相続人の廃除という手続があります。
相続人の廃除について、以下で詳しく説明します。
相続人の廃除とは
推定相続人の廃除とは、被相続人からみて自己の財産を相続させることが妥当ではないと思われるような非行や、被相続人に対する虐待・侮辱がある場合に、被相続人の意思に基づいて、家庭裁判所の手続きにより、相続人の相続資格を剥奪する制度をいいます。
相続人となるかについて、詳しくはこちらをご覧ください
廃除の手続きについて
廃除の対象となる人は?
廃除の対象となる人は遺留分を有する推定相続人(配偶者・子・直系尊属)です。
廃除原因は?
廃除の原因となる事情は、民法では以下の2つを定めています。
- ① 被相続人に対する虐待または重大な侮辱
- ② その他著しい非行
廃除の方法は?
廃除の方法は以下の2種類があります。
廃除の手続き
家庭裁判所に対する申立て
生前廃除も遺言廃除も、家庭裁判所に対する申立てによって手続きがなされます。
申立てる家庭裁判所は、生前廃除の場合は被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所、遺言廃除の場合は相続が開始した地(=被相続人の最後の住所地)を管轄する家庭裁判所となります。
そして、家庭裁判所が職権で廃除原因の有無を判断し、審判をします。
審判にあたっては、審問期日において、廃除を求められた推定相続人の陳述を聞かなければなりません(家事事件手続法188条3項)。
その際の陳述聴取には申立人も立ち会うことができます(家事事件手続法188条4項69条)。
即時抗告
推定相続人を廃除するとの申立てを却下するとの審判がされた場合には、申立人は即時抗告をすることができます。
また推定相続人を廃除するとの審判がされた場合には、廃除された相続人は即時抗告をすることができます。
審判の即時抗告は、審判の告知を受けた日から2週間以内にすることができます。
廃除の効果
生前廃除・遺言廃除ともに、廃除を求める審判が確定することで、廃除による相続資格喪失効果が発生します。
遺言廃除の場合や、審判確定前に被相続人が死亡した場合など、廃除を求める審判が確定する以前に相続が開始している場合には、相続の開始の時に相続資格喪失の効果がさかのぼります。
ただし、被廃除者に子等がいる場合、代襲相続することが可能です。
審判が確定したらどうするの?
申立人は、相続人廃除の審判確定後10日以内に戸籍の届出をしなければなりません(戸籍法97条、63条1項)。
この届出は報告的なものですので、届出がないからといって廃除の効力に影響はしません。
廃除を取り消すことはできる?
被相続人はいつでも、推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができます。
裁判例・審判例
判例 ① 釧路家北見支審平17.1.26
末期がんで自宅療養中の妻に対し、療養に極めて不適切な環境を作出した上、その人格を否定するような暴言をした夫について、「虐待」による排除を認めた。
判例 ② 東京家八王子支審平3.10.31
被相続人にぬるい湯が入ったやかんを投げつけ、「早く死ね」と罵倒し、被相続人に対する扶養義務も尽くさなかった事案で、「暴言等は一過性の侮辱であり、排除事由に当たらない」とした原審を取り消し、「重大な侮辱」があったとして排除を認めた。
判例 ③ 東京高決平4.10.14
在学中から虞犯事件を繰り返し、長じては暴力団員と婚姻して婚姻に反対している父の名で披露宴招待状を出すなどした事案で、親が多大な精神的苦痛を受け、名誉を毀損されたとして排除を認めた。
判例 ④ 東京高決平23.5.9
養子が、長らく入退院と手術を繰り返している被相続人の面倒を見ず、居住先の外国から年1回程度帰国して生活費を受領し、被相続人から提起された離縁訴訟等について、執拗に取り下げを迫った事案で、著しい非行を認定して排除を認めた。