自筆証書遺言の検認とは、家庭裁判所が自筆証書遺言を開封してその内容や状態を確認する手続きのことをいいます。
亡くなった方の自筆証書遺言を保管している場合や、自筆証書遺言を発見した場合には、開封したりせずに、そのままの状態で検認の手続きをする必要があります。
この記事では、検認の手続きの流れや必要書類・費用、注意点などについて、相続問題に詳しい弁護士がわかりやすく解説します。
目次
自筆証書遺言の検認とは?
自筆証書遺言とは
自筆証書遺言とは、遺言者(遺言を作成する人のことです。)が全文と日付、氏名を手書きし、印鑑を押して作成した遺言のことです。
自筆証書遺言について詳しくはこちらをご覧ください。
検認とは?
検認とは、遺言書を家庭裁判所に提出し、家庭裁判所が遺言を開封して内容や状態を確認する手続きのことをいいます。
遺言の保管者や発見者は、遺言者が亡くなった事実を知った後、遅滞なく検認の手続きをする必要があります。
民法1004条1項
遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
検認は、以下の2つを目的とする制度です。
- ① 相続人に対して遺言の存在と内容を知らせること
- ② 検認をした時点での遺言書の内容や状態を明確にすることによって、その後の改ざん・隠ぺい・破棄等を防止すること
特に②の目的が重要です。
自筆証書遺言は自宅のタンスや金庫に保管することもできるため、遺言の内容に利害関係をもつ相続人などが遺言書を持ち出し、自分に有利な内容に書き換えたり遺言書を隠ぺい・破棄したりしてトラブルになるケースがあります。
検認の制度は、こうしたトラブルをできる限り防ぐために作られた制度です。
自筆証書遺言の検認が必要なケース
自筆証書遺言については不正な持ち出しや改ざん・隠ぺい・破棄等のリスクがあるため、基本的に家庭裁判所で検認を行う必要があります(後ほど説明するように、保管制度を利用する場合は不要です)。
自筆証書遺言にもとづいて遺産相続手続きをする場合には、役所や金融機関等から自筆証書遺言の提出を求められます。
その際には、自筆証書遺言について検認が済んでいることが必要とされます。
例えば、預貯金口座の名義変更や不動産の相続登記(名義変更)、相続税の申告などの手続きにおいて、検認済みの自筆証書遺言の提出が求められます。
自筆証書遺言で検認が不要なケース
自筆証書遺言の保管制度を利用する場合、検認は不要です。
自筆証書遺言の保管制度とは、遺言者の作成した自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)で保管してもらう制度のことです。
この保管制度を利用する場合には、改ざん・隠ぺい・破棄等がなされるリスクがないことから、検認の手続きは不要とされています。
自筆証書遺言の検認の流れ
自筆証書遺言の検認は次の流れで行います。
一般的に、②検認の申立てから④検認期日(検認の実施)までには1ヶ月程度かかります(状況により期間は前後する場合があります)。
また、申立の準備にも数週間〜1ヶ月程度の時間がかかります。
申立ての準備
検認の申立てをすることができる人(申立人)は、①遺言の保管者または②遺言の発見者である相続人のいずれかです。
家庭裁判所に検認の申立てをするためにはいくつかの準備が必要です。
申立ての準備は、誰が相続人にあたるのかを確認することから始めます。
申立てにあたっては、戸籍謄本をはじめとするさまざまな書類を提出する必要がありますが、誰が相続人になるかによって取得する書類が異なるためです。
相続人が明確になったら、必要書類を取得します(必要書類については後ほど別途解説します)。
書類を郵送等で取り寄せる場合には、取得までに1〜2週間程度の時間がかかります。
また、戸籍謄本の保管状況等によってはさらに多くの時間がかかる場合もありますので、時間に余裕をもって準備を始めることが大切です。
検認の申立て
家庭裁判所に検認の申立てをします。
検認を申し立てる家庭裁判所は、遺言者の最後の住所地の家庭裁判所です。
検認の申立ては、実際に家庭裁判所に行って書類を提出する方法のほか、郵送の方法で行うこともできます。
申立てにあたっては、必要書類の提出と検認にかかる費用の納付が必要となります(必要書類と費用については後ほど説明します)。
検認期日の通知
家庭裁判所は検認の申立てを受理した後、検認期日(検認を行う日のことです。)を決めて相続人全員と受遺者(遺言によって財産を与えられる相続人以外の者のことです。)に通知します。
検認の申立人は必ず検認期日に出席しなければなりませんが、それ以外の相続人等の出席は任意です(欠席することもできます)。
申立人が出席していれば、相続人等が全員そろわなくても検認の手続きは行われます。
検認期日
申立人は、検認期日に自筆遺言書を持参して提出します。
裁判官は、申立人や相続人等の立会いのもとで遺言書を開封し、遺言書の内容や状態を確認します(検認)。
家庭裁判所は検認の結果を記録した「検認調書」を作成し、また、検認期日に出席しなかった相続人等に対して検認を実施したことを通知します。
検認後の手続き
検認の手続きが終わった後、自筆証書遺言を執行する(遺言にもとづく遺産の分配や名義変更など、遺言の内容を実現するために相続手続きをすることをいいます。)ために、検認済証明書の申請をします。
検認済証明書とは、家庭裁判所が遺言について検認済みであることを証明する書類です。
役所や金融機関で自筆証書遺言にもとづいて遺産相続の手続きをする際には、検認済証明書がついていなければ手続きを受け付けてもらえません(保管制度を利用した場合には不要です)。
