相続関係説明図(相続人関係図)とは、被相続人(遺産を残して亡くなった方のことです。)と相続人との関係を図にしたものです。
この記事では、相続関係説明図の活用場面や、作成方法などについて、相続問題にくわしい弁護士がわかりやすく解説します。
相続関係説明図のひな形やケース別のテンプレートも掲載しておりますので、ぜひご活用ください。
相続関係説明図(相続人関係図)とは?
相続関係説明図とはどのような書類?
相続関係説明図とは、相続関係をわかりやすく説明するために、家系図のように文字だけでなく線を使って、被相続人と相続人との関係を図に表した書類のことをいいます。
相続関係説明図は役所等で取得できる書類ではなく、相続人等が自分自身で作成するものです(専門家等に作成を依頼することもできます)。
相続関係説明図は必ず作成しなければいけない書類ではなく、作成しないこともできます。
相続関係説明図が活用されるケース
相続関係説明図が活用されるケースは大きく2つあります。
公的機関や金融機関等への提出
相続人は、相続した遺産について各種相続手続き(法務局での相続登記や金融機関での預貯金の解約・払戻し手続きなど)をする必要があり、その際に相続関係説明図を提出することがあります。
多くの相続手続きでは戸籍謄本等(戸籍謄本・除籍謄本など)の提出を求められることがありますが、戸籍謄本等とあわせて相続関係説明図を提出することで、提出した戸籍謄本等の原本を返却してもらえる場合があります。
取得には手数料もかかることから、複数の相続手続きをしなければならない場合、原本を返却してもらえれば他の手続きに使い回すことができて便利です。
また、相続人間で遺産の分け方についてもめてしまい家庭裁判所に遺産分割調停の申立てをする際にも、相続関係説明図の提出を求められる場合があります(各裁判所によって取扱いが異なる可能性があります)。
専門家への相談時の活用
相続について弁護士や税理士などの専門家に相談をする際に、相続関係説明図の作成を求められることがあります。
事前にご自身でも相続関係を把握しておくことで、相談をスムーズに進めることができます。
相続関係説明図と法定相続情報一覧図との違い
相続関係説明図と似たものとして、法定相続情報一覧図があります。
どちらも被相続人と相続人との関係を図にしたものである点で共通していますが、両者は次のような点で異なります。
相続関係説明図 | 法定相続情報一覧図 | |
---|---|---|
作成ルール | 比較的緩やか | 様式や記載項目が厳格に定められている |
法務局での手続き | 不要 | 必要 |
公的な証明力 | なし | あり |
戸籍謄本の代わりになるか | 代わりにならない (戸籍謄本の提出は必要だが、原本を返却してもらえる) |
代わりになる場合がある (戸籍謄本の提出は不要) |
「法定相続情報一覧図」とは、所定のルール(様式・記載項目)にしたがって作成された被相続人と相続人との関係図で、登記所(法務局)がその内容の正しさについて公的な認証(お墨付き)与えたものをいいます。
法定相続情報一覧図は様式や記載すべき項目に関するルールが厳格に定められており、そのルールにしたがって作成する必要があります。
作成した法定相続情報一覧図は登記所(法務局)に提出して認証を受ける必要があり、認証を受けた法定相続情報一覧図は登記所で保管されます。
公的な認証を受けた書類である法定相続情報一覧図は、法務局での相続登記や金融機関での預貯金の解約・払戻し手続き、税務署での相続税の申告、年金事務所で年金手続きなど、さまざま相続手続きの場面で戸籍謄本等の代わりとして利用することができます(戸籍謄本等の提出は不要)。
法定相続情報一覧図は公的な認証を受けられる反面、認証や取得の手続きに手間や時間がかかるというデメリットがあります。
これに対して、相続関係説明図は厳格なルールが定められていない反面、法務局等による公的な認証を受けることができません。
また、相続関係説明図はあくまで個人が作成した図にすぎないため、利用できる場面が限られ(法務局での相続登記手続き、金融機関での名義変更手続き等)、戸籍謄本等の代わりとして利用することもできません(返却は受けられるものの、戸籍謄本等の原本の提出は必要です)。
法定相続情報一覧図と相続関係説明図のどちらを使うべき?
