遺言書の検認とは、家庭裁判所で遺言書の内容や状態を確認する手続きのことをいいます。
この記事では、具体的な検認の手続きの流れや検認のための必要書類、検認の注意点などについて、相続問題にくわしい弁護士がわかりやすく解説します。
目次
遺言書の検認とは?
遺言書の検認とは、相続人等の立会のもと、家庭裁判所で遺言書の内容や状態を確認する手続きをいいます。
検認の手続きは、次の2つを目的とするものです。
- ① 相続人に遺言書の存在と内容を知らせること
- ② 検認をした時点での遺言書の内容や状態を確定することで、その後に遺言書の偽造・変造・破棄等が行われることを防止すること
特に②の目的(偽造・変造・破棄等の防止)が重要です。
自筆証書遺言や秘密証書遺言は遺言者が自宅で保管することもできるため、遺言書の内容に不満をもつ相続人などが遺言書を持ち出して自分に有利な内容に書き換えたり、遺言書を隠ぺい・破棄したりしてトラブルとなる場合があります。
検認の制度は、こうしたトラブルをできる限り防ぐことを目的としています。
参考:遺言書の検認|裁判所
検認は相続手続きを行う際に必要
相続が発生すると、通常被相続人の預貯金の引き出し、株式などの名義変更、自宅不動産の名義変更などの諸手続きが必要となります。
これらの手続きの際、「検認証明書」の提出が求められます。
この「検認証明書」は、検認することで家庭裁判所より発行されます。
したがって、相続手続きにおいては、検認が必要となります。
検認しないとペナルティがある?
検認が必要な場合に以下のような行為を行うと罰則(5万円以下の過料)の適用があります。
- 封入されている遺言書を開封する行為
- 遺言の内容どおり※に相続を行う行為
※遺言書の記載内容どおりであっても、検認せずに行ってはいけないので注意が必要です。
なお、過料というのは、行政罰であり、刑罰ではありません。
遺言書の検認が必要なケースは?
遺言書には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つの種類があります。
このうち、検認が必要なものは自筆証書遺言と秘密証書遺言です。
ただし、自筆証書遺言の保管制度を利用する場合、検認は不要です。
遺言書の種類 | 検認の要否 |
---|---|
自筆証書遺言 (保管制度利用なし) |
必要 |
自筆証書遺言 (保管制度利用あり) |
不要 |
公正証書遺言 | 不要 |
秘密証書遺言 | 必要 |
遺言書の検認の流れ
遺言書の検認の流れは次のとおりです。
申立ての準備
検認の手続きは、①遺言書の保管者または②遺言書の発見者である相続人のいずれかが家庭裁判所に申立てをして行います(検認の手続きを申し立てる人のことを「申立人」といいます)。
検認の申立人は、相続人の戸籍謄本をはじめとするさまざまな書類を準備して提出する必要があります。
また、戸籍謄本等の必要書類は誰が相続人となるかによって異なります。
そこで、申立人はまず相続人や受遺者(※)の確認を行ったうえで、戸籍謄本等の必要書類を取得します(必要書類については後ほど説明します)。
※相続人と受遺者
相続人:法律によって亡くなった遺言者(「被相続人」といいます。)の遺産を相続することができるとされている一定範囲の親族のことをいいます。
受遺者:遺言者(被相続人)が遺言書によって遺産を取得させる相続人以外の人をいいます。
必要書類を郵送等で取り寄せる場合には1〜2週間程度の時間がかかります(戸籍謄本の保管状況等によってはさらに時間がかかる場合もあります)。
申立の準備には最低でも1ヶ月程度の時間がかかるとみておくのがよいでしょう。
検認の申立て
準備が整ったら、遺言者の最後の住所地の家庭裁判所に検認の申立てをします。
検認の申立てをする際には、必要書類を提出して費用を納付することが必要です。
検認の申立ては郵送で行うこともできます。
検認期日の通知
検認の申立てをした後、裁判所から申立人に対して検認期日を調整するための連絡があります。
検認期日が決まると、家庭裁判所から申立人と相続人・受遺者に対して検認を行う日時(検認期日)が通知されます。
検認期日は申立てから1〜2ヶ月後に設定されることが多いようです。
検認期日(検認の実施)
申立人は、検認期日に家庭裁判所に行きます。
検認期日の持ち物は次のとおりです。
- 遺言書(開封しないこと)
- 印鑑
- 身分証明書の写し(相続人・受遺者以外が申立人となる場合)
申立人は必ず検認期日に出席しなければなりませんが、それ以外の相続人等が出席するかどうかは自由です(欠席することもできます)。
裁判官は、申立人や相続人等の立会いのもとで遺言書を開封し(封がされている遺言書の場合)、遺言書の内容や状態を確認します。
検認の手続きは15分程度で完了します。
家庭裁判所は検認の結果を記録した「検認調書」を作成します。
また、検認期日に出席しなかった相続人等に対して検認を実施したことを通知します。
検認後の手続き
検認の手続きが終わったら、相続人等は検認済証明書の申請をします。
「検認済証明書」とは、遺言書が検認済みであることを家庭裁判所が証明する書類です。
遺言書にもとづいて遺産を分配するためには、役所や金融機関で遺産相続の手続きをする必要がありますが、その際には遺言書と検認済証明書を提出する必要があります(検認が必要な遺言書の場合)。
検認済証明書の申請には、遺言書1通につき150円分の収入印紙と申立人の印鑑が必要です。
遺言書の検認のための必要書類
遺言書の検認のために必要な書類は次の表のとおりです。
誰が相続人となるかによって必要書類は異なります。
以下、相続放棄等の申述人別に必要書類をまとめております。
- 検認の申立書
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺言者(被相続人)の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類(戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本)