自筆証書遺言の検認に必要な書類
自筆証書遺言の検認に必要な書類は、誰が相続人となるかによって異なります。
- 検認の申立書
検認の申立書検認の申立書については、こちらからダウンロードが可能です。
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺言者(被相続人)の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本(以下、これらを「戸籍謄本類」といいます。)
- 遺言者(被相続人)の子どもやその代襲者(※)で亡くなっている方がいる場合、その子どもや代襲者の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類
※代襲者:被相続人の子どもまたは兄弟姉妹が相続人にあたる場合、その子どもや兄弟姉妹が被相続人よりも先に死亡し、あるいは相続人から除外されたときは、その子どもの子ども(被相続人の孫)または兄弟姉妹の子ども(被相続人の甥・姪)が代わりに相続人となります(代襲相続)。この場合に代わりに相続人となる者(被相続人の孫や甥・姪)を「代襲者」といいます。
- 遺言者の直系尊属(相続人と同じ代または相続人より下の代の尊属に限ります。)で亡くなっている方がいる場合、その直系尊属の死亡が記載された戸籍謄本類
- 遺言者(被相続人)の父母の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類
- 遺言者の直系尊属の死亡が記載された戸籍謄本類
- 遺言者(被相続人)の兄弟姉妹で亡くなっている方がいる場合、その兄弟姉妹の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類
- 代襲者となる甥・姪で亡くなっている方がいる場合、その甥または姪の死亡が記載された戸籍謄本類
- 受遺者の現在の戸籍謄本
- 申立人の身分証明書(免許証・保険証・パスポート等)の写し
必要書類の一覧表
ここまで説明した必要書類を表にまとめました。
誰が相続人となるかに応じて必要書類は異なります。
以下、相続放棄等の申述人別に必要書類をまとめております。
- 検認の申立書
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺言者(被相続人)の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類(戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本)
- 遺言者(被相続人)の子どもや代襲者が亡くなっている場合、子どもや代襲者の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類
- 遺言者の直系尊属が亡くなっている場合、その直系尊属の死亡が記載された戸籍謄本類
- 遺言者(被相続人)の父母の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類
- 亡くなった兄弟姉妹がいる場合、その兄弟姉妹の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類
- 亡くなった甥姪(代襲者)がいる場合、その甥姪の死亡の記載のある戸籍謄本類
- 受遺者がいる場合、受遺者の現在の戸籍謄本
- 検認の申立書
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺言者(被相続人)の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類(戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本)
- 遺言者(被相続人)の子どもや代襲者が亡くなっている場合、子どもや代襲者の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類
- 受遺者がいる場合、受遺者の現在の戸籍謄本
- 検認の申立書
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺言者(被相続人)の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類(戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本)
- 遺言者(被相続人)の子どもや代襲者が亡くなっている場合、子どもや代襲者の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類
- 遺言者の直系尊属が亡くなっている場合、その直系尊属の死亡が記載された戸籍謄本類 ※下の代が亡くなった場合のみ
- 受遺者がいる場合、受遺者の現在の戸籍謄本
- 検認の申立書
- 遺言者(被相続人)の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類(戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本)
- 遺言者(被相続人)の子どもや代襲者が亡くなっている場合、子どもや代襲者の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類
- 遺言者の直系尊属が亡くなっている場合、その直系尊属の死亡が記載された戸籍謄本類
