相続財産目録を作成したり、銀行等での預貯金の解約、法務局での不動産の名義変更などがあります。
目次
遺言執行者とは
遺言執行者とは、簡単に言えば、遺言書に書かれている内容を実現するために、各種相続手続きを進めていく人のことをいいます。
各種相続手続きとしては、例えば、相続財産目録を作成したり、銀行等での預貯金の解約、法務局での不動産の名義変更などがあります。
以下、遺言執行者の職務内容を具体的に解説します。
就職の通知の発送
遺言執行者として、まず、相続人(相続を受ける方々)に対して、就職した旨の連絡文書を通知します。
就職の通知は、法律上要求されているわけではありません。
しかし、相続人等は遺言執行に対して強い利害関係を持っています。
また、相続発生後、相続人らが預貯金を解約する等、勝手に遺産を処分するなどのおそれも考えられます。
したがって、相続人らに対して遺言執行者に就職した旨を連絡することは、相続人らの処分行為を防止する上で重要な職務といえます。
当事務所では、就職通知書のサンプルをホームページ上で公開しており、無料で閲覧やダウンロードが可能です。
相続人の調査
遺言執行者として、職務を行う前提として、相続人の範囲を把握する必要があります。
また、前記の就職した旨を通知する前提としても、まず、相続人の氏名や住所を知る必要があります。
そのために、遺言者の出生から死亡までのすべての戸籍を取り寄せて、相続人の範囲を調査する必要があります。
この作業は結構面倒で、素人の方は戸籍謄本の見方や取り寄せ方も戸惑うかと思います。
相続を専門に扱う弁護士にご相談されることをお勧めします。
財産目録の作成
遺言執行者は、遺言執行を行う前提として、相続人に誰がいるかを調査し、かつ、対象となる遺産として何があるかを調査しなければなりません。
ここでのポイントは、遺言書に記載されている遺産だけではないということです。
遺言書を作成した後、取得した財産も遺産となりますので、相続人からのヒアリング、預貯金の取引履歴のチェックなどを通して、遺産を調査しなければなりません。
また、民法は、遺言執行者の職務として、「遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。」「相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。」と定めています(1011条)。
したがって、財産目録を作成するのは法律上の義務となります。
財産目録について、具体的な内容は法律上明らかではありません。
当事務所では、財産目録のサンプルをホームページ上で公開しており、無料で閲覧やダウンロードが可能です。
(相続財産の目録の作成)
第千十一条 遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
2 遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。
引用元:民法|電子政府の窓口
不動産の遺言執行について
遺産に被相続人(亡くなられた方)の自宅等の不動産が含まれているケースは多くあります。
その場合、相続人(遺産を引き継ぐ方)へ不動産の名義を変更する必要があります。
相続が発生したとき、名義を変更しておかないと、数次相続(被相続人の死後、その遺産を承継した相続人も亡くなって、相続が発生すること)が発生した場合にとても面倒になります。
例えば、亡父親の不動産を長男が承継したところ、不動産の名義を亡父親のままにしておいたとします。この場合、長男が死亡し、長男の配偶者や子らが不動産を相続すると、当該不動産を相続人が増加します。さらにこれを何世代も放置すると、相続人がねずみ講のように増加します。
相続人が増加すると、当該不動産を処分する際、相続人を調べるだけでも一苦労です。書類を揃えたり、利害関係を調整したりするのは困難を要します。
このような問題が考えられるため、遺産に不動産がある場合、相続登記によって名義を受益相続人に移転すべきです。
初動について
遺言執行者がいる場合の職務としては、まず、当該不動産について、最新の登記事項証明書を取り寄せ、権利関係を調査します。
また、場合によっては、実際に現地に行って、現況を確認することも検討します。
さらに、関係者から、移転登記に必要な書類を確保します。具体的には、登記識別情報通知書(平成18年以前の物件は権利証)などです。また、当該不動産が賃借されている場合は、賃貸借契約書も確保し、内容を調査することも検討しましょう。
名義変更について
遺言に当該不動産を特定に相続人に「相続させる」と記載されている場合、受益相続人が単独で登記申請を行うことができます(不動産登記法63条2項)。
また、この場合、遺言執行者に登記手続きを行う義務はないものとされていましたが(最判平7.1.24)、平成30年の相続法改正により、「相続させる」旨の記載のある遺言により不動産を相続する場合でも、遺言執行者が不動産の移転登記手続ができるようになりました(民法1014条2項)。
