裁判中に当事者の死亡した場合、基本的には相続人が訴訟上の地位を引き継ぐこととなります。
ただし、一身専属的な権利義務については除外されます。
また、当事者の地位を継承した者がその訴訟を受継するまで、訴訟手続は中断すると法律で規定されています。
ただし、被相続人が依頼した代理人(弁護士)がいる場合は、その弁護士の訴訟追行が期待できるため、中断はしません。
このページでは、裁判中に死亡した場合の訴訟手続がどうなるのかについて弁護士が解説いたします。
訴訟中の原告や被告の死亡
民事裁判は通常、長年月を要します。
そこで、ご質問のケースのように、民事訴訟の係属中に、ご本人がお亡くなりになられる場合もあります。
この場合、相続の発生によって、訴訟上の地位(原告や被告としての地位)が引き継がれるかが問題となります。
例えば、お金の貸し借りに関する訴訟だったり、土地の明け渡しに関する訴訟だったり、争いの対象となるものが相続人に承継することが妥当である権利の場合には、相続人は亡くなった人の訴訟上の地位もそのまま引き継ぐことになります。
これを当然承継といいます。
当然承継により、裁判は終了せず、その後も続いていくことになります。
相続人は被相続人(亡くなった方)の訴訟上の地位をそのまま承継しますので、相続人が訴訟を引き継いだ際、仮に被相続人に不利な訴訟の流れになっていたとしても、相続人は訴訟をはじめからやり直すことはできないことにも注意が必要です。
また、被相続人が当事者として訴訟を追行し、確定した裁判に関しては、相続人はその判決内容に当然に拘束されることになります。
訴訟の中断と受継
上述のとおり、当事者が死亡したとしても、基本的には相続人が訴訟上の地位を承継します。
しかし、素人の相続人としては、突然のことで、どうしたらよいかわからず、準備をする時間が必要です。
そこで、法律では、当事者の地位を継承した者がその訴訟を受継するまで、訴訟手続は中断すると規定されています。
ただし、被相続人が依頼した代理人(弁護士)がいる場合は、その弁護士の訴訟追行が期待できるため、中断はしません。
この場合は、プロである弁護士が関与していることから、相続人に不足の損害を与える恐れがないと考えられているからです。
現在、多くの裁判では弁護士が代理人として選任されていますので、中断することは多くはないと思われます。
しかし、弁護士がついていない場合は中断するため、その場合、相続人等は受継の申立てが必要となります。
なお、当事務所では、受継の申立てを行うときに使用する書式(訴訟手続受継申立書)をホームページ上で公開しており、無料で閲覧やダウンロードが可能です。
もっとも、相続人が相続放棄ができる期間(基本的に3ヶ月間)は、受継の申立てができません。
相続放棄できる期間内は、誰が相続人となるのか、すなわち、訴訟を受継すべき相続人が誰なのかを確定させるべきではないからです。
第百二十四条 次の各号に掲げる事由があるときは、訴訟手続は、中断する。この場合においては、それぞれ当該各号に定める者は、訴訟手続を受け継がなければならない。
一 当事者の死亡 相続人、相続財産管理人その他法令により訴訟を続行すべき者
(略)
2 前項の規定は、訴訟代理人がある間は、適用しない。
3 第一項第一号に掲げる事由がある場合においても、相続人は、相続の放棄をすることができる間は、訴訟手続を受け継ぐことができない。
引用元:民事訴訟法|電子政府の窓口
なお、仮に当事者双方が受継の申立てを行わない場合、裁判所が職権で続行を命ずることが可能です。
被相続人に一身専属的な権利をめぐる争いの場合
上述したとおり、訴訟上の地位は、基本的には相続人に引き継がれます。
しかし、例外があります。
例えば、離婚訴訟のように、その権利の性質上、相続人に承継されることが妥当でない、一身専属的なものが争われている場合について考えてみます。
この場合、たとえ訴訟中であっても、被相続人の死亡によりその権利義務は消滅してしまいますので、争いの対象となる権利が消失してしまい、裁判も終わらざるを得なくなります。
一身専属権利義務の例
- 雇用契約における労働者や使用者の地位
- 委任契約における委任者や受任者の地位
- 親権者の地位
- 代替性のない債務
まとめ
以上、裁判中の当事者の死亡の場合について、詳しく解説しましたがいかがだったでしょうか。
離婚などの一身専属的な権利を争い裁判中であった場合は、訴訟は終了することになりますが、それ以外の権利をめぐり裁判中であった場合は、相続人は訴訟を引き継がなければなりません。
被相続人がすでに弁護士を選任している場合は、この弁護士と協力して裁判を続けていくことになります。
そうでない場合は、訴訟手続はいったん中断することになりますが、受継申立てという手続きをとることで、中断していた裁判を再度進行させることが可能になります。
裁判途中で被相続人が死亡すると、相続人は急に裁判を引き継ぐことになり、大変苦労することもあります。
裁判中に相続が発生し、その後の対応についてお困りの方は、ぜひ一度、相続専門の弁護士にご相談されることをおすすめします。