法定相続情報一覧図と相続関係説明図のどちらにもメリット・デメリットがあるため、どちらを使うべきかは個々の状況によって異なります。
判断の目安としては、戸籍謄本等の提出先が多い場合には法定相続情報一覧図を利用するのがよいでしょう。
提出先が比較的少ない場合や相続関係が複雑な場合(数次相続の場合など)には相続関係説明図を利用するのがよいでしょう。
相続関係説明図のひな形
以下は相続関係説明図のひな形(サンプル)です。
相続関係説明図(Word)のダウンロード
相続関係図のひな形は以下ページからダウンロードしていただくことができます。
相続関係説明図の作り方
この項目では、一般的な相続関係説明図の作り方を説明します。
なお、相続関係説明図の用途によっては、提出先により記載すべき事項が指定されているケースや、ひな形が用意されているケースもあります(相続登記や遺産分割調停の際に提出する場合など)。
相続関係説明図にどのような情報を記載する必要があるのかは、個別の提出先に確認するようにしてください。
相続関係説明図の必要書類
まずは、相続関係説明図を作るために必要な書類を集めます。
被相続人や相続人の情報を正確に把握するためには、以下の書類を取得して確認する必要があります。
- 被相続人の生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本類(戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本)
- 相続人全員の戸籍謄本(または戸籍抄本)
- 相続人全員の住民票(または戸籍の附票)
※相続人の続柄によっては追加の資料が必要となることがあります。
被相続人の知られていない相続人(隠し子など)がいる可能性が判明する可能性もあることから、戸籍謄本類を取得して相続人を確認することが大切です。
戸籍謄本は本籍地のある市区町村の役場で取得することができます。
取得した書類をもとに、被相続人と相続人の関係を確認します。
相続関係説明図の書き方
取得した戸籍謄本等をもとに相続人を確認した上で、相続関係説明図を作成します。
相続人には法律(民法)で定められた範囲と順位があります。
相続関係説明図の書き方について法律等で定められたルールはありませんが、被相続人と相続人の全員を特定できるように記載する必要があります。
一般的な相続関係説明図の書き方は以下のとおりです。
①タイトルを書く
一番上に「被相続人 ◯◯◯◯(被相続人の氏名) 相続関係説明図」というタイトルを書きます。
誰の相続関係を記載したものであるのかが一目でわかるように、「相続関係説明図」という文言のほかに、被相続人の氏名を合わせて記載することが多いです。
②被相続人の情報を書く
被相続人を特定できるように、少なくとも、被相続人であること、氏名・住所・死亡年月日を記載します。
③相続人全員の情報を書く
次に、被相続人の(法定)相続人全員の情報を記載します。
それぞれの相続人について、相続人であること(または被相続人との続柄)、氏名、住所、生年月日を記載します。
相続放棄している相続人がいる場合は、その氏名の後に「相続放棄」と記載します。
相続登記とは、相続した不動産に関する名義変更手続きのことです。
相続関係説明図を相続登記に利用する場合には、相続人の氏名の近くに、あわせて相続の対象となる不動産に関する相続の状況(「相続」・「分割」等)を記載します。
- 相続:遺産分割協議の結果、不動産を相続する場合に記載
- 分割:遺産分割協議の結果、不動産を相続しないこととなった場合に記載
- 遺言書により相続:被相続人の遺言書にしたがって不動産を相続する場合(遺産分割協議を行わない場合)に記載
※なお、遺産分割調停・審判にもとづいて相続登記をする場合には、調停調書や審判書の写しによって相続登記の手続きをすることができるため、戸籍謄本等や相続関係説明図の提出は不要です。
④被相続人と相続人の関係を線でつなぐ
被相続人と相続人がどのような関係にあるのかを線でつないで表します。
配偶者(妻・夫)の関係にある場合には二重線でつなぎます。
子どもや親、兄弟姉妹など、配偶者以外の関係にある場合には一本線でつなぎます。
通常は家系図のような形で配置します。
⑤作成日・作成者を書く
相続関係説明図には作成日と作成者(住所・氏名)を記載するのが一般的です(提出先によっては記載不要な場合もあります)。
ケース別の相続関係説明図のテンプレート
個々のケースによって相続関係図の書き方は異なります。
いくつかのケース別にテンプレート(記載例)をご用意しましたので、ぜひ参考にしていただければと思います。
親が相続人の場合(一方の親が死亡している場合)
被相続人(甲野太郎)の妻と母親が相続人となるケース(妻との間に子どもはなく、父親はすでに他界している場合)のテンプレート(記載例)は次のとおりです。
被相続人よりも先に亡くなっており、相続人とならない父については詳細な情報を記載せず、単に「父」あるいは「亡父」といった記載だけでもかまいません。
上のテンプレートでは、父の氏名を記載した上で、被相続人よりも先に亡くなっていることを明確にするために、死亡年を記載しています。
兄弟が相続人の場合
被相続人(甲野花子)の夫と兄が相続人となるケース(夫との間に子どもはおらず、両親はすでに亡くなっている場合)のテンプレート(記載例)は次のとおりです。
被相続人よりも先に亡くなっており、相続人とならない父母については、氏名と死亡年を記載しています。