- 遺言者(被相続人)の子どもや代襲者が亡くなっている場合、子どもや代襲者の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類
- 遺言者の直系尊属が亡くなっている場合、その直系尊属の死亡が記載された戸籍謄本類
- 遺言者(被相続人)の父母の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類
- 亡くなった兄弟姉妹がいる場合、その兄弟姉妹の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類
- 亡くなった甥姪(代襲者)がいる場合、その甥姪の死亡の記載のある戸籍謄本類
- 受遺者がいる場合、受遺者の現在の戸籍謄本
- 検認の申立書
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺言者(被相続人)の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類(戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本)
- 遺言者(被相続人)の子どもや代襲者が亡くなっている場合、子どもや代襲者の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類
- 受遺者がいる場合、受遺者の現在の戸籍謄本
- 検認の申立書
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺言者(被相続人)の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類(戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本)
- 遺言者(被相続人)の子どもや代襲者が亡くなっている場合、子どもや代襲者の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類
- 遺言者の直系尊属が亡くなっている場合、その直系尊属の死亡が記載された戸籍謄本類 ※下の代が亡くなった場合のみ
- 受遺者がいる場合、受遺者の現在の戸籍謄本
- 検認の申立書
- 遺言者(被相続人)の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類(戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本)
- 遺言者(被相続人)の子どもや代襲者が亡くなっている場合、子どもや代襲者の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類
- 遺言者の直系尊属が亡くなっている場合、その直系尊属の死亡が記載された戸籍謄本類
- 遺言者(被相続人)の父母の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類
- 亡くなった兄弟姉妹がいる場合、その兄弟姉妹の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類
- 亡くなった甥姪(代襲者)がいる場合、その甥姪の死亡の記載のある戸籍謄本類
- 受遺者がいる場合、受遺者の現在の戸籍謄本
遺言書検認の申立書と書き方
以下は検認の申立書のサンプルです。
引用元:家事審判申立書|裁判所
事件名
「遺言書の検認」と記入します。
収入印紙
手数料として、遺言書1通につき800円分の収入印紙を貼ります。
申立人
検認の申立人となることができるのは①遺言書の保管者または②遺言書の発見者である相続人のどちらかです。
遺言者
申立人欄の下に遺言者の情報を記入します。
住所欄には遺言者の最後の住所を記入する必要があります。
申立ての趣旨
「申立ての趣旨」には、自筆証書遺言または秘密証書遺言の検認を求めることを記入します。
申立ての理由
「申立ての理由」には、検認の申立てをすることとなった経緯を記入します。
遺言書の保管者が申立人となる場合には、保管をすることとなった経緯(遺言者から保管を依頼されたことなど)や具体的な保管方法(保管場所)などを記入します。
遺言書の発見者である相続人が申立人となる場合には、発見したときの状況(発見場所など)や発見方法(発見した経緯など)を記入します。
また、遺言者が亡くなったため遺言書の検認を求めることとなった旨を記入します。
当事者目録(別紙)
別紙の当事者目録に相続人と受遺者の全員の情報を記入します。
「相続人」と「受遺者」のいずれにあたるのかを区別して明記する必要があります。
申立書と当事者目録の書式は裁判所のホームページからダウンロードすることができます。
戸籍謄本類
そもそも「戸籍」とは、日本国民が出生してから死亡するまでの身分関係(出生、婚姻、離婚、死亡、認知、氏の変更など)を登録した公的な記録簿のことをいいます。
戸籍謄本類とは、戸籍に記載されている者の身分事項(出所、婚姻、離婚、認知、氏の変更などの個人の身分の変動のことをいいます。)を証明する書面のことをいい、主に、戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍謄本の3種類があります。
戸籍謄本類は、対象となる方の本籍地のある市区町村役場等で取得することができます。
種類 | 内容 | 取得費用 |
---|---|---|
戸籍謄本(こせきとうほん) | 戸籍に記載されている全員の身分関係を証明する戸籍の写しをいいます。 電子化されている場合には「戸籍全部事項証明書」といいます。 |
450円 /通 |
除籍謄本(じょせきとうほん) | 婚姻や死亡、本籍地の変更などによって、ある戸籍に入っている全員がその戸籍から抜けて誰もいなくなったことを証明するための書類です。 | 750円/通 |
改製原戸籍謄本(かいせいげんこせきとうほん) | 改正前の戸籍法にもとづいて作成された戸籍の写しのことです。 特に、遺言者に離婚歴がある場合などは、改製原戸籍謄本を取得する必要があります。 |
750円/通 |
遺言書の検認に必要な費用とは?
