自筆証書遺言の要件とは?失敗しないポイントを弁護士が解説


弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

自筆証書遺言の要件は、「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」と定められています(民法968条)。

また、遺言書の変更(訂正)もルール(民法)で定められています。

具体的には5つの要件があり、要件を守らない場合には遺言が無効となるリスクがあります。

この記事では、自筆証書遺言の5つの要件や要件をクリアしない場合のリスク、要件を満たす自筆証書遺言を作成するためのポイントや注意点などについて、NG例やサンプルを示しながら、相続問題にくわしい弁護士がわかりやすく解説します。

自筆証書遺言とは?

自筆証書遺言とは、遺言者(遺言を作成する人のことです。)が全文を手書きで作成する遺言書のことをいいます。

自筆証書遺言について詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

自筆証書遺言の5つの要件

自筆証書遺言の5つの要件

自筆証書遺言を作成する場合には、民法968条が定める次の5つの条件をクリアする必要があります。

【根拠条文】

民法968条
1 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
3自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

引用元:民法 | e-Gov法令検索

要件①:遺言者本人が遺言書の全文を自署すること

自筆証書遺言は、遺言者本人が遺言書の全文を自署(手書き)しなければなりません。

パソコン等で作成して印刷したり、誰かに遺言書の代筆を依頼したりすることはできません。

また、ビデオ録画や音声録音によって遺言をすることもできません(無効です)。

ただし、自筆証書遺言に財産目録を添付する場合、この財産目録については自署(手書き)する必要はなく、パソコン等で作成することも誰かに作成を依頼することもできます(民法968条2項)。

遺言書の作成に使用する用紙(大きさや素材・模様の有無など)や筆記用具(種類・色など)についての決まりはありません。

ただし、一定期間保管されることを考えると、破れやすい素材の用紙は避けたほうがよいでしょう。

また、第三者による改ざん等を防ぐため、簡単に消える筆記用具(鉛筆やシャープペンシル、消えるボールペンなど)の使用を避け、消えにくいもの(油性のボールペンなど)を使用しましょう(色は読みやすい黒色がおすすめです)。

NG例
  • 遺言書の一部を他人が記載
  • 添え手をしてもらって作成

自筆証書遺言の全文を必ず自署(手書き)で作成する必要があり、遺言の一部だけであっても、他人が記載した場合には無効となります。

また、遺言者本人の手が震えてしまうような場合でも、他人が添え手をして補助することはできません(補助した場合は無効となります)。

手が不自由な場合には自筆証書遺言の形式で遺言書を作成することが困難なため、状況に応じて公正証書遺言(遺言者ではなく公証人が作成します。)の利用を検討しましょう。

要件②:遺言者本人が正確な日付を自署していること

自筆証書遺言の作成日付を手書きで正確に記載することが必要です。

作成日付は特定できることが必要であり、一般的には「◯年◯月◯日」といった形で記載します。

西暦・和暦のいずれで記載しても構いませんが、和暦で記載する場合には年号(「令和」「平成」等がこれにあたります。)を忘れずに記載しましょう。

NG例
  • 日付の記載がない
  • 日付の記載が不明瞭(「◯月吉日」などの記載)
  • スタンプ(日付印)などで日付を記入

日付の記載がない自筆証書遺言は無効です。

また、「◯月吉日」のように明確に特定できない日付を記載した場合にも無効となります。

「2023年の私(遺言者)の誕生日」などのように、日付を特定できる場合には有効ですが、このような記載はわかりにくいため望ましくありません。

作成日付も手書き(自署)することが必要とされているため、スタンプ印を使用した場合も無効となります。

要件③:遺言者本人が氏名を自署していること

遺言書の最後には、遺言者本人であることを特定できる氏名を手書きで記載することが必要です。

NG例
  • 氏名のスタンプ印を使用
  • 苗字または名前の一方のみを記載
  • ニックネーム・ペンネームを記載

苗字または名前の一方のみを記載する場合やニックネーム・ペンネームを記載する場合であっても、それが唯一無二であるなどの理由で遺言の作成者を特定できるときは、要件③を満たします。

