原則として孫に遺留分は認められませんが、例外的に孫に遺留分が認められる場合があります。
孫に遺留分が認められるのは、①被相続人(亡くなった方のことです。)と孫が養子縁組した場合、②孫が被相続人の子どもにあたる実親を代襲相続する場合、の2つの場合です。
この記事では、そもそも遺留分とは何か、孫に遺留分が認められるのはどのような場合か、などについて、相続問題に詳しい弁護士が、具体的な事例をあげながらわかりやすく解説します。
遺留分とは?
遺留分とは、法律(民法)が一定範囲の相続人に保障している、最低限の遺産の取り分を確保できる権利のことです。
被相続人は本来、自分の財産を自由に処分することができ、誰にどのくらいの遺産を与えるのかを自由に決めることができるはずです。
しかし、遺留分は被相続人の意志(遺言書など)によっても奪うことができません。
民法は、被相続人の財産で生活していた相続人を保護することや、相続人同士の平等を実現することなどを目的として、遺留分の確保を被相続人の自由よりも優先させることにしたのです。
遺留分侵害額請求権
遺留分に満たない割合の遺産しかもらえなかった相続人は、遺留分を侵害されています。
この場合、遺留分を侵害された相続人は、侵害の原因となる遺産を受け取った人に対して、侵害された遺留分に相当する金銭を支払うように求めることができます。
この権利を「遺留分侵害額請求権」といいます。
遺留分侵害額請求についてくわしくはこちら
遺留分権利者とは?
遺留分権利者とは、遺留分を保障されている相続人のことをいいます。
相続人とは
相続人とは、法律(民法)が被相続人の遺産を相続する人として定めている人のことです。
民法が定めている相続人の範囲は、被相続人の(1)配偶者(妻・夫)、(2)子ども、(3)直系尊属(親、祖父母など、縦のラインでつながる上の世代のことです。)、(4)兄弟姉妹です。
孫はこれらの「相続人」に含まれていません。
民法第887条1項 被相続人の子は、相続人となる。
民法第889条1項 次に掲げる者は、第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
① 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
② 被相続人の兄弟姉妹
民法第890条 相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。
法定相続人について詳しくはこちら
遺留分は孫に認められない?
遺留分はすべての親族に保障されているわけではなく、一定範囲の相続人だけに保障される権利です。
孫は「相続人」にあたらないため、原則として遺留分は認められません。
遺留分権利者の範囲とは?
民法1042条1項は、遺留分権利者の範囲について次のように定めています。
民法1042条1項
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
遺留分権利者にあたる相続人の範囲は、次のとおりです。
- 被相続人の配偶者
- 被相続人の子ども
- 被相続人の直系尊属
繰り返しになりますが、これらの遺留分権利者の中に「孫」は含まれていません。
また、相続人のうち兄弟姉妹には遺留分が認められていません。
遺留分権利者について詳しくはこちら
遺留分の割合
遺留分は、被相続人の遺産の「◯分の1」といった割合の形で決められています。
遺留分の割合は、誰が被相続人の遺産を相続するのか、あるいは遺産を何人で相続するか、などによって変わります。
以下の表は遺留分の割合をまとめたものです。
具体例 被相続人の長男、次男、長女が相続人となる場合(配偶者はすでに死亡)
それぞれの遺留分の割合は、1/2✕1/3=1/6 となります。
遺留分の割合について詳しくはこちら
遺留分が孫に認められるケース
孫は例外的に相続人になる場合があり、この場合には遺留分が認められます。
孫が例外的に相続人になるのは、次の2つのケースです。
- ① 孫が被相続人の子どもを代襲相続するケース
- ② 被相続人が孫と養子縁組をするケース
代襲相続で遺留分が孫に発生する
代襲相続(だいしゅうそうぞく)とは、本来相続人となるはずだった人がいなくなった場合に、その子どもが代わりに被相続人の遺産を相続することをいいます。
代襲相続する子どものことを「代襲相続人」といいます。
孫が代襲相続する場合
孫が被相続人の子ども(孫にとっての親)を代襲相続することになるのは、次の3つの場合です。
- 被相続人の子どもが被相続人よりも先に死亡した場合
- 被相続人の子どもが被相続人によって相続廃除された場合
- 被相続人の子どもが相続欠格にあたる場合
相続廃除(そうぞくはいじょ)とは、相続人になるはずだった人から被相続人に対してひどい非行(虐待や重大な侮辱など)がされていたときに、被相続人の意志で、その人を相続人から除外することをいいます。