- 遺言者(被相続人)の父母の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類
- 亡くなった兄弟姉妹がいる場合、その兄弟姉妹の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類
- 亡くなった甥姪(代襲者)がいる場合、その甥姪の死亡の記載のある戸籍謄本類
- 受遺者がいる場合、受遺者の現在の戸籍謄本
※ 同じ書類は1通で足ります。
※ 取得できる戸籍にはいくつかの種類がありますが、検認の申立てでは「戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)」(戸籍の全員分について記録された証明書のことです。)を提出する必要があります。
「戸籍抄本(戸籍個人事項証明書)」(戸籍に含まれる指定した人についてのみ記録された証明書のことです)では手続きを受け付けてもらえないため、注意が必要です。
※ かつて戸籍が紙で管理されていた頃は「戸籍謄本」と呼ばれていましたが、電子データで管理されるようになった現在では「全部事項証明書」と呼ばれています(記載されている内容は同じです)。
※ 状況によっては、上記以外に追加書類の提出が必要となる場合があります。
自筆証書遺言の検認にかかる費用・時間
自筆証書遺言の検認には以下の費用がかかります。
- 遺言書1通につき800円(収入印紙で納付)
- 連絡用の郵便切手(各裁判所によって異なります。)
また、遺言執行のために必要な検認済証明書の申請をする場合、遺言書1通につき150円の手数料がかかります(収入印紙で納付)。
自筆証書遺言の検認の注意点
自筆証書遺言で検認しなかった場合のペナルティ
自筆証書遺言について検認をしなかったり、家庭裁判所での検認前に自筆証書遺言を開封してしまった場合には、5万円以下の過料に処せられる可能性があります。
民法1005条
前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
また、上記のペナルティに加え、相続人等から遺言の改ざん等を疑われてトラブルに巻き込まれる可能性もあります。
遺言者が亡くなった場合には、できるだけすみやかに家庭裁判所で検認の手続きをすることが大切です。
申立人は検認期日への出席が必須
検認の申立人(①遺言の保管者または②遺言の発見者である相続人)は、家庭裁判所に遺言書を持参して提出する必要があるため、必ず本人が検認期日に出席しなければなりません。
これに対して、その他の相続人等は検認期日に欠席することもでき、また弁護士等を代理人として出席させることもできます。
自筆証書遺言の検認のQ&A
検認後に遺言の有効性を争えますか?
検認をした後に遺言の有効性を争うことはできます。
検認の手続きは、あくまで検認をした時点での遺言の内容や状態を確定する手続きであり、遺言が有効か無効かの判断を行うものではないからです。
そのため、検認の手続きをした自筆証書遺言であっても無効となる可能性はあります。
遺言の有効性を争う場合、まずは当事者での話し合いによる解決をめざし、それでも解決できない場合には裁判所を介した遺言無効確認調停や遺言無効確認訴訟の手続きを行うこととなります。
遺言の有効性について疑問がある場合には、相続にくわしい弁護士に相談されることをおすすめします。
検認後に遺言の有効性を争えるかについて詳しくはこちら。
検認に立ち会わないと不利になりますか?
基本的に、相続人等が検認に立ち会わないことによって不利になることはありません。
そもそも、検認の手続きは遺言の有効・無効を判断したり、相続人等に何らかの権利や義務を発生させる場ではなく、あくまで遺言の内容や状態を確認するための場だからです。
また、検認に立ち会うことができなかったとしても、相続人等は、検認を行った裁判所に対して検認調書の写し(謄本)の交付を申請(郵送でも可能です。)することによって、手続きの内容や結果を確認することができます。
ただし、検認の手続きが行われる様子を自分の目で確認しなければ納得できないという場合や、できるだけ早く遺言書の内容を知りたいという場合には、検認に立ち会った方が良いでしょう。
上記のような事情がない場合には、検認期日に欠席しても不利になることはないため、都合がつかないときには欠席しても問題ありません。
不安な場合には、弁護士等に依頼して代理人として出席してもらうこともできます。
まとめ
自筆証書の検認とは、家庭裁判所において自筆証書の内容や状態を確認することをいい、その後に改ざん・隠ぺい・破棄等が行われることを防止するための制度です。
自筆証書遺言の保管制度を利用して法務局に保管する場合、検認の手続きは不要です。
遺言者が亡くなった場合、自筆証書遺言の保管者や発見者は遅滞なく遺言を家庭裁判所に提出する必要があり、この手続きを怠った場合には5万円以下の過料に処せられます。
自筆証書遺言の検認を申請するためには、相続人の調査や戸籍謄本等の取得といった準備が必要となり、その準備には一般的に数週間〜1ヶ月程度の時間がかかります。
自筆証書遺言の検認についてわからないことや不安がある場合には、相続問題に詳しい弁護士に相談されることをおすすめします。
当事務所では、相続問題に詳しい弁護士で構成する相続対策専門チームを設置しています。
自筆証書遺言の検認はもちろんのこと、遺言の作成や遺言の執行、相続人の調査、遺産の調査、遺産分割協議の進行、遺産トラブルの解決、相続登記、相続税の申告、相続税の節税対策など、相続全般に関するご相談をうけたまわっています。
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