先日、父Yが亡くなり、私A、兄B、弟Cが相続人となりました。
私は、兄Bが事業を引き継ぐのだから全てを相続すればよいと考えていましたが、Cは自分ももらいたいと言い出したので、私は争いに巻き込まれないように相続分を譲渡することにしました。
しかし、相続分を譲渡した後、相続税や贈与税がかかるという話を聞き、不安となりました。
私は何かしらの税金を払う必要があるのでしょうか?
AがBから何も対価をもらっていない場合には、相続税も贈与税もかかりません。
一方、Bも贈与税は課されませんが、Bの支払う相続税額は増える可能性があります。
また、AがBから何かしらの対価を得ている場合には、相続税が課される可能性があります。この場合、Bも相続税額が増える可能性があります。
他の相続人に相続分の譲渡をした場合の税金
相続分の譲渡とは
相続分の譲渡とは、相続人が有している相続人としての地位を、他の人に譲渡することです。
もう少し簡単に言えば、「亡くなった人の遺産を相続できる権利を、他の人にあげることができる」ということです。
相続分の譲渡をすると、プラスの財産だけではなく、マイナスの財産、つまり負債も譲渡を受けた人に移転することになります。
しかし、移転するとはいっても、債権者、つまり負債が借金だとすれば、お金を貸している人に対しては、自分は相続分の譲渡をしたので、借金は払いませんとはいえないのです。
相続分を譲渡して何ももらえないのに借金だけ負うのかと思うかもしれませんが、お金を貸している人に対して支払った金額は、相続分の譲渡を受けた人に対して請求することができます。
相続分の譲渡は、他の相続人に対しても、全く関係のない第三者にもすることができますが、税金については全く異なるので、誰に譲渡をするのかをしっかり考える必要がありますし、譲渡した相手にも課税がないかを考える必要があります。
以下の記述は、共同相続人に相続分の譲渡をすることを前提に解説をしています。
贈与税
贈与税とは、財産を無償でもらった人、つまり受贈者にかかる税金です。
つまり、財産をあげた側(贈与者)には、贈与税がかかることはありません。
では、相続分をもらったBには贈与税が課されるのでしょうか。
結論としては、共同相続人であるBには贈与税が課されることはありません。
これは、遺産分割でAが何も取得しないでBがAの分まで相続した場合に、相続税が課税され、贈与税がかからないことと関係しています。
つまり、遺産分割でBがAの分をもらうことにして3分の2を取得するという遺産分割をした場合には相続税となるのですから、遺産分割と同じ結果となる相続分の譲渡の場合にも贈与税ではなく相続税が課税されることにしているのです。
なお、第三者に相続分を譲渡した場合には、譲渡税がかかりますので、注意が必要です。
相続税
相続税とは、誰かが亡くなった場合に、その亡くなったことに起因して財産を得た人に課される税金と考えてください。
つまり、相続人が得た財産以外に、生命保険金の受取金や死亡退職金の受取金なども相続税の対象となります。
前記のとおり、Aには贈与税は課されませんし、Aは相続分の譲渡をしただけでは相続税も基本的には課されません。
しかし、AがBより対価を得ている場合には、相続を起因として財産を得たと考えられますので、その部分については相続税が課されます。
例えば、相続財産が 3000万円でAの相続分が 1000万円の場合で、AがBから相続分を譲渡する対価として、300万円を受けていたようなときは、その 300万円は相続をしたのと同じように扱われるということです。
一方、Bは、相続分の譲渡を受けた場合には、相続税が増額する可能性があります。
相続分の譲渡を受けた分が上乗せされて相続税の課税を受けるからです。
ただし、相続税には「3000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」の基礎控除がありますので、本件では「3000万円 + 600万円 × 3人」の 4800万円までは課税がありませんので、仮に相続財産がこの範囲であれば、相続税は増えたりはしません。
まとめ
結論として、共同相続人に相続分の譲渡をした場合の課税関係は以下の表のようになります。
無償 | 対価あり(有償) | |
---|---|---|
Aの課税 | 課税なし | 相続税 |
Bの課税 | 相続税 |
相続では、法的問題以外にも租税の問題や、その他の周辺分野の問題が生じることがしばしばあり、複雑な分野です。
弁護士でも、税金には詳しくない人も多く、税金のことを考慮しないで遺産分割や相続の手続きを行うと、思わぬ課税をされる可能性もあります。
当事務所では、税理士登録もした弁護士が、法的問題以外にも適切にアドバイスをしますので、まずは気軽にお問い合わせください。