺言者は自分で手続きをすることができません(遺言者はその時点で亡くなっているため)。
そのため、遺言執行者を指定して、代わりに廃除の手続きを行ってもらう必要があります。
遺言者に対して侮辱行為や虐待行為を行った長男を廃除し、弁護士を遺言執行者に指定する場合の記載例です。
1.遺言者は、長男 甲野一郎(◯◯年◯◯月◯◯日生)を相続人から廃除する。
2.本遺言の遺言執行者として、弁護士△△△△(✕✕県✕✕市✕✕町◯◯番◯◯号)を指定する。
(付言事項)
一郎は、遺言者に対してたびたび「老害」「早く死ね」「役立たず」などとののしる重大な侮辱を行うとともに、物を投げつけるなどの暴行を行ってきました。
また、✕✕年◯◯月には、遺言者の背中を蹴って転倒させ、足を骨折させるなど全治4ヶ月のけがを負わせました。
一郎には、今後はほかの家族に迷惑をかけることなく、まっとうに生きてほしいと思います。
②相続分をゼロにする場合の書き方
遺産を渡したくない特定の者以外にすべての遺産を与えることによって、特定の者について遺産の取り分をゼロにすることができます。
兄弟姉妹に遺産を与えたくない場合には、この方法によって遺産を相続させないことができます。
ただし、兄弟姉妹以外の相続人(子どもや両親・祖父母など)には遺留分があるため、遺言によって財産を与えられた他の者に対して遺留分の請求(遺留分侵害額の請求)をすることができます。
このような場合には、遺留分を侵害せざるをえないことについてできるだけ説得的な理由を示すとともに、遺留分の請求をしないでほしいというお願いを記載することが考えられます(法的な効力はありません)。
なお、特定の者への不満などを記載すると逆効果になる可能性があるため、記載する内容については注意が必要です。
妻(甲野花子)のほかに長男(一郎)と長女(一美)が相続人となるケースで、長男(一郎)の相続分をゼロにする(長男(一郎)に遺産を相続させない)場合の記載例です。
遺言者は、次のとおり各相続人の相続分を指定する。
妻 甲野 花子(◯年◯月◯日生) 5分の3
長女 甲野 一美(✕年✕月✕日生) 5分の2
事実婚の相手に遺産を遺す遺言書の書き方
事実婚の相手は相続人(配偶者)にあたらないため、遺産を「相続」させることができません。
そこで、事実婚の相手に遺言で遺産を残したい場合には、遺産を「遺贈」する内容の遺言書を作成します。
内縁の妻に株式を遺贈する場合の記載例です。
遺言者は、遺言者が有する次の株式を、内縁の妻 ▢▢▢▢(✕✕県✕✕市✕✕町△△番◯◯号在住、◯◯年◯◯月◯◯日生)に遺贈する。
◯◯証券 ◯◯支店
口座番号 ◯◯◯◯
◯◯株式会社 普通株式 ◯◯株
遺言書の遺産別の書き方
相続させる(遺贈する)遺産については、どの遺産を相続させるのかを明確に特定して記載する必要があります。
ここでは遺産別にサンプルを示しながら、書き方を解説します。
預金の遺言書の書き方
預金は、金融機関名(銀行名)、支店名、預金の種別(普通・定期・当座など)、口座番号、口座名義人を記載して特定します。
預金の残高については、遺言書の作成後に利息の発生や預貯金を使用などによって預金の額が変動し、相続手続を行う時点での実際の残高(金額)との間に差異が出る可能性があることから、明記しないのが一般的です。
遺言者は、以下の預金を長男 甲野一郎(◯年◯月◯日生)に相続させる。
X銀行 ◯◯支店 普通預金
口座番号 ◯◯◯◯◯◯
口座名義人 甲野 太郎
ゆうちょ銀行の遺言書の書き方
ゆうちょ銀行の貯金は、種別(通常貯金、通常貯蓄貯金など)、記号、番号、口座名義人を記載して特定します。
遺言者は、遺言者名義の以下の貯金を長女 甲野花子(△年△月△日生)に相続させる。
ゆうちょ銀行 通常貯金
記号 ◯◯◯◯
番号 ◯◯◯◯◯◯
口座名義人 甲野 太郎
不動産の遺言書の書き方
不動産(土地や建物、マンションなど)を相続させる(遺贈する)場合、法務局で取得できる登記事項証明書の「表題部」に書かれた情報を書き写して特定します。
土地付きの建物の場合には、土地と建物を別々に記載する必要があります。
