この記事では、家族信託の手続きの流れと家族信託で失敗しないためのポイントを解説しています。
この記事を読むことで、家族信託を行うためにはどのようにしていけば良いか、また、家族信託を実際に行う前に気をつけておくべきポイントが分かりますので、ぜひ最後までご覧ください。
家族信託とは
「家族信託」とは、財産管理の方法の一つです。
委託者(財産を有する人で、財産の管理を任せる人のことです。)は受託者(財産の管理を委託者から任せられ、実際に財産の管理や運用をする人のことです。)に対し、特定の目的のために財産の管理を任せます。
受託者は、受益者(家族信託によって利益を得る人のことです。)のために、財産の管理や運用を行うことになります。
家族信託の目的(例えば、老後の生活資金の確保や、将来認知症になる場合に備えて財産の管理を任せておくなど)や、財産の管理・運用方法、誰を受託者として誰を受益者とするかなどは、信託契約(委託者と受託者との間の契約です。)や遺言によって定められます。
家族信託は、財産の管理・処分を別の家族(受託者)に任せることで、財産の管理・運用をその家族に行ってもらい、家族信託の目的を実現させる制度です。
家族信託の手続きの流れ
①家族信託の目的や対象とする財産を決める
家族信託を始めるときにまず決めることは、家族信託の目的です。
どのような目的で財産を管理・運用したいのかを決める必要があります。
具体的には、老後の生活資金の確保や、将来認知症になる場合に備えて財産の管理を任せておくことなどが考えられます。
家族信託の目的は、受託者がどのように財産を管理・運用していくのかの指針にもなりますし、どのくらいの財産の管理を任せるのかの目安にもなりますので、慎重に決める必要があるといえるでしょう。
②受託者を誰にするかを決める
次に、受託者を誰にするか決める必要があります。
信託とは、ある財産の管理や運用を他の人に任せることですので、受託者は、任せられた財産(信託財産といいます。)の管理や運用だけでなく、信託の目的のためであれば、財産の処分をすることや、不動産であればリフォーム契約などを締結することも可能な権限を有することもあります。
もし、受託者が自らのために信託財産を運用したり、自分のためにならないとして信託財産の管理を怠ってしまうと、家族信託を利用しようとした目的を達成することができなくなってしまいます。
そのため、信託財産の管理や運用を任せられるだけの信頼のある家族を、受託者として決める必要があります。
③信託契約を締結する
家族信託の目的や信託財産を決め、受託者を誰にするかを決めたら、信託財産の管理を受託者に移転するための信託契約を締結します。
※遺言による信託もありますが、ここでは、委託者がご存命の期間中に信託財産の運用を行うために、信託契約を締結する方法を取り上げます。
信託契約を締結するためには、委託者と受託者との間で、「信託契約書」を作成します。
この信託契約書には、信託の目的や信託財産の内容、受益者を誰にするか、信託財産の管理や運用の方法を明記することになります。
しかし、家族信託という制度自体がまだ一般的ではないことに加え、家族信託は財産の管理処分権を受託者に移転する重要な効力(委託者は、信託財産を管理・処分することができなくなります。)を持ちますので、信託契約書の内容は、慎重かつ綿密に作成する必要があります。
信託契約書の記載内容に不備があると、後で記載する名義変更や信託口口座の開設ができなくなったり、受託者とそれ以外の家族との間で紛争の火種となる可能性もあります。
そのため、信託契約書を作成する際には、家族信託に詳しい弁護士などの専門家に相談する方が確実といえます。
④信託契約書を公正証書にする(推奨)
また、信託契約書を公正証書にすることも検討すべきです。
信託法上は、委託者と受託者が異なるケースでは、信託契約書を公正証書にすることは必須とはされていません。
しかし、信託契約書を紛失したり、後々になって、委託者の判断能力(契約の内容を理解する能力のことをいいます。)に疑義が生じる可能性が考えられます。
そのような場合、公正証書を作成していれば、信託契約書の紛失のリスクを無くし、判断能力についても公証人のチェックを入れることができます。
さらに、徐々に家族信託という制度が金融機関でも一般的になりつつありますが、後に記載する信託口口座の作成をするために、金融機関によっては、信託契約書を公正証書にすることを求められることもあります。
そのため、万全を期すために、信託契約書を公正証書とすることも検討すべきでしょう。
⑤信託財産の管理権を受託者に移転する
信託契約書を作成した後、信託財産の管理権を受託者に移転する必要があります。
ア 不動産
不動産については、委託者から受託者へ、信託契約に基づいて所有権が移転したことが登記簿に記載されます。
不動産が信託財産に含まれている場合は、委託者と受託者が共同して、信託契約を締結した後速やかに登記手続きをする必要があります。
イ 預貯金(金銭)
委託者の預貯金を信託財産とした場合、受託者は、受託者自身の預貯金と信託財産を区別して管理する必要があります。
その方法として、信託口口座(信託法に対応した口座であることに注意が必要です。)という、信託財産を管理する専用の口座を作成する方法があります。
ただし、金融機関によっては、信託口口座を作成できない金融機関も存在すると思われます。
信託口口座を作成する場合には、口座を作成しようとしている金融機関で、信託口口座を作成できるのかを、できれば信託契約書を作成する前に問い合わせをしておくべきでしょう。
これらの信託財産の管理権を受託者に移転する手続きを適切に行うことにより、以後、受託者が信託財産の管理・運用を行っていくことになります。
