任務懈怠等の事由があれば辞めさせることが可能です。
遺言執行者とは
遺言執行者とは、簡単に言えば、遺言書に書かれている内容を実現するために、各種相続手続きを進めていく人のことをいいます。
各種相続手続きとしては、例えば、銀行等で故人名義の預貯金を解約したり、法務局での不動産の名義変更に携わる、株式の名義書換などがあります。
問題の背景
遺言執行者の職務は、上記のとおりですが、その前提として、様々な職務が想定されます。
例えば、遺言執行の前提として、まずは相続人に誰がいるかを確定するために、故人の出生児からのすべての戸籍謄本を取り寄せて調査する必要があります。
また、遺産を確定し、財産目録を策定するために、関係者からヒアリングして遺産を調査し、書類を預かる等して管理しなければなりません。
さらに、遺言執行者が職務を完了したら、それを相続人らに通知する必要もあります。
なお、遺言執行者の職務内容についてくわしくはこちらをご覧ください。
これらの職務を遂行するためには、法律実務についてのある程度の知識が必要です。また、知識があったとしても、結構骨が折れる作業となります。
そのため、素人の方が遺言執行者になった場合、職務を十分に果たせないことが想定されます。
実際に、当事務所にも、「遺言執行者として何をしたらよいのかわかりません」、相続人の方からは「遺言執行者を解任できませんか?」などのご相談がしばしばあります。
遺言執行者を解任できる場合
遺言執行者は、職務懈怠などの正当な理由がある場合に限り、解任できます。
また、この解任は家裁への請求が必要となります。
第千十九条 遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。
(略)
引用元:民法|電子政府の窓口
したがって、相続人の方は、家裁に請求し、審判を出してもらうことで、遺言執行者を解任することが可能です。
ここで、問題となるのが、「その任務を怠ったとき」又は「その他正当な事由」の要件を満たすか否かです。
任務懈怠
例えば、以下のようなケースが考えられます。
・遺産の調査をしない
・遺産の管理をしない
・財産目録を作成しない
・相続人が求めているのに事務処理の状況を報告しない
その他の事由
任務懈怠に該当しない場合でも、解任が相当な場合のための要件ですが、例えば、遺言執行者という公平な立場であるにも関わらず、特定の相続人の利益のみに偏した行動を行った場合が考えられます。
リーディング・ケースとなる裁判例として、東京高裁の事案(平成19.10.23)があるので、ご紹介します。
上記のとおり、この事案は、遺言執行者の「任務懈怠」と「その他の事由」の双方の要件に該当すると判断されています。
遺言執行者は辞任できる?
解任と関連して、辞任できるかが問題となる場合もあります。
前記のとおり、遺言執行者の職務は、骨が折れるため、「大変だから辞めたい」と考えることも無理はありません。
特に、素人の方が安易に引き受けた場合、このようなことが起こり得ます。
遺言執行者の辞任は、正当な理由がある場合に限られています。
また、辞任する場合は家裁の許可が必要です。
第千十九条
(略)
2 遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。
引用元:民法|電子政府の窓口
正当な理由
例えば、以下のようなものが考えられます。
・職務がとれないほどの重病、重症を負った。
・多忙な別の仕事についた。
・長期間の出張等
これに対して、「嫌になったから辞めたい」という場合は問題です。
一度、遺言執行者となることを承諾している以上、簡単に辞めることを認めるのは、無責任な気がします。
しかし、辞めたいと言っている方に、強制的にやらせるのもどうかなという気もします。
「嫌になった」理由が何か(相続人とのトラブル)、想定される遺言執行者としての職務の具体的な内容等に照らして、判断されることになると思われます。
具体的な状況によると思われますので、くわしくは、遺言執行者にくわしい弁護士にご相談されることをお勧めします。
なお、弁護士が遺言執行者となっている場合に、弁護士が遺言執行者を辞任する場合があります。
しかし、法律の専門家である弁護士が遺言執行者となることを承諾している以上、家裁は素人の方の場合よりも辞任について、消極的だと思われます。
詳しくは相続問題専門の弁護士にご相談ください。ご相談はこちらからどうぞ。
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