遺言者が所有する建物と土地を妻(花子)に遺贈する場合の記載例は次のとおりです。
遺言者は、遺言者が有する次の不動産を妻 甲野 花子(◯年◯月◯日生)に相続させる。
1.建物
所 在 ◯◯県◯◯市◯◯町 ◯丁目◯番地◯
家屋番号 ◯◯番◯
種 類 居宅
構 造 木造瓦葺2階建
床面積 1階部分 ◯◯.◯◯平方メートル
2階部分 ◯◯.◯◯平方メートル
2.土地
所 在 ◯◯県◯◯市◯◯町 ◯丁目
地 番 ◯◯番◯
地 目 宅地
地 積 ◯◯.◯◯平方メートル
現金の遺言書の書き方
現金を相続させる(遺贈する)場合、金額を明示する方法と明示しない方法の2つがあります。
現金の具体的な金額を示して相続させる場合の記載例は次のとおりです。
遺言者は、遺言者の有する現金100万円を妻 甲野花子(◯年◯月◯日生)に相続させる。
遺言者が遺言書を作成してから亡くなるまでの間に現金の額は日々変動するため、遺言書に金額を明記するのは難しい場合が多いと思われます。
そのため、実務上は具体的な金額を明記せず、現金以外の財産とあわせて次のように記載するケースが多いです。
遺言者は、遺言者の有する現金その他一切の財産を妻 甲野花子(◯年◯月◯日生)に相続させる。
株式の遺言書の書き方
遺言者が上場株式を相続させる場合、株式を預けている証券会社、支店、株式の発行会社、株式数を書いて特定します。
遺言者は、遺言者の有する以下の株式およびこれに関する未収配当金を、次男 甲野 二郎に相続させる。
◯◯証券 ◯◯支店
口座番号 ◯◯◯◯
◯◯株式会社 普通株式 ◯◯株
遺言者が未上場株式を相続させる場合、株式の発行会社と株式数のみを書いて特定します。
遺言者は、遺言者の有する以下の株式を、長女 甲野 一美に相続させる。
✕✕株式会社 普通株式 ✕✕株
投資信託の遺言書の書き方
投資信託は、窓口となっている金融機関(証券会社、銀行等)、支店名、口座番号、銘柄(商品名)、口数を記載して特定します。
遺言者は、以下の投資信託を次男 甲野二郎(△年△月△日生)に相続させる。
◯◯証券 ◯◯支店
口座番号 ◯◯◯◯
◯◯ファンド
1000口
債券(国債、社債)の遺言書の書き方
債券(国債、社債)の場合、窓口となっている金融機関(証券会社、銀行等)、支店名、口座番号、銘柄(商品名、回号)、額面額を記載して特定します。
遺言者は、以下の債券を長男 甲野太郎(△年△月△日生)に相続させる。
◯◯銀行 ◯◯支店
口座番号 ◯◯◯◯
利付国庫債券(10年)(第✕✕回)
額面500万円
債務の遺言書の書き方
遺言者の債務(負債・ローンなど)も相続の対象になり、法定相続分にしたがって分割されて、それぞれの相続人に引き継がれるのが原則です。
遺言で相続人の債務の相続方法を指定した場合(例えば、「長男にすべての債務を相続させる」「次男には債務を一切相続させない」など)であっても、債権者(金銭を請求する権利のある人(借金の貸主など)のことです。)との関係では原則無効です。
したがって、債務の相続方法が遺言で指定されている場合でも、債権者はそれぞれの相続人に対して法定相続分にしたがって請求することができ、相続人はその請求を拒むことができません。
なお、遺言で指定された債務の相続方法を債権者が承認した場合には、債権者との関係でも有効になります。
民法902条
被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、第900条及び第901条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。ただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
これに対して、遺言による債務の相続方法の指定は、相続人との関係では有効です。
したがって、遺言者に相続人として長男と次男がいる場合に、「長男にすべての債務を相続させる」という遺言を作成し、次男が借金の2分の1(法定相続分にしたがった負担分)を返済したときは、次男は長男に対して返済のために支払った金額を支払うように求めることができます。
