数年前に不倫をして出ていった夫が、先日亡くなりました。
公正証書遺言を残していたので見たところ、財産を全て不倫相手に贈与するという内容でした。
不倫をされた上に、その不倫相手に財産を全て渡すというのは許せませんし、特に、今住んでいる自宅まで不倫相手にいくとすれば、私はこの後どうやって生活していけばいいのでしょうか。
このような遺言は有効なのでしょうか。
公序良俗に反し無効とされる可能性があります。
不倫関係にある者へ相続させる遺言について
遺言と公序良俗
遺言は、遺言者の最後の意思の表明であり、遺言者の財産をどのように処分するかは基本的には遺言者の自由のはずです。
しかし、遺言は法律行為ですから、公序良俗に反する場合には、遺言であっても無効となります。
例えば、福岡地小倉支判昭和56年4月23日や、東京地判昭和58年7月20日では、妾関係維持継続のために遺贈するという遺言について、公序良俗に反して無効であると判断されています。
不倫相手への遺贈内容の遺言はすべて無効か
不倫関係にある相手に対して遺贈するという内容の遺言がすべて公序良俗に反して無効となるというわけではありません。
判例 不倫相手に対して遺贈する内容の遺言を有効とした裁判例
不倫関係にある相手に対して遺贈する内容の遺言を以下のような事情を考慮して有効としています。
- ① 不倫関係の維持を目的とするものかどうか
- ② 遺言の内容が相続人の生活基盤を脅かすものかどうか
上記の最判は、①及び②の事情はないとして、遺言を有効としています。
特に②については、全ての遺産の3分の1のみを遺贈するというものであり、配偶者や子どもも3分の1は遺産を相続する内容であったことや、子どもがすでに嫁いでおり生活の基盤も安定していたことが考慮されています。
【最判昭和61年11月20日】
逆に、東京地判昭和63年11月14日では、遺贈の対象となった土地建物が、配偶者の生活基盤に欠かせないものであったことなどを認定して、遺言を無効としています。
これらの裁判例から、①又は②のいずれかの事情がある場合には、遺言が少なくとも一部は無効となると考えることになるでしょう。
もっとも、②については、様々な事情を考慮しており、生活基盤を脅かすかの判断は総合顧慮によってなされているといえます。
本件では、配偶者が住む自宅まで遺贈の対象となっており、生活基盤を脅かすといえるので、遺言は無効と判断される可能性が高いといえます。
公正証書遺言でも遺言が無効とされる場合
公証人法第26条は、「証人ハ法令ニ違反シタル事項、無効ノ法律行為及行為能力ノ制限ニ因リテ取消スコトヲ得ヘキ法律行為ニ付証書ヲ作成スルコトヲ得ス」と規定しており、公証人は、法令に違反した事項、無効な法律行為及び行為能力の制限により取り消し得べき法律行為につき証書を作成することができないことになっています。
したがって、公正証書遺言により遺言書が作成された場合には、明白に無効な内容となっていることはあり得ません。
もっとも、不倫相手へ遺贈する内容の遺言のように判断が分かれる事項に関しては、公序良俗に反して無効となりうるものであっても、作成できるのが一般的です。
そのため、仮に公正証書で遺言が作成されていたとしても、遺言が無効であることを争うことをあきらめないことが重要です。
仮に自筆証書遺言であった場合
今回の場合とは異なり、自筆証書遺言に「財産を全て不倫相手に贈与する。」と書かれていたような場合、遺言書を破棄してなかったものにしたいと考える方がいらっしゃると思います。
しかし、遺言書を破棄してしまうと、相続欠格事由にあたり、そもそも一切の財産を相続できないことになってしまうため注意が必要です。
相続欠格については、詳しくはこちらをご覧ください。
まとめ
不倫相手に対する遺贈が書かれた遺言書は、公序良俗に反し無効とされる可能性があります。
特に、相談者のケースでは自宅まで不倫相手に遺贈しているので、無効と判断される可能性が高いと思われます。
遺言の種類、書き方、作り方について、詳しくはこちらをご覧ください。
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