故人の衣類や日用品を処分した後でも相続放棄できる?


弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

 

相続放棄について質問です

親が亡くなり、親の衣類や日用品を捨てたりしました。

しかし、その後に、親には多額の借金があることが分かりました。

相続放棄はできるのでしょうか?

弁護士の回答

衣類や日用品など、故人の身の回りの品物を整理しただけでは、相続放棄ができなくなることはありません

仮に、被相続人の身の回りの品物を形見分けなどして処分したとしても、それほど価値の高くないものを一般的に認められる範囲で処分した場合には、相続放棄できなくなるようなことはありません。

相続放棄とは

相続放棄とは、相続財産を放棄することをいいます。

法律上、人が亡くなったとき、相続人は亡くなった方の一切の権利義務を承継すると定められています(民法896条)。

しかし、相続人の中には、相続を希望しない人もいます。

また、被相続人の負債が高額な場合には、相続を受けない方が経済的にメリットがあります。

そのような場合のために相続放棄という制度が用意されています。

相続人は相続放棄をすることにより、プラスの財産を取得することはできませんが、負債を引き継がなくてよくなります。

 

 

衣類や日用品を処分した後でも相続放棄できる?

衣類や日用品など、故人の身の回りの品物を形見分けなどで処分したとしても、相続放棄ができなくなることはありません

もっとも、価値が高い品物を売却・質入れなどした場合、相続放棄できなくなるおそれがあります

相続放棄の可否は、具体的な状況にもよりますので、相続問題に強い弁護士に相談することを強くお勧めします。

 

 

相続放棄ができないケース

相続放棄ができなくなるのは、①法定単純承認が成立した場合(民法921条)、②熟慮期間(3か月)が経過している場合、③必要な書類が不足している場合の3つです。

以下、法定単純承認について解説します。

 

法定単純承認

以下の遺産に対する行為は、単純承認とみなされて相続放棄をすることができなくなる可能性があります(民法921条)。

なぜなら、相続人として相続財産を相続することが前提となった行為だからです。

  • 預貯金の解約や払い戻しを行った
  • 経済的価値の高い遺品を持ち帰った
  • 現金を使い込んだ
  • 賃貸物件を解約した
  • 不動産の名義変更をした
  • 債務(借金や税金)を支払った
  • 相続した株式の名義を変更した
  • 自動車を処分した
  • 携帯電話を解約した
  • 遺産分割協議に参加した
  • 相続した株式の議決権を行使した

※法定単純承認に該当するか否かを適切に判断するためには専門知識と経験が必要となります。
自己判断はせずに、相続に強い弁護士に助言をもらうようにしてください。

 

 

相続財産の処分をしたときの裁判例

ここでは、相続財産の処分を行い、相続放棄ができるかが問題となった実際の裁判例をご紹介します。

 

身の回りの物を引き取った事案の参考判例:大阪高決昭和54年3月22日

この裁判例は、経済的価値のない身の回りの品と現金2万円を引き取ったケースで、下記のように述べて法定単純承認とはならないとした判示しました。

「やむなく殆ど経済的価値のない財布などの雑品を引取り、なおその際被相続人の所持金 2万 432円の引渡しを受けたけれども、右のような些少の金品を持って相続財産とは社会通念上認めることができない。」

【 ワンポイント 】

被相続人の身の回り品を処分整理することは、被相続人が死亡した際に当たり前のようになされていることで、これが法定単純承認となると考えることは妥当ではありません。

そのため、身の回りの品の処分整理についても、特に高価なものでない限り、その処分をしても相続放棄ができなくなるものではありません

 

形見分けの参考判例:山口地徳島支判昭和40年5月13日

この裁判例は、「僅かに形見の趣旨で背広上下、冬オーバー、スプリングコートと訴外〇〇の位牌を別けてもらった」行為について、法定単純承認には該当しないと判示しています。

【 ワンポイント 】

いくら形見分けのつもりであったとしても、その対象が高価な貴金属等の場合、法定単純承認とみなされるおそれがあります

この事案では、背広上下、オーバー、コート、位牌が対象であり、経済的な価値が乏しく、形見分けの趣旨であれば法定単純承認に該当しないと判断されました。

 

 

まとめ

裁判所は、被相続人の死亡後、一般的に許容される範囲で行われた行為については、法定単純承認とはならないとする立場のように思われます。

このことは、形見分けを含め身の回りの品を整理することはもとより、葬儀費用を相続財産から支出することも法定単純承認にあたるものではないとしていることからも分かります。

もっとも、形見分けの範囲を逸脱したものについては法定単純承認と判断されるリスクがあるため、注意が必要です。

法定単純承認については、専門的に扱っていないと難しい判断ですから、一度弁護士に相談されることをおすすめします。

 

 

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