妻(花子)と長男(一郎)・長女(一美)が相続人となるケースで、長男(一郎)と長女(一美)に2:1の割合で債務を相続させる場合の記載例です。
遺言者は、遺言者の債務を次のとおり各相続人に相続させる。
長男 甲野一郎(◯年◯月◯日生) 3分の2
長女 甲野一美(✕年✕月✕日生) 3分の1
遺言書を自分で作るリスク
遺言書を自分で作る場合には、遺言書が無効になるリスクやトラブルを招くリスクがあります。
無効になるリスク
ここまで説明してきたように、遺言書の種類に応じて要件が定められており、要件を満たさないことにより無効となるリスクがあります。
特に、自筆証書遺言(保管制度を利用しない場合)や秘密証遺言については、作成した後に他人のチェックを受けることなく保管される場合がありますが、このような場合には形式の不備を理由に無効となることが少なくありません。
また、上で説明した要件を満たしている場合であっても、遺言の内容が不適切な場合(不明確・公序良俗違反など)には、遺言書が無効となるリスクがあります。
トラブルを招くリスク
遺言書に書いた内容が原因となって、相続人同士のトラブルを招くリスクがあります。
例えば、遺留分を侵害する内容の遺言書によって、遺留分をめぐる争いが発生する場合があります。
また、遺言書に相続人への不満などマイナスな事柄を記載する場合にも、相続人同士のトラブルを招く可能性があります。
遺言書の書き方のポイント・注意点
どの種類の遺言書を作成するかをよく検討する
遺言書には、自筆証書遺言(保管制度もあり)・秘密証書遺言・公正証書遺言の3種類があり、それぞれに特徴やメリット・デメリットがあります。
どの種類の遺言書を作成すべきかは、遺言者が何を重視するかによって異なります(例えば、金銭的負担を少なく作ることなのか、書き換えのリスクを少なくすることなのか、内容を誰にも知られないことなのか、など)。
遺言書を作成する際には、それぞれの遺言書の特徴やメリット・デメリットを正確に理解したうえで、自分の希望に合うものを選択することが大切です。
遺産を漏れなく洗い出し、財産目録を作成する
遺言書を書く前に、まずは遺産を漏れなく洗い出して財産目録として一覧化することをおすすめします。
財産目録を作成することで、遺言者は遺言に書き漏れている遺産がないかを確認することができるだけでなく、相続人が相続手続きをスムーズに進めるのにも役立ちます。
遺留分の侵害に注意する
遺言の内容が相続人の遺留分を侵害する場合(一部の相続人だけに遺産を相続させる場合など)には、遺留分をめぐるトラブルが発生する可能性があります。
遺留分は遺言によっても奪うことができないため、遺留分の侵害に注意することが大切です。
やむを得ず遺留分を侵害せざるを得ない場合には、付言事項を活用して、なぜ遺留分を侵害してでも一部の相続人に遺産を多く相続させる必要があるのかという理由を具体的に説明し、遺留分の請求をしないようにお願いするなどの工夫をすることが考えられます(ただし、法的な効力はありません)。
相続にくわしい弁護士に相談する
遺言書には無効になるリスクやトラブルを招くリスクなどがあることから、遺言書の作成について少しでも不安がある場合には、相続にくわしい弁護士に相談されることをおすすめします。
相続にくわしい弁護士に相談することで、遺言が形式的な要件を満たしているかどうかだけでなく、遺言の内容についても適切なアドバイスをもらえることが期待できます。
トラブルを防止するために遺言の内容をどのようにすべきか、等の具体的なアドバイスは「法律相談」にあたりますが、弁護士以外(司法書士、行政書士、税理士、コンサルタントなど)が法律相談を行うことは法律によって禁止されています。
なお、弁護士にはそれぞれ専門分野があり、相続分野は高度の専門知識が必要な分野であることから、弁護士の中でも相続問題に注力している弁護士に相談することが大切です。
遺言書の書き方に関するQ&A
遺言書を入れる封筒の書き方とは?