しかし、遺言者本人を特定できるかどうかをめぐってトラブルとなるリスクや、訴訟等で争われた場合に裁判所によて無効と判断されるリスクがあることから、基本的には戸籍に記載されている氏名をフルネームで記載することをおすすめします。

要件④:自筆証書遺言に印鑑を押していること

自署した名前の後に印鑑を明瞭に押すことが必要です。

NG例
  • 印鑑が押されていない
  • 印影が明瞭でない(薄い・大きく欠けている等)

実印を押さなければならないという法律(民法)上の決まりはないため、認印を押しても構いませんが、可能であれば実印を押すのが望ましいです。

押された印影が薄すぎる場合や印影が大きく欠けている場合など、本人の印鑑が押されているかどうかが明瞭でない場合(判別できない場合)には遺言が無効とされてしまうため、失敗したときは印鑑を押しなおしましょう。

要件⑤:遺言書の変更(訂正)のルールにしたがうこと

自筆証書遺言について加筆修正等の変更(訂正)をする場合には、民法968条3項の定めるルール(次のア〜エ)にしたがう必要があります。

ア 遺言者自身が訂正(変更)の場所を指示して、これを訂正(変更)した旨を付記すること

イ 遺言者自身が訂正(変更)を付記した箇所に署名すること

ウ 変更した箇所に印鑑を押すこと

エ 上記ア〜ウが遺言者自身によってされること

具体的な訂正(変更)の方法については「要件を満たした自筆証書遺言の書き方【サンプル付】」のところで解説しますので、そちらをご覧ください。

 

なぜ自筆証書遺言には要件があるのか

全文の自署

遺言の制度は遺言者の最後の意志の尊重を目的とすることから、遺言書は遺言者本人の意志にもとづいて作られることが大前提となります。

遺言書がパソコン等で作成されている場合や、他人によって代筆されている場合には、本当に遺言者の真意が反映されているのかを客観的に判断することができません(客観的には他人が勝手に作った遺言書である可能性を否定することができません)。

そこで、筆跡等から遺言者本人が自分の意志で遺言書を作成したことが客観的にわかるよう、全文を自署(手書き)することが要件とされています。

署名(氏名の自署)・押印

法律(民事訴訟法)は、本人の署名(自署)がある文書や本人の印鑑が押された文書については、本人が自分の意志で作成したもの(偽造ではない)であると推定されることを定めています。

したがって、署名(氏名の自署)・押印の要件は、遺言者本人が自分の意志で自筆証書遺言を作成したことを担保するための要件であるといえます。

遺言者本人の印鑑であれば認印でもかまいませんが、可能であれば実印を押すことが望ましいです。

実印は遺言者本人の印鑑であることが公的に証明されていること(印鑑登録の制度)や、通常は厳重に保管され他人による持ち出しが困難であることなどから、実印の押された遺言書は遺言者本人が自分の意志で作成したものと判断される可能性が高まります。

日付の記載

遺言の制度は遺言者の最後の意志を尊重する制度であることから、矛盾する内容の遺言書が複数作られている場合には、最後に作られた遺言書(もっとも新しい日付の遺言書)が優先されます。

作成日付の記載がない場合には、どの遺言書を優先すべきかがわからなくなってしまうため、作成日付の記載は必須の要件とされています。

また、遺言者以外の者が自分に有利な日付を記載するといった事態を防ぐために、作成日付についても遺言者本人が手書きで記入することが必要とされています。

 