なお、当事務所の相続対策チームは、以下のサポートを行っています。
- 受益相続人の登記申請を代行します。
※登記申請に必要な書類等はすべて当事務所が準備します。 - 当事務所が遺言執行者となっている場合は当事務所が受益相続人の代理人となって登記申請を行います。
- その他、不動産に絡む様々な疑問点について助言します。
預貯金の遺言執行について
初動について
遺産に預貯金があるケースでは、まず、速やかに預け先の金融機関に対して、遺言執行者に就職した旨連絡します。
なぜならば、相続発生後、被相続人の通帳と銀行印を管理している者が勝手に引き出してしまう可能性があるからです。
遺言執行者がついたと連絡しておけば、このような引き出しを防ぐことができます。
次に、通帳や銀行印等を管理している方からそれらを確保します。
また、記帳したり、残高証明を発行してもらうなどして遺産の額を調査します。
通帳等が不明な場合、事情をよく知る方(同居していた方、接触頻度が多かった方、病院や入所先の施設の方など)などから、ヒアリングして、口座情報を調査します。
解約手続について
預貯金を把握したら、次に、預貯金の口座を解約し、現金を受益相続人に引き継ぎます。
この場合、後々トラブルとならないように、受益相続人名義の口座へ送金し、関係書類を保管しおきましょう。
現金を手交する場合領収証をもらっておくという方法もありますが、送金のほうが履歴が残るため安心だと思います。
また、解約ではなく、当該口座の名義を被相続人から受益相続人へ変更するという方法もあります。
いずれを選択するかは受益相続人との協議で決めればよいでしょう。
なお、金融機関によっては、遺言執行者であっても、「全相続人の同意書が必要」などと言ってくるところもあるようです。
これは、遺言執行者の職務権限を無視する金融機関の誤った対応です。
同意書を取り付けるほうが早いようであれば特に問題はありませんが、相続人の中には同意書に署名しない方がいる場合もあります。
したがって、相続にくわしい弁護士へ相談し対策を検討するなどしましょう。
株式等出資持分の遺言執行について
初動について
遺言執行者は、遺産に株式等の出資持分がある場合、遺言執行者がついている旨、出資先(承継会社等)へ連絡します。
これは、株式等を保管している者の使い込み等を防ぐために重要です。
また、併せて、株式等の資料を保管している方がいれば、これを請求して確保します。
次に、銘柄や出資口数等を調査します。
具体的には、上場会社の株式であれば、証券会社等に対して、遺言執行者の立場で照会を行います。
非上場会社の場合は、同族会社でありのケースが多いとおもます。この場合は調査が難航することもあります。決算報告書等が入手できれば、それを確認することで、出資持分を調査できる可能性もあります。
故人が経営者の場合は顧問税理士の協力を仰ぐことでスムーズに調査できる場合もあります。
名義変更手続について
上場会社の株式の場合、証券会社等に連絡し、必要書類を準備します(必要書類は証券会社によって異なります。)。
名義変更は、証券会社が行ってくれるため、特別な手続は不要です。
これに対して、非上場会社の株式の場合、当該会社に対して株券を提示し、名義変更請求をします。
株券が発行されていない場合は、相続の事実を証明することで、名義変更が可能です(会社法施行規則22条1項4号)。
遺言執行者が職務を終了したとき
後々のトラブル防止のために、相続人らに書面で終了報告を行うことをお勧めします。
遺言執行者事務の終了について、民法は委任に関する規定を準用しており(1020条)、委任について、民法第655条は「委任の終了事由は、これを相手方に通知したとき、又は相手方がこれを知っていたときでなければ、これをもってその相手方に対抗することができない」と規定しています。
したがって、遺言執行者が職務を完了しても、その旨通知しなければ、報酬の支払いを拒絶されるおそれがあります。
また、報酬の支払いについて、問題ないとしても、後日の紛争を防ぐために終了報告を行っておくべきです。
終了報告について、法律上は口頭でも構いませんが、書面で送付し、その写しは控えとして保管しておくべきでしょう。
当事務所では、終了報告書のサンプルをホームページ上で公開しており、無料で閲覧やダウンロードが可能です。
第千二十条 第六百五十四条及び第六百五十五条の規定は、遺言執行者の任務が終了した場合について準用する。
(委任の終了の対抗要件)
第六百五十五条 委任の終了事由は、これを相手方に通知したとき、又は相手方がこれを知っていたときでなければ、これをもってその相手方に対抗することができない。
引用元:民法|電子政府の窓口
相続対策チームによるサポート
遺言執行は、素人の方が自分だけで行うと面倒です。
なんとか、実施できたとしても、後々紛争に巻き込まれる可能性もあります。
当事務所の相続対策チームは、遺言執行者となった方を強力にサポートします。
遺言執行でお悩みの方は当事務所の相続弁護士までお気軽にお問い合わせください。