自筆証書遺言や秘密証書遺言については、遺言書を封筒に入れて保管する場合があります。
この場合の封筒の書き方は、遺言の種類によって異なります。
自筆証書遺言の場合
自筆証書遺言については、そもそも遺言書を封筒に入れるかどうかは遺言者の自由であり、封筒の書き方についても特にルールはありません。
もっとも、遺言書を封印して保管することで、遺言書の書き換え等のリスクを小さくすることができます。
封筒の表面には、中に遺言書が入っていることをわかりやすく示すために「遺言書」の文字を書くのが一般的です。
また、秘密証書遺言の場合と同様に、開封せずにすみやかに家庭裁判所で検認の手続きを受けるべきことを記載します。(表面または裏面のいずれに記載してもかまいません)。
封筒には作成日付と氏名(遺言書に記載したのと同じ内容)を記載するのがおすすめです。
ただし、遺言書に記載した作成日付と異なる日付を誤って記載してしまうと、相続人による遺言書の書き換えやすり替えが疑われることとなるため、注意が必要です。
秘密証書遺言の場合
秘密証書遺言については、法律(民法)上、遺言書を封じて封印をすることが必要とされており、封筒の書き方についても次のようなルールが決められています。
遺言者は、秘密証書遺言を封筒に入れ、以下のような状態で公証役場へ持っていきます。
遺言書を封筒に入れて封じ(のり付けなど)、とじた部分に秘密証書遺言の作成に使った印鑑を押すこと(封印)が法律上必須の要件とされています(封筒の裏面)。
封筒の表面の記載は法律上の要件ではありませんが、中に遺言書が入っていることをわかりやすく示すために「遺言書」の文字を書くのが一般的です。
また、遺言書の保管者や発見者が検認の手続きをせずに勝手に開封してしまうことを防止するため、開封せずにすみやかに家庭裁判所で検認の手続きを受けるべきことを記載します。
遺言者は、公証人と証人2名以上の面前で①自分の遺言書であること、②遺言書の筆者(代筆を依頼した場合には代筆者の氏名)とその住所、を申述します。
公証人は、秘密証書遺言の封筒に遺言者の申述の内容(①遺言者の遺言書であること、②遺言書の筆者とその住所)のほか、遺言者による証書の提出日を書きます。
その後、公証人、証人、遺言者が封筒に署名・押印します(封筒の裏面)。
遺言書をパソコンで作成できる?
遺言書をパソコンで作成できるかどうかは、遺言書の種類によって異なります。
自筆証書遺言:作成できない
自筆証書遺言については遺言者が財産目録以外の全文を自筆で書く必要があることから、基本的にパソコンで作成することはできません。
ただし、自筆証書遺言に財産目録を別紙として添付する場合、この財産目録についてはパソコンで作成することができます。
これは保管制度を利用する場合も同様です。
財産目録をパソコンで作成して添付する場合には、民法の定める次のルールにしたがう必要があります。
ア 財産目録のすべてのページ(ページの裏表に印刷または記載する場合は、そのページの裏表)に署名をすること
イ 署名の横に印鑑(遺言書の作成に使用したのと同じ印鑑)を押すこと
公正証書遺言:公証人がパソコンで作成
公正証書遺言は公証人がパソコンで作成するのが一般的です(自筆は要件とされていません)。
原則として遺言者による署名(氏名の自筆)が必要ですが、遺言者が署名をすることができないときは、公証人がその旨を遺言書に付記することで署名に代えることができます。
秘密証書遺言:作成できる
秘密証書遺言(本文)はパソコンで作成することができます(自筆は要件とされていません)。
ただし、遺言者による署名(氏名の自筆)は法律上必須の要件です。
まとめ
遺言書には大きく、自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言の3種類があり、それぞれについて法律上の要件が定められています。
遺言書の内容については、誰にどの遺産を相続させるのか(遺贈するのか)を明確に特定して書くことが大切です。
要件を守らずに作成された遺言書は無効となるリスクがあるほか、遺言に記載する内容によってはトラブルを招くリスクがあります。
遺言書を通じて遺言者の意志をよりよく実現するためには、遺言書の作成について相続にくわしい弁護士に相談されるのがおすすめです。
当事務所では、相続問題に注力する弁護士で構成する相続対策専門チームを設置しています。
遺言書の作成や遺言の執行はもちろんのこと、相続人の調査や遺産の調査、遺産分割協議、相続登記、相続税の申告、節税対策など幅広いご相談に対応させていただきます。
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