相続欠格(そうぞくけっかく)とは、相続人になるはずだった人が違法行為などによって相続を自分に有利に進めようとした場合に、その人が法律上当然に相続人から除外されることをいいます。
被相続人には妻と長男(孫の親)・長女がいた。被相続人の長男(孫の親)は、被相続人が亡くなる1年前に病気で亡くなった。被相続人の長男は亡くなる3年前に妻を亡くしており、一人息子(被相続人の孫)がいる。
この事例で、被相続人が亡くなった場合、孫は本来相続人となるはずだった「被相続人の子ども」である長男(孫にとっての親)の地位を引き継いで、親の代わりに相続人になります(代襲相続)。
この場合の孫の遺留分の割合は、配偶者と子ども(長男の代襲相続人である孫・長女の2人)が相続人となる場合を参照して計算されます。
孫の遺留分の割合は、以下の計算式より1/8です。
(計算式)1/4 × 1/2 = 1/8
相続放棄の場合は代襲相続しない(遺留分が発生しない)
相続放棄(そうぞくほうき)とは、相続人になるはずだった人が、自分の意志で相続を辞退することをいいます。
相続廃除や相続欠格の場合と異なり、相続放棄があった場合に代襲相続は発生しません。
したがって、被相続人の子ども(孫の親)が遺産の相続を放棄した場合、孫は親を代襲相続せず(相続人とはならず)、遺留分が発生することもありません。
養子縁組で遺留分が孫に発生する
被相続人が孫と養子縁組をした場合、孫は「被相続人の子ども」として相続人となり、遺留分が発生します。
養子縁組とは、もともと親子の関係になかった者同士の間に、法律上の親子関係(遺産の相続など、親子に関する法律が適用される関係のことです。)を発生させるための手続きをいいます。
養子縁組によって親になる者を「養親」、子どもになる者を「養子」といいます。
養子は「被相続人の子ども」として遺産の相続人にあたり、この場合の遺留分の割合は実子と同じです。
被相続人には妻と長男(孫の親)・長女がいる。被相続人は孫に事業と遺産を継がせる目的で、孫と養子縁組(普通養子縁組)をした。被相続人は、養子縁組の5年後に病気で亡くなった。
この事例で、孫は被相続人の「養子」にあたるため、「被相続人の子ども」として相続人になります。
この場合の孫の遺留分の割合は、配偶者(妻)と子ども(長男・長女・孫の3人)が相続人となる場合を参照して計算されます。
養子となった孫の遺留分の割合は、以下の計算式より1/12です。
(計算式)1/4✕1/3=1/12
なお、養子縁組には、普通養子縁組と特別養子縁組の2種類があります。
普通養子縁組:養子縁組をした後も養子と実親との親子関係が続く養子縁組です。
特別養子縁組:養子縁組をした後は養子と実親との親子関係がなくなる(終了する)養子縁組です。
養子縁組について詳しくはこちら
2つの立場で遺留分が発生するケース
①被相続人と孫が普通養子縁組をした後、②孫の実親(被相続人の子ども)が亡くなり、③その後に被相続人が亡くなった場合、被相続人の養子となった孫には、次の2つの立場で遺留分が発生します。
- 被相続人の養子(子ども)としての立場
- 実親の代襲相続人としての立場
被相続人には妻と長男(孫の実親)・長女がいる。被相続人は孫に事業と遺産を継がせる目的で、孫と養子縁組(普通養子縁組)をした。被相続人の長男(孫の実親)は、養子縁組の3年後に交通事故で亡くなった。被相続人は、養子縁組の5年後に病気で亡くなった。
この事例で、被相続人と孫は普通養子縁組によって法律上の親子(孫は「被相続人の子ども」)になります。
この場合、孫と被相続人の長男との親子関係はそのまま続きます(孫は「長男の子ども」のままです)。
被相続人が亡くなった時点で、孫は養子として「被相続人の子ども」の立場で相続人になり、遺留分が発生します。
被相続人が亡くなった時点で被相続人の長男(孫の実親)はすでに亡くなっているので、孫は被相続人の長男(孫の実親)の実子の立場で、「被相続人の子ども」である長男(実親)の立場を代襲相続し、遺留分が発生します。
つまり、孫は①養子の立場と②実親(被相続人の長男)の代襲相続人(実子)の立場という2つの立場で遺産を相続することになり、いずれについても遺留分が発生します。
このように1つの相続に2つの立場で相続人となる人のことを「二重相続資格者」といいます。
二重相続資格者にあたる場合の遺留分はどうなる?
孫が二重相続資格者にあたる場合、孫には2人分の遺留分が認められます。
上の事例3で、孫の遺留分の割合は、配偶者(妻)と子ども3人(長男の代襲相続人である孫・長女・養子である孫の3人)が相続人となる場合を参照して計算されます。
孫は、代襲相続人の立場と養子の立場のそれぞれについて、以下の計算式より1/12の遺留分を認められます。
(計算式)1/4 × 1/3 = 1/12
結論として、孫は合計1/6の遺留分を認められることになります。
(計算式)1/12 + 1/12 = 1/6
孫は遺留分侵害額請求権を相続できる?