自筆証書遺言の要件をクリアしない場合のリスク

要件①〜④をクリアしない場合

自筆証書遺言①〜④の要件をクリアしない場合、遺言書全体が無効とされ、その遺言書が存在しないものと扱われるリスクがあります。

有効な遺言書が存在する場合には、相続人(遺産を相続する人のことです。)は原則として遺言の内容に従って遺産を分けることになります。

これに対して、有効な遺言書が存在しない場合には、相続人全員で話し合って遺産の分け方を決めることになります(遺産分割協議)。

この場合には、遺言者の意志とは異なる形で遺産が分けられてしまう可能性があります。

要件⑤をクリアしない場合

民法968条3項の定めるルールを守らずに加筆修正等を行った場合、その修正部分が無効となるリスクがあります(加筆修正等が遺言書全体に影響をもたらす場合には、遺言書全体が無効となる可能性もあります)。

 

 

要件を満たした自筆証書遺言の書き方【サンプル付】

自筆証書遺言のサンプル(基本)

要件を満たした自筆証書遺言のサンプルをご紹介します。

※こちらは、財産目録を添付せずに遺言書の中で具体的に財産を特定する場合のサンプルです。

パソコンで作成した財産目録を添付する場合の記載方法については、「財産目録を添付する場合(財産目録を自筆しない場合)のサンプル」のところで説明します。

 

遺言書を訂正する場合のサンプル

自筆証書遺言を訂正する場合には、上の「要件⑤:遺言書の変更(訂正)のルールにしたがうこと」で説明したルールに沿って訂正する必要があります。

ここでは、遺言書に文字を追加する場合、文字を削除する場合、文字を訂正する場合の3パターンについてそれぞれサンプルを示します。

文字の追加(加筆)

遺言書に文字を追加(加筆)する場合のサンプルです。

  1. ① 挿入記号を使って文字を追加する場所を示したうえで、追加する文字(このサンプルでは「◯◯支店」)を記入します。
  2. ② 追加した文字の近くに印鑑(訂正印)を押します。
    ※遺言書の作成に使用したのと同じ印鑑(実印を使用したのであれば実印)を押します。
  3. ③ 遺言書の一番下の余白に、文字を追加した場所と追加した文字数を記入(付記)し、その横に署名します。※訂正した箇所が複数ある場合には、そのすべてを記載します。

文字の削除

遺言書の文字を削除する場合のサンプルです。

  1. ① 文字を削除する場合には、削除したい文字の上に二重線を書いて取り消します。
  2. ② 二重線の上に印鑑(訂正印)を押します。
  3. ③ 遺言書の一番下の余白に、文字を追加した場所と追加した文字数を記入(付記)し、その横に署名します。

文字の訂正

遺言書の文字を訂正(間違えた文字を削除して正しい文字を記載)する場合のサンプルです。

  1. ① 間違えた文字を削除するため、間違えた文字(削除する文字)の上に二重線を書いて取り消します。
  2. ② 二重線の上に印鑑(訂正印)を押します。
  3. ③ 二重線で取り消した文字の上に、正しい文字を記載します(追加記号は使用しなくても構いませんが、使用した方がより明確になります。)
  4. ④ 遺言書の一番下の余白に、文字を追加した場所と追加した文字数を記入(付記)し、その横に署名します。

 

財産目録を遺言書に添付する場合(財産目録を自筆しない場合)のサンプル

「自筆証書遺言のサンプル(基本)」のように、遺言の本文の中ですべての財産を特定して記載する場合、財産目録の作成・添付は不要です。

もっとも、財産目録を作成する場合には次のようなメリットがあることから、相続の対象となる財産の数が多い場合などには、財産目録を作成して添付するのがおすすめです。

  • 遺言者が遺言書に書き漏れた財産がないかを確認できる
  • 相続人が遺産の全体感を把握できるため、相続放棄をすべきかどうかを判断しやすくなる
  • 相続手続きにおいて財産目録の提出を求められるケースがあるため、あらかじめ作成しておくことで手続きをスムーズに進められる