家族信託で失敗しないためのポイント
家族信託は、簡単に言えば、委託者が受託者に財産の管理を任せる制度ですが、信託契約の内容を信託法などの法律に沿ったものにする必要があるなど、かなり複雑な制度であるといえます。
そのため、家族信託の制度を利用する前に、家族信託で失敗しないためのポイントを押さえておく必要があります。
家族信託のメリットやデメリットをおさえる
家族信託のメリットは、大きく以下の3つの点にあります。
委託者の老後の生活資金の確保の場合など、委託者が高齢である場合には、委託者自身が財産の管理をすることが負担になる場合が考えられます。
家族信託では、信託財産の管理権は、受託者が行使することになりますので、委託者の負担を減らすことが可能です。
ただし、受託者に管理を委ねることは、デメリットにもつながりますので注意が必要です。
信託法上、受益権は債権であると考えられています。
そのため、受益権の内容を決めるにあたっては、当事者が自由にその権利の内容を決めることができるという「契約自由の原則」が適用されます。
受益権の内容として、受益者に、信託財産の運用利益の何パーセントを与えるかなどについて、自由に定めることが可能です。
家族信託と似た制度として、後見制度があります。
後見制度は、簡単に説明いたしますと、被後見人(判断能力が衰えてしまった方)の財産を守るための制度であり、財産の維持に重きを置かれる制度であるということができます。
一方、家族信託は、委託者の財産を信託財産として管理するとともに、受託者が信託財産の運用をすることも可能であるという点が大きなメリットといえます。
信託財産の積極的な運用によって、受益者(兼委託者)の利益にもなるほか、信託財産自体の増加も期待することができるでしょう。
一方、家族信託には、デメリットも存在します。
多くは、信託契約の締結によって、信託財産の所有権が、委託者から受託者に移転することに起因するものです。
家族信託に精通した弁護士に相談する
家族信託を実際に行う場合には、基本となる信託法についての理解が必要になるほか、信託財産の管理のために、銀行(信託口口座の開設)や司法書士(信託の登記)の協力が必要となります。
特に、信託契約書の作成において、契約書の内容に不備があると、最悪の場合、家族信託自体の開始ができなくなることも想定されます。
また、家族信託は開始できたとしても、その後の信託財産の運用や、信託契約の終了の場面で、信託契約を締結した当時は思いもよらなかった問題が生じる可能性があります。
家族信託を手掛けることができる専門家は、未だ少数に留まっているのが現状ですが、適切な信託契約の締結や信託財産の運用のためには、専門家である弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
相続問題をサポートできる法律事務所へ相談する
家族信託は、信託財産の所有権(管理権)を委託者から受託者に移転させる制度です。
そのため、信託財産は、法的には、委託者の財産ではなくなりますので、もし委託者が逝去された場合には、信託財産は相続の対象になりません。
ここで問題となるのが、遺留分についてです。
極端な例としては、委託者が全財産を全て信託財産とした上で、受益権を特定の相続人に指定し、その他の相続人には全く利益が発生させない(委託者の財産もないため、相続する財産もありません)ということも考えられます。
その他、信託契約上、形式的には遺留分を侵害しないような契約内容になっていたとしても、実質的には、特定の相続人の遺留分を侵害しているとして、信託契約が一部無効とされた裁判例もあります。
設定された信託について、形式的には遺留分を侵害しない割合で受益権が設定されていたものの、信託財産の中に受益者への給付を生じない可能性が高い不動産が含まれていた事案。裁判例は、信託財産が、売却しあるいは賃貸して収益を上げることが現実的に不可能な物件もしくは賃料収入が信託不動産全体の価値に見合わないことが当初より想定されていたと認定しました。そして、委託者は、本件信託当時から、経済的利益を分配することを想定していなかったと認定され、信託契約の一部を、公序良俗(公の秩序や世間の道徳的観念)違反として無効と判断しました。
このように、一見して遺留分の侵害をしない信託契約の内容に見えても、実質的に考えた場合には、遺留分を侵害しているというケースも考えられます。
遺留分は、相続人の間で長期化する紛争の一つですので、できる限り遺留分に関する紛争を消しさせないような相続分野に精通している弁護士に家族信託についても相談することで、将来の紛争の可能性も見据えた信託契約の提案が可能となります。
家族信託と遺留分の関係にご不安な方は、まずは相続問題に詳しい弁護士へご相談されることをお勧めいたします。
まとめ
家族信託について、手続きの流れやポイントについて解説いたしましたが、いかがだったでしょうか。
家族信託は、制度自体は、受託者に財産の管理を任せるというものですが、信託契約を締結する際に決めておくべき内容が多岐にわたる他、相続との関係でも問題になることが多い分野です。
委託者に代わって財産管理を受託者がすることで、信託財産の運用が可能になったりとメリットが多い制度ですが、信託財産が高額になったり、運用方法や後々の相続において、家族間で紛争が生じる可能性も考えられます。
家族間の紛争を避けるという意味でも、家族信託について興味がおありの方は、一度、家族信託及び相続に精通する弁護士にご相談されると良いでしょう。
当事務所には、家族信託に注力する弁護士で構成される相続対策チームがあり、家族信託を強力にサポートしています。
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