離婚している場合
被相続人が離婚しており、元配偶者との間に子どもがいるケース(さらに再婚した現在の妻との間に子どもがいる場合)のテンプレート(記載例)は、次のとおりです。
離婚した元配偶者(元妻・元夫)は相続人となりませんが、元配偶者との間の子どもは相続人となるため、その子どもを特定するために元配偶者の情報を記載します。
離婚した元配偶者については、その氏名と離婚の成立した日付を記載した上で、二重線の上に✕印を記載します。
数次相続が発生している場合
数次相続とは、被相続人が亡くなった後、遺産分割等の相続手続きが終わらないうちに相続人が亡くなって、次の相続が始まってしまうことをいいます。
数次相続が発生した場合(被相続人(甲野太郎)の妻と長男一郎が相続人となるケースで、長男一郎について相続が始まったケース)のテンプレートは、次のとおりです。
数次相続の場合には、亡くなった相続人の死亡年を記載するとともに、亡くなった相続人の相続人(上の例では被相続人の孫)の情報を合わせて記載します。
なお、「法定相続情報一覧図」は被相続人ごとに作成しなければならないというルールがあるため、数次相続が発生した場合は1枚の書類にまとめて記載することはできません。
相続関係説明図のメリット
戸籍謄本等の原本を返却してもらえる
法務局での相続登記手続きや金融機関での名義変更手続きでは、戸籍謄本類と一緒に相続関係説明図を提出することで、戸籍謄本類の原本を返却してもらうことができます(金融機関での名義変更手続きについては、各機関によって取り扱いが異なるため、確認が必要です)。
相続手続きにはさまざまな手続きがあることから、原本を返却してもらうことができれば、他の相続手続きに使い回すことができるため便利です。
なお、戸籍謄本等のコピーを提出することによっても原本の返却を受けることはできますが、戸籍謄本等は紙の束になるほどの枚数になるのが通常で、手続きごとに膨大な数のコピーを取るのはなかなか大変です。
相続関係が明確になる
相続関係説明図を作成することで、被相続人を中心とする相続関係を一目で明確に把握することができます。
特に、相続人の数が多い場合や相続関係が複雑な場合(相続放棄があった場合や数次相続の場合など)には、メリットが大きいといえます。
相続人となる方が相続関係を理解しておくことは、専門家等へ相談する場合にも、ご自身で相続手続きを行う場合にも、とても重要です。
なお、相続関係説明図と似ている「法定相続情報一覧図」の場合、記載すべき項目が定められているため、一目で相続関係を把握できない場合があります。
例えば、相続放棄があった場合でもその情報を記載することができない、被相続人ごとに作成する必要があるため数次相続の場合は複数枚に分けて記載しなければならない、などのルールがあります。
比較的簡単に作成できる
相続関係図の作成にはついては厳格なルールがなく、法務局での申請手続きや取得の手続きも不要です。
そのため、それほど時間と労力をかけることなく、比較的簡単に作成することができるのもメリットです。
相続関係説明図についてのQ&A
相続関係説明図はどこでもらえますか?
相続関係説明図は役所などでもらうことができるものではなく、相続人等が自分自身で作成する書類です。
ご自身での作成が難しい場合には、弁護士などの専門家に作成を依頼することもできます。
なお、法定相続情報一覧図の場合には、事前に法務局(登記所)に申請して認証を受けておき、必要なときに法務局(登記所)に申請して写しを発行してもらうことになります。
相続関係説明図は手書きでも大丈夫ですか?
相続関係説明図は手書きで作成しても大丈夫です。
相続関係図は法務局などの公的な認証を受けるものではないため、様式や作成方法についても厳格に定められているわけではありません。
ただし、パソコンをお持ちであれば、作成データを保存でき、加筆や修正を簡単に行うことができるため、パソコンで作成するのがおすすめです。
特に、複数の先に相続関係説明図を提出する場合には、何通も手書きで作成するのは大変なため、パソコンで作成するのがよいでしょう。
まとめ
- 相続関係説明図とは、被相続人と相続人との関係を図に表した書類のことで、家系図のようなものをいいます。
「法定相続情報一覧図」とは異なり、作成にあたって登記所(法務局)での手続きをする必要はありません。 - 相続登記等の場面では、相続関係説明図を提出することで戸籍謄本等の原本を返却してもらうことができます。
また、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる際には相続関係説明図を提出する必要があります。 - 相続関係説明図を作成する場合には、被相続人の生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本等や相続人全員の戸籍謄本(戸籍抄本)、住民票等の書類を取得する必要があります。
- 相続関係説明図の作成だけでなく、遺産分割協議や遺言書の執行、相続人間のトラブル、相続登記や相続税の申告などについて相談されたい場合には、相続にくわしい弁護士に相談されることを強くおすすめします。
当事務所では、相続問題に注力する弁護士で構成する相続対策専門チームが相続全般に関するご相談に対応させていただきます。
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