財産目録を作成する場合には、プラスの財産だけでなくマイナスの財産(借金やローンなど)を含むすべての財産を洗い出して記載しましょう。

財産目録を遺言書に添付する場合のルール

財産目録を遺言に添付する場合、財産目録を自筆で作成する必要はなく、パソコンで作成することも他人に代筆してもらうこともできます。

ただし、財産目録を自筆以外の方法で作成する場合には、民法968条2項の定める次のルールにしたがうことが必要です。

ア 財産目録のすべてのページ(ページの裏表に印刷または記載する場合は、そのページの裏表)に署名をすること

イ 署名の横に印鑑を押すこと

※ 遺言書の作成に使用したのと同じ印鑑(実印を使用したのであれば実印)を押します。

※ 遺言書に添付する財産目録について、後から加筆修正等の訂正(変更)をする場合には、遺言書の場合と同様の手順で行います。

財産目録のサンプル

パソコンで作成した財産目録を自筆証書遺言に添付する場合のサンプルをご紹介します。

財産目録を添付する場合の自筆証書遺言書

財産目録を自筆以外の方法で作成して添付する場合、遺言書の本文では次のように財産目録を引用します。

 

遺言書が複数枚の場合は契印を押す

遺言書が複数枚にわたる場合、要件ではありませんが、ページの隅をホッチキス等で綴じ、契印を押した方が望ましいです。

遺言書の契印

契印を押すことで遺言書の全ページの一体性を保ち、第三者の偽造行為を防ぐことができるためです。

 

封筒の書き方のサンプル

自筆証書遺言書の封入は要件ではありません。

したがって、封入していなくても無効とはなりません。

しかし、なるべくは封入することをおすすめします。

封入することで、第三者の偽造行為を防ぐことが可能です。また、相続開始後に相続人から偽造の可能性を疑われるリスクも減少するためです。

ここでは、封筒のサイズや書き方についてご紹介します。

封筒のサイズ

封筒の大きさとしては、自筆証書遺言書がそのまま入る大きさや二つから三つ折り程度で収まるものがおすすめです。

長3(ながさん)や角6(かくろく)の封筒が良いでしょう。

  • 長3封筒(120 × 235mm):定形封筒で、A4サイズの横三折が入ります。
    遺言書の封筒長3
  • 角6サイズ (162 × 229mm):A5サイズ(A4二つ折り)が折らずにぴったり入ります。
    遺言書の封筒角6

封筒の書き方

下記は書き方の一例となります。

  • 封筒の表には「遺言書」と記載する
  • 封をのり付けし、ふたの中央に割り印を押す
  • 裏に「遺言者 ●●●●」と氏名を自署する
  • 裏に「開封せずに家庭裁判所で検認を受けること」といった注意書きを記載する

遺言書の封筒の記載例

 

自筆証書遺言の保管制度について

自筆証書遺言の保管制度とは、遺言者の作成した自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)で保管する制度のことです。

自筆証書遺言の保管制度は、紛失や改ざんなどのリスク等に対応するために作られた制度です。

この制度の主なデメリットとして、遺言者本人が法務局へ出向く必要があるため重大な病気や怪我で動けない場合には利用できないこと、遺言書の様式についての細かなルールがあり、これを守らなければ保管してもらえないことなどをあげることができます。

 

 

遺言書の自動作成ツールで簡単に作成

自筆証書遺言は全文を手書きで作成しなければならず、書き間違いの訂正にも手間がかかる(ルールに沿って行わなければならないため)ことから、まずは下書きを作成してから手書きで清書することをおすすめします。

遺言書の書き方については、インターネットや書籍などでさまざまな情報を得ることができますが、それでも一般の方が自力で作成するのはなかなか難しい面があります。

そこで、当事務所では、相続にくわしい弁護士が監修した遺言書の自動作成ツールを無料で提供しています。

ぜひ遺言書の下書き作成にご活用いただければと思います。

※この自動作成ツールは、遺言書の下書きイメージを簡易的に表示するものであり、遺言書が有効であることや相続人同士のトラブルを避けることを保証するものではありません。