遺留分侵害額請求権は相続の対象となる権利です。
そのため、孫の親(被相続人の子ども)が遺留分侵害額請求権を行使しないまま亡くなったときには、孫が相続できる場合があります。
ただし、遺留分侵害額請求権には請求の期限(時効)があり、期限をすぎると権利が消えてなくなってしまいます。
孫の親(被相続人の子ども)が亡くなった時点(相続開始の時点)で遺留分侵害額請求権が時効にかかって消えている場合、孫はこれを相続することができません。
遺留分侵害額請求の期限(時効)とは
遺留分侵害額請求権には、次のような2つの請求の期限(時効)があります。
- ① 遺留分権利者が、相続が開始した事実(被相続人が亡くなった事実)、および②遺留分を侵害する贈与や遺贈がされた事実を知ったときから1年
- ② 相続の開始(被相続人が亡くなったとき)から10年
①②のどちらかの期限を過ぎてしまった場合には権利が時効にかかって消えてしまいます。
相続できる場合・できない場合を具体例で解説
以下では、遺留分侵害額請求権を孫が相続できる場合・できない場合(権利が消えてしまう場合)について、具体的な事例で解説します。
相続人:被相続人の妻、長男(孫の親)・長女被相続人は「すべての遺産を妻に相続させる」という内容の遺言を残して亡くなった。被相続人の長男は妻と死別しており、一人息子(被相続人の孫)がいる。
事例4では、被相続人の遺言によって長男(孫の親)と長女の遺留分が侵害されています。
そのため、長男(孫の親)は被相続人の妻に対して遺留分侵害額請求をすることができます(遺留分侵害額請求権の発生)。
遺留分侵害額請求権は相続の対象になるため、相続人である一人息子(被相続人の孫)は遺留分侵害額請求権を相続する可能性があります。
ただし、相続の時点で遺留分侵害額請求権が消えてしまっている場合は相続できません。
上の事例4で、被相続人の長男(孫の親)は被相続人が亡くなった翌日に、その死亡の事実や遺留分を侵害する遺言が残されていたことを知った。被相続人の長男(孫の親)は、被相続人が亡くなってから3ヶ月後に、交通事故にあって亡くなった。
パターン1では、1年の期限が問題となります。
被相続人の長男(孫の親)が亡くなったのは1年の時効が完成する前だった(被相続人が亡くなってから3ヶ月後)ので、遺留分侵害額請求権はまだ存在しており、孫に相続されます。
遺留分侵害額請求権の時効は、孫が相続したことによって巻き戻ることはありません。
原則として、本来の遺留分権利者である被相続人の長男(孫の親)が被相続人が亡くなった事実や遺留分を侵害する遺言があることを知ったときから1年を過ぎると、時効にかかって消えてしまいます。
ただし、相続の場合には、孫が相続人になることが確定したときから6ヶ月間、時効の進行が一時停止します(これを「時効の完成猶予」といいます)。
いずれにしても時間は限られているため、孫は相続をしたらできるだけ早く遺留分侵害額の請求をすることが大切です。
民法第160条(相続財産に関する時効の完成猶予)
相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
上の事例4で、被相続人の長男(孫の親)は被相続人と絶縁状態にあり、被相続人が亡くなったことや、遺留分を侵害する内容の遺言が残されていたことを知らなかった。被相続人の長男(孫の親)は、被相続人が亡くなったことや遺言の存在を知らないまま、被相続人が亡くなってから15年後に病気で亡くなった。
パターン2では、10年の期限が問題となりますが、被相続人が亡くなってから10年以上が過ぎている(被相続人の長男が亡くなった時点で15年が過ぎている)ため、遺留分侵害額請求権は10年の時効にかかって消えています。
したがって、孫は遺留分侵害額請求権を相続できません。
遺留分侵害額請求権の時効について詳しくはこちら
まとめ
・原則として遺留分は孫に認められません。
・遺留分とは、相続人のうち被相続人の配偶者、子ども、直系尊属に対して認められている権利で、この中に「孫」は含まれていないためです。
・ただし、①被相続人が孫と養子縁組をした場合、②孫が被相続人の子ども(孫の親)を代襲相続する場合には、例外的に孫に遺留分に遺留分が認められます。
①の場合、孫は「被相続人の子ども」である養子として遺留分を認められます。
②の場合、孫は「被相続人の子ども」である親の地位を引き継ぐ者として遺留分を認められます。
・遺留分に関するトラブルについては、相続問題にくわしい弁護士に相談されることをおすすめします。
誰にどのくらいの遺留分が認められるのか、遺留分の時効は完成しているか、などの判断には高度の専門知識が必要となるためです。
・当事務所では、遺留分に関するトラブルはもちろんのこと、遺言書の作成や遺産分割協議、相続登記や相続税の申告など、相続に関する幅広いご相談をうけたまわっています。
相続問題にくわしい弁護士で構成する相続対策専門チームが対応させていただきますので、安心してご相談ください。