遺言書の検認にかかる実費は、遺言書1通につき合計で数千円〜1万円前後です(相続人や受遺者の数によって変動します)。
実費の内訳は次のとおりです。
- 検認の手数料
遺言書1通につき800円(収入印紙で納付) - 必要書類の取得費用
2000円〜5000円前後(相続人や受遺者の数によって変動します。) - 連絡用の郵便切手
1000円~2000円前後(相続人や受遺者の数によって変動します。また、各家庭裁判所によって取り扱いが異なるため、詳細は申立先の家庭裁判所にお問い合わせください。) - 検認済証明書の申請
遺言書1通につき150円(収入印紙で納付)
なお、検認の手続きを弁護士に依頼する場合には、上記の実費のほかに弁護士費用(報酬)がかかります。
遺言書の検認の注意点
検認に明確な期限はないがすみやかに行うべき
法律には遺言書の検認の請求について「遅滞なく」行わなければならないとのみ定めており、明確な期限を定めていません。
遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
しかし、上で解説したとおり、「遺言書の提出(検認)を怠った」と判断される場合や、検認をせずに遺言書を開封した場合、検認をせずに遺産の分配を行った場合などには、5万円以下の過料に処せられる可能性があります。
また、相続手続きの中には期限が定められているものがあり(相続放棄、相続税の申告、遺留分侵害額の請求など)、その前提として遺言書の内容を確認しなければならない場合があります。
準備期間を含めると、遺言書の検認を行うためには1〜2ヶ月前後の時間がかかることから、遺言者が亡くなったことを知った場合には、できるだけすみやかに検認の手続きを行うことをおすすめします。
申立人は検認を欠席できない
検認の手続きの申立人(遺言書の保管者または遺言書の発見者である相続人)は必ず検認期日に出席しなければならず、申立人が欠席すると検認の手続きは行われません。
これに対して、申立人以外(相続人等)の出席は必須ではなく、検認を欠席することができます。
申立人が出席していれば、相続人等が全員そろわなくても検認の手続きが行われます。
検認を欠席した相続人等に対しては、家庭裁判所から検認を実施したことの通知がされます。
家庭裁判所は検認の結果を記録した「検認調書」を作成しますので、検認を欠席した相続人等が検認の結果を確認したい場合には検認調書の閲覧や写しの交付を求めることができます。
遺言書の検認についてのQ&A
検認で遺言書の有効性を争える?
例えば遺言書の偽造や変造が疑われるような場合であっても、検認で遺言書の有効性を争うことはできません。
検認の手続きはあくまで遺言書の内容と状態を確認するための手続きであり、遺言書の有効無効を確定するための手続きではないからです。
遺言書の有効性を争いたい場合には、まずは当事者同士での話し合いを目指し、それでも解決しない場合には遺言無効確認調停や遺言無効確認訴訟といった裁判所を介した手続きを行うことになります。
まとめ
以上、遺言書の検認について、くわしく解説しましたがいかがだったでしょうか。
遺言書の検認の重要ポイントをまとめます。
遺言書の検認とは、遺言書の偽造や変造・破棄等を防止することを目的として、家庭裁判所で遺言書の内容や状態を確認する手続きのことをいいます。
偽造や変造・破棄等のおそれがほとんどない遺言書(公正証書遺言・保管制度を利用する場合の自筆証書遺言)については検認をする必要がありません。
検認の手続きをするためには、相続人や受遺者に応じた書類の取得や、検認の申立書の記入といった事前準備が必要となります。
検認の手続きを自分で行う場合の費用は、相続人や受遺者の数によって変動しますが、数千円〜1万円前後が一般的です。
当事務所には相続問題に注力する弁護士のみで構成される相続対策部があり、遺言書の検認を強力にサポートしています。
遺言書の検認については当事務所までお気軽にご相談ください。