相続人同士のトラブルを防ぐために遺言書をどのような内容にすべきか、といった個別具体的な疑問については、相続にくわしい弁護士に相談されることをおすすめします。

 

 

自筆証書遺言に書くことで法的効力をもつ3つの事項

自筆証書遺言書に記載することで法的効力が認められる事項としては、①相続人等に関するもの、②遺産の分配等に関するもの、③遺言の執行に関するものがあります。

具体的には以下の事項です。

①相続人に関するもの

  1. ア 相続人の廃除、廃除の取消し(民法893条、894条)
  2. イ 非嫡出子の認知(民法781条2項)
  3. ウ 未成年後見人、未成年後見監督人の指定(民法839条、848条)

②遺産の分配等に関するもの

  1. エ 相続分の指定(民法902条)
  2. オ 遺産分割方法の指定、遺産分割の禁止(民法908条)
  3. カ 遺贈(民法964条)
  4. キ 特別受益の持ち戻し免除(民法903条3項)
  5. ク 相続人の担保責任の指定(民法914条)
  6. ケ 遺留分侵害額の負担割合の指定(民法1047条1項2号ただし書)
  7. コ 祭祀主宰者の指定(民法897条1項ただし書)
  8. サ 生命保険受取人の指定、変更(保険法44条)

③遺言の執行に関するもの

  1. シ 遺言執行者の指定または指定の委託(民法1006条1項)

 

 

トラブル防止!自筆証書遺言作成の5つのポイント

自筆証書遺言をめぐるトラブルを避けるために、次の5つのポイントをおさえて遺言書を作成しましょう。

 

誰にどの遺産を残す相続させる(遺贈する)のかを明確にする

自筆証書遺言の作成にあたっては、「誰に」「どの遺産」を相続させるのか(遺贈するのか)を明確に記載することが大切です。

この記載が不明確な場合には、遺言の解釈をめぐって意見が対立し、相続人同士のトラブルにつながる可能性があります。

ワンポイント:相続と遺贈との違い

基本的に「相続」という言葉は法定相続人に遺産を残すときに、「遺贈」という言葉は法定相続人以外の第三者に遺産を残すときに使用します。
法定相続人に対しても遺贈することができますが、メリットがないため、「相続」という言葉を使うことが多いです。
くわしくはこちらをご覧ください。

 

自筆証書遺言の要件を満たしていても無効となる場合がある

この記事で説明してきた自筆証書遺言の5つの要件のほかにも、遺言書全体に共通するルールがあり、これらに違反した場合には遺言書が無効となる可能性があります。

例えば、次のような場合には遺言が無効になる可能性があるため、注意が必要です。

複数人が共同して遺言を作成した場合は無効

1通の遺言書は必ず1人の遺言者によって作成されることが必要であり、1通の書面に2人以上の者が遺言を記載することはできません(民法975条)。

夫婦であっても、「私たち夫婦の遺産のすべてを長男✕✕に相続させる」といった形で共同の遺言をすることはできません(無効です)。

また、1通の遺言書において「遺言者A(妻)は、遺産のすべてを長男Xに相続させる」、「遺言者B(夫)は、遺産のすべてを長女Yに相続させる」といった内容を夫婦のそれぞれが記載することもできません。

遺言は遺言者の最後の意志を尊重する制度であることから、自由に遺言を撤回できることが重視されており、共同で遺言をした場合には自由な撤回をしにくくなるため、そのような遺言は無効とされています。

遺言者に遺言能力(意志能力)がない場合は無効

遺言能力(意思能力)とは、作成する遺言の内容を理解し、遺言によってどのような結果がもたらされるのかを理解できる能力のことです。

遺言者が遺言能力がない状態で作成した遺言は無効となります。

例えば、遺言者が遺言書を作成した時点で重度の認知症であった場合には、遺言能力がなかったと判断されて遺言書が無効となる可能性があります。

遺言者について認知症が疑われる場合には、医師の診断書をもらうなどして遺言書が無効とされるリスクに備えることが大切です。

 

 

遺留分の侵害に注意する

相続人のうち、遺言者の配偶者(妻・夫)、子ども、両親・祖父母等については「遺留分」(いりゅうぶん)という遺産の最低限の取り分が法律上保障されており、遺言によってもこの遺留分を奪うことはできません。

例えば、遺言者に妻と子ども2人がいる場合に「遺産のすべてを妻に相続させる」という内容の遺言を作成するときは、遺言によって子ども2人の遺留分を侵害することとなります。

遺留分を侵害する内容の遺言であっても有効に成立しますが、この場合、遺留分を侵害された子ども2人は妻に対して、侵害された遺留分に相当する金銭を支払うように求めることができます(遺留分侵害額の請求)。

遺留分をめぐる相続人同士のトラブルを避けるためには、遺言の内容が遺留分を侵害していないかを確認することが大切です。

 

自筆証書遺言は裁判所での検認が必要(保管制度を利用しない場合)

自筆証書遺言の保管者や自筆証書遺言を発見した相続人は、遺言者の死亡後、遅滞なく遺言を家庭裁判所に提出して、検認(家庭裁判所で遺言の内容を確認する手続きのことです。)を受けなければなりません。

検認を怠った場合には5万円以下の過料に処せられます。

上で解説したように、遺言を作成するときは、遺言を封入する封筒に「開封せずに家庭裁判所で検認を受けること」といった注意書きをするとよいでしょう。

また、状況によっては自筆証書遺言の保管制度(法務局で自筆証書遺言を保管してもらう制度)の利用を検討しましょう。

保管制度を利用する場合、検認の手続きは不要です。

 

相続にくわしい弁護士に相談する

自筆証書遺言は役所などでの手続きなしに作成することができる反面、形式や内容の不備を理由に無効とされてしまうケースが少なくありません。

せっかく遺言を作成しても無効とされてしまっては意味がありません。

そこで、自筆証書遺言の作成については、相続にくわしい弁護士に相談されることをおすすめします。

相続にくわしい弁護士であれば、遺言が要件を満たしているかを適切にチェックすることができるため、遺言が無効となるリスクを避けることができます。

また、相続トラブルを防ぐためにどのような内容の遺言を作成すべきか、といった点についてもアドバイスを求めることができます。

 

 

まとめ

遺言者の最後の意志を尊重するという遺言の制度を実現するため、自筆証書遺言の作成や変更(訂正)には5つの要件(ルール)が定められています。

これらの要件を守らなかった場合には、遺言書が無効とされるリスクがあります。

自筆証書遺言は遺言者だけで作成することができる反面、形式や内容の不備を理由として無効とされるケースが少なくありません。

また、遺言の内容をきっかけに相続人同士のトラブルを招いてしまうこともあります。

自筆証書遺言が無効となるリスクや相続人同士のトラブルとなるリスクを回避するためには、相続にくわしい弁護士に相談するのがおすすめです。

当事務所では、相続問題にくわしい弁護士からなる相続対策専門チームを設置しており、相続全般に関するご相談をうけたまわっています。

自筆証書遺言の作成はもちろんのこと、相続人の調査や遺産の調査、遺産をめぐるトラブルの解決、遺産分割協議や相続税の申告・節税対策など、幅広いご相談に対応することが可能です。

遠方の方についてはオンラインでのご相談も受け付けておりますので、ぜひお気軽にご利用ください。

 

 


[ 相続Q&A一覧に戻る ]

なぜ遺産相続のトラブルは弁護士に依頼すべき?

続きを読む

まずはご相談